リンパ浮腫の合併症には、蕁麻疹のように赤い斑点が出る蜂窩織炎があります。「じきに治るだろう」と受診しないことは非常に危険です。
一般的に、蕁麻疹は時間の経過とともに発疹が消失しますが、蜂窩織炎は放置すると痛みや高熱といった症状が出る可能性があります。重症化によって組織が壊死したり、命が脅かされたりする場合もあり、すみやかな対処が重要です。
本記事では、蜂窩織炎の症状や蕁麻疹との違いを解説します。蜂窩織炎の発症を見逃さないために、ぜひ参考にしてください。
蕁麻疹に似たリンパ浮腫の合併症に注意!
リンパ浮腫でむくんだ部分に蕁麻疹のような赤い斑点が現れた際は、蜂窩織炎の可能性があります。
蜂窩織炎は細菌感染症で自然治癒は望めず、徐々に症状が悪化していくため放置は大変危険です。赤い斑点だけでなく高熱や倦怠感といった全身症状が出たり、むくみが急速に悪化したりなど、多大なリスクをともないます。
重症化を避けるためにも、すみやかに診察を受けましょう。
リンパ浮腫の合併症である蜂窩織炎とは
蜂窩織炎について、以下の4点を詳しく解説します。
- 症状
- 原因
- リンパ浮腫の患者さんが発症しやすい理由
- 発症した際のリスク
リンパ浮腫の方は、自身の発症リスクの高さを認識することが重要です。蜂窩織炎への理解を深めたうえで自身の状態をよく観察し、早期発見・治療につなげましょう。
症状
リンパ浮腫の合併症の1つである蜂窩織炎を併発すると、以下のような症状が表れます。
| 患部に表れる症状 | ・赤い斑点 ・赤み ・熱っぽさ ・腫れ ・痛み ・水ぶくれ ・膿瘍 |
|---|---|
| 全身に表れる症状 | ・頭痛 ・38度以上の発熱 ・悪寒 ・倦怠感 ・関節痛 |
初期は、皮膚がムズムズしたり、蕁麻疹のような赤い斑点が出たりします。比較的短時間で強い痛みや発熱といったつらい症状へ変化するため、早期の対処が肝心です。炎症が広がると、リンパ管炎・リンパ節炎を引き起こす恐れもあります。
原因

蜂窩織炎は、真皮や皮下組織に細菌が侵入して起こる炎症です。主な原因菌は、黄色ブドウ球菌・溶連菌(レンサ球菌)などで、以下のような皮膚の傷が感染経路となります。
- ケガ・やけど・手術後の傷
- 乾燥による皮膚のひび割れ
- アトピーのような皮膚疾患
- 水虫
- 虫刺され
- 動物の咬み傷
ただし、むくみや免疫力の低下があると、傷がなくても蜂窩織炎を発症するケースがあります。
発症原因となる細菌は人の鼻腔や皮膚・体内など身近なところに存在しているため、常に注意を払うことが必要です。
リンパ浮腫の患者さんが発症しやすい理由
リンパ浮腫の患者さんが蜂窩織炎を発症しやすい理由は、以下のとおりです。
- 皮膚トラブルが起きやすい
- 免疫機能が低下している
- 溜まっている体液が細菌の栄養源になる
むくみで皮膚が薄くなると、乾燥が進んで小さな傷やひび割れができやすくなるため、細菌が侵入する確率が上がります。
本来であれば、免疫に関わる細胞であるリンパ球が、細菌を異物として排除する役割を担います。しかし、リンパ浮腫のある部位は免疫反応が正常に機能しておらず、感染リスクが高い状態です。
むくんだ部分に貯留している体液は、タンパク質・脂肪・老廃物などを豊富に含んでおり、侵入した細菌の増殖を促進させてしまう要因になります。
リンパ浮腫を発症している方は、感染リスクの高さを自覚して生活を送ることが重要です。
発症した際のリスク
蜂窩織炎は、リンパ浮腫の悪化や、再発のリスクがあります。
蜂窩織炎によりリンパ管はダメージを受けて免疫機能が低下し、むくみが悪化します。むくみが進むと、さらに蜂窩織炎が起きやすくなるという悪循環に陥り、再発を繰り返す方は少なくありません。
炎症が起きている急性期にリンパ浮腫の治療を中断しなければならない点も、むくみをはじめとする症状が悪化してしまう要因です。
蜂窩織炎が重症化すると敗血症になり、命を落とす場合もあります。再発が不安で旅行を控えたり、治療のために仕事を休みがちになって職場にいづらくなったりする方もいるでしょう。
蜂窩織炎が疑われた際は、早期治療が肝心です。
蜂窩織炎と蕁麻疹の違い
蜂窩織炎は患部に赤い斑点が出現し、蕁麻疹と似ているように感じますが、以下のような違いがあります。
| 比較項目 | 蜂窩織炎 | 蕁麻疹 |
|---|---|---|
| 患部の症状 | ・赤い斑点 ・赤み ・熱感 ・腫れ ・痛み ・水ぶくれ ・膿瘍 |
・赤い斑点 ・発疹 ・かゆみ |
| 全身症状 | ・頭痛 ・発熱 ・悪寒 ・倦怠感 ・関節痛 |
なし (アナフィラキシーショックが起きた場合は吐き気・呼吸困難・発熱など) |
| 原因 | 細菌感染 | ・アレルゲンへの反応 ・ストレス・疲れ ・物理的刺激(冷気・日光・圧迫など) |
| 特徴 | ・リンパ浮腫がさらに悪化する ・再発を繰り返しやすい ・自然治癒しない |
数時間~24時間以内に症状が消失する |
| 治療 | ・抗菌薬の服用 ・点滴の投与 |
・抗ヒスタミン薬の服用 ・原因となる物質や環境の除去 |
リンパ浮腫のある部位に蕁麻疹のような赤い斑点が出てもかゆみがない場合は、蜂窩織炎が疑われます。
蜂窩織炎の発症時に大切なポイント
蜂窩織炎を発症した際にリンパ浮腫を発症している方がとるべき行動は、以下のとおりです。
- リンパドレナージや圧迫療法を一時中断する
- すぐに医師の診察を受ける
- 患部を冷やして安静を保つ
適切な行動をとると、症状の悪化を防げる可能性が高まります。
リンパドレナージや圧迫療法を一時中断する
リンパ浮腫の方が蜂窩織炎を併発した場合は、リンパドレナージや圧迫療法を一時中断しましょう。
炎症が起きている部位を刺激したり圧迫したりすると、症状の悪化を招きかねません。リンパドレナージや圧迫療法を中止している間は、患部を高い位置で保ち、物理的な高低差を使ってむくみの改善を図ります。
炎症の抑制を優先させ、症状が改善してきたら医師の指示のもと、保存的治療を再開しましょう。いつも以上に皮膚の状態に注意しながら治療やケアに取り組んでください。
すぐに医師の診察を受ける
リンパ浮腫でむくんだ腕や脚に蕁麻疹のような赤い斑点が出てきたときは、すぐに診察を受ければ早期の診断・治療が可能です。
蜂窩織炎の治療では、抗菌薬の服用や点滴を行います。患部の皮下組織に膿が溜まっているときは、切開して排出するケースもあります。
重症化しなければ2~3日で症状の改善が見られますが、細菌が消えるまでしっかりと治療を続けなくてはなりません。
症状がひどい時期を過ぎ、「良くなった」と思って服薬をやめてしまうと、皮下組織の中に潜んでいた細菌が再び増殖する恐れがあります。自己判断はせずに、医師の指示に従うことが大切です。
患部を冷やして安静を保つ
リンパ浮腫の方に蜂窩織炎の症状が見られた際は、患部を冷やして安静を保つように心がけましょう。すぐに受診できないときの応急処置としても有効です。
冷やすだけで細菌感染が治ることはありませんが、痛みや熱感といったつらい症状を軽くする効果が期待できます。ただし、刺激が強い冷湿布や冷却スプレーではなく、氷のうや水枕を使用してください。
炎症の急性期はリンパドレナージや圧迫療法が行えないため、むくみを助長する行動は控えることが重要です。歩行や家事も最小限にし、患部を高く上げながら療養に努めましょう。
リンパ浮腫による蜂窩織炎を防ぐためには
蜂窩織炎予防のために、リンパ浮腫を発症している方は、以下の点に留意する必要があります。
- 細菌が体内に侵入しないように注意する
- 疲労や過度なストレスを避ける
- 日頃からリンパ浮腫の治療を行う
- リンパ管静脈吻合術(LVA)を受ける
一度蜂窩織炎を発症すると、再発を繰り返すケースが少なくありません。発症リスクを下げる生活を意識的に送ることが肝心です。
細菌が体内に侵入しないように注意する
リンパ浮腫による蜂窩織炎を防ぐために、細菌が体内に侵入しないように注意しましょう。
むくんだ部位は、肌トラブルが生じて細菌が体内に入りやすいうえ、免疫反応の低下により蜂窩織炎が起こるリスクが高い状態です。スキンケアをしっかりとして皮膚の状態の改善に努めるとともに、日頃からよく肌を観察しておくことも大切です。
過度な日焼けや虫刺されを防ぐために、外出の際は長袖の上着・長ズボン・手袋などを着用して対策しましょう。水虫がある場合は、すぐに治療を開始してください。
手指・爪周りの清潔を意識すると、小さな傷口からの細菌の侵入を防ぐ効果が期待できます。
疲労や過度なストレスを避ける
疲労や過度なストレスは、リンパ浮腫の方にとって蜂窩織炎のリスクを上昇させる要因となるため避けましょう。
リンパ浮腫の患部は、むくんだ部分に体液が溜まっており、免疫機能が正常に働いていない状態です。疲労やストレスがあると、免疫反応がさらに低下しやすく、通常なら問題のない細菌でも排除できずに感染症にかかる可能性が高まります。
疲れる前に休憩を取ったり、趣味を生活に取り入れて気分転換したりすることで、蜂窩織炎のリスクを軽減できるでしょう。
日頃からリンパ浮腫の治療を行う
リンパ浮腫がある場合は、以下のような保存的治療を行うと蜂窩織炎の予防効果が期待できます。
- 用手的リンパドレナージ
- 圧迫療法
- 圧迫下での運動療法
用手的リンパドレナージはプロによる専門的なマッサージで、手で皮膚を動かすように行なってむくみを軽減します。美容目的や筋肉をほぐすためのマッサージとは異なるので、注意してください。
圧迫療法は、弾性着衣・弾性包帯で患部を圧迫し、リンパ液の流れを促進する治療法です。圧迫しながら運動すると、むくみ改善の効果がさらに見込めます。
一度の保存的治療でむくみを改善できるわけではありません。日頃から治療を継続的に行い、蜂窩織炎のリスクを抑えることが重要です。
リンパ管静脈吻合術(LVA)を受ける
「リンパ管静脈吻合術(LVA)」を受けると、リンパ浮腫の改善が望めるため、蜂窩織炎を併発しにくくなります。
LVAは、うっ滞したリンパ管を切開して静脈につなぐことで、リンパ液の流れる道を作る手術です。
当院のLVAでは局所麻酔を採用しており、傷口が小さいため、体への負荷を抑えられる点がメリットです。公的保険の適用が可能
で、経済的な負担も比較的少なく済むでしょう。
リンパ浮腫が進行する前に手術すると、高い治療効果が見込めます。手術により蜂窩織炎の発症率を抑えられるという報告もあり、感染予防としても非常に有効な手段です。
リンパ浮腫の効果的な治療は当院で
効果的なリンパ浮腫治療をお望みの方は、ぜひ当院にご相談ください。
むくんでいる部位は細菌感染しやすく、蕁麻疹に似た赤い斑点が生じる蜂窩織炎という合併症を発症する場合があります。発症リスクを軽減するには、リンパ浮腫の治療に積極的に取り組むことが大切です。
当院では、リンパ浮腫に対して、リンパ管静脈吻合術(LVA)を中心とした治療を行なっています。手術を視野に入れた運動療法や医療用弾性ストッキングについてのご相談も承っています。
リンパ浮腫にお悩みの方は、ぜひ一度当院にお問い合わせください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師
永尾 光一 先生
一般社団法人日本精索静脈瘤協会 理事長
医療法人社団マイクロ会 理事長
銀座リプロ外科 院長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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