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Varicocele
精索静脈瘤とは、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う3層構造の膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。ここでは、精索静脈瘤の原因や悪影響についてご紹介しています。また、手術の方法、予防法などについてもご紹介します。
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精索静脈瘤は、一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%以上に認められ、後天性の男性不妊症(二人目不妊)の78%の原因です。
WHOの報告では、9,034人の不妊男性の調査で、精液所見が悪い男性の25.6%で、精液所見が正常の男性の11.7%で精索静脈瘤が認められました。
まずは検査を行い、精液所見の状態や触知により手術適応の判断をいたします。
手術の方法には、精索静脈瘤高位結紮術、腹腔鏡下精索静脈瘤結紮術、日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術などがありますが、
精巣静脈高位結紮術と日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術が一般的に行われています。
当院では日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術 ナガオメソッドを自費にて行っております。
当院は多くの医師にも選ばれています。
(関東甲信越の75%の大学病院から、医師・医学生が患者としてナガオメソッド手術を受けています)
手術については特別ページもご参照ください
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)とは、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う3層構造の膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。
男性不妊症の原因の一つで、男性不妊症患者の全体の40%以上に認められます。精索静脈瘤が認められた場合、精液所見の顕著な改善が期待※1できます。他院にて精液検査を受けられて、所見が悪いと診断された方は検診をお薦めいたします。
※1 ヨーロッパ泌尿器科学会:男性不妊診療ガイドラインより
腎臓の静脈から血液の逆流が生じることで、左精索静脈内の陰のう上部がうっ血し、瘤(こぶ)状の腫れなどの症状が生じることになります。
このため血液が停滞し、精巣の温度が上昇します。そして、精巣機能が低下する原因になります。
欧米をはじめ世界のガイドラインで、男性不妊と深く関係していると述べられています。
精巣の温度は体温より2~3度低い状態で精巣が機能します。精索静脈瘤を放置すると精巣機能(精子と男性ホルモンを作る機能)が悪化します。
精索静脈瘤は、一般男性の15%に、男性不妊症の40%以上に認められ、二人目不妊の78%に精索静脈瘤があります。
WHOは、精索静脈瘤が男性不妊の原因であると結論づけています。
女性だけではなく男性も不妊治療を行うことが重要です。
自覚症状はない場合が多いです。ただし、悪化すると陰のうの腫れやでこぼこ、陰のう痛が出現します。
精索静脈瘤により、下記のような影響が起こります。
精索静脈瘤があっても、激痛を伴う場合と、痛みのない場合があります。
最初は鈍痛をたまに感じる程度でも、進行してくると、頻回に起こるようになり、痛みの度合もシャープな痛みへと変化します。また、痛みがなく、精索静脈瘤の発見が遅れ、気づいたら男性不妊になっている方も少なくはありません。
その他、精索静脈瘤があると、精巣上体への炎症が起こりやすくなります。精巣上体炎になると、鎮痛剤や抗炎症剤、場合によっては抗菌薬で対処しますが、一度なってしまうと精索静脈瘤の治療をしない限り、炎症は繰り返し起きてしまいます。
※泌尿器科を受診されていた方の中には、前立腺炎と診断され、それ用のお薬を処方されている方もいますが、精巣上体炎と前立腺炎との識別は必要です
触ると腫れていたり、陰嚢にでこぼこがあったり、見た目にも腫れていることが分かるような場合は、精索静脈瘤である可能性が高いです。
ただし、正確なことはしっかり検査しないとわからないため、不安な場合は検査をすることをお薦めいたします。
検査は、視診と触診の他、エコー検査で精巣周囲の静脈の太さを確認します。詳しくは「診断・検査方法」の段落をご覧ください。
そのほか、見た目でわかる男性不妊の兆候については「男性不妊の特徴、見た目や自覚症状で分かる?」をご覧ください。
本来、精巣から心臓に戻る静脈血が、
などの理由から、逆流した静脈血が精巣周囲に貯留し精索静脈瘤を発症します。
遺伝や特定の原因はありませんが、4足歩行の動物と比べて2足歩行の人間では、心臓より下からの血液の戻りが悪い傾向にあります。
また、片側の静脈瘤は、もう一方の精巣にも悪影響を与えます。
一般男性で15%、不妊男性で40%と、決して珍しい病気ではありません。
静脈血が逆流する要因に、遺伝や特定の原因はありません。
心臓から動脈を通って血液が全身に運ばれ、全身から静脈を通って心臓に血液が戻ります。動脈の流れは、心臓の拍動によって作られます。
一方、静脈の流れは、心臓より上からは重力や筋肉の動き、静脈弁により作られます。心臓より下では、重力に逆らって筋肉の動きや静脈弁だけで血液を心臓に戻します。筋肉の働きや、静脈弁の機能が弱いと血液を心臓に戻す機能が低下し、血液の逆流が起こり静脈瘤が発症します。
さらに、精索静脈から左腎静脈に血液が戻りますが、精索静脈瘤では、左腎静脈が腹大動脈と上腸間膜動脈に圧迫されるナットクラッカー現象が起こり、血液の戻りが悪くなります。
ナットクラッカー現象とは、クルミ割り現象とも呼ばれ、左腎静脈が下大静脈に合流する途中で、腹大動脈と上腸間膜動脈に圧迫される現象です。
精索静脈瘤の検査は「触診」「エコー検査」によって行います。
触診では、静脈瘤の程度によってグレード1~3までに分類します。当院では、グレード2以上の場合を手術適応としています。
精索静脈瘤はその重症度を「グレード」で表します。視診・触診でも度合いを判断することはできますが、正確なことはエコー検査でしか診断することはできません。
軽症の場合、手術の必要はありませんが、当院では診察で「グレード3(見てわかる:陰のうが凸凹している、腫れている)」「グレード2(触ってわかる:腫れている)」、エコー検査で精巣周辺の静脈の太さ3mm以上が複数または2.8mm以上が多数あるものを手術適応としています。
重症度 | 視診・触診 | エコー検査(精巣周囲の静脈の太さを見る) | 評価 |
---|---|---|---|
グレード0 | 異常なし | 異常なし | 精索静脈瘤ではない |
グレード1 | 触って腹圧をかけるとわかる | 3.0mm未満(静脈も少数) | 軽症のため/経過観察 |
グレード2 | 触ってわかる:腫れている | 2.8mm以上が多数または 3.0mm以上が2つ以上 |
手術適応 |
グレード3 | 見てわかる:陰嚢が凹凸している、 腫れている |
3.0mm以上が多数または 4.0mm以上が2つ以上 |
手術適応 |
当院では、陰嚢専用の機器を用いてエコー検査を行い、陰嚢の状態を検査します。正確に検査することで的確な手術ができ、再発の可能性を限りなく下げることができます。
エコー検査では、精巣腫瘍、精液瘤、精巣水腫、精巣内石灰化の有無などを確認します。
(例)左側2画面のエコー検査の画像です。
左の静脈径は、6.8mm、6.2mm、4.5mm、 4.8mm、4.7mm。
ドップラで安静でも逆流著明、腹圧でさらに増強していました。
以上の所見より、診断は左側グレード3の精索静脈瘤です。
![]() 左側1枚目 |
![]() 左側2枚目 |
(例)左右の精巣のエコー画像です。
精巣内に腫瘍はありませんが、左右の精巣に白い点が多数見えます。これは精巣機能低下により石灰化してきています。
また、右側に精液瘤9.7mm × 10.1mmがあります。こちらは治療してしますと精巣機能低下につながるので、不妊治療中の場合は、経過観察です。
更に、精巣の大きさに左右差があるのが分かります。左側16ml、右側20mlで、精索静脈瘤により、左側が萎縮しています。
![]() 左側 |
![]() 右側 |
精索静脈瘤の検査について詳しくは「精索静脈瘤の検査とは?当院の検査方法について」をご覧ください。
治療は、手術によって行います。手術方法は複数あり、合併症のリスクや再発率などを加味して選択する必要があります。当院では「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術・ナガオメソッド」をお薦めしています。
治療方法については、「精索静脈瘤の治療方法とは?」で詳しくご紹介しています。
また、手術についての詳細を動画でもご紹介しています。
顕微鏡下低位結紮術ナガオメソッドは、高度な技術をもった術者※が、血管・リンパ管・神経を一本一本分離して、大事なものをすべて温存できる術式です。
合併症がほとんどなく、外精(逆流)静脈や、その他の逆流静脈も確実に結紮するので、再発率0.5%と最も良い手術です。
※術者は、マイクロサージェリーのトレーニングを受け、0.5mmのリンパ管や血管の吻合を多数経験しているスーパーマイクロサージャンです。
ナガオメソッドについては動画でも詳しくご紹介しています。
ナガオメソッドは、精液所見を大幅に改善させます。以下は、ナガオメソッド術前後の精液所見の変化値です。
上記のように、無精子症の方を除いて、すべてのレベルの精液所見が平均で1560万を超えて正常化しています。また、術前タイミングレベルも1.8倍に改善しています。
無精子症でも、14%は精子が出現しました。
精液所見において、顕微授精レベル・体外受精レベル・人工授精レベルの方々が、自然妊娠(タイミングレベル)まで改善した患者さんの割合も、上記のように大幅に上昇しています。
精索静脈瘤の検査および治療をせずに婦人科治療をしても、なかなか妊娠につながらないケースが多く、精索静脈瘤がある場合には、まず治療することをお勧めいたします。
治療すると、自然妊娠だけでなく、婦人科治療の成績も良くなり、女性の負担を軽減することができます。
一般的に腹腔鏡下手術は「低侵襲手術(身体への影響が少ない手術方式)」と言われますが、手術中は常に腹腔内に炭酸ガスで満たしておく必要があり、低頭位(頭を下げた姿勢)であるため、実際には体に負担がかかっています。また、出血した場合の対応が難しいと言われています。
経皮的塞栓術では静脈に塞栓物質を入れるため、立位で逆流しているときは問題ないものの、寝たときに心臓に血液が向かう可能性があります。そうすると、塞栓物質が心臓を経由して脳血管や心臓栄養血管などに向かってしまいます。
また、腹腔鏡下手術と経皮的塞栓術の場合、合併症や再発率が高いのも特徴です。特に経皮的塞栓術では、複数の細い静脈を塞栓(血管をふさぐこと)できず、すぐにバイパス血管が拡張してしまうため、再発率も高くなってしまいます。
肉眼的高位結紮術ではリンパ管の温存ができません。そのため、精巣水腫の合併率が高く、外精(逆流)静脈が残るため、再発率も高くなってしまいます。
顕微鏡下高位結紮術では、リンパ管が温存されるため精巣水腫の合併はないものの、外精(逆流)静脈が残るため、再発率は5%となっています。
また、一般的な顕微鏡下低位結紮術では、複数の動脈・リンパ管・神経の損傷があるので、精巣水腫、血流悪化、精巣萎縮など、重篤な合併症の可能性があります。
それに加え、外精(逆流)静脈が残るため、再発率も高くなってしまいます。
このように、過去の術式では再発率が高かったり、合併症の可能性が残っていたりと、必ずしもベストな選択ではなかったのです。
そこで当院では、東邦大学大森病院 リプロダクションセンター センター長 永尾光一教授が開発した高度な術式「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術・ナガオメソッド」をおすすめしています。
以下の表は、精索静脈瘤の手術方式を特徴ごとにまとめたものです。
再発率が低く日帰りできるナガオメソッドをお薦めいたします
ナガオメソッド 顯微鏡下低位結紮術 |
顕微鏡下高位結紮術 | 一般的な顕微鏡下 低位結紮術 |
鼠径部結紮術 | 肉眼的高位結紮術 | 腹腔鏡手術 | |
---|---|---|---|---|---|---|
麻酔法 | 局所麻酔 (7段階) | 全身麻酔 | 全身/局所麻酔 | 全身麻酔 | 全身麻酔 | 全身麻酔 |
入院日帰り | 日帰り | 入院 | 入院/日帰り | 入院 | 入院 | 入院 |
動脈温存 (外精動脈温存) |
6-16本 (0-6本) |
0-1本 (なし) |
1-2本 (なし) |
1-2本 (なし) |
なし (なし) |
なし (なし) |
リンパ管温存 (外精リンパ管温存) |
8-26本 (0-7本) |
3-5本 (なし) |
なし/1-2本 (なし) |
なし/1-2本 (なし) |
なし/1-2本 (なし) |
なし/1-2本 (なし) |
神経温存 (外精神経温存) |
8-28本 (2-13本) |
1-3本 (なし) |
なし (なし) |
なし (なし) |
なし (なし) |
なし (なし) |
結紮した逆流静脈 (結紮した外精逆流静脈) |
10-67本 (2-20本) |
3-7本 (なし) |
なし (なし) |
なし (なし) |
なし (なし) |
なし (なし) |
再発率 | 0.5% | 5% | 13.3%※ | 13.3% | 29% | 3-7% |
精巣水瘤合併 | なし | あり | あり | 5-10% | あり | |
重篤な合併症の 可能性 |
なし | なし | あり (血流障害・精巣萎縮) |
なし | なし | あり (出血・腸管損傷) |
使用器具 | 顕微鏡・ドップラ血流計 ・NAGAOBO |
顕微鏡 | 顕微鏡 | – | – | 腹腔鏡 |
技術レベル | 非常に高い | 普通 | ばらつき多い | 普通 | 普通 | 普通 |
保険適応 | 自費 | 保険 | 自費/保険 | 保険 | 保険 | 保険 |
おすすめ度 | ◎ | ○ | △/× | × | × | × |
文献
※ 本邦では、外精静脈を残すので、鼠径部結紮術と同じ再発率である。
精索静脈瘤による精巣ダメージは進行性で、年齢とともに急激に悪化します。
下記は、年齢における生殖能力のイメージ図です。
女性に比べ男性の生殖能力は緩やかに低下しますが、精索静脈瘤のある男性は急激に生殖能力が低下します。
精索静脈瘤は放置すると、精液所見が悪くなります。
以下は、精索静脈瘤がグレード1、2、または3に分類された1102人の男性と、影響を受けていない5933人の男性の精液特性です。
結果は、調整された線形回帰モデルからのものです。
精子濃度(100万/ml)
総精子数(100万)
形態学的に正常な精子の割合(%)
正常な精子の総数(100万)
上記のように、精索静脈瘤による精巣ダメージは進行性で、年齢とともに急激に悪化します。大きい静脈瘤ほど悪化し、グレード2とグレード3が手術適応となります。
治療には手術が有効ですが、手術の前には検査をする必要があります。
詳しくは費用のページをご覧ください。
手術をご希望の場合は、術前検査をお受けいただく必要がございます。
(税込)
(税込)
※ 上記の金額に加え、土曜・日曜・祝日は22,000円(片側)が、また夜間(17時以降)は時間外55,000円(片側)が必要となります。
現在、精索静脈瘤を予防する適切な方法は見つかっていません。ただし、早い段階で見つけ、適切な手術を行うことで、生殖機能を向上させることは可能です。
そのため、自己診察を行って、早期発見を目指しましょう。また、少しでも気になることがあれば、すぐに医師に相談するようにしてください。
精索静脈瘤だけでなく、男性不妊症全般の予防として、普段の生活から気をつけるべきことがいくつかあります。その代表的なものが、精巣を温めないようにすることです。
精巣は体温よりも2~3度低い状態で正常に機能します。そのため、精巣を温めてしまうような生活習慣に気をつけることで、男性不妊症の予防に繋がります。
例えば、一日中座った状態が続くデスクワークの方は、定期的に立ち上がって熱を逃がすようにしましょう。
また、締め付けの強い下着や、ロードバイクなどの摩擦・圧迫が生じる運動は避けたほうが良いかもしれません。長風呂やサウナも、精巣を温める原因になります。
男性不妊症の原因については「男性不妊症とは?その原因と不妊治療・対策」でも紹介しています。
不妊治療は女性だけでなく、男性も行うことで、妊娠の可能性を高めることができるだけでなく、妊娠までの時期を早めることができます。
手術は日帰りで行えますので、もし精索静脈瘤と診断された場合には、ぜひ当院までご相談ください。
永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター長
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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