COLUMN

2021年より、WHOの精液所見の基準が変わりました。
精液量1.4ml以上 精子濃度1600万/ml以上 運動率42%以上 直進運動率30%以上 総運動精子数1638万以上 正常精子形態率4%以上
(2010年は、精液量1.5ml以上 精子濃度1500万/ml以上 運動率40%以上 直進運動率32%以上 総運動精子数1560万以上 正常精子形態率4%以上でした)

精子の質を決めるポイントとは?

WHO基準【1】精液量 正常値 :1.4ml以上

精液量とは、射出された精液の量です。2021年より精液量の正常値は1.4ml以上とされています。
精液量が極端に少ない場合(1ml以下の場合)は、逆行性射精という状態が疑われます。内服中の薬が原因で逆行性射精になることもありますので、その場合は、専門医に相談してください。

WHO基準【2】精子濃度 正常値 1mlあたり 1.6×10⁶  1600万/ml以上

精子濃度とは、1mlの精液にどのくらいの精子が含まれているかという、精子の数を示す値です。
2021年より精子濃度の正常値は1600万以上とされています。これを下回ると乏精子症となります。

WHO基準【3】運動率  正常値 42%以上

運動率とは、運動している精子の割合を示し、精液検査の中でも重要視される項目です。運動率についても、2021年からは以前の40%より正常値が引き上げられています。
この基準を下回ると、精子無力症と診断されます。
また、精索静脈瘤などの疾患がある場合にも、運動率の低下が見られます。

WHO基準【4】正常形態率 正常値 4%以上

正常形態率とは、精子の形が正常な割合で、正常値は4%以上です。正常形態率が低いと不妊の原因になります。
一方、精子の形が不良な割合は、奇形精子率が使われることもあります。奇形精子の原因としては、肥満・喫煙・精巣への温度の影響です。
精索静脈瘤がある場合、正常形態率が低く、奇形率が高いことが見受けられます。

婦人科治療の目安として使われる「総運動精子数」 正常値 1638万以上

総運動精子数とは、動いている精子の総数で、精液量×濃度×運動率で計算します。この値は、婦人科治療の目安として使用されます。
総運動精子数の正常値は1638万以上で、この数値を満たしていれば、性行為で自然妊娠する可能性があります。

項目 正常値
精液量 1.4ml以上
精子濃度 1,600万/ml以上
運動率 42%以上
正常形態率 4%以上
総運動精子数 1,638万以上

精子の質が高まることによるメリット

自然妊娠の可能性が高まる

精液検査で、総運動精子数が1638万以上の場合は、自然妊娠が可能なレベルです。

不妊治療がスムーズになる

WHOの不妊症原因調査では、男性不妊48%で、不妊原因の半数弱です。この数字からも分かるように、男性側に原因がある場合は珍しくありません。
男性不妊の検査をし、治療可能な疾患であれば、それを治すことにより、その後の不妊治療がとてもスムースに進めることができます。

女性側の負担が少なくなる

男性不妊の検査・治療をしないで不妊治療をする場合は、男性の精液所見で女性側の治療が決まってしまいます。
泌尿器科の生殖専門医により検査をし、精索静脈瘤などの治療可能な男性不妊の原因が見つかった場合は、それを治すことにより、婦人科治療のステップダウンが見込め、女性側の負担を軽減することができます。

精子の質の調べ方

精液検査

精液検査をする場合、禁欲期間が長すぎても短すぎても良くありません。3日間の禁欲で、院内採取をお薦めしております。精子は温度や紫外線の影響を受けやすいため、自宅採取の場合は、医療機関に運ぶまでにダメージを与えてしまうからです。特に運動率に影響します。

精液検査以外で質を知ることはできる?

量が少ない、血液が混ざる、色が薄いなどで精液が悪いのではないかと感じることが多い様ですが、正確に精液の質を知りたい場合は、精液検査を受ける必要があります。

精子の質を高めるためにできること

<治療編>質を高めるためにできること

精索静脈瘤手術

医学的根拠(エビデンスレベル)が高い疾患として、精索静脈瘤、精路閉塞(精子の通り道の閉塞)、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(下垂体ホルモン低下)があります。精液所見の悪い方の有病率は、精索静脈瘤40%、精路閉塞2%、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症0.0001%ですので、治療可能な疾患のほとんどは精索静脈瘤です。

精索静脈瘤が見つかった場合、それを治療することにより、自然・人工授精・体外受精・顕微授精、全ての方法で妊娠率・出産率が上昇し、流産・奇形が減少します。

投薬治療は行われる?

逆行性射精や勃起障害など、性機能障害に対する治療では,ED治療薬やアモキサンなどの投薬治療が行われます。
また補助的に、補中益気湯・八味地黄丸などの漢方の処方やコエンザイムQ10・ビタミンB12 ・亜鉛・Lカルニチンなどのサプリメントを薦められる場合がありますが、医学的根拠は低く、あくまでも他の治療と併用し行う必要があります。

そのほか、頻度は低いが行われること

精路閉塞症で、精子の通り道が閉塞している場合は、精路再建術が行われます。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の有病率は、0.0001%と稀で、主に精巣を刺激する下垂体ホルモン(性腺刺激ホルモン)の低下により、男性ホルモンの低下や、精子形成不全となる疾患です。治療は、hCG・FSH療法など、下垂体ホルモンの自己注射が有効です。

<日常生活編>質を高めるためにできること

食事を改善する

規則正く、バランスの良い食事を心がけましょう。

睡眠不足にならないようにする

体調が悪いと、精液も悪くなります。睡眠不足にはならないように、規則正しい生活を心がけることも大切です。

運動を心がける、座りっぱなしにならない

肥満も男性不妊を促進します。適度な運動が大切です。
また、座りっぱなしでいると、精巣温度が上昇します。精巣機能は体温より2~3度低い状態で機能します。

禁煙

喫煙は、精子の数・運動・形状に悪影響を及ぼすため、禁煙が必要です。

下着に気をつける

精巣を温めないように、通気性の良い下着を身に着けることをお薦めいたします。

サプリメントの摂取

補助的とはなりますが、コエンザイムQ10(100-200㎎/日)、亜鉛、ビタミンB12、Lカルニチンなどを摂ることも良いでしょう。

育毛剤

特に男性型脱毛症治療薬のプロペシア、フィナステリド、ザガーロ、デュタステリドは精液所見を悪化させますので不妊治療中は、中止することをお薦めいたします。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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