体外受精の前に必要となるのが採卵です。
「卵巣刺激」では卵巣を刺激し、卵子の発育を促進します。年齢・ホルモン・精子の状態などから適切な治療の選択をする必要があります。
今回は、卵巣刺激法の「GnRhアゴニストショート法」「アンタゴニスト法」「クロミッド法」について、体外受精のスケジュールをご紹介します。また、不妊の原因が男性側の精索静脈瘤だと診断された場合、手術を受ける最適なタイミングなども解説します。
同じように治療を進めても、効果の現れ方は個人差があるものです。最適な方法で体外受精を受けられるようにしましょう。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
GnRhアゴニスト ショート法
月経開始日から排卵当日まで「GnRHアゴニスト点鼻薬」を使用します。GnRHアゴニストは、卵巣を刺激し、卵胞を短期間で発育させる効果があります。
GnRhアゴニストショート法のスケジュール
事前検査を行った後、次の流れで行います。
月経1日目
GnRHアゴニスト点鼻薬を開始し、ホルモン分泌を抑えます。採卵日まで継続します。
月経3日目
排卵誘発剤の注射を投与し、卵巣を刺激します。7~10日間連続で行った後、卵胞のサイズを計測し、ホルモンの数値を考慮して採卵日を決定します。採卵が決定した時点で薬を中止します。
月経11~12日目(採卵2日前)
排卵を促進させるhCG注射をして、翌々日に採卵します。
GnRhアゴニストショート法のメリット・デメリット
GnRhアゴニストショート法のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
- ホルモンが大量分泌できる
- 薬の使用量が減らせる
- 一度に多くの卵子の獲得できる
- 治療期間が短く、費用が抑えられる
デメリット
- 卵胞の質が悪くなる場合もある
- 事前に効果が予測しにくい
- 下垂体回復の時間がかかる
- OHSS発症(卵巣過剰刺激症候群)のリスクがある
GnRhアゴニストショート法が向いている方
GnRhアゴニストショート法が向いているのは次のような方です。
- 通院や自己注射が難しい方
- AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が低い方
- ロング法や他の方法では効果がなかった方
- 卵胞の発育が少ない方
アンタゴニスト法
卵巣刺激法の高刺激法に分類されます。FSHもしくはhMG注射を連日使用し、卵胞がある程度発育したら排卵抑制にGnRHアンタゴニストを使用する方法です。
毎日自宅で決まった時間に自己注射を行える場合は、受診回数を減らせます。月経開始~約2週間後(採卵日まで)の間に、3~5回程度の受診ができれば働きながらでも通院が可能です。
アンタゴニスト法のスケジュール
事前検査を行った後、次の流れで行います。
月経3日目
FSHもしくはhMG注射を連日使用し、卵胞を育てます。
月経8日目
卵胞が採卵できる状態になれば、FSHもしくはhMG注射と併用して、GnRHアンタゴニストを注射して排卵を抑制します。
月経11~12日目(採卵2日前)
卵胞1個が16~18㎜に達していれば、排卵を促すためのGnRHアゴニスト点鼻薬またはhCG注射を投与し、その2日後に採卵をします。
アンタゴニスト法のメリット・デメリット
アンタゴニスト法のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
- 採卵日を調整しやすい
- 卵胞が発育しやすい
- OHSSになりにくい
- 自然排卵を抑えられ、卵胞の発育を待てる
デメリット
- 卵胞確認が多く必要になるため通院回数が増える
- 卵胞が未成熟の場合がある(早期排卵することがある)
- 費用が高額になる傾向がある
- 排卵抑制に個人差がある
アンタゴニスト法が向いている方
アンタゴニスト法が向いているのは次のような方です。
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- 恒常的に高LH(黄体形成ホルモン)の方
- prematureLH(質の良くない未熟な卵胞を排卵する)体質の方
- OHSSのリスクがある方
- AMHの値が低い方
- PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の方
クロミッド法
無排卵症など排卵障害をもつ女性に、排卵誘発剤(クロミッド)を投与して排卵を起こす方法です。体外受精で使用される薬剤のなかでは副作用のリスクが低く、低刺激法と呼ばれます。クロミッド法が有効な患者様の妊娠確立は自然妊娠に近く、30%前後です。
クロミッド法のスケジュール
事前検査を行った後、次の流れで行います。
月経3日目
排卵誘発剤のクロミッドを毎日1錠内服します。
月経6日目
超音波によるモニタリングを行い、状況によっては少量のhMG製剤を投与します。
月経11~12日目(採卵2日前)
卵胞が育ったのを確認できれば、hCGの注射や点鼻薬で卵子を排卵直前まで成熟させます。クロミッドの内服を中止します。
クロミッド法のメリット・デメリット
クロミッド法のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
- 排卵誘発剤の使用が少なく、身体への負担も少ない
- 通院回数が少なくてすむ
- 費用が少ない
- 排卵の誘発や排卵数の増加が期待できる
デメリット
- 子宮内膜が薄くなり胚移植に適さない(胚の凍結が必要となる)
- OHSSのリスクがある
- 排卵数が少ない
- まれに副作用が起こる(眠気・目のかすみ、頭痛・腹痛・食欲不振・便秘等)
クロミッド法が向いている方
クロミッド法が向いているのは次のような方です。
小見出し
- 排卵障害をもつ方
- より自然に近い排卵で体外受精をしたい方
- 費用をおさえたい方
事前に精索静脈瘤手術を受けたい理由
卵巣刺激法について解説しましたが、体外受精を受ける前にまずは男性側も精索静脈瘤など不妊の原因がないか検査を受けましょう。精索静脈瘤の場合、改善すれば体外受精の成績の向上が認められているためです。
精索静脈瘤手術によって87%で精液が改善し、精液の質が向上します。妊娠・出産率の増加や流産率の減少も確認されているのです。
精索静脈瘤は一般男性で15%、不妊男性の40%以上で認められ、珍しい病気ではありません。他院の精液検査で所見が悪かった場合には、早めに検査を受けて治療を始めましょう。
仮に、男性側が精索静脈瘤の治療を受けなかった場合は、次のような可能性があります。
- 精液所見の悪化
- 精子のDNAのダメージ(そのまま使用すると受精卵のDNAダメージ)
- 精巣機能障害の進行
- 陰嚢の痛み
- 男性ホルモンの早期低下
妊娠せず流産を繰り返してしまうといった場合にも、事前に医師に相談し、精索静脈瘤について検査・手術を受けることをおすすめします。
精索静脈瘤手術を受ける最適なタイミング
体外受精を考えている場合は、できるだけ早いタイミングで精索静脈瘤手術を受けることが望ましいです。ただし、女性の年齢が高いときには、体外受精と同時に進めるケースもあります。
精索静脈瘤手術を受けた場合、性交渉が行えるのは術後1週間からです。ただし、染色体やDNAなど精子の遺伝子にダメージを受けるため、体外受精が可能なのは手術後2か月からです。
手術によって精液所見が良くなれば、体外受精だけでなく顕微授精・人工授精・タイミング療法などすべてにおいて、妊娠・出産率が上昇します。また、流産・奇形児が減少し、女性側の負担も減少します。
体外受精開始前もしくは同時であっても、早いうちに手術を検討しましょう。
精索静脈瘤手術なら経験豊富な医師が在籍する銀座リプロ外科を受診ください
銀座リプロ外科では20年以上も精索静脈瘤手術を行い、年間約1,000例の精索静脈瘤手術を行っております。経験豊富な医師が在籍しておりますので、安心して受診ください。
当院の執刀医である永尾医師が行う「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術・ナガオメソッド」は、熟練した技術が必要な手術で、精管・動脈・リンパ管・神経など必要なものをすべて温存することができます。機能の低下や合併症、再発の心配もなく、精液所見も高い改善結果を得られています。
体外受精を検討する場合に、男性不妊について確認しておくことも重要です。男性側の治療が必要となった場合、ぜひ永尾医師が開発したナガオメソッドによる精索静脈瘤手術をご検討ください。
施術の紹介
精索静脈瘤とは?症状や検査方法、治療・手術方法を解説
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〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師
永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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