リンパ浮腫で歩けない症状に注意|放置の危険と日常でできる対策 - 銀座リプロ外科
COLUMN

リンパ浮腫にともなう重だるさから動くことがつらく、「いつか歩けなくなるのでは」と不安になっていませんか。

リンパ浮腫を治療せずに放置するとむくみが悪化し、歩行が困難になることがあります。しかし、早い段階からの適切な対策や治療によって重症化を防ぎ、日常生活を守ることが期待可能です。

本記事では、リンパ浮腫の原因や症状から、歩けない状態を避けるための対策・治療法まで詳しく解説します。不安を軽くし、リンパ浮腫の治療と前向きに向き合いたい方は、ぜひ参考にしてください。

 

 

リンパ浮腫による歩けない症状に注意

リンパ浮腫が進行すると、症状が出た部位の重だるさやむくみによって歩けなくなることがあります。

だるさが原因で活動性が低下すると、外出や運動の機会が減ってしまいます。むくみのために関節の動く範囲が狭くなって思うように歩けず、家事や日常生活に支障が出ている方は少なくありません。

歩く頻度が減ると、リンパ液や血液の循環がさらに滞り、症状が悪化するという悪循環に陥りやすくなります。

 

リンパ浮腫の原因・症状と診断方法

リンパ浮腫は、リンパ液の流れが障害されて起こる慢性的なむくみです。本来ならリンパ管に回収されるはずの水分や老廃物が皮下に溜まることで、腕や脚などに症状が出ます。

リンパ浮腫の原因や症状・診断方法を確認しましょう。

 

原因

以下のような原因でリンパ管の機能が障害されると、リンパ浮腫が起こります。

原発性リンパ浮腫 先天的にリンパ管の数が少ない、または発達が未熟である
続発性リンパ浮腫
  • がん治療の影響でリンパ管やリンパ節が傷つく
  • 外傷
  • 感染・寄生虫感染

 

日本では、がん治療の後遺症として起こるケースが多く見られます。転移を防ぐためのリンパ節切除や、手術・放射線治療でリンパ管系が傷つくことが代表的な原因です。乳がんや婦人科がんに使われる抗がん剤の影響で発症する方もいます。

 

症状

リンパ浮腫の代表的な症状は、以下のとおりです。

  • 重だるさ
  • むくみ
  • 皮膚の張り・乾燥
  • 組織の柔軟性の低下

症状は、リンパ管機能低下の影響を受けた部位にのみ表れます。

がん治療後の方であれば、手術や放射線治療を受けた場所の近くに発症します。わきの下のリンパ節を取った方は手術を受けた側の腕や背中、婦人科がんを経験した場合は脚・下腹部・陰部などが発症リスクのある場所です。

リンパ浮腫の症状は少しずつ進行していきます。初めは夕方に軽いむくみが出る程度でも、治療しなければ次第に皮膚が硬くなり、靴や衣服がきつく感じられるようになります。歩きにくさも、症状の悪化とともに増していくでしょう。

 

診断方法

病院では、リンパ浮腫が疑われる方に対し、以下のような検査を行います。

問診・視診・触診
  • がん手術や放射線治療経験の有無
  • むくみの部位・左右差・皮膚の質感
  • 腕・脚の太さの計測
  • 体重測定
超音波検査
  • 腫瘍の有無
  • 静脈瘤の有無
  • 皮下組織の状態確認
  • 深部静脈血栓症との鑑別
リンパシンチグラフィー 放射性物質を用いてリンパ液の流れを可視化
ICG(インドシアニングリーン)検査
  • 緑色の薬剤を注射し、特殊なカメラでリンパ液の流れを確認
  • 早期のリンパ浮腫の診断にも有用
CT・MRI・血液検査
  • 必要に応じて実施
  • リンパ浮腫以外の病気を除外する目的

 

検査結果に応じて重症度が示され、必要な治療が提案されます。

 

リンパ浮腫で歩けない状態の放置は危険

リンパ浮腫で歩けない状態を放置すると、合併症のリスクを高めるため非常に危険です。

注意したい合併症の1つが、皮膚にできた小さな傷から細菌感染して起こる蜂窩織炎です。蜂窩織炎は、腫れ・痛み・高熱といった症状が出て、重症の場合は入院が必要となります。

リンパ浮腫が重度になると、皮膚が硬く厚くなり、皮下の脂肪が増えます。皮膚の質感とくびれのない見た目から「象皮症」と呼ばれ、一度変化した組織は元に戻りません。歩きにくさを感じたら、歩行困難に陥る前の早期受診をおすすめします。

 

リンパ浮腫で歩けなくなる前に日常でできる対策

歩けないほどリンパ浮腫が進行する前に、早期受診とともに日常生活における以下のような工夫も大切です。

  • 無理な運動は避ける
  • 長時間の同じ姿勢は避ける
  • 感染予防をする

発症リスクがある方は、症状が出ていなくても積極的に取り組みましょう。

 

無理な運動は避ける

歩けない状態までリンパ浮腫が悪化することが心配だからといって、無理なトレーニングはしないでください。血行促進によりリンパ液が増生され、リンパ管に負担がかかり、逆効果になる恐れがあります。

一方で、筋肉量の維持は筋ポンプ作用を保つため、リンパ浮腫の症状改善に効果的です。筋ポンプ作用とは、骨格筋の収縮・弛緩がリンパ液・血液を押し出して流れを促す働きのことです。

自分に合った運動の種類、時間や頻度を専門家に指導してもらったうえで、運動に取り組むことをおすすめします。

 

長時間の同じ姿勢は避ける

同じ姿勢を長時間続けることはリンパ液の流れを妨げる可能性があるため、避けたい習慣の1つです。

デスクワークをしている方は、1時間に1回程度は休憩をはさみ、歩いたり体操したりすると良いでしょう。座ったままむくんでいる部位を軽く動かすだけでも効果的です。

旅行は、バスや電車での長時間移動をできる限り避けられるように計画してください。気圧の影響を受けやすい飛行機に乗る際は、弾性着衣をしっかりと装着し、症状の悪化を予防しましょう。

 

感染予防をする

リンパ浮腫の悪化を防ぐためには、以下のような感染予防も大切なポイントです。

  • 毎日の入浴時に優しく洗う
  • 入浴後は保湿剤を塗布する
  • 調理の際は指を傷つけないよう手袋をする
  • 外出時は長袖・長ズボンを着用する
  • 夏場は虫よけを使って虫刺されを防ぐ

むくみのある部位の皮膚は薄く乾燥しやすくなっており、バリア機能が低下している状態です。小さな切り傷や虫刺されから細菌が侵入すると、蜂窩織炎を引き起こすリスクがあります。万が一、傷ができたらすぐに洗浄してください。

蜂窩織炎の繰り返しにより、リンパ浮腫の症状が悪化する恐れがあるため、感染予防は確実に習慣化しましょう。

 

リンパ浮腫で歩けない場合の保存的治療

リンパ浮腫で歩けない場合の保存的治療には、以下の3つが挙げられます。

  • 用手的リンパドレナージ
  • 圧迫療法
  • 運動療法

保存的治療とは、手術せずに症状を抑える方法で、リンパ浮腫においては症状の進行度合いにかかわらず継続して行う必要があります。

 

用手的リンパドレナージ

用手的リンパドレナージは、リンパ浮腫の保存的治療の1つです。専門の教育を受けたセラピストが行うマッサージで、むくんだ部位の皮膚を撫でるようにして滞ったリンパ液の排出を促します。

リンパ液の循環が滞っている部位から、健康なリンパ節に向かって流れを促す点が特徴です。施術を受けてむくみが軽減したら、弾性着衣でしっかりと圧迫して良い状態を維持しましょう。

専門的な訓練を受けていない人が行うと、皮膚やリンパ管を傷める危険があります。継続的に患部を良い状態に保つには、高い頻度で施術が受けられる場所へ通わなければなりません。

 

圧迫療法

リンパ浮腫で歩けない場合は、しっかりと圧迫療法を行なってだるさやむくみを軽減しましょう。

圧迫療法とは、専用の弾性アームスリーブ・ストッキングを装着して、外側から一定の圧力を加え、リンパ液や血液の循環を助ける方法です。症状の進行度合いに応じた圧の製品を選び、朝起きてから寝る前まで毎日使用します。

合っていない弾性着衣を選ぶと、以下のようなトラブルが起き、毎日の装着が苦痛となってしまうでしょう。

  • 皮膚トラブル
  • 血行不良
  • 神経障害による痛み・しびれ

医師の指示のもと、専門家にフィッティングしてもらって選ぶことをおすすめします。病状が進行し、既製品が装着できない場合は、オーダーメイドの弾性着衣が必要なケースもあります。

オーダーメイドの弾性着衣のメリットとは

 

運動療法

リンパ浮腫の改善には、適度な運動も欠かせません。歩けない方は、ベッドの上や座ったままでできる簡単な運動から始めましょう。

弾性着衣をつけて圧迫した状態で運動すると、筋肉のポンプ作用が働き、リンパ液・血液の流れが促進されます。

腕にリンパ浮腫がある方は肩を回したり、肘・手首・指をリズミカルに動かしたりします。脚にむくみがある場合は、膝の曲げ伸ばしや足首の運動がおすすめです。歩けるようになったら、専門家と相談しながら運動の強度を調整していきましょう。

 

リンパ浮腫で歩けない場合の外科的治療

リンパ浮腫の保存的治療をしっかりと実施しても症状が改善せず、歩けない状態が続く場合は、以下のような手術が検討されます。

  • リンパ管静脈吻合術(LVA)
  • リンパ管・リンパ節移植術(VLNT)
  • 脂肪吸引術(LS)

リンパ管の機能低下が著しくない段階のほうが、身体的な負担が軽く済む場合もあります。自分に合った術式選びはもちろん、手術を受けるタイミングの見極めも大切です。

 

リンパ管静脈吻合術(LVA)

リンパ浮腫に対する手術法として、リンパ管静脈吻合術(LVA)が挙げられます。

LVAは障害されたリンパ管を顕微鏡下で近くの細い静脈とつなぎ、リンパ液を血管の流れに合流させる手術です。症状のある部位の状況に合わせて、次の2つの方法を使い分けます。

端端吻合 リンパ管と静脈を切断してそれぞれの断面をつなぐ
側端吻合 リンパ管に穴をあけて静脈をつなぐ

 

日帰りで受けられることもあり、傷が小さいうえ、腕のリンパ浮腫の場合は術後の圧迫療法が不要になるケースもある手術です。比較的早期のリンパ管機能が維持されている状態のほうが良い治療成績が望めます。

 

リンパ管・リンパ節移植術(VLNT)

リンパ管・リンパ節移植術(VLNT)も、リンパ浮腫に対する手術方法です。

VLNTでは、体の別の部位から健康なリンパ管やリンパ節を採取し、症状のある部分に移植します。リンパ液の新しい通り道を作り、循環を改善することが目的です。LVAでは効果が見込めない進行したケースにも検討されます。

基本的に全身麻酔で行われるため入院が必要で、一定の回復期間を要しますが、手術によって歩行機能の改善や生活の質の向上が期待できます。

 

脂肪吸引術(LS)

リンパ浮腫が長期にわたり進行し、皮下の脂肪が増えて腕や脚が硬く大きくなって歩けない状態の方に行われることのある手術が、脂肪吸引術(LS)です。

傷の大きさや脂肪を除去する範囲は、症状によって異なります。

硬く溜まった脂肪がなくなることで、むくみのあった部位が細くなり、歩行能力の改善が期待できるでしょう。LVAやVLNTと併用する場合もあります。

ただし、脂肪と一緒にリンパ管も吸引してしまうので、術後は生涯圧迫療法を続けなくてはなりません。

 

リンパ浮腫で歩けなくなる前に当院で受診を

リンパ浮腫の症状がある方は、歩けなくなる前に当院へお越しください。

当院では、リンパ浮腫治療に精通した医師が診察・検査を行なったうえで、弾性着衣のフィッティングや生活指導、必要に応じてLVAを実施しています。

早い段階から治療を開始し、歩けなくなるまで症状が進行する事態を避けましょう。リンパ浮腫のお悩みは、ぜひお気軽に当院へお聞かせください。

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この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

一般社団法人日本精索静脈瘤協会 理事長
医療法人社団マイクロ会 理事長
銀座リプロ外科 院長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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