がんの治療後にリンパ浮腫を発症した部位に水疱を見つけ、「症状が悪化しているのではないか」と不安になっていませんか。
リンパ液の流れが悪くなったリンパ管がふくれ、皮膚の表面に水ぶくれのように出てきた状態を「リンパ小疱(しょうほう)」と呼びます。
本記事では、リンパ小疱の症状や放置するリスク、ケア・手術の方法を詳しく解説します。症状を悪化させない方法を実践し、リンパ浮腫とうまく付き合っていきましょう。
リンパ浮腫にともなう水疱|リンパ小疱
リンパ浮腫のある部位に透明や乳白色の水疱ができた場合は、リンパ小疱の可能性があります。水疱ができる原因や症状、起こりやすい部位について解説します。
「単なる水ぶくれだから」と様子を見る前に、ぜひ症状について知識を深め、注意すべき状態であることを知りましょう。
水疱ができる原因
リンパ小疱は、リンパ液がスムーズに流れずにふくらんだリンパ管が皮膚の表面に現れ、水ぶくれのように見える状態です。
むくみのある部位にできた水疱は、必ずしもリンパ小疱とは限りません。リンパ浮腫のある腕や脚の皮膚は薄く、少しの刺激で肌トラブルが起こり、水疱が形成される恐れがあります。
水疱とは、皮膚の下に液体が溜まってできた直径10mm以上のふくらみを指します。リンパ小疱は一般的に1~2mmの大きさしかなく、発症プロセスが異なるので厳密には水疱ではありません。見た目で見分けることは難しいため、心配な場合は医師への相談を推奨します。
リンパ小疱の症状
リンパ浮腫のある部位にできた水疱がリンパ小疱であれば、以下のような症状が表れます。
- 水疱の大きさは1~2mm程度である
- 透明に近い色をしている
- ヒリヒリとした痛みがある
- 放っておくと水疱がどんどん増える
- 水疱が一度小さくなっても同じ場所にまたできる
- 水疱が破れてリンパ液が出てくる
リンパ小疱ができると、リンパ浮腫の悪化や蜂窩織炎のような感染症のリスクが高まるため、思い当たる症状がある場合は早期の受診が必要です。
リンパ漏につながることもある
リンパ小疱が破れると、リンパ液が出てくる「リンパ漏」という状態に陥ることがあります。
リンパ漏が起こると常にリンパ液が漏れ出し、下着や衣類が汚れてしまいます。通常の弾性着衣では圧迫療法が続けられなくなるケースもあり、毎日のケアにも苦労するでしょう。
リンパ漏が続くと皮膚がふやけ、皮膚トラブルを起こすリスクが高まります。免疫機能低下により細菌感染を起こしやすいリンパ浮腫の患者さんは、できる限り避けたい症状です。
陰部のリンパ浮腫に多く見られる
リンパ小疱は、婦人科がん治療の経験があり、陰部にリンパ浮腫を発症している方に多く見られます。陰部は、以下のような理由からリンパ液の流れが滞りやすく、リンパ小疱の発症リスクが高い部位です。
- 両脚・お尻・お腹からつながるリンパ管が複雑に存在している
- 心臓より下にあるため重力の影響を受けやすい
陰部にできたリンパ小疱は、肛門周囲にできるイボである尖圭コンジローマと似ており、恥ずかしさから受診をためらう方もいます。
婦人科がんを経験した方は、リンパ小疱が生じやすいことを知っておくと、受診のタイミングを逃さずに済みます。
リンパ浮腫の部位にできた水疱で受診する目安
リンパ浮腫のある部位にできた水疱から透明な液体が染み出て、下着や衣類が湿っている場合は、できる限り早く受診しましょう。リンパ浮腫がある部位は免疫機能が低下しており、少しの肌トラブルが症状の悪化や感染につながる可能性があります。
リンパ液が漏れていなかったり、靴や弾性ストッキングによる摩擦でできた水疱の可能性があったりする場合でも、病院へ行くことがおすすめです。
ただし、受診しても水疱が1~2個しか確認できず、リンパ液の漏れや痛みがなければ、経過観察が選ばれる場合もあります。
リンパ浮腫の水疱を放置するリスク
リンパ小疱は、次のようなリスクを高めるため、放置は危険です。
- 蜂窩織炎を発症しやすくなる
- 生活の質が下がる
入院が必要となったり、大変な処置を要する事態に陥ったりする恐れがあります。「小さな水ぶくれだから」と自己判断で放っておくことは避けましょう。
蜂窩織炎を発症しやすくなる
リンパ浮腫にともなう水疱を放置すると、蜂窩織炎を発症しやすくなります。
蜂窩織炎は細菌感染による強い炎症で、リンパ浮腫の合併症の1つです。細菌感染した部位が赤く腫れ、重篤な場合は高熱が出て入院が必要になるケースもあります。
皮膚が薄く乾燥してバリア機能が低下し、免疫力も下がっているリンパ浮腫患者さんは、ただでさえ蜂窩織炎を起こしやすい状態です。
リンパ小疱が破れてリンパ漏が起こると、皮膚が湿り、細菌が繁殖しやすい環境となります。蜂窩織炎によってリンパ管が炎症を起こすと、リンパ液の流れがさらに悪くなり、症状が悪化するため、できる限り感染リスクを下げる必要があります。
生活の質が下がる
生活の質が下がることも、リンパ浮腫にともなう水疱を放っておいたときに高まるリスクの1つです。
ヒリヒリとした痛みや、下着や衣類の汚れを常に気にし続ける状態は、大きなストレスとなります。陰部のリンパ漏が重度になると、生理用ナプキンやおむつを使って対処しなくてはならない状態に陥ることもあります。
リンパ小疱やリンパ漏がある方の圧迫療法では、通常の弾性ストッキングの使用が難しく、多くのケースで弾性包帯や面ファスナー式の装具が必要です。しかし、弾性包帯や装具はズレやすく、十分な圧迫圧を得られないうえ、見た目が気になって外出を控える方もいます。
リンパ小疱は体に対してだけでなく精神・社会面にも影響することを知り、早期のケアで生活の質の維持につなげましょう。
リンパ浮腫で水疱ができたときのケア
リンパ浮腫のある腕や脚、陰部にリンパ小疱ができたときの対処法は、以下のとおりです。
- 圧迫療法を行う
- パッドを使用する
- スキンケアを徹底する
- 生活習慣を見直す
ただし、リンパ漏が続くときはセルフケアで様子を見ず、すみやかに医療機関で受診することが求められます。
圧迫療法を行う
リンパ小疱がある場合でも、圧迫療法を続けてリンパ液の流れを促すことが非常に大切です。
しかし、リンパ小疱があると、痛くて弾性着衣を装着できない場合があります。リンパ漏をともなうケースでは、リンパ液を吸収するためのパッドやガーゼを当てなければなりません。
通常の弾性着衣の着用が難しいときは、弾性包帯が使われますが、巻き方がゆるいとズレやすく、患者さん自身での装着が難しいという欠点があります。リンパ小疱が生じていても快適に圧迫療法を続けたい方は、オーダーメイドの弾性着衣を使用することが1つの手です。
パッドを使用する
陰部にリンパ小疱ができた方には、弾性ストッキングに加えて専用の圧迫パッドを使うことをおすすめします。陰部は、弾性ストッキングを用いても圧迫が難しい部位です。パッドを併用することで、より効果的にリンパ液の流れを促しましょう。
当院でご提供しているリンパパッドは、パーツごとに分かれておらず、下着のように着用できる一体型であることが大きな特徴です。内側に柔らかな凹凸を施しており、皮膚を優しく刺激しながら圧迫できます。
リンパパッドは、簡単にはくだけで、陰部・下腹部・臀部を同時に圧迫できるため、デリケートな部位のケアに取り入れやすいアイテムです。
スキンケアを徹底する
リンパ浮腫のある部位にリンパ小疱ができたときの対処には、スキンケアも挙げられます。以下のポイントを意識し、皮膚のバリア機能を高めるとともに傷口からの細菌感染を防ぎましょう。
保湿 | ボディクリームやローションで乾燥を予防する |
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保清 | 手洗いや爪切りを徹底する刺激の少ないボディソープで体を洗うムレないように通気性の良い下着・衣類を選ぶ |
保護 | 屋外で活動する際は長袖・長ズボンを着用する料理や日曜大工で刃物を使う際は手袋を装着する |
陰部に症状がある方は手を清潔にし、クリームやオイルが腟に入らないよう注意して、大陰唇までを目安に保湿します。
生活習慣を見直す
生活習慣の見直しも、リンパ小疱ができた場合に行いたい対処法の1つです。リンパ液の循環を妨げる習慣がないかを振り返りましょう。
同じ姿勢を長時間続けている方は、意識的に休憩や体操を挟み、むくんでいる部位の循環を促してください。下肢に症状がある方は正座や床に座ることは避け、椅子を使う生活をおすすめします。
肥満は、脂肪が血管やリンパ管を圧迫して体内の循環を悪くする要因です。適度な運動と栄養バランスのとれた食事を心がけ、過度な体重増加に注意しましょう。
リンパ浮腫で水疱を繰り返す際の治療法
圧迫療法や生活習慣の見直しだけではリンパ小疱の症状が改善せず、痛みやリンパ液の漏出が続く場合の治療法を紹介します。
- 水疱の切除術を受ける
- リンパ管静脈吻合術(LVA)を受ける
外科的な処置により、症状の軽減やリンパ液の流れの根本的な改善が期待できます。メリットやデメリットを理解したうえで治療方法を選ぶことが重要です。
水疱の切除術を受ける
水疱を切除する手術は、リンパ小疱で痛みやリンパ漏が続く場合の治療法です。
切除術では、周囲の皮膚ごとリンパ小疱を取り除き、傷口を縫い合わせます。数が少なく小さな範囲であれば局所麻酔での処置もできます。しかし、処置をする範囲が広い場合は入院し、全身麻酔下での手術が必要です。
ただし、切除術は表面に水疱として出てきているリンパ管を取り除く方法にすぎず、現時点である痛みや感染リスクを軽減させる対症療法です。リンパ液の根本的な流れは改善していないので、術後も水疱が再発する可能性があります。
リンパ管静脈吻合術(LVA)を受ける
リンパ浮腫で水疱ができているときに勧められる手術法として、リンパ管静脈吻合術(LVA)が挙げられます。LVAは、機能が低下しているリンパ管を、近くの細い静脈とつなぎ直し、新たにリンパ液の流れる道を作り出す手術です。
リンパ液が滞らずに流れるようになれば、リンパ小疱だけでなく、むくみ・重だるさといった全般的な症状の改善が望めます。
LVAは、主に局所麻酔で行われ、傷口が小さく済むので、日帰りで受けられます。術後に早い段階で日常生活に戻れるため、仕事や家庭の事情で手術を諦めていた方でも受けやすい点がメリットです。
リンパ管の機能が残存しているうちに受けることでより高い治療効果が期待できます。
リンパ浮腫による水疱にお悩みなら当院へ
リンパ浮腫のある部位に水疱ができ、不安な方は当院へご相談ください。
当院はリンパ浮腫専門のクリニックで、圧迫療法から生活指導、手術まで包括的なご支援を実施します。
当院のLVAは、0.5mm以下の血管・リンパ管をつなぎ合わせる、スーパーマイクロサージャリーの技術を持った医師が執刀します。リンパ小疱があっても装着できるオーダーメイドの弾性着衣のご注文も可能です。
「水疱ができるほど悪化しているのは自分だけではないか」と不安な方は、ご自身に合った治療法を見つけるために、ぜひ一度当院へお越しください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
一般社団法人日本精索静脈瘤協会 理事長
医療法人社団マイクロ会 理事長
銀座リプロ外科 院長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。