COLUMN

がん治療後に起こりやすいリンパ浮腫の治療方法として「保存療法」「外科治療」がありますが、手術は保存療法をしっかり行うことが前提として行われるものです。ここでは、リンパ浮腫の治療で重要な保存療法を、リンパドレナージにフォーカスを当ててご紹介します。

リンパ浮腫で保存療法が重要な理由

皮下脂肪の中を通る集合リンパ管は、その壁の中に筋肉を持っていて、自分自身の力で伸びたり縮んだりしてリンパ液を運びます。
リンパ浮腫に対して行われるリンパ管静脈吻合(LVA)は、切除してしまったリンパ節やリンパ管を再生する手術ではありません。うっ滞するリンパの流れを、静脈につなげることで血液の流れに戻してあげる治療です。リンパ浮腫の外科治療にとても早い段階で取り組むことができた場合は、リンパ液を運ぶポンプ機能が良く残存しているため、外からのドレナージが不要となることもありますが、ある程度機能が落ちている状態では、外科治療だけでなく、保存治療を行って外からもリンパの流れを促してあげることで、十分な浮腫改善効果が得られます。

保存療法の種類

保存治療の基本は複合的理学療法と呼ばれ、4つの主要素「スキンケア、医療リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法」を個別の症状に応じて実施します。

スキンケア

皮膚の清潔と保湿を保ちます。

マニュアルリンパドレナージ

医療リンパドレナージセラピストの資格を有する専門家が行うマッサージ技術で、健康なリンパ管へリンパ液を誘導します。

圧迫療法

医療用弾性ストッキングや包帯で、浮腫みの発生を抑えます。最近では、様々な種類の着衣が発売されており、症状に応じて、最適な方法を組み合わせます。

圧迫下での運動療法

患肢を圧迫した状態での運動により、筋ポンプ作用を活かして効果的にリンパ液の流れを促します。

「マッサージ」と「リンパドレナージ」の違い

リンパ浮腫の治療においては、いわゆる肩や腰の凝りをとるためのマッサージという用語に対して、リンパ浮腫の改善のために、専門のセラピストが皮膚皮下組織のリンパ液の排液を目的として優しく皮膚に対して施行する行う用手的リンパドレナージという用語を明確に区別して用います。

リンパドレナージの種類

リンパ浮腫の治療を目的としたリンパドレナージは「用手的リンパドレナージ」が主に行われます。
用手的リンパドレナージは皮膚表面の浮腫液を順次深部のリンパ系に送りこむことが目的とされますが、リンパ管と静脈の吻合を受けたあとは、理論上、用手的リンパドレナージはリンパ液の静脈への流入も増加させることになります。この意味でも、LVA手術を受けることは、用手的なドレナージを図る場合にも、排液の効率を上げることが可能となります。
また、圧迫療法や、圧迫しながら運動することにより、更に排液の効果を高めることが期待できます。

セルフリンパドレナージ

ご自身で取り組むドレナージをセルフドレナージと呼び、流れの悪くなっているリンパ節を避けて、正常な働きのあるリンパ節へ誘導するように行います。セルフドレナージを行うことの大きな意義は、毎日ご自身で腕や足を観察し、触る習慣をつけることにより、急な悪化や赤みが出るなど、異常なサインに素早く気が付く能力を高めることにも有用であると考えられます。

 

その他、リンパ浮腫の手術に関して詳しくはこちらをご覧ください。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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