がん治療などの後遺症として発症することがあるリンパ浮腫。リンパ浮腫は、腕や脚がむくみ、日常生活に影響を及ぼすこともある病気です。
では、リンパ浮腫はなぜ起こるのでしょうか。リンパ浮腫を予防するには、どうしたらよいのでしょうか。リンパ浮腫の原因と予防策について解説します。
リンパ浮腫とは
リンパ浮腫とは、リンパ液が滞ることで起きる、腕や脚などのむくみのことです。リンパ浮腫は、一度重症化すると治りにくく、徐々に進行します。むくみによって、関節が曲げづらくなったり、腕や脚が重くなったりするなど、日常生活に影響を及ぼすこともあります。
そのため、予防や早期発見、適切なケアと治療によって、よい状態を維持することが大切です。
リンパ浮腫が起こる原因・メカニズム
リンパ浮腫が起こる原因は、大きく分けて2つ。先天的な機能障害によって生じる場合と、手術などの後遺症として生じる場合があります。
特に多いのは、がん治療に伴い発症するケースです。リンパ浮腫を引き起こしやすいのは、乳がん・子宮がん・卵巣がん・大腸がん・前立腺がんなど。がんの手術では、転移を防ぐために、病巣だけでなく近くのリンパ節を切除することがあります。これをリンパ節郭清術と言い、リンパ液の流れを低下させる大きな要因となります。
手術に伴うリンパ節切除や放射線治療、薬物療法などを原因として、リンパ液が滞り、その結果、リンパ浮腫が生じるのです。
リンパ浮腫の発症時期は個人差があります。手術後すぐに発症する人もいれば、何年も経ってから症状が現れる人もいます。
そもそも、リンパはどのような働きをしているのでしょうか。リンパの役割とリンパ浮腫が生じる原因を詳しく解説します。
血液と密接な関係があるリンパ。血管には、動脈と静脈があります。動脈によって、酸素と栄養素を含んだ血液が心臓から体の各所をまわって全身の細胞に届けられ、その後、細胞から出た二酸化炭素や老廃物は静脈とリンパ管に回収されて心臓に戻ります。この循環が繰り返されることで、生命が健全に維持されています。
静脈には、二酸化炭素や老廃物を回収する働きがありますが、すべてを回収できるわけではありません。その残りを回収するのがリンパ管の役目です。リンパ管で運ばれる体液はリンパ液と呼ばれ、タンパク質を高濃度に含んでいます。このリンパ液は、最終的に静脈に入り、心臓へ戻ります。
リンパ管は体中に張り巡らされていますが、その途中には、リンパ管が集まったリンパ節があります。リンパ節には、免疫機能の関所のような役目があり、細菌などの異物がないかチェックが行われています。
重要な役目を持つリンパ節は、主に体の関節付近にあり、特に大きなものが脇の下や脚の付け根のリンパ節です。この重要な役目を持つリンパ節を損傷させる可能性があるのが、がん手術。乳がん・子宮がん・卵巣がん・大腸がん・前立腺がんなどの手術に伴って、リンパ節やリンパ管が傷つくことでリンパ液の流れが滞り、リンパ浮腫につながります。
リンパ浮腫を見抜くポイント
リンパ浮腫を早期発見するためには、むくむ可能性がある場所を把握し、むくみがないか定期的にチェックすることが大切です。
1.むくむ可能性がある場所を把握し、太さを測っておく
がんの種類や治療箇所によって、リンパ浮腫が生じやすい場所は決まっています。むくむ可能性がある場所を知って、手術などの治療前に太さを測っておくのが大切です。
<むくむ可能性がある場所>
・脇の下のリンパ節切除時(乳がんなど):腕・脇の下・胸・背中
・脚の付け根のリンパ節切除時(子宮がん・卵巣がんなど):脚・下腹部・陰部
・放射線治療時:治療箇所の近く
2.むくみの有無をチェックする
リンパ浮腫が生じやすい場所を触って、むくみがあるかどうかチェックします。
・皮膚がつまみにくくないかチェック(むくみがあると、皮膚をつまみにくくなります)
・皮膚の硬さとしわの様子をチェック(むくみがあると、皮膚が硬くなり、しわが目立たなくなります)
・皮膚を押したときに痕が残っていないかチェック(むくみがあると、痕が残ります)
・衣類やアクセサリーの痕が残っていないかチェック(むくみがあると、痕が残ります)
3.むくむ可能性がある場所の太さを定期的に測定する
むくむ可能性がある腕や脚の太さを、定期的に測定します。太さは、朝か夕方かなど、時間帯によっても変わるため、時間を決めて測定します。手術前後の差や左右差が大きくなってきたら、医師に相談するようにしましょう。
<測定する部位の例>
・脇の下のリンパ節切除時:腕の付け根・肘上10cm・肘下5cm、手首、指の付け根
・脚の付け根のリンパ節切除時:脚の付け根・膝上10cm・膝下5cm・足首・指の付け根
なお、脚のむくみは気付きにくいことが多いです。早い段階でリンパ浮腫を発見するためにも、特に丁寧にチェックを行いましょう。
リンパ浮腫になった時にはどうすればいい?
リンパ浮腫は、適切な治療によって、進行を抑えたり、症状を緩和させたりすることが可能です。リンパ浮腫かなと思ったら、リンパ浮腫専門外来などを受診するようにしましょう。
専門機関では、回収できず滞ってしまったリンパ液をリンパ管に戻すために、次のような治療が行われています。
・スキンケア
・用手的リンパドレナージ
・圧迫療法(弾性着衣や弾性包帯による圧迫)
・運動療法(弾性着衣圧迫下での運動)
・体重管理などの生活指導
用手的リンパドレナージとは、手を使う医療マッサージのこと。ドレナージは「排液」という意味で、滞ったリンパ液を排液するということです。リンパ浮腫の治療では、ソフトな圧で、滞っているリンパ液をゆっくりと適切な方向に誘導し、排液を促します。
医療マッサージである用手的リンパドレナージと、エステなどで行われている美容リンパドレナージは手技が違いますので、注意してください。また、セルフケアとして自宅でできるリンパドレナージもあります。医師の指示に従って行いましょう。
圧迫療法で着用する弾性着衣には、手に装着する弾性グローブ・腕に装着する弾性スリーブ・脚に装着する弾性ストッキングなどがあります。弾性着衣は形状やサイズなど様々な種類がありますので、リンパ浮腫の状態に合うものを選びます。
運動療法とは、圧迫した状態で運動を行うことです。圧迫下での運動は、リンパ液の流れを促進させます。特別な運動をする必要はなく、例えば、腕の場合は肘関節の曲げ伸ばしや手のグーパー運動、脚の場合は膝の曲げ伸ばしなどを行います。
これらの治療のほかに、がん手術によって生じたリンパ浮腫の場合には、手術による治療が適用される場合もあります。
リンパ浮腫の予防、セルフケア
リンパ浮腫の発症や悪化を予防するためには、日常生活の中でのセルフケアが大切です。
1.適度な運動をする
適度な運動は、リンパ液の流れを促します。積極的に体を動かしましょう。また、むくみを感じるときは、腕や脚を少し高くして寝るようにします。
2.体の締め付けを避ける
リンパ液の流れを邪魔しないように、体を締め付ける衣類やアクセサリーは避け、ゆったりとした服装を心がけましょう。また、脚の付け根のリンパ節を切除した場合には、脚を組む姿勢も避けるようにします。
3.スキンケアを行う
リンパ液の流れが悪くなると、感染を起こしやすくなります。感染を防ぐために、普段から皮膚を清潔に保ち、十分に保湿しましょう。
また、ケガや虫刺され、日焼けなどがきっかけになるケースもあります。ガーデニングなどをする際には、長袖や長ズボン、手袋を着用して露出を避けましょう。
スキンケアに関連して、リンパ浮腫に伴う合併症として、覚えておいていただきたいのが、蜂窩織炎です。蜂窩織炎は、皮膚と皮下組織が細菌に感染して炎症を引き起こす疾患です。
免疫力が低下しているため、わずかな細菌侵入がきっかけで蜂窩織炎を発症します。
皮膚が熱を持って赤くなる、高熱が出る、などの症状が現れた場合には、蜂窩織炎の可能性がありますので、すぐに医療機関を受診してください。
4.体重を増加させない
肥満は、リンパ浮腫の発症や悪化リスクを高めます。これは、脂肪がリンパ管を圧迫して、リンパ液の流れを妨げるためです。バランスのとれた食事と運動で、体重をコントロールしましょう。定期的に体重測定を行って、自己管理していくことが大切です。
5.セルフリンパドレナージ
セルフリンパドレナージとは、セルフケアとしてご自身で行うリンパマッサージのことです。リンパ浮腫の発症を予防する観点から、手術後、早い段階から始めることができます。自己流ではなく、医師の指示の下、決められたやり方に従って行いましょう。
6.無理しすぎない
無理しすぎないこともリンパ浮腫予防策のひとつ。こまめに休憩したり、周囲の人に頼ったりなど、ストレスや疲労をため込まないようにすることが大切です。体に負担をかけないよう意識して生活しましょう。
まとめ
リンパ浮腫は、一度発症すると治りにくい病気ですが、適切な治療を受けることで、進行を抑えたり症状を緩和させたりすることができます。
リンパ浮腫を引き起こしやすいがんの手術を受けた場合には、まずはリンパ浮腫について理解し、定期的な測定などを行うことで早期発見できるように努めましょう。
リンパ浮腫を治療したいと思ったら、癌の治療が終わっていることが前提となりますが、できるだけ早くリンパ浮腫の専門外来を受診してください。
銀座リプロ外科では、ICG蛍光リンパ管造影による、早期診断を行っております。リンパ浮腫は、早期治療が大切です。腕や肢のむくみ・だるさ、皮膚の知覚過敏などを感じたら、ぜひ早めに受診してみてください。
また、保存的治療として、銀座リプロ式リンパドレナージの指導を行っており、習得すれば自宅でも行っていただけます。
着圧ストッキングはオーダーメイドにより、患者様に合ったストッキングをご提供することも可能です。お気軽にご相談ください。
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この記事の執筆医師
永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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