「がん治療後のむくんだ腕や脚からリンパ液が出てくるらしい」と聞き、今後を心配していませんか。
リンパ漏は重度のリンパ浮腫患者さんに見られますが、初期のむくみを見落とすことなくすみやかに受診することで、発症を抑えられる可能性があります。
本記事では、リンパ漏の症状や原因、リンパ浮腫予防のポイントをお伝えします。治療が難渋する状態に陥らないように、ぜひ最後までご覧ください。
リンパ漏(ろう)とは?
リンパ漏(ろう)について、以下の観点から説明します。
・症状
・原因
・治療法
リンパ漏を放っておくと感染症を引き起こすリスクが高まるので、症状が見られたら早急に専門医を受診することが必要です。不安に襲われてふさぎこんでしまわないよう、正しい情報を知ることから始めましょう。
症状
リンパ漏とは、無色~淡黄色のリンパ液が皮膚からにじみ出し、患部がジュクジュクと湿る状態です。手術のあと、傷からリンパ液が出て止まらなかったり、お腹や胸の中にたまったりするケースもリンパ漏と呼ばれますが、リンパ浮腫では皮膚から漏れ出ます。
布で擦れて傷ついただけの場所からリンパ液が流れ出て、気づかないうちに衣服を汚していたという場合もあります。リンパ漏が続くことで、皮膚がただれたり、赤みやかゆみが出たりする人もいるでしょう。
1~2mm程度の水ぶくれであるリンパ小疱(しょうほう)がつぶれ、リンパ液が出てくるケースは、陰部にリンパ浮腫がある患者さんに多く見られます。
リンパ小疱は、リンパ管にリンパ液がたまって膨れることで起こります。ウイルス性のイボや尖圭コンジローマと間違われることもあるので、注意が必要です。尖圭コンジローマは性感染症の1つで、陰部や肛門の周囲にイボができる病気です。
婦人科がんの治療をした経験がある場合、リンパ小疱について知識をつけておくと良いでしょう。
リンパ液が漏れ出ている状態は生活の質を著しく低下させるため、すみやかに医療機関で治療を受けることが不可欠です。
原因|重度のリンパ浮腫でも発症
リンパ漏は、手術のあとに生じる場合もありますが、重度のリンパ浮腫患者さんにも見られます。
腕や脚がむくんで太くなると皮膚が引き伸ばされて弱くなり、わずかな刺激で傷ができやすくなります。むくんだ部分には体液が貯留しており、小さな傷からでもリンパ液がにじみ続けてしまうでしょう。
長い期間むくみが続いて硬くなった皮膚は血行が悪く、傷の治りが遅くなりがちで、リンパ液が止まりにくくなる悪循環に陥る恐れがあります。
皮膚の状態が悪くなるほどリンパ浮腫の症状が進行する前に治療を開始し、リンパ漏の予防につなげてください。
治療法
リンパ漏の治療では、保護剤を使用してリンパ液が漏れている部分を覆って清潔に保ち、感染を予防することが基本方針です。リンパ小疱ができている方は、レーザーや電気メスで焼いたり、手術で切除したりといった方法が選択される場合もあるでしょう。
弾性着衣や弾性包帯による圧迫療法を併用することで、むくんでいる部分の血液・体液循環を促進し、リンパ浮腫の改善を図ります。リンパ管静脈吻合術(LVA)のような手術が勧められる場合もあります。
専門医の診察を受け、症状に適した治療方法を見つけましょう。
リンパ漏の原因になりうるリンパ浮腫とは?
リンパ漏を起こしうるリンパ浮腫は、体液の循環が悪くなり、腕や脚がむくんでしまう病気です。がんの手術や抗がん剤・放射線治療の影響で、リンパ管系が傷ついた際に起こることがあります。
むくみにすぐ気づけるよう、重症度別の自覚症状と、がんの種類によって出現しやすい部位を確認しましょう。
重症度別の自覚症状
リンパ浮腫の重症度別の自覚症状は、以下のとおりです。
重症度 | 自覚症状 |
---|---|
軽度 |
・腕や脚の重だるさ ・疲労感 ・皮膚のつまみにくさ |
中等度 |
・腕や脚の明らかな太さの変化 ・重苦しさ ・痛み・感覚異常 ・皮膚の圧迫感 ・肌の乾燥 |
重度 |
・リンパ漏 ・多毛症 ・皮膚表面の硬化 |
リンパ浮腫が進行すると、腕や脚がむくんで太くなるだけでなく、皮膚が厚くなったり、皮下脂肪組織が硬くなったりします。放っておいても自然治癒はせず、一度状態が変わった肌は元には戻りません。
進行したリンパ浮腫を改善させる際は難航するので、軽度の状態に当てはまると感じた時点で、早めに検査を受けましょう。
出現しやすい場所
リンパ浮腫で、はじめにむくみが発生しやすい場所は、治療したがんによって以下のように異なります。
治療したがん | 出現しやすい場所 |
---|---|
乳がん |
・治療した胸側のわき ・背中 ・治療した胸側の腕 |
子宮がん 卵巣がん |
・脚の付け根 ・下腹部 ・陰部 |
腕のむくみはがん治療した胸のほうだけに発生場所が限られますが、脚の場合は両側に出現することもあります。
がん治療後、数年たってからリンパ浮腫を発症する人もいるので、長い目で経過を見る気持ちが必要です。
むくみやすい部分の太さを1ヵ月に1回程度、時間を決めて計測すると変化に気づきやすいでしょう。腕や脚の太さに明らかな差が出ている場合は、早めに担当医師へ相談してください。
早く症状に気づいて対処するために、自分の体のどこがむくみやすいのかを知り、気にかけることが重要です。
リンパ浮腫|リンパ漏以外の合併症
リンパ浮腫を放っておいて病状が進行してしまうと、リンパ漏のほかにも以下のような合併症を起こす可能性があります。
・蜂窩織炎(ほうかしきえん)
・象皮症(ぞうひしょう)
蜂窩織炎は、むくみに気づかない段階でも発症の危険があります。感染がきっかけでリンパ浮腫になる人もいるため、正しい情報を知り、注意しておきましょう。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)
蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、注意すべきリンパ浮腫の合併症の1つです。むくみを生じている部分が細菌に感染し、患部が赤く腫れあがります。
リンパ浮腫がある腕や脚は免疫機能が低下しており、小さな傷や虫刺されなどからでも細菌感染しやすい状態です。悪寒や高熱などの全身に及ぶ症状が出現すると、緊急入院が必要となるケースもあります。
がん治療部位の近くが急に赤く腫れたり、痛みが出たりした場合は蜂窩織炎の恐れがあるので、すぐに受診してください。
リンパ漏から蜂窩織炎につながる恐れもあり、注意が必要です。漏れ出したリンパ液は、皮膚を常に湿らせ、不衛生な状態を作り出します。
象皮症(ぞうひしょう)
リンパ浮腫が重度になると、リンパ漏のほかに象皮症(ぞうひしょう)という状態に陥る恐れがあります。
象皮症とは、リンパ浮腫の重症化した部分の肌が硬くなったり、イボやかさぶたができたりした状態です。象のように皮膚が厚くなり、脂肪が沈着して皮下組織も太く変化します。手首やひじ、指、膝などに象皮症が生じた場合は、関節が曲がりにくくなってしまいます。
象皮症の状態になっても、清潔を保つように心がけ、軟膏やローションで保湿するといった治療を続けることが大切です。
しかし、硬く重くなった腕や脚を動かすことはつらく、家事や仕事にも支障をきたす恐れがあるため、できる限り避けたい症状です。早期のうちからむくみに対して適切なケアと治療をしていれば、象皮症は防げるでしょう。
リンパ漏を防ぐ|リンパ浮腫の発症予防策
リンパ漏につながるリンパ浮腫を防ぐために心がけたいポイントは、以下のとおりです。
・感染を予防する
・疲労・ストレスをためない
・リンパ浮腫発症リスクがある部位を圧迫しない
がんを経験して自分にリンパ浮腫発症のリスクがあるとわかっている方は、リンパ液の流れを良くする日々の工夫が求められます。「いつ発症するか心配」というストレスを抱えるより、今できるケアに取り組み、ポジティブに毎日を過ごすことも大切です。
感染を予防する
感染予防は、リンパ漏につながるリンパ浮腫の発症を防ぐためにできることの1つです。細菌が傷口から侵入して起こる感染や炎症は、リンパ浮腫を発症する原因として挙げられます。
日頃から清潔に気をつけ、保湿や紫外線対策などを行なって肌のバリア機能を高めておくと良いでしょう。皮膚のバリア機能は、肌を健やかに保つことで高まります。
日常で起こりうる以下のような小さな出来事でも、皮膚を傷めて細菌を体内に侵入させる原因となり、炎症のリスクを高めるため注意してください。
・ケガ
・虫刺され
・日焼け
・水虫
・巻き爪
生活上の少しの出来事にも危険が潜んでいると思うと、ストレスを感じるかもしれません。しかし、不安になりすぎず、無理なく行えることからの対策を推奨します。
疲労・ストレスをためない
疲れはリンパ浮腫発症につながる恐れがあるので、疲労やストレスを蓄積させないでください。
以下のような事柄はリンパ液の流れを滞らせたり、リスクのある部位に刺激を与えたりして、むくむ可能性を高めます。
・激しいスポーツをする
・重い荷物を長時間持つ
・長い時間同じ姿勢で仕事をする
・刺激の強いマッサージを受ける
・長い時間入浴する
立ち仕事や座ったままの作業が避けられないときは、こまめに休憩し、意識してリラックスすると良いでしょう。
リンパ浮腫予防の取り組みは、今後何年にもわたって続ける必要があります。周囲の人とコミュニケーションをとり、自分の体のことを理解してもらっておく努力も大切です。
リンパ浮腫発症リスクがある部位を圧迫しない
発症リスクのある部位を強く圧迫しないことも、リンパ浮腫予防のポイントです。
きつい下着や洋服・アクセサリーなどで体を締め付けると、体液の循環を妨げてしまいます。圧迫療法に使う弾性着衣は除き、ゆったりとした衣服を選びましょう。腕時計や指輪はむくむリスクがないほうの腕につけるといった工夫も、おすすめします。
靴下や下着のゴムの痕が残っている場合は、局所的な締め付けが発生している恐れがあるので、衣類の見直しが必要です。自分の体調に合った装いを探りつつ、おしゃれを楽しんでください。
正座・脚を組む姿勢は、婦人科がんの手術で鼠径部や骨盤内のリンパ節を切除した方は避けるべきです。
体重が増えると脂肪がリンパ管を圧迫してしまうので、バランスの良い食事で適正体重をキープしましょう。小さな習慣を1つずつ定着させることで、むくみのリスクを抑えられます。
早期発見のためにリンパ浮腫の検査を
リンパ浮腫は早期発見が大切なので、がんを治療した部分の周りがむくんだり重だるかったりする場合は、早めの検査がおすすめです。
リンパ浮腫の検査は、画像診断が主流です。
以前は放射線を出す薬剤を検査したい部分に注射し、リンパ液の流れの左右差を見るリンパシンチグラフィーが広く使われていました。しかし、インドシアニングリーン(ICG)検査のほうが、より早期からリンパ管の異常を見つけ出せることがわかってきています。
ICG検査では緑色の薬剤を手もしくは足の指に注射して光を当てることで、浅い部分のリンパ管の流れやリンパ液が漏れている部位まで観察できます。
むくみがはっきりと現れる前から、リンパ管の様子がわかる点がICG検査のメリットであり、リンパ浮腫に大切な早期発見が叶うでしょう。
リンパ浮腫の保存的治療
リンパ浮腫では、まず以下のような保存的治療が選択されます。
・圧迫療法
・用手的リンパドレナージ
・運動療法
・スキンケア
保存的治療は、リンパ液の流れを良くすることで症状の軽減や悪化防止を目指し、いくつもの方法を組み合わせます。病院だけでの完結は難しいため、患者さん自身が日常生活に治療を取り入れ、主体的に取り組むことが大切です。
圧迫療法
圧迫療法は、リンパ浮腫治療の方法の1つです。
腕のむくみには弾性スリーブやグローブ、脚の場合は弾性ストッキングを日中は常に装着し、むくんだ部分を圧迫します。リンパ漏を起こすほど重度の患者さんには、弾性包帯やベルクロ式の装具が選択される場合もあります。
圧迫療法は体液の貯留を防ぎ、悪化予防にも役立つ方法です。
症状の進行度合いに応じて必要な圧迫圧が異なるので、圧迫療法を開始する際は、医療者からの指導のもと弾性着衣を選びましょう。誤った装着方法や弾性着衣選びは、以下のようなトラブルの原因となる恐れもあります。
・痛い・しびれる
・皮膚トラブルが発生する
・治療効果が得られない
弾性着衣を選ぶ時点から、専門家とともに治療を進めることが必要です。
用手的リンパドレナージ
リンパ浮腫の治療法には、用手的リンパドレナージも挙げられます。
用手的リンパドレナージとは、きちんとした知識のある専門家が、たまったリンパ液の流れを正しい方向へ優しく導く医療的マッサージです。皮膚や皮下組織にたまったリンパ液を健康なリンパ節へ流し、むくみの改善を目指します。
用手的リンパドレナージを受けた直後は、むくんだ腕や脚の太さが改善すると報告されています。施術後は弾性着衣を装着し、腕や脚の良い状態をキープしましょう。
運動療法
適切な強さの運動療法も、リンパ浮腫の治療に有効です。弾性包帯や弾性着衣を着用し、圧迫した状態で運動をします。運動によって筋肉の収縮と弛緩を繰り返すことで、ポンプのような作用を得られ、血液やリンパ液が流れやすくなります。
むくんでいる部分の筋肉量を維持することは、ドレナージ(排液)効果持続につながり、リンパ浮腫があっても軽いウエイトトレーニングは実施可能です。
しかし、きつすぎる運動は疲労を蓄積させ、リンパ浮腫悪化の原因となる可能性もあるため、自己判断での導入は危険です。運動の強度は、専門家に相談したうえで決めましょう。
スキンケア
リンパ浮腫の治療では、むくんだ腕や脚のスキンケアも大切です。
むくんだ皮膚は、正常な人に比べて感染症を起こしやすい状態です。普段から皮膚を清潔にし、乾燥・肌荒れ予防のために保湿する必要があります。皮膚のバリア機能を保ち、常在菌のようなどこにでもいる菌からの感染を防ぎましょう。
無意識にひっかき傷を作ってしまわないよう、爪は短く切ってください。ひび割れや水虫・ささくれなどがある場合は、すぐに適切な処置を行い、悪化を防ぎます。
紫外線から皮膚を守るために、日焼け止めを塗ったり、長袖・長ズボンを着用したりすることも心がけたい習慣です。
リンパ浮腫の外科的治療
以下のような外科的治療も、リンパ浮腫の治療で選択される方法です。
・リンパ管静脈吻合術(LVA)
・リンパ節・リンパ管移植術(LNT)
・脂肪吸引術(LS)
外科的治療には、リンパ液の運搬機能を再建する機能再建手術と、余分な組織を除去する減量手術があります。LVAとLNTは機能再建手術、LSは減量手術にあたります。
早期のリンパ浮腫であれば、機能再建手術によってリンパ液の流れを新しく作り出すことで症状の軽減が期待可能です。症状が進行してしまっている場合は、機能再建手術と減量手術を組み合わせることもあります。
リンパ管静脈吻合術(LVA)
リンパ浮腫に対する手術の1つが、リンパ管静脈吻合術(LVA)です。日本をはじめ、世界各国でリンパ浮腫治療の選択肢として取り入れられている方法です。
LVAでは、顕微鏡を使い、機能が低下したリンパ管と細い静脈をつなげてバイパスを作り、たまったリンパ液を血管へ流します。つなげるリンパ管と血管は0.5mmくらいしかなく、非常に細かい作業です。
一般的に局所麻酔で受けられ、傷口が小さく済むので、体への負担が少ないというメリットがあります。正常なリンパ管が多く残っているほど高い効果を得られる可能性があります。
リンパ節・リンパ管移植術(LNT)
リンパ浮腫に対する手術では、リンパ節・リンパ管移植術(LNT)も選択肢の1つです。LNTは、健康かつ正常なリンパ節やリンパ管をリンパ浮腫が生じている部分に移植する手術です。
むくみが慢性的になってリンパ管機能が低下しており、LVAでは改善が難しい重症の方に用いられる場合があります。リンパ液の流れる部分を新しく作ることで、むくみの軽減や炎症のリスクを下げることが期待できます。
LNTは全身麻酔を使用して行われ、健康なリンパ節を採取する部分と、移植を行うところの両方に傷が残る点がデメリットです。
脂肪吸引術(LS)
脂肪吸引術(LS)は、リンパ浮腫によって過剰に蓄積した脂肪組織を除去する手術です。皮下脂肪の沈着が進んだ重症のケースで選択されることが多く、見た目の改善だけでなく、むくみによる痛みや可動域の制限を緩和する効果も期待されます。
リンパ浮腫の進行で皮下脂肪が厚くなり、リンパ管や血管が圧迫されることでさらに重症になっている場合があります。沈着した脂肪は、自分の力では減らせません。
機能再建手術と脂肪吸引術を併用し、リンパ管の負担を軽減することで、より効果的な治療につなげられます。
リンパ浮腫のご相談は当院へ
リンパ浮腫に関するお悩みがある方は、ぜひ当院へお聞かせください。
当院は、乳がんや婦人科がんの治療後に発症したリンパ浮腫の治療を専門としています。
一度リンパ浮腫を発症すると完治は難しく、放置によりリンパ漏のような合併症を引き起こしてしまいます。リンパ漏から感染を起こし、むくみが悪化するといった悪循環に陥る前の早期診断・治療が不可欠です。
症状に適した治療法をとることで、病気の進行を抑えられる可能性があります。「良い治療法が知りたい」という場合は、ぜひ当院へ一度ご相談ください。
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〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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