がん治療の後遺症|リンパ浮腫は早期治療が重要!症状と放置するリスク - 銀座リプロ外科
COLUMN

がんの闘病を終えて少し時間が経った頃、「治療した近くの部位がむくみやすい」と訴える方が多く見られます。

リンパ浮腫はがん治療にともなう後遺症の1つとして知られ、むくみや重だるさから始まり、放置すると悪化して日常生活に支障をきたしかねません。早期に症状に気づき、適切なケアを受けることが大切です。

本記事では、リンパ浮腫の原因や症状、治療法をわかりやすく解説するので、ぜひ参考にしてください。

 

がん治療の後遺症であるリンパ浮腫とは

がん治療の後遺症であるリンパ浮腫とは、手術や放射線治療でリンパ管・リンパ節がダメージを受けてリンパ液の流れが妨げられ、むくみが慢性的に起こる状態です。治療を行なった側の腕や脚に発症し、乳がん・婦人科がんを経験した方に多く見られることが特徴です。

症状はがんの治療後すぐに出たり、数年経過してから表れたりします。

原因・症状・診断方法の3つに分けて、リンパ浮腫について詳しく解説します。

 

原因

がん治療の後遺症で起こるリンパ浮腫の主な原因は、以下のとおりです。

  • がん転移予防のためのリンパ節切除
  • 放射線治療によるリンパ管・リンパ節の損傷
  • リンパ浮腫が生じやすくなる抗がん剤の使用

手術や放射線による影響が小さいケースでも、疲労やストレス、肥満などの要因が重なると発症リスクが高まります。

がん治療を経験した方は、今後リンパ浮腫を発症する可能性を念頭に置き、日常生活の過ごし方に注意していくことが大切です。

 

症状

初期のリンパ浮腫では軽度のむくみやだるさを覚える程度ですが、次第に左右の腕・脚の太さに明らかな差が出てきます。症状は、以下のように進行します。

0期 リンパ液輸送が障害されているものの、発症はしていない
I期
  • 四肢を上げるとリンパ液の貯留が軽減することが多い
  • 圧痕が見られるケースがある
II期
  • 四肢の挙上だけでは改善しない
  • 圧痕がはっきりする
II期後期 組織の線維化が見られ、皮膚が硬くなる
III期 皮膚の硬化が進み、象皮症や表皮肥厚、脂肪の増加などが見られる

 

参考:国際リンパ学会『表3.病期分類』|日本癌治療学会がん診療ガイドライン

III期まで進行し、変化してしまった腕・脚の皮膚や組織は元に戻らないため、症状が軽いうちに受診・治療し、悪化を防ぐことが大切です。

 

診断方法

病院では以下の検査を行い、リンパ浮腫の発症有無と進行度を診断します。

問診・視診・触診
  • 自覚症状や既往歴の確認
  • 左右の腕や脚の周囲径・体重測定によるむくみの程度の評価
リンパシンチグラフィー 組織の深い部分におけるリンパ液の流れやうっ滞箇所の確認
インドシアニングリーン検査
(ICG検査)
  • 皮下約1~2cmの浅い部分の観察
  • リンパ管の様子や漏れ出たリンパ液の有無の確認
超音波検査 皮下の様子を画像化し、リンパ液のうっ滞やリンパ節の腫れを確認

 

初期段階ではむくみが目立たず、疲労や体重増加と勘違いする人が多く、専門家による診察が不可欠です。適切な対処法を提案してもらうためにも、リンパ浮腫の治療実績がある医療機関を選び、受診しましょう。

 

がん治療の後遺症|リンパ浮腫を放置するリスク

がん治療の後遺症であるリンパ浮腫を「ただのむくみ」と思って放置すると、以下の合併症を患うリスクがあります。

象皮症
  • 皮膚や皮下組織が硬化・肥厚して象の皮のようになる
  • リンパ浮腫が重症化したケースで見られる
リンパ漏 外傷によってリンパ液が体外や体腔に漏れ出る
リンパ小疱 皮膚の表面に1~2mmの水ぶくれが繰り返し出現する
蜂窩織炎 皮膚や皮下組織が細菌に感染して発熱や強い腫れを生じる

 

合併症の治療により、仕事や家事など日常生活に大きな影響が出かねません。蜂窩織炎は再発を繰り返しやすい病気なので、日頃からリンパ浮腫を悪化させないよう注意しましょう。

 

がん治療の後遺症|リンパ浮腫の悪化予防策4選

がん治療の後遺症としてリンパ浮腫を患った際は、以下の4つのポイントに注意して悪化を防いでください。

  • 皮膚を良い状態に保つ
  • 体を締め付けるアイテムを選ばない
  • 適正体重をキープする
  • 体の負担になる行動は避ける

リンパ浮腫は完治が難しい病気なので、悪化させないことが大切です。

 

1. 皮膚を良い状態に保つ

肌を清潔にして保湿し、がん治療の後遺症であるリンパ浮腫の悪化を防ぎましょう。リンパ浮腫がある部位は乾燥しやすく、皮膚のバリア機能が低下しがちです。健康な人なら問題ない菌でも、感染し、蜂窩織炎のような炎症を起こす恐れがあります。

感染や炎症は、リンパ浮腫を悪化させる要因になります。皮膚のバリア機能を正常に保つためのポイントは、以下のとおりです。

  • 入浴時は泡で優しく肌を洗う
  • 入浴後は保湿剤を使う
  • 虫刺されに注意する
  • 水虫は完治させておく
  • 爪切りの際に皮膚を傷つけないよう気を配る
  • 日焼けしないよう長袖の服や日傘を活用する

リンパ浮腫の症状が軽いうちからスキンケアに取り組みましょう。

 

2. 体を締め付けるアイテムを選ばない

体を締め付ける以下のような靴や衣類は、リンパ液の流れを妨げて症状を悪化させる原因になるため、避けてください。

  • サイズが合わない靴
  • ヒールが高い靴
  • 締め付けの強い下着
  • 袖口や足首がゴムやベルトで締まっている服
  • 時計や指輪といった肌に密着する装飾品

サイズの大きい靴は靴擦れの原因となり、細菌感染につながる可能性があります。足のむくみにフィットする靴が望ましいといえます。

肌が赤くなったり、締め付けによる痕ができたりする衣類も避けましょう。ワイヤレスブラジャーやウエスト・脚口が幅広かつレースのショーツなど、肌に食い込みにくい下着を着用してください。

 

3. 適正体重をキープする

適正体重の維持も、リンパ浮腫の悪化を防ぐ方法の1つです。脂肪が増えるとリンパ管にかかる圧力が強くなり、リンパ液の流れが滞ってしまいます。

適正体重は、「身長(m)×身長(m)×22」で確認できます。オーバーした際は、以下を参考に食事内容や生活習慣を改めましょう。

  • 白米やパンといった糖質の摂りすぎに注意する
  • 野菜を積極的に食べる
  • よく噛んで食べる
  • 腹八分目を意識する
  • ウォーキングのような運動習慣を取り入れる

定期的な運動は、筋力や基礎代謝のアップにつながるので、ぜひ実践してください。

適正体重を超えている場合は、1~2kg減量するだけでリンパ浮腫の症状が軽くなる患者さんが多く見られます。精神的負担のない範囲で、減量を目指しましょう。

 

4. 体の負担になる行動は避ける

リンパ浮腫の悪化を防ぐために、体への負担になる以下の行動は避けてください。

  • 長時間同じ姿勢を続ける
  • 長時間入浴する
  • 激しい運動をする
  • 休憩なしで作業・運動をする
  • 重い荷物を持つ

体に負荷がかかりすぎると、リンパ液の流れが悪化したり、免疫力が低下して合併症のリスクが高まったりする原因になります。同じ姿勢の継続や重いものの運搬が避けられない場合は、こまめに休憩する・患部を高くして休むといった工夫をしましょう。

「無理をしない」という意識を持つことが、長期的な症状安定のために欠かせません。

 

リンパ浮腫は早期治療により改善可能

がん治療の後遺症としてリンパ浮腫を発症した場合でも、適切なケアを早期に始めることで、以下のような効果が見込めます。

  • むくみを軽減する
  • 皮膚の硬化を和らげる
  • 蜂窩織炎のような感染症のリスクを低減する

医療機関では、受診した時点における患者さんの症状に合ったリンパ浮腫の治療法を提案してもらえます。症状の重さにかかわらず、早めに医療機関で受診しましょう。

 

がん治療の後遺症|リンパ浮腫の治療法

リンパ浮腫をがん治療の後遺症として発症した際は、以下の治療法が検討されます。

  • 用手的リンパドレナージを受ける
  • 弾性着衣で圧迫する
  • 患部を圧迫しながら運動する
  • 手術を受ける

症状の進行を食い止め、日常生活の質を保つためには、早期からの適切な治療が重要です。

 

用手的リンパドレナージを受ける

用手的リンパドレナージは、リンパ浮腫の治療法の1つです。教育を受けた専門家が、リンパ液を健康なリンパ節へ流し、むくみを和らげます。リンパ液の流れや、リンパ管・リンパ節の位置を正しく理解している方が施術してはじめて効果が出ます。

リラクゼーション目的のマッサージや美容のためのリンパドレナージュとは違うため、自己流での施術は避けてください。

弾性着衣の着用といった自宅でできるセルフケアと併用し、リンパ浮腫の進行を抑えましょう。

 

弾性着衣で圧迫する

リンパ浮腫の代表的な治療法が、圧迫療法です。専用の弾性スリーブや弾性ストッキングを着用し、外から適度な圧力をかけてリンパ液の停滞や組織間液の貯留を防ぎます。

高い治療効果を得るには、適切なサイズと圧迫圧を選ぶことが重要です。自己判断で使用すると、かえってリンパ液の流れを妨げかねません。

弾性着衣は継続的な使用が必要ですが、感染症を発症していたり重度の皮膚炎があったりするなど、着用が推奨されない場合もあります。

リンパ浮腫の進行を抑える有効な手段として、専門家のアドバイスを受けながら実施しましょう。

 

患部を圧迫しながら運動する

圧迫療法下で軽い運動をすると、リンパ浮腫の改善に有効です。運動の際に、筋肉の収縮がポンプのように血液・リンパ液の流れを促進する作用は、体を圧迫するとより高い効果が期待できます。

圧迫した状態で行う運動としては、ウォーキングや軽いストレッチ・筋力トレーニングがおすすめです。日常生活のなかで無理なく続けられる、脈拍が上がらない程度の強度が適しています。

激しい運動はかえって症状を悪化させる可能性があるため、注意が必要です。

 

手術を受ける

圧迫療法をはじめとするリンパ浮腫の保存的療法で十分な改善が見られないケースでは、以下のような手術が検討されます。

リンパ管静脈吻合術(LVA) リンパ管と静脈をつないでリンパ液を流すルートを新しく作る
リンパ管・リンパ節移植術(VLNT) リンパ管・リンパ節を移植してリンパ液の流れを再建する
脂肪吸引術(LS) 溜まって硬くなった脂肪を吸引し、太くなった腕や脚を細くするLVA・VLNTと併用するケースもある

 

皮膚が硬化した象皮症やリンパ漏などの合併症がある場合でも、手術によって改善を目指せる可能性があります。保存的療法に取り組んでも効果を実感できず、症状が進んでいる方は、専門医へ手術について相談してみましょう。

 

がん治療の後遺症|リンパ浮腫でお悩みの方は当院へ

がん治療の後遺症によるリンパ浮腫でお悩みなら、当院にご相談ください。

リンパ浮腫は、時間の経過とともに悪化したり、皮膚のトラブルや感染症などの合併症につながったりする恐れがあります。

当院では、弾性ストッキングの案内や運動療法の指導、日帰りLVA手術といったリンパ浮腫の治療に対応しています。リンパ浮腫を専門とする大学病院の医師が、患者さん一人ひとりに寄り添って治療いたしますので、ぜひ当院へお気軽にご相談ください。

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この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

一般社団法人日本精索静脈瘤協会 理事長
医療法人社団マイクロ会 理事長
銀座リプロ外科 院長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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