当院の精索静脈瘤手術について | 男性不妊治療は銀座リプロ外科            
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精索静脈瘤とは、精巣(睾丸)周辺の静脈が拡張し、こぶ状に膨らんだ状態を指します。陰嚢(いんのう)の表面に血管がうねうねと浮き出て見えたり、立位での陰嚢の膨隆感・違和感が生じたりするのが典型的です。精索静脈瘤は、精子の産生や質の低下につながることで男性不妊の原因のひとつと考えられています。また、思春期から青年期にかけても、すでに症状がある場合があるため、以下のようなケースでは、診断と手術が必要となります。

・不妊の原因になっている可能性が高い
・思春期~若年成人で精巣萎縮(精巣容積の低下)が疑われる

当院では、顕微鏡下低位結紮術(マイクロサージャリー・鼠径下アプローチ)によって、を中心に、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)の治療を行っております。拡張した静脈の血流を遮断することで、陰嚢への血液の逆流を防ぎ、症状の改善や精子の産生環境の向上を図る目的で施術いたします。

 

顕微鏡下低位結紮術(マイクロサージャリー・鼠径下アプローチの特徴

1.顕微鏡を用いた精密操作

・当院の手術では、16倍から25倍という高倍率の顕微鏡を用いて血管やリンパ管、動脈を詳しく観察しながら作業を行います。
・0.5mm程度の血管吻合が可能な医師が担当し、外陰部静脈(外精静脈)を含め、原因となり得る血管をすべて結紮するための独自技術を用いています。
・拡張した静脈のみを選択的に結紮できるため、動脈、リンパ管や神経をできる限り傷つけずに温存することが可能です。

2.低位(鼠径下)アプローチ

・鼠径管よりもさらに下部、陰嚢に近い位置からアプローチする方法であり、精巣に近い側で静脈を処理します。
・動脈・リンパ管・神経と静脈をより正確に識別できる利点があり、術後の再発や陰嚢水腫のリスク低減が期待されます。

3.再発率が低い

・経験豊富な医師が顕微鏡下で細かな血管を丁寧に処理できるため、精索静脈瘤の再発率を抑えることに寄与します。当院ではこれまで10,000件の術例数に対し、再発数は0となっています。

 

手術の流れ

1.麻酔

・手術時には工夫された局所麻酔により患者さんの負担を最低限に押さえます。
・手術時間は約1時間。日帰り手術となります。
・術後の万が一の事態に備え夜間でも緊急対応可能な体制を整えていますが、現在まで術後のトラブルはありません。

2.切開と血管の同定

・当院では鼠径管の下部付近を数センチ切開し、顕微鏡で拡大しながら精索を露出させます。

精索静脈瘤手術手順

精索だけでなく外陰部逆流静脈(外精逆流静脈)・外陰部動脈・外陰部神経を含む脂肪組織も持ち上げ処理します。

精索静脈瘤手術手順外陰部逆流静脈(外精逆流静脈)を露出
・※外陰部逆流静脈は精索から離れた場所に存在します。精索のみを持ち上げたのでは処理できません。

 

精索静脈瘤手術手順外陰部逆流静脈(外精逆流静脈)結紮
※精索から離れて位置にある逆流静脈を結紮・切離し、逆流を防ぎます。動脈、やリンパ管や神経の損傷を避けることが非常に重要です。

 

精索静脈瘤手術手順内精逆流静脈の剥離・結紮
※手術の際に周囲の組織や精管・動脈・リンパ管・神経から逆流静脈を分離して可視化します。逆流静脈は、絹糸で2重に結紮し、後ほど切離します。これにより精管・動脈・リンパ管・神経をきちんと分離(剥離)して確認することで、誤って重要な組織を損傷せずに、拡張した悪い静脈だけを正確に処理することが可能になります。精管・動脈・リンパ管・神経静脈を1本ずつ剥離するには非常に繊細な作業であるため、顕微鏡の高倍率で、0.5mm単位での慎重な手技が求められます。

 

精索静脈瘤手術手順精管・動脈・リンパ管・神経の温存(精索内のみ、外精は別で処理済み)
※精管(白く太いもの)・動脈(赤い血液の入った管)・リンパ管(白く透明な管)・神経(白い筋状のもの)のすべてが温存される。

 

精索静脈瘤手術手順拡大写真 動脈・リンパ管・神経の温存(精索内のみ、外精は別で処理済み)
※動脈(赤い血液の入った管)・リンパ管(白く透明な管)・神経(白い筋状のもの)のすべてが温存される。

3.縫合と止血確認

・十分に止血を確認したうえで切開部を丁寧に縫合し、創部を保護します。
・術後の痛みや腫れを最小限に抑えられるよう管理を徹底します。
・逆流静脈は外科で使用される絹糸を使用して、再開通を防ぎます。皮下組織や皮膚縫合は体内で溶ける吸収糸を使った埋没縫合を行うため、抜糸の必要はありません。縫合後は、医療用テープで傷口を覆って手術を終えます。

 

術後の経過とフォローアップ

1.痛み・腫れへの対処

・術後は軽度の痛みや腫れが生じることがありますが、当院では鎮痛薬や適切な処置を行い、患者さんの苦痛が和らぐよう配慮いたします。

2.日常生活への復帰

・翌日から運動以外の普段の生活に戻れることが多いですが、個人差があります。
・軽い運動は1週間、激しい運動や重量物の運搬は、術後2週間ほど控えるよう推奨しております。

3.定期検査と再発の確認

・退院後や外来通院の際には、超音波検査などで再発や合併症の有無を確認します。
・当院では患者さん一人ひとりの状態を確認しながら、必要に応じたフォローアップや追加検査を行います。

4.不妊治療の場合

・妊娠はパートナーである奥様のご状態にも左右されるため、当院では必要に応じて婦人科や大学病院のリプロダクションセンターなどとの連携を行い、東邦大学リプロダクションセンターや山王病院リプロダクション科などへご紹介しています。

 

まとめ

当院では、顕微鏡下低位結紮術を用いて、精索静脈瘤に伴う症状の改善や不妊治療のサポートを行っています。顕微鏡を使用することにより、動脈・リンパ管・神経をすべて温存しつつ拡張した逆流静脈のみを的確に結紮・切離することが可能です。再発や合併症のリスク低減に配慮しながら施術いたしますので、気になる症状がある方はぜひご相談ください。

この記事の執筆医師

永尾 光一

日本泌尿器科専門医

永尾 光一先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター長
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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