COLUMN

30代からはじめる男性不妊治療・妊活のポイント

男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
男性不妊の40%精索静脈瘤が原因

男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。

男性の不妊・妊活とは?

不妊とは、妊娠を希望する健康な男女が避妊しないで性交をしているにもかかわらず、1年間経過しても妊娠が成立しない状態をいいます。

不妊症と聞くと、女性側の問題であると思われがちですが、男性側に問題がある「男性不妊」も存在します。

WHO(世界保健機構)の不妊原因調査の発表によると、不妊症のカップルのうち、女性不妊65%、男性不妊48%、男女両方に原因がある不妊が24%となっており、男性側にも原因がある場合が約半数あることがわかります。

不妊症において、男性不妊は珍しいことではないのです。

また、女性の不妊治療と同様に、男性の不妊治療もあります。夫婦やパートナーとの間に妊娠を希望する場合は、男性・女性両方に原因がある可能性があることを知り、二人一緒に取り組むことが大切です。

男性不妊症の原因

男性不妊の原因はいろいろあり、原因不明42%、精索静脈瘤30.2%、性機能障害(ED・射精障害)13.5%、染色体遺伝子異常4.3%、精路閉塞(精子の通り道の問題)3.9%、薬剤や停留精巣による精巣障害3.4%、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症1%、その他1.7%(厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業 湯村ら)であります。

上記原因の中で、治療が可能なものは、1. 精索静脈瘤(手術)、2. 性機能障害(内服薬)、3. 精路閉塞(再建手術)、4. 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(ホルモン注射)ですので、治療可能な疾患を早期に発見し、早期に治療することがとても重要です。

精索静脈瘤

精索静脈瘤は、精巣の周りに静脈瘤(こぶ)ができる病気で、静脈瘤が障害となり、本来心臓から来た血液が静脈を通って心臓に戻るはずが、逆流し精巣に戻ってしまう現象が起こります。

動脈からおなかを通って温められた血液が精巣に逆流してくると、精巣付近の温度が上がってきます。こうなると精子が作られにくく、奇形になる確率も高まるため、精策静脈瘤によって血液が逆流すると、熱に弱い精子にとっては最悪の環境になるわけです。

精索静脈瘤は自覚症状がほとんどなく、命に別状がない良くも悪くも両性のこぶなので、特に妊娠を希望していない、不妊治療の必要がない場合は放置しても問題ありません。

精索静脈瘤が不妊症の原因となっている場合は、手術して静脈瘤を取り除く治療が可能です。この手術を行うと、大半の方で精子の所見に改善が見られ、自然妊娠の確立が高まります。

性機能障害(ED・射精障害)男性能力の低下

性機能障害とは、性交を行うために十分な勃起ができない(もしくは維持できない)、性衝動(性欲)が不十分である、射精ができないことなどを指します。これらの要因により、性交を行うことが困難な状態を勃起障害(ED)といい、身体的要因(器質性)と心理的要因(心因性または機能性)、またはその両方が複雑に影響しあっているといわれています。

ある程度のEDは、加齢に伴い誰にでも起こりうる症状です。しかし、最近では若い世代でもEDと診断されるケースが少なくありません。

その要因となっているのは、不安やプレッシャー、トラウマまたはそううつ病などの心理的要因であることが多く、生涯にわたる問題となることもあります。動脈硬化、糖尿病、前立線がんの手術など身体的要因でもEDになることがあり、それらの疾病を治療するための服薬が一因になるともいわれています。

いずれの場合も、適切な薬物治療やカウンセリングを行い、まずは性交ができるように身体を整えることが大切です。

射精障害には、逆行性射精、膣内射精障害等があります。逆行性射精は、射精の感じはあるが精液が出てこないで、膀胱側に精液が逆行してしまう状態で、糖尿病、骨盤内手術や心因性でも起こります。逆行性射精には、三還系抗うつ薬のアモキサピンが有効です。

精路閉塞(再建手術)

精路閉塞

パイプカット後、鼠径ヘルニア手術後、精巣上体炎後等に精子の通り道が閉塞したものに対しては、精路再建手術が有効です。
パイプカット再建手術では、日帰り手術が可能であり、精子出現率90%・精液正常化50%(銀座リプロ外科)の成績です。

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

下垂体ホルモンの低下により、精巣機能が低下している場合です。下垂体ホルモンの注射により、無精子症であってもほとんどの場合、精子が出現します。
この疾患を、泌尿器科でしっかり診断することで状況が劇的に改善する可能性があります。

精子の質

男性能力に問題がなく、性交・射精ができるのであれば、次に精子の質を検査します。いわゆる精液検査です。

精液検査の結果、

・精子が少ない(乏精子症)
・運動率が悪い
・精子がいない(無精子症)

といった所見が見られる場合は、精巣で精子を作るときに問題があるので、造精機能障害を疑います。

精子障害の種類

精子の質とは、簡単に言うと「妊娠させる力があるかどうか」です。より具体的には精子の数や形、運動率がどのようなものかを指します。これらが正常値の範囲内であれば、精子の質は良いということになります。

造精機能障害があることによって、精子の数が極端に少ないもしくはまったくない(無精子病)、奇形、運動率が悪い(運動している精子の数の割合が少ない)などの場合、卵子まで泳いで行って突入し受精卵となることが難しいため、妊娠させる力が弱い(=精子の質が悪い)となります。

造精機能障害の原因は、精巣の周りの静脈にこぶができる「精策静脈瘤」が約30%~40%、次に射精までの通路に問題がある「精路閉塞」で約10%、ホルモンバランスに関係する「内分泌異常」が約1%となっています。この3つは造精機能障害の3大要因です。

造精機能障害

その他

特に原因のわからない特発性の場合は、日常生活の改善など補助的な治療を行います。具体的には、禁煙する、座りっぱなしにしない(長時間同じ体制で睾丸が温められてしまうため)長期間の禁欲生活をしない(週1回以上の性生活で新陳代謝させることが望ましい)、ビタミン・鉄・亜鉛を補足できるバランスのよい食生活に改善するといった内容です。

「男性不妊と内服薬」のページにリンク(後日追加修正)

特に原因がわからない場合は、これだけでも精子の所見に改善がみられることがあります。

造精機能障害により無精子症の場合は、自然妊娠はほぼ不可能に近いため、精巣内から精子を取り出して顕微授精や体外受精を行うことも視野に入れて治療を行っていきます。

精子の質については「質の良い精子とは?質を高める生活習慣・考え方」の記事でもご紹介していますので、合わせてご覧ください。

30代からはじめるべき理由

30代からはじめるべき理由

高齢妊娠や高齢出産も、医学の進歩によって珍しいことではなくなってきました。排卵し、受精する限り妊娠・出産は可能ですが、高齢妊娠で問題となるのは、妊娠率の低下と流産率の上昇です。年齢とともに上がり、35歳を過ぎると急速にそのスピードが加速します。

不妊症の原因はさまざまですが、誰しも無関係でいられないものは「年齢」です。男女ともに加齢は、どんなに健康な人であっても妊娠率に影響を与えます。30代から徐々に妊娠しづらくなり、「35歳」を超えると妊娠確率が大幅に低下します。

妊娠できるかどうかは、男女ともに年齢が大きく関係しています。不妊症を引き起こしている原因は自然と治るものではなく、むしろ時間が経つほど加齢というリスクも伴います。30代でも早すぎることはありません。早期に治療を始めることをおすすめする理由は次の通りです。

30代から精子の質が低下するから

女性は、加齢によって卵子が老化し妊娠確率が下がることが、広く知られるようになりました。同じように男性の精子も年齢が上がるにつれて質が低下することがわかっています。30代から徐々に低下し、35歳を過ぎたころから質の低下が顕著になります。

男性の場合、仕事を充実させ、収入を安定させることを一番にライフプランを考えたときに、子供を持ちたいと思う年齢が女性より高齢である方も多いのではないでしょうか。

20代は仕事に邁進し、30代で家庭を持ち、子供を持ちたいと考える年代になる頃には、中間管理職などに就き多忙になる人が多く、生活リズムが乱れがちになります。子供を持ちたいと考えたときには、精子の質が低下しはじめる年齢に差しかかるため、生活習慣を見直してみるだけでも、妊娠確率は上昇します。

不妊治療は時間との戦いだから

男性は、生涯にわたって精子が精巣で作り続けられるため、機能に問題がなければ一生子供を持つことは可能です。ただし、女性は排卵できる卵子の数が決まっていて、一般的に50代前後に閉経を迎えると妊娠することはできなくなります。妊娠する女性側には、明確なタイムリミットがあるのです。

妊娠・出産は、女性だけでも男性だけでも実現することはできません。パートナーと妊娠を希望する場合は、男性も時間との勝負であることを意識しておきましょう。子供を持ちたいと思ったら、まずは男女ともに妊娠できる状態であるか調べること、不妊症と診断されたら治療はできるだけ早く始めることが、時間を無駄にしない方法です。

男性側の原因を取り除くと、不妊治療の時間短縮につながるから

不妊治療を始めると、検査や手術に痛みが伴う上に、月経周期に合わせて時間的な拘束もあり、女性は心身ともに辛い期間が続きます。もし最終的に妊娠することができ子供を産むことになっても、不妊治療の期間は短いほうが、女性の負担が少なくて済みますね。

不妊を女性側だけの問題として治療を続け、一向に妊娠しないからと男性側の検査をすると、無精子症だったり、運動率が悪く妊娠できなかったりと、男性不妊が原因だったとわかるケースもあります。

不妊治療は時間との勝負です。男性側も、精子に問題がないかどうかだけでも最初に調べておき、男性不妊である場合はすぐに治療を始めることが、不妊治療の時間を減らし、愛するパートナーの負担を減らすことにもつながります。

自分が男性不妊かどうかを確かめる方法

男性不妊かどうかは、前述のように精子の質にあります。精子の質とは、「妊娠させることができる力があるかどうか」ということですので、男性不妊かどうか確かめるには、精液検査を行います。

精子の質を調べたうえで、所見が悪い場合は、その原因を探り適切な治療を行っていきます。

男性不妊治療でおこなうこと

不妊の原因によって治療法も様々です。男性不妊治療は、概ね以下のような流れで行います。

➀必要に応じてED治療
➁精液検査
➂精索静脈瘤検査
➃手術

手術後も精液検査の所見に改善が見られない場合は、精索静脈瘤以外の原因を探ります。

不妊治療は、女性だけのものではありません。婦人科で不妊治療を考えているなら、その前に男性も検査を受け、不妊症の疑いあれば適切な治療を受けましょう。

夫婦ともに妊娠できる状態かをチェックし、妊娠確率を高める方法を知って、治療を行い実践することが、妊活にとっての大きな最初の一歩です。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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