「がん手術後の体のむくみを、自分でのケアや軽い通院だけで何とかしたい」と、良い治療法をお探しではないでしょうか。
リンパ浮腫の治療法の1つが、リンパドレナージです。特別な道具を必要とせず、自宅で取り入れられる方法もあることが特徴です。しかし、より良い効果を得たいなら、さまざまな治療法の組み合わせを検討しましょう。
自分の体を大切にすると、家族の笑顔を守ることにつながります。自分のことを後回しにして後悔しないために、ぜひ本記事を参考にしてください。
リンパ浮腫の治療法|リンパドレナージとは
リンパドレナージとは、リンパ液の流れを促進し、むくみを軽減するための手技として広く用いられている治療法です。ドレナージとは排液という意味で、「手を使って滞ったリンパ液の流れを促す」という考え方のもとに行われます。
リンパ浮腫は、リンパ液の流れが滞ることで生じるむくみの一種です。がん治療後に発症するケースが多く、腕や脚の腫れが徐々にひどくなります。症状が生じたあとも放置していると、むくみが進んで痛みが出現し、最終的には細菌感染を起こすこともあります。
リンパ浮腫は早期発見・治療が何より大切です。リンパドレナージだけでなく複数の治療法を組み合わせて、病状の進行を予防しましょう。
リンパドレナージの種類
リンパ浮腫の治療に用いられているリンパドレナージは、大きく以下の2つに分けられます。
・用手的リンパドレナージ(MLD)
・簡易的リンパドレナージ(SLD)
インターネット上の記事や動画では、自分で行える方法も多く紹介されていますが、必ず専門家の指示を仰ぎ、指導を受けたうえで実施することが重要です。
用手的リンパドレナージ(MLD)
用手的リンパドレナージ(MLD)は、主に医療者によって行われるリンパ浮腫の治療手技です。皮膚の表面を優しくなでるような独自の手法で、健康なリンパ管に向けてリンパ液の流れを促します。強い圧をかけずに、繊細な動きをリズミカルに行うことが特徴です。
MLDは、リンパ浮腫の症状を軽減させるだけでなく、皮膚組織の柔軟性を維持・改善し、感染症のリスクを低減する効果も期待されます。
エステで行われるリンパドレナージュや整体院のマッサージとは異なるため、必ず専門的なトレーニングを受けた医療従事者のMLDを受けましょう。
ただし、MLDは施術から時間が経つとむくみが戻ってしまいます。効果を持続させたい場合は定期的な通院が必要です。
簡易的リンパドレナージ(SLD)
リンパ浮腫の治療法には、MLDを簡単にして患者さん自身や家族に行なってもらう簡易的リンパドレナージ(SLD)もあります。MLDのための定期的な通院が難しい場合にも、自宅で行えることがメリットです。
SLDは、自分でリンパ浮腫を管理する意識につながり、悪化防止にも役立ちます。リンパ液の流れる方向やリンパ節の場所をしっかりと把握して行う必要があるため、専門家に指導を受けたうえで取り組んでください。
ゆっくりと時間をかけてSLDに取り組むことが難しいときは、生活のなかで無理なく実施できる治療法の導入を検討しましょう。
自分でできるリンパドレナージの方法
自分でできるリンパドレナージの方法を紹介します。ただし、以下のような場合は自己判断での実施は控えてください。
・リンパ浮腫が生じている腕・脚の皮膚に赤みや痛みがある
・急激にリンパ浮腫が進んだと感じる
・心臓や腎臓の病気になったことがある
リンパドレナージは簡単に行えるように見えても、手の動かし方や力具合などが難しいので、導入前に専門家へ相談することがおすすめです。
腕のリンパドレナージ
腕にリンパ浮腫が起こっている場合のリンパドレナージの手順を説明します。
まずは準備として深呼吸をして、両肩を回し、鎖骨周辺を優しくさすります。体全体のリンパ液の流れをスムーズにするイメージで行いましょう。
右腕のリンパ浮腫に対するセルフリンパドレナージのやり方は、以下のとおりです。
1.指の腹で円を描くように軽く押しながら左わきを刺激する
2.左腕を軽くさする
3.左わきに近いあたりから胸部をさすって皮膚を左側へ誘導する
4.右脚付け根あたりの皮膚を円を描くように刺激する
5.右脚付け根に近い部分から右側の腹部・胸部の皮膚を下へ誘導する
6.肘→肩・手首→肘の手順で右腕を優しくさする
7.手首・手の甲→肘・手のひら→手首という方向に皮膚を誘導する
リンパ浮腫がない側の左わきの下を刺激してから、右腕のリンパ液の流れを促します。それぞれ5~10回ずつさすり、10分程度で終わることを目安にします。
左腕にリンパ浮腫がある方は、左右を逆にして行なってください。
脚のリンパドレナージ
脚のリンパ浮腫のセルフリンパドレナージは、座ってリラックスした状態で行いましょう。
まず深呼吸を数回繰り返したあと両方の鎖骨周辺をさすり、全身のリンパ液が流れやすい状態を作ります。
右脚にリンパ浮腫が生じている場合のセルフリンパドレナージの方法は、以下のとおりです。
1.左脚全体を軽くさする
2.右脇腹から右のわきの下に向かって優しくなでる
3.右下腹部・お尻・右脚の付け根の順にさする
4.右の太もも→膝の順に前面と後面を下から上へ優しくさする
5.右のふくらはぎ→くるぶし→足の甲の順番で下から上へさする
6.右足の先から脚の付け根に向かって大きくなでる
リンパ浮腫がない側の脚をまず刺激し、右上半身から右脚という順番でリンパ液を流していきます。
脚のリンパドレナージを自分で行う場合も、10分程度で終了してください。左脚にリンパ浮腫がある方は、左右を逆にして行いましょう。
リンパドレナージと併用する治療法
リンパ浮腫に対してリンパドレナージを行う際は、以下のような保存的治療法を一緒に取り入れることがおすすめです。
・スキンケア
・圧迫療法
・圧迫下での運動療法
リンパ浮腫の治療では、複数の方法を組み合わせる複合的治療が推奨されています。受動的なリンパドレナージだけでなく、自分で行えるほかの手法も併用しましょう。
スキンケア
スキンケアは、リンパ浮腫の患者さんがリンパドレナージと併用して取り組むべき治療法です。
特に冬のような乾燥しやすい季節は、肌荒れによって傷がついた皮膚から菌が侵入し、感染を起こすリスクがあります。入浴時はボディーソープをよく泡立て、優しく体を洗いましょう。当院では、入浴後に吸収の良い保湿剤を使用することを推奨しています。
日常生活のなかで怪我をしないよう、リンパ浮腫を起こしている部分の肌の露出をできる限り避けることも大切です。感染の原因となりやすい水虫や巻き爪は、早めに治療しておきましょう。
圧迫療法
圧迫療法も、リンパ浮腫を発症した際にリンパドレナージと併用するべき治療法です。リンパ浮腫が生じている腕や脚に、弾性スリーブや弾性ストッキングを着用します。
圧迫療法により、リンパドレナージを行なって健康なリンパ節に促したリンパ液が、戻らないようにする効果が期待できます。ほかにも血液の流れを促したり、リンパ液の漏れを防いだりも可能です。
しかし、治療に使う弾性着衣は圧迫圧が強いため装着が難しく、しわやたるみが生じると皮膚を傷つけてしまいます。専門家に適切な弾性着衣を選んでもらうときに、装着方法も指導してもらいましょう。
圧迫下での運動療法
リンパドレナージとともに行うことが推奨されるリンパ浮腫の治療法の1つが、圧迫下での運動です。
運動をし、筋肉が弛緩と収縮を繰り返してポンプのように血液を押し出すことで、循環が良くなります。弾性着衣での圧迫もすれば、装着しないときと比べ、弛緩と収縮の圧に大きな差が生まれます。
激しい運動ではなく、指や肘の曲げ伸ばし・足踏みなどのリズミカルな動きがおすすめです。脚のリンパ浮腫であれば、弾性ストッキングを履いたうえでのウォーキングも効果的です。難しく考えず、日常生活のなかで体を動かすことを意識しましょう。
リンパ浮腫には銀座リプロ式運動療法がおすすめ
リンパ浮腫に対して自宅でできる治療法として、銀座リプロ式運動療法をおすすめします。
リンパドレナージは効果が一時的であることが多く、改善を実感するには頻繁に通院する必要があります。自宅でできる方法を習っても、忙しい毎日のなかで1日数十分の時間を割くことが難しい場合もあるでしょう。
無理なく継続的に取り組みたい方は、銀座リプロ式運動療法をぜひ試してください。
銀座リプロ式運動療法の特徴
銀座リプロ式運動療法には、3つの特徴があります。
・適切な弾性着衣(必要であればオーダーメイド)での圧迫
・手または足の適切な挙上
・心地良い振動による運動効果
外からの圧迫に加えて筋肉によるポンプ作用を利用することで、血流が良くなり、リンパ液の流れが改善する効果が期待できます。
手や足の挙上は、重力の影響で手先・足先に滞っているリンパ液の流れの解消につながることから、リンパ浮腫の患者さんが意識したい生活習慣の1つです。銀座リプロ式運動療法は、リンパ浮腫のある手足を自己管理するための意識づけにも役立ちます。
銀座リプロ式運動療法のメリット
銀座リプロ式運動療法のメリットは、通院する必要がなく自宅で簡単に行えることです。テレビを見たり音楽を聴いたりしながら、朝晩ベッドの中でも簡単に行えます。
銀座リプロ式運動療法は、「忙しくリンパドレナージに通えない」「自分で毎日行うことが大変」という方におすすめです。
リンパ浮腫のセルフケアは日常生活のなかでの継続が大切であり、毎日の習慣として取り入れることで、より高い効果が期待できます。無理のない範囲で銀座リプロ式運動療法を続けながら、自分の体の変化を意識できればリンパ浮腫の悪化予防にもつながるでしょう。
効果の測定方法
銀座リプロ式運動療法では、開始から10日〜1ヵ月後に、次のような項目をもとに治療の効果を評価しています。
・皮膚の状態
・腕や脚の周径(太さ)
・体重
周径は、日本癌治療学会のがん診療ガイドラインに準じて細かく計測しており、測定箇所は以下のとおりです。
出典:図2 四肢における周径の計測部位|日本癌治療学会がん診療ガイドライン
数字で体の変化を客観的に確認できることで、治療のモチベーション向上につながるでしょう。当院では、患者さん一人ひとりに適したケア方法を提案し、リンパ浮腫の治療をサポートします
事例紹介
銀座リプロ式運動療法を行なった当院の患者さんの事例を紹介します。
がん治療後に脚のリンパ浮腫が進んでしまった患者さんに、銀座リプロ式運動療法を1~2週間行なってもらいました。治療の結果、以下のように自覚症状の軽減や脚の太さの減少といった効果を得られています。
Aさん:子宮がん術後の左下肢リンパ浮腫 | |||||
足の指の付け根 | 足首 | 膝の5cm下 | 膝の10cm上 | 脚の付け根 | |
初診時の周径(cm) | 24.0 | 24.0 | 38.0 | 45.0 | 58.0 |
2週間後の周径(cm) | 23.0 | 23.0 | 36.5 | 42.5 | 55.0 |
Bさん:子宮がん術後の右下肢リンパ浮腫 | |||||
足の指の付け根 | 足首 | 膝の5cm下 | 膝の10cm上 | 脚の付け根 | |
初診時の周径(cm) | 19.0 | 18.0 | 29.0 | 36.5 | 51.5 |
2週間後の周径(cm) | 19.0 | 17.5 | 29.0 | 35.5 | 46.5 |
銀座リプロ式運動療法は、無理なく継続しやすいうえ、効果が実感できるプログラムです。むくみの軽減や腕・脚の太さの改善により、快適な日常生活を取り戻しましょう。
リンパ浮腫の治療に関するご相談は当院へ
リンパ浮腫の治療に関するお悩みは、ぜひ一度当院にご相談ください。
リンパ浮腫は一度発症してしまうと、生涯に渡って病状が進行する可能性もあるため、早期発見・治療できるよう早めの相談がおすすめです。
当院で推奨している銀座リプロ式運動療法は、手術と併用することで高い治療効果が期待できます。ただし、手術は体力を消耗するので、がんの治療直後の方は主治医と相談のうえでお問い合わせをお願いします。
がん治療後のむくみに関する不安は、ぜひお問い合わせフォームから当院へお聞かせください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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