リンパ浮腫(ふしゅ)は、悪性腫瘍(がん)治療後に起こりやすい病気です。
病状が進行すると関節を曲げにくくなったり、むくんだ部分が重苦しくなったりと、生活に支障をきたしかねません。体の見た目にも変化があり、外出や仕事に影響が出て思い悩んではいないでしょうか。
リンパ浮腫は重症化すると完治が難しいケースもありますが、早期に発見し、適切な治療を受けることで悪化を防げます。
本記事では、リンパ浮腫の症状や主な治療法、かかる費用について解説します。さまざまな治療法の特徴や効果などを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
リンパ浮腫の症状
リンパ浮腫の症状は進行度によって異なります。進行度は国際リンパ学会の分類に応じて、以下の0~Ⅲ期に分かれており、少しずつ進行することが特徴です。
進行度 | 症状の分類 | 主な症状 |
---|---|---|
0期 | 潜在期 | リンパ液輸送が障害されているが、浮腫が明らかでない潜在性または無症候性の病態。 |
Ⅰ期 | 軽度 | 比較的蛋白成分が多い組織間液が貯留しているが、まだ初期であり、四肢を挙げることにより軽減する。圧痕がみられることもある。 |
Ⅱ期 | 中等度 | 四肢の挙上だけではほとんど組織の腫脹が改善しなくなり、圧痕がはっきりする。 |
Ⅱ期 後期 |
組織の線維化がみられ、圧痕がみられなくなる。 | |
Ⅲ期 | 重度 | 圧痕がみられないリンパ液うっ滞性象皮病のほか、アカントーシス(表皮肥厚)、脂肪沈着などの皮膚変化がみられるようになる。 |
がん治療後に発症するリンパ浮腫の多くは、切除したリンパ節に近い部分からむくみ始め、徐々に手や足の先へと広がり、ボリュームが増大していきます。
リンパ浮腫の症状を、進行度ごとに詳しく紹介します。
初期(0・Ⅰ期)はリンパ浮腫に気づきにくい
0期の段階のリンパ浮腫は、リンパ液の流れは悪くなっているものの、初心者が見てすぐ把握できるほどの変化はありません。
Ⅰ期になると、張りや痛みを感じ始め、少しずつむくみが現れます。しかし、腕や脚を上げていればリンパ液を運ぶ働きが助けられ、症状が軽減することがほとんどです。
実際は病状が進行しているにもかかわらず、症状が消えると多くの患者さんは安心してしまいます。治ったと勘違いしてしまうと、医療機関を受診するきっかけを逃しかねないので注意が必要です。
初期はむくみ以外に、以下のような症状を感じることがあります。
・重たいような違和感
・こわばりやだるさ、疲労感
・腕や脚の曲げにくさ
・痛みやしびれ
・しわが目立ちにくくなる
・静脈の見た目の左右差
がん治療をした部位近くの腕や脚に、衣服やアクセサリーの痕が残りやすくなったらリンパ浮腫を疑って受診しましょう。
中等度(Ⅱ期)で自覚症状が強くなる
Ⅱ期になると自覚症状が強くなり、リンパ浮腫の状態としては中等度です。
Ⅱ期のリンパ浮腫は、脚や腕を上げているだけではむくみが落ち着きません。皮膚を押した際に痕が残ります。
Ⅱ期後期になると皮膚や皮下脂肪が硬くなり、押しても逆に痕が残らなくなります。以下のような自覚症状も感じられるでしょう。
・重苦しさや痛みを感じる
・皮膚の圧迫感がある
・握力が弱まる
・手首や足首が動かしにくい
・指輪や腕時計、袖口がきつく感じる
・靴が履きにくい
・正座がしにくい
中等度は、自覚症状だけでなく見た目の変化も大きくなります。一人で思い悩まず、ぜひ専門機関へ相談してください。
重度(Ⅲ期)になると生活に支障をきたす
リンパ浮腫がさらに進行して重度のⅢ期になると、日常生活に支障をきたす以下のような症状が現れます。
・階段をのぼることがつらい
・歩行が困難になる
・指先で細かい動きができない
・箸がうまく持てない
重症化したリンパ浮腫は治療が難航しやすく、社会生活にも影響を及ぼします。仕事や家事が困難になったり、外出を控えるようになったりして、精神的な負担や生活の質の低下を招くこともあるでしょう。
リンパ浮腫が重症化する前に、ただちに適切な治療とサポートを受けることをおすすめします。
リンパ浮腫の合併症に注意
リンパ浮腫は、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という合併症や、象皮病(ぞうひびょう)などの皮膚の変化を招くことがあるため注意が必要です。
蜂窩織炎は、小さな傷や水虫などからの感染が原因で起こる、皮下組織の急性炎症です。
リンパ浮腫により免疫力が低下したタイミングで蜂窩織炎にかかると、健康な人に比べて症状が重くなる傾向があります。急に皮膚が赤くなり40度近い高熱が出るうえに、ひどい場合は血液に細菌が広がり死に至ります。
象皮病とは、皮膚が象のように厚く硬くなってしまう病気です。長期的にリンパ液の流れが悪くなることで、皮下の組織が著しく増殖して発症します。象皮病は、蜂窩織炎を繰り返した患者さんが発症しやすいといわれています。
重篤な合併症を避けるためにも、リンパ浮腫が進行する前の早期治療が大切です。
リンパ浮腫の検査・診断
リンパ浮腫は、一般的に以下のような方法で検査・診断されます。
・問診・視診・触診
・リンパシンチグラフィー
・インドシアニングリーン(ICG)検査
・超音波検査
リンパ浮腫の診断は、問診と触診や超音波検査などで行う方法が一般的でした。しかし、近年は画像診断で症状の進行度を判断することが主流になっています。
問診・視診・触診
リンパ浮腫の診断で従来用いられてきた方法が、問診・視診・触診です。
むくんだ腕や脚の太さを測定し、左右差を確認したり、皮膚や血管の状態を観察したりします。患者さんにしかわからない、痛みの強さや頻度・発生する状況を細かく聞き取ることも大切です。
しかし、人間の体はもともと多少の左右差が存在し、初期のリンパ浮腫は見た目でわかる症状があまり出現していません。太さの測定や外側からのチェックだけでは、確実な診断が難しいという側面もあります。
リンパシンチグラフィー
リンパ浮腫の診断に有効な検査方法の1つが、リンパシンチグラフィーです。放射能をもつ薬剤を、以下のような検査したい場所に注射し、リンパ管に取り込まれて流れる様子を撮影し、左右差を比較します。
腕の検査をするとき | 手の指の付け根(左右両方) |
脚の検査をするとき | 足の指の付け根(左右両方) |
症状がある部分のリンパ管の働きやむくみの度合いを把握でき、組織の深層まで確認可能です。リンパシンチグラフィーにより、リンパ液の流れが正常かどうかや、滞りがある部位を視覚的に評価できます。
インドシアニングリーン(ICG)検査
インドシアニングリーン(ICG)検査も、リンパ浮腫の診断に用いられる方法です。
皮膚内部の深さ1~2cm程度の浅いところにあるリンパ管や、漏れ出ているリンパ液を確認できる検査です。
インドシアニングリーンという緑色の薬剤を、むくんでいる手や足の指の間に注射します。赤い光線をあてると、特殊なカメラを通してリンパ液の流れを調べられます。
ICG検査画像では、リンパ浮腫の進行度合いによる変化がわかるため、重症度の診断にも有用です。検査所見によって、必要な治療がおおまかに判断できる点もメリットです。
超音波検査
リンパ浮腫の診断には、超音波検査もよく使われます。超音波検査は、むくみのある手足に超音波をあて、皮膚下を画像に映し出して状態を調べる診断手法です。
超音波検査の大きなメリットは、患者さんに傷をつけることなく検査できる点です。
リンパ浮腫とよく似た症状が出る病気に、深部静脈血栓症があげられます。脚の腫れや痛みが出た際に超音波検査を使えば、リンパ浮腫か深部静脈血栓症かの鑑別ができます。
一方で、超音波検査は、貯留している成分の識別までは行えません。超音波検査のみでは早期のリンパ浮腫の診断には限界があります。
リンパ浮腫の保存的治療
リンパ浮腫治療の最初の選択肢として、以下のような保存的治療が行われます。
・圧迫療法
・圧迫下での運動療法
・リンパドレナージ
・スキンケア
保存的治療とは、人体を傷つけずに治療する方法の総称です。継続的に行うことで、症状の軽減や日常生活の質の向上が期待できます。
圧迫療法
圧迫療法は、リンパ浮腫の保存的治療のなかでも、基本的で大切な方法です。弾性包帯バンデージや弾性ストッキング・スリーブで圧迫してリンパ液をためないようにすることで、むくみを軽減できます。
正しく圧迫療法を行えば、リンパ液の流れが促進されるだけでなく、リンパ管周囲の組織間液の貯留を防ぎ、症状の進行を抑えられます。しかし、圧迫が強すぎると血液やリンパ液の流れを妨げてしまうかもしれません。
治療に用いる弾性着衣は、患部に負担をかけず、適切な圧を維持できることが重要です。毎日の生活のなかで継続しなくてはならないため、見た目の美しさや装着のしやすさ・快適さを備えた弾性着衣を専門家に選んでもらいましょう。
圧迫下での運動療法
リンパ浮腫の保存的治療として、圧迫下での運動も勧められます。
圧迫下での運動療法とは、弾性着衣や弾性包帯を着用して運動する方法です。圧迫しながら運動することで、筋肉の動きと外部からの圧力によるポンプ作用が働きます。リンパ液の流れがよくなり、むくみの改善につながります。
リンパ浮腫の予防を目的とする場合は、激しい運動をする必要はありません。腕に症状がある方は肘の曲げ伸ばしや手のグーパー、脚であれば膝の屈伸やつま先の上げ下げを行います。
リンパ浮腫の症状がある腕や脚の運動は負荷量の調節が難しいため、専門家の指示のもと実施しましょう。
リンパドレナージ
リンパドレナージも、リンパ浮腫の保存的治療としてよく用いられます。
優しくゆっくりとマッサージして、たまったリンパ液をリンパ管に誘導することで、むくみを和らげる方法です。むくんでいる腕や脚の末端から、大きなリンパ管に流すようなイメージで心臓の方向にやわらかく圧をかけていきます。
美容目的のリンパドレナージュは、圧力がかかりすぎてリンパ浮腫の悪化を招きかねません。医療者が行う用手的リンパドレナージが有効です。
しかし、リンパドレナージの効果は一時的で、時間が経つともとの状態に戻ってしまいます。自分でできる方法を指導してもらい、自宅でも取り組む必要があります。
スキンケア
リンパ浮腫の有効な保存的治療には、スキンケアもあげられます。
リンパ浮腫を発症している方は、皮膚のバリア機能が低下していることが多く、感染症にかかりやすい状態です。肌を保護するために、日頃からスキンケアを行い、清潔に保たなければなりません。
ヘパリン様物質含有クリームのような医療用の保湿剤を使用して、乾燥や肌荒れを防ぎましょう。適切なスキンケアを続けることで、感染予防とともにリンパ浮腫の悪化を防ぐ効果が期待できます。
リンパ浮腫の外科的治療
リンパ浮腫の治療では、以下のような手術も行われます。
・リンパ管静脈吻合術(LVA)
・リンパ節・リンパ管移植(LNT)
・脂肪吸引術(LS)
自分の症状に手術が必要かどうかは、専門の医師に診てもらいましょう。ただし、外科的治療でもリンパ浮腫の完治は難しいので、手術後も保存的治療を継続する必要があります。
リンパ管静脈吻合術(LVA)
リンパ浮腫の代表的な外科的治療法が、リンパ管静脈吻合術(LVA)です。
LVAは、顕微鏡下でリンパ管を切って近くの細い静脈に縫い合わせてつなぎ、リンパ液を流す手術です。基本的に局所麻酔で行われ、2cm程度の小さな傷で済むため、患者さんの負担が少なく、入院せずに手術可能が可能です。
LVAは、新たにバイパスを作ることでリンパ液の漏れや流れの改善を根本的に行う方法です。リンパ浮腫の症状が現れてすぐにLVAを行うと、特に腕の場合は術後に圧迫療法といった保存的治療が不要となる患者さんもいます。
「保存的治療を継続しているが、症状が悪化した」「急速にむくみがひどくなった」というときは、手術による治療効果が期待できます。いち早く専門医に相談しましょう。
リンパ節・リンパ管移植(LNT)
リンパ浮腫に対する外科的治療には、リンパ節・リンパ管移植(LNT)もあげられます。
LNTとは、体内から健康なリンパ節・リンパ管と周囲の血管を採取し、リンパ浮腫を起こしている部分に移植する手術です。リンパ管静脈吻合術では治療効果が見込めない、リンパ浮腫が少し進んだ患者さんにも行えます。
LNTには、リンパ浮腫の患部と、健康な組織を採取する複数の部位を傷つけるというデメリットがあります。効果が出るまでには半年から1年かかるともいわれており、長期的な経過観察が必要です。
脂肪吸引術(LS)
脂肪吸引術(LS)も、リンパ浮腫で選択されることのある外科的治療です。重症なリンパ浮腫では、脂肪組織が増大して変性するケースが見受けられます。不要な脂肪組織の除去により、むくんだ腕や脚の見た目がよくなるでしょう。
LSは重症の患者さんに多く用いられ、リンパ管静脈吻合術やリンパ節・リンパ管移植と併用される場合もあります。
脂肪を吸引する際に、リンパ管や血管も傷つけたり除去したりしてしまうため、安易な選択をしないことが推奨されます。また、LSを行なった方は生涯にわたって圧迫療法の継続が欠かせません。
リンパ浮腫の治療効果
リンパ浮腫は、早期に治療を行うことで以下のような効果が期待できます。
・むくみ・腫れの改善
・重さ・だるさの軽減
・皮膚の柔軟性向上
・感染や合併症の予防
効果には個人差がありますが、早めの対応により、よい状態をキープできる可能性が高まります。
がんという大病と闘ったあとに、体の変化に直面すると、大きなつらさを感じることでしょう。ポジティブに人生を歩むために、少しでも違和感があったときは、すみやかな受診をおすすめします。
リンパ浮腫の治療費
リンパ浮腫の治療にかかる以下のような費用は、公的保険が適用される場合があります。
・医師から指示のあった弾性着衣の購入
・保存的治療を組み合わせた複合的治療
しかし、保険適用の対象となるかどうかは症状や治療法によって決まっているため、必ず医療機関に確認しましょう。
当院では、すべての診療を保険適用で行なっています。他医療機関ならば保険適用でないインドシアニングリーン(ICG)検査は、無料で実施します。当院で手術を行う方には、自宅で行える銀座リプロ式運動療法の無料指導も可能です。
費用面で受診を諦めることなく、安心して治療を受けられるよう、信頼できる医療機関への相談をおすすめします。
リンパ浮腫の治療に関するお悩みは当院へ
リンパ浮腫の治療に関して、「もっと知りたい」「話を聞いてみたい」と思った方は、ぜひ当院へご相談ください。当院では、流れの悪くなったリンパ管を静脈につないで循環をよくするリンパ管静脈吻合術(LVA)を行なっています。
リンパ浮腫は、外科的治療のあとにも保存的治療の継続が欠かせません。
リンパドレナージは毎日行うことが重要です。当院では、自宅で簡単に行え、比較的良好な成績を残している銀座リプロ式運動療法の方法を指導しています。既製の弾性ストッキングが合わない方には、オーダーメイドストッキングを提供しています。
リンパ浮腫のお悩みは、ぜひ当院へお気軽にご相談ください。
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〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師
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永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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