腕や脚が片側だけむくみ、「リンパ浮腫を発症したのではないか」と不安を抱えていませんか。
飲みすぎやホルモンバランスの乱れによるむくみは、全身に症状が表れ、時間の経過とともに軽快することがほとんどです。一方で、片側だけのむくみが長期間続くのであれば、病気を疑い、受診することを推奨します。
本記事では、片側だけがむくむ病気の1つであるリンパ浮腫の原因や初期症状、放置したときのリスクについて解説します。ぜひ最後まで読み、片側だけのむくみで病院に行くことは、決して大げさではないと知りましょう。
片側の腕や脚にリンパ浮腫が起こる原因
リンパ浮腫は、以下のような原因によって起こります。
- リンパ管の生まれつきの異常
- がん治療の影響
- 感染や外傷
リンパ管系に不具合が生じている部位だけに症状が表れることが、片側の腕や脚がむくむ理由です。自分がリンパ浮腫のリスクを抱えていないか振り返ってみましょう。
リンパ管の生まれつきの異常
リンパ管系の先天的な異常は、リンパ浮腫の原因の1つです。リンパ管やリンパ節の数が少なかったり発達が不十分であったりするケースは、「原発性(一次性)リンパ浮腫」と呼ばれ、女性に多い病気です。
患者さん全体を見ると乳児期から発症している人は少なく、成長してリンパ液の量が増えたタイミングで生じる傾向があります。
家族に同じ症状を持つ人がいる場合は、遺伝子の異常が関連しているといわれています。しかし、家族で1人だけが発症する事例もあり、原因は完全には解明されていません。
がん治療の影響
リンパ浮腫は、次のようながん治療をきっかけとして、処置した部位に発症します。
- 転移を防ぐためにリンパ節を切除した
- 手術や放射線治療でリンパ管系が傷ついた
- タキサン系の抗がん剤を使用した
- 乳がんでセンチネルリンパ節生検(転移を調べる検査)を受けた
乳がんを経験した方は治療した胸側の腕、婦人科がんで脚の付け根のリンパ節を取った場合は切除側の脚に起こります。
リンパ浮腫は治療から数年あるいは十年以上経って発症するケースもあり、がんを経験した方にとって、長期にわたり注意が必要な後遺症です。
感染や外傷
感染や外傷も、リンパ浮腫の原因です。
日本では稀ですが、熱帯地域では「フィラリア症」という寄生虫感染が原因でリンパ管が塞がれることによる発症が多く見られます。
以下のような外傷や損傷がきっかけでリンパ管系が傷ついた場合も、リンパ液の流れが妨げられてリンパ浮腫を発症しかねません。
- 交通事故
- スポーツでのケガ
- やけど
- 手術による組織の損傷
リンパ浮腫は自分に関係ない病気だと思っていた方も、発症のリスクがゼロではないことを認識しましょう。
片側に表れるリンパ浮腫の初期症状
以下のような状態が片側の腕・脚に見られた場合は、リンパ浮腫が疑われます。
- 重だるさ
- むくみ
- 皮膚の変化
軽度のうちは見た目の変化が乏しいので、知識がなければ見逃してしまいがちです。発症にいち早く気づき、重症化する前に対処できるよう、リンパ浮腫の初期症状について理解を深めましょう。
重だるさ
リンパ浮腫の始まりとして、片側の腕・脚の重だるさを覚えることがあります。夕方や長時間の立ち仕事・座り仕事をしたあとに強まる点が特徴です。
重だるさがリンパ浮腫の初期症状だと知らなければ、疲労や加齢のせいだと思い込み、病院に行くタイミングを逃してしまうでしょう。
悪化すると、日常生活の動作に支障が出て、運動不足や循環不良につながり、さらに症状が進行してしまいます。片側だけの違和感は放置せず、早めの受診が大切です。
むくみ
片側の腕・脚に限ったむくみも、リンパ浮腫のサインの1つです。見た目でわかりにくくても、以下のような小さな変化が生じていることがあります。
- 腕・脚が腫れぼったく感じる
- 下着・衣類・靴が片方だけきつい
- 下着・衣類・アクセサリーの痕が残る
- 指で皮膚を押すと一時的に痕が残る
健康な方でも、飲みすぎ・辛い食べ物の摂取・生理周期により全身がむくむ場合がありますが、時間の経過とともに軽快します。片側だけのむくみが続く状態は、異常であると認識しましょう。
皮膚の変化
以下のような皮膚の質感・見え方の変化が片側の腕・脚だけにあるときも、リンパ浮腫の恐れがあります。
- 皮膚が張って光沢感が見られる
- しわが目立たない
- 静脈の見え方が反対側と異なる
- 乾燥が目立つ
症状が進むと皮膚は薄くなり、乾燥してバリア機能が低下し、わずかな刺激で傷ついたり、感染を起こしたりします。さらに悪化すれば皮膚は硬く・厚くなり、外見上の変化が大きな精神的ストレスになってしまうでしょう。
毎日の入浴やスキンケアの際に皮膚を観察し、早期発見につなげてください。
リンパ浮腫以外に片側だけむくむ病気はある?
腕や脚が片側だけむくんだ場合は、以下のような病気の恐れもあるため、自己判断でリンパ浮腫だと決めつけることは危険です。
深部静脈血栓症 | 血管内に血の塊ができて腫れや痛みをともなう血栓が肺まで流されることで命に関わる危険がある |
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下肢静脈瘤 | 静脈弁の機能低下により脚に血液がうっ滞する放置により皮膚炎や潰瘍を起こす |
がん | がんが血管を圧迫することでむくむ場合がある |
がん治療の経験がある方は、再発との鑑別が非常に重要です。命が脅かされる病気が隠れている可能性を考慮し、早めに受診することをおすすめします。
片側だけのリンパ浮腫を放置するとどうなる?
「片側だけだから大丈夫」と違和感を放置すると、以下の状態に陥る恐れがあります。
- 症状が進行・悪化する
- 合併症が起こりやすくなる
- 下肢の場合は症状が両脚に及ぶこともある
リンパ浮腫は直接的に命を奪う病気ではありませんが、適切に治療しなければ生活の質を大きく下げてしまうことを知りましょう。
症状が進行・悪化する
リンパ浮腫を放置すると、以下のような段階を経て悪化していく恐れがあります。
0期 | リンパ液の流れは障害されているが、まだ症状はない |
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Ⅰ期 | 軽いむくみが見られるが、挙上して休めば軽快する |
Ⅱ期 | 休んでもむくみが軽減せず、指で皮膚を押すとはっきりと痕が残る |
Ⅱ期後期 | むくんだ部位が硬くなり、皮膚を押しても痕が残らない |
Ⅲ期 | 皮膚が硬く・厚くなり、皮下の脂肪が増える |
リンパ浮腫は自然治癒が望めず、硬く・厚くなった皮膚や脂肪組織は元に戻りません。悪化する前に対処し、腕や脚を良い状態のまま長く保つことが求められます。
合併症が起こりやすくなる
以下のような合併症が起こりやすくなることも、リンパ浮腫を放置した際に考えられるリスクの1つです。
蜂窩織炎 | 細菌感染により赤み・熱感・痛みといった症状が出る重篤な場合は高熱が出て入院が必要となる |
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リンパ漏 | むくんだ部位の小さな傷からリンパ液が漏れ続ける |
リンパ小疱 | 膨らんだリンパ管が皮膚の表面に1~2mmの水疱状に生じる |
象皮症 | 皮膚が乾燥して硬く・厚くなり、イボやかさぶたができる |
合併症が起こると、見た目が悪くなる・衣類が汚れる・治療のために仕事を休まなければならないなど、精神的なストレスの一因にもなりえます。
下肢の場合は症状が両脚に及ぶこともある
下肢のリンパ浮腫の場合は、初めは片側だけにしか症状がなくても、経過とともに両脚に広がることがあり、放置は危険です。脚だけでなく、陰部・腹部にも症状が及ぶケースも多く見られます。
下半身全体がむくんでしまうと、動くことがつらくなり、日常生活に支障が出るでしょう。
片側の脚しかむくんでいない場合は、靴下タイプの弾性ストッキングで圧迫して様子を見るように医療機関から言われるかもしれません。しかし、片側の症状で受診した場合でも、もう片方にも浮腫みの所見がある方が多いため、当院では両脚・ウエストまでしっかりと圧迫するパンティストッキングタイプをおすすめしています。
リンパ浮腫は進行する病気であることを認識したうえで、将来のリスクを減らす選択が重要です。
片側だけのむくみに気づいたら受診を
片側だけのむくみに気づいたら、早期受診をおすすめします。以下のようなポイントを医師へ伝えられるように前もって確認しておきましょう。
- 症状が出始めた時期
- がん手術・放射線治療の既往
- 抗がん剤の使用経験
リンパ浮腫に関して、すみやかな受診が大切な理由と、病院での検査方法・治療法を詳しく解説します。
リンパ浮腫は早期治療が大切
リンパ浮腫は早期治療が大切なので、片側だけのむくみに気づいたらすぐに病院へ行くべきです。いち早い治療によって、病状の悪化や合併症を予防し、腕や脚を良い状態に保つことが期待できます。
症状が軽いうちに対処すれば、治療による身体的・心理的負担が少なく済むでしょう。
重度のリンパ浮腫が長期間に続いたことでリンパ管肉腫を発症した「Stewart-Treves症候群」のケースも報告されています。リンパ管肉腫とは、リンパ管の内側の細胞から発生する悪性腫瘍です。
早期治療は、リンパ浮腫の進行を防ぐだけでなく、新たな病気の発症の抑制にも役立ちます。
リンパ浮腫の検査方法
リンパ浮腫が疑われる場合は、病院で次のような検査が実施されます。
- 体重測定
- 腕・脚の太さの計測
- 皮膚の観察
- 超音波検査
- ICG(インドシアニングリーン)検査
- リンパシンチグラフィー
超音波検査はむくんだ部位に超音波を当て、皮膚の下の状態を調べる方法です。患者さんに傷をつけないうえ、深部静脈血栓症のような別の病気との鑑別に役立ちます。
ICG検査では、緑色の薬剤を検査したい上肢または下肢の指(左右両方)の間に注射し、特殊なカメラでリンパ液の流れを見ます。
リンパシンチグラフィーは、放射性薬剤を患部に注射し、リンパ液の流れを観察する方法です。
リンパ浮腫の知見が豊富な医師なら、総合的に判断して進行度を見極め、必要な治療法を提案してくれるでしょう。
リンパ浮腫の治療法
片側の腕や脚がむくみ、リンパ浮腫だと診断された場合の治療法は、以下のとおりです。
保存的治療 | 圧迫療法 | 患肢を圧迫して血液・リンパ液のうっ滞を防ぐ |
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スキンケア | 保湿・保清・保護により感染を予防する | |
患肢の管理 | リンパ液の流れを妨げない生活習慣を心がける | |
運動療法 | 筋ポンプ作用を利用して腕や脚の循環を促す | |
用手的リンパドレナージ | 専門家が行うマッサージでリンパ液の流れを促す | |
外科的治療 (手術) |
リンパ液の流れる道を再建したり、異常に増えた皮下脂肪を取り除いたりする |
複数の方法を組み合わせることで、より高い治療効果が見込めます。
リンパ浮腫の不安がある方は当院へ
腕・脚が片側だけむくみ、リンパ浮腫の疑いがある方は当院へご相談ください。リンパ浮腫専門クリニックである当院では、手術から保存的治療まで全面的なサポートが可能です。
特に、流れの悪くなったリンパ管を切開して細い静脈とつなぎ、新たなリンパ液の流れを作る「リンパ管静脈吻合術(LVA)」という手術に注力しています。手術を担当する医師は、0.5mm以下の血管・リンパ管をつなぎ合わせるスーパーマイクロサージャリーのプロです。
まずは当院で検査を受けて必要な治療についての説明を聞き、不安を少しでも和らげてみませんか。専用フォームからのご予約をお待ちしています。
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〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
一般社団法人日本精索静脈瘤協会 理事長
医療法人社団マイクロ会 理事長
銀座リプロ外科 院長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。