腕のリンパ浮腫の症状とセルフケア・治療法|予防や早期発見が大切 | 銀座リプロ外科 東京のリンパ浮腫治療クリニック        
COLUMN

乳がんの治療後、腕がむくんだり重くなったりするリンパ浮腫を発症する患者さんがいます。軽い症状だからといって放置すると、重症化し、治療が困難となる可能性があります。

リンパ浮腫は頑張りすぎやケア不足により、発症・悪化が心配される病気です。がんと闘った体を自分でいたわり、症状の出現を予防しましょう。

本記事では、腕のリンパ浮腫の原因や症状、治療法について包括的に解説します。腕のむくみを感じたときに不安におそわれないよう、ぜひ参考にしてください。

 

腕のリンパ浮腫とは

腕のリンパ浮腫の原因と改善法

リンパ浮腫とは、リンパ管やリンパ節の損傷・機能低下により、皮膚の下にたんぱく質を含んだ体液が過剰にたまって、むくみが生じた状態のことです。腕のリンパ浮腫は乳がんの治療後に発症することが特に多く、放置を続けると症状が悪化していきます。

重症化したリンパ浮腫は生活に影響を及ぼしたり感染を起こしたりするため、早期の対策が重要です。適切なケアを行うことで症状の悪化を防ぎ、快適な生活を維持しましょう。

 

腕のリンパ浮腫が起こる原因

腕のリンパ浮腫は、以下のようながん治療の影響で起こることがあります。

・わきの下のリンパ節切除
・放射線治療や抗がん剤治療

発生時期には個人差があり、治療後すぐに発症する患者さんもいれば、数ヶ月や数年といった時間が経ってから生じる方も存在します。腕にリンパ浮腫が起こる理由を知り、自分に発症するリスクがあるか確認しましょう。

わきの下のリンパ節切除

乳がんの転移や進行を予防するためにわきの下のリンパ節を切除すると、腕にリンパ浮腫が生じることがあります。

リンパ節はリンパ管の合流地点で、免疫細胞が集まっている場所です。リンパ節の切除により、リンパ液の流れが停滞し、水分や老廃物が腕にたまってしまいます。

腕のほかに胸や背中も、わきの下のリンパ節を切除した場合にむくみやすい部位です。

ごくまれに、切除をしなくてもがんの転移を調べるための検査でリンパ節が傷つき、リンパ浮腫を生じるケースもあります。がんの闘病中は不安で満ちているかもしれませんが、受けた検査や治療を把握しておくことで、回復後の自分の役に立つでしょう。

放射線治療や抗がん剤治療

がんに対する放射線治療や抗がん剤治療でも、腕のリンパ浮腫は起こります。

放射線は治療部位周辺のリンパ管やリンパ節を損傷し、リンパ液の流れを妨げる原因の1つです。わきの下だけでなく、鎖骨周囲のリンパ節に放射線を照射した際にも、腕にリンパ浮腫を発症する可能性があります。

参考:放射線照射は続発性リンパ浮腫発症の危険因子か?|日本リンパ浮腫学会

乳がん治療に使われる抗がん剤は、副作用で出現したむくみがリンパ浮腫に移行しやすいといわれています。抗がん剤投与が終了してしばらく経っても、腕だけにむくみが残っている場合は、リンパ浮腫が生じている可能性があるため注意が必要です。

参考:タキサン系薬剤は続発性リンパ浮腫発症の危険因子か?|日本リンパ浮腫学会

がんを治療して再発を防ぐために、リンパ管やリンパ節の損傷は避けられないこともあります。リンパ浮腫発症の不安を抱え込まずに、専門医と相談しながら前向きにケアを続けて症状の出現を防ぎましょう。

 

腕のリンパ浮腫の症状は?

腕のリンパ浮腫の症状は重症度によって異なります。

多くの患者さんにとって腕のリンパ浮腫の初期症状は自覚しにくく、受診が遅れがちです。ただし、症状が進行すると皮膚が硬くなったり感染症のリスクが高まったりするため、早めのケアと専門的な治療が必要です。

リンパ浮腫の症状を進行度別に確認しましょう。

軽度|重だるさ・腫れぼったさを感じる

リンパ浮腫の初期症状として、がん治療をした胸側の腕に重だるさや腫れぼったさを感じることがあります。見た目にはほとんど変化がなくても、指輪や腕時計がきつく感じたり、痕がついたりする症状もよく見られます。

腫れぼったい感じは、腕を上げた姿勢をとることで一時的に改善する場合があるため、受診の時期を逃さないよう注意が必要です。

腕のリンパ浮腫の多くは、乳がんの治療をした胸側だけに起こります。がん治療後に腕の太さや重さに左右差を感じたら、一度専門医を受診することをおすすめします。症状が軽い段階で適切なケアを始め、悪化を防ぎましょう。

中等度|むくみが改善しにくくなる

リンパ浮腫は中等度になると、腕を上げてもむくみが改善しにくくなります。

軽度の頃には柔らかかったむくみが硬くなり、指で押したときの痕がなかなか戻りません。むくみの硬さはさらに進行していき、押しても痕がつかなくなります。

腕だけでなく全身にだるさを感じる患者さんもおり、手の上げ下ろしをともなう家事や仕事に困難さが生じることもあるでしょう。

痛みや熱っぽさにより、睡眠を妨げられる方もいます。専門的なケアが必要ですが、進行したリンパ浮腫は、治療すればすぐに改善わけではない点を認識しておいてください。

重度|皮膚や皮下組織の変化が見られる

重度のリンパ浮腫では、腕の皮膚や皮下組織に以下のような変化が見られます。

・皮膚が硬くなる
・毛深くなる
・皮膚の下に脂肪が沈着して腕が太くなる
・リンパ液が皮膚から漏れ出す

腕が太くなると、着られる衣服が制限されたり、歩くときにバランスをとることが難しくなったりして、日常生活のなかで大きなストレスを感じるでしょう。

皮膚や皮下組織が硬くなる「象皮症(ぞうひしょう)」という状態に陥ることもあります。象皮症とは、皮膚が硬く・くびれがなくなった腕や脚の状態をあらわした名前です。

リンパ浮腫が重症化した腕をもとの健康な状態に戻すことは難しいため、早期受診・治療が不可欠です。

 

腕のリンパ浮腫のセルフケア方法

腕にリンパ浮腫が生じたら、以下のセルフケアに取り組みましょう。

・スキンケアを行う
・服装に気をつける
・肥満を予防する
・体に負担をかけない

ただし、リンパ浮腫が自身のケアのみで対処できる状態かどうか、自己判断することは避けてください。専門医の診断を受け、しっかりと指導してもらったうえでセルフケアに取り組む必要があります。

スキンケアを行う

スキンケアは、腕にリンパ浮腫が生じた際に取り組みたいセルフケアの1つです。リンパ浮腫を発症した患者さんの皮膚はダメージを受けやすいため、毎日のスキンケアや保湿が重要です。

乾燥や傷によって細菌が侵入してしまうと炎症が起こり、リンパ浮腫が悪化しやすくなります。免疫機能の低下により小さな傷からでも細菌に感染し、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という重篤な炎症を起こすこともあります。

以下の点に注意して、腕の皮膚を守りましょう。

・虫に刺されても掻かない
・外出時は日焼け止めクリームを塗る
・入浴時に激しく洗わない
・入浴後に保湿クリームを使用する
・除毛や脱毛は避ける

スキンケアはリンパ浮腫の予防にも効果的であるため、乳がんの治療が落ち着いたときから始めることをおすすめします。

服装に気をつける

リンパ浮腫のセルフケアでは、リンパ液の流れを妨げず、腕を保護できる服装選びが求められます。

血液やリンパ液の流れを妨げないよう、締め付けの強い衣類や下着は避けてください。指輪や腕時計は、リンパ浮腫を生じていない側の腕につけることを習慣とすると良いでしょう。

腕の皮膚を保護するための対策も忘れてはいけません。

・ケガや日焼けを防ぐために長袖を着用する
・ガーデニングや料理の際は手袋をつける

リンパ浮腫のある腕に傷ができると血流が増え症状悪化の原因になるうえ、感染の恐れもあります。好きな服を楽しみながらも、リンパ浮腫が生じた腕を守る意識を忘れないようにしましょう。

肥満を予防する

腕のリンパ浮腫を改善するためには太りすぎないことも大切です。増えた脂肪は周囲のリンパ管を圧迫し、リンパ液の流れを悪化させる原因となります。

バランスの良い食事と適度な運動を心がけ、標準体重をキープしましょう。標準体重の計算方法は、以下のとおりです。

計算方法 身長(m)×身長(m)×22=標準体重(kg)
例:165cm 1.65(m)×1.65(m)×22=59.9(kg)

 
体重が増えると体を動かすことがつらくなり、体内の循環をさらに悪化させてしまいます。肥満に気をつけ、がん闘病を終えた毎日をイキイキと過ごしましょう。

体に負担をかけない

リンパ浮腫を発症している方は、体に負担をかけないように意識して生活する必要があります。疲労や過度な運動は、リンパ浮腫悪化の原因の1つです。

・パソコン作業を長時間するときは肘枕を置く
・腕に負担がかかったら休憩する
・重い荷物を乳がん治療をした胸側の腕で持たない
・長い時間お風呂に入らない
・寝るときはクッションを置いて腕の位置を高くする

普通に生活するだけでも、思った以上に負荷がかかっています。やりたい仕事や趣味を諦める必要はありませんが、リンパ浮腫を悪化させないためには、疲れていないかを意識的に確認することが大切です。

職場の人や家族にも協力してもらい、自分をいたわってあげることが、日々を元気に過ごすカギとなります。

 

腕のリンパ浮腫の治療法

腕に発生したリンパ浮腫の治療法は、以下のとおりです。

・用手的リンパドレナージ
・圧迫療法
・運動療法
・手術

リンパ管の機能が低下していない早期に治療を始めると、腕の状態を良く保つことにつながります。複数の方法を組み合わせればより高い効果が期待できるため、リンパ浮腫の症例の治療経験が豊富な専門医の受診がおすすめです。

用手的リンパドレナージ

用手的リンパドレナージは、リンパ液の流れを促すために専門家が行うマッサージであり、腕のリンパ浮腫に対する治療法の1つです。

流れが悪くなってしまったリンパ液を正しい場所に移動させるイメージで、健康なリンパ管やリンパ節に向かってマッサージをしていきます。

リンパ管・リンパ節の位置を正しく把握し、傷んだ皮膚を刺激しない強さで行うことがポイントです。必ず医療機関で、専門的な技術を持った人に行なってもらいましょう。

用手的リンパドレナージ直後には、多くの患者さんの腕で太さの軽減が見られたという報告があるため、ほかの治療法との併用により効果の維持が期待されます。

圧迫療法


出典:リンパ浮腫 もっと詳しく|がん情報サービス

症状に合った弾性スリーブや弾性グローブをつける圧迫療法も、リンパ浮腫に有効です。リンパ浮腫のある腕に圧力をかけ、症状の軽減や悪化予防を目指します。

治療の効果を得るためには、体や症状に合ったサイズ・タイプを選ぶことが必要です。

圧迫圧は、リンパ浮腫の進行度に応じて以下のように決まります。

リンパ浮腫の進行度 推奨される装着圧
軽度 弱圧(14〜18mmHg)
中等度 中圧(20〜25mmHg)
重度 強圧(25〜30mmHg)

参考:診療ガイドライン|日本癌治療学会がん診療ガイドライン
 

圧やサイズが合っていない弾性着衣は、リンパ浮腫を悪化させる恐れがあります。医師に相談のうえ、適切なタイプを選んでもらいましょう。日中は毎日装着するため、生活に支障を及ぼさないかどうかの確認も大切です。

運動療法

リンパ浮腫の治療では、適度な運動も勧められます。血流量が増えることでリンパ浮腫が悪化しないよう、腕に弾性着衣を装着したうえでの軽い運動がおすすめです。

運動によって筋肉を収縮させることで、ポンプ作用が働き、血液やリンパ液の流れが改善します。弾性着衣を装着していると、より大きな収縮と弛緩時の圧差を得られ、効率の良いポンプ作用が期待できます。

ただし、疲労はリンパ浮腫を悪化させる原因のため、無理は禁物です。毎日続けられるように、肘の曲げ伸ばしや指の運動程度から始めると良いでしょう。自分の治療に適した運動のレベルについては、専門家の指示を受けてください。

手術

腕のリンパ浮腫には、低下したリンパ管の機能を新しく作る手術が選択されることもあります。

・リンパ管静脈吻合術(LVA)
・リンパ節・リンパ管移植

LVAは、機能が低下したリンパ管を切開して静脈とつなぎ、リンパ液が流れる道を作る手術です。局所麻酔で行えるので入院が不要で、傷も小さくて済みます。早期の腕のリンパ浮腫なら、術後には圧迫療法が不要になることも期待可能です。

参考:リンパ浮腫の治療|国際リンパ浮腫センター

リンパ浮腫が悪化している場合はLVAによる治療効果が不十分なこともあるため、全身麻酔で健康なリンパ節・リンパ管を移植する方法がとられます。

当院で手術した患者さんの写真を見る

病院での検査は何をする?

 

腕のリンパ浮腫は当院へご相談を

腕のリンパ浮腫に関するお悩みは、当院へご相談ください。

当院の医師は顕微鏡手術を中心とした専門的な外科手術の実績があり、腕のリンパ浮腫にも対応しています。

リンパ浮腫は進行すると普段の活動にも影響を及ぼし、患者さんの生活の質を大きく低下させる可能性があります。むくみを感じたら、すぐに専門医に診てもらいましょう。

当院は完全予約制であり、初診のご予約お問い合わせは専用フォームから受け付けています。リンパ浮腫にお悩みの方は、ぜひ一度お気軽に当院へお問い合わせください。

リンパ浮腫の診察や検査を詳しくみてみる

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

所属医療機関

一覧ページに戻る

診療・手術一覧

この記事を見た人はこんな記事も見ています

一度発症すると完治が難しい「リンパ浮腫」。症状が軽ければ通常の生活を送ることができますが、重症化してしまうと治療の効果が出にくくなり、日常生活にも支障が出てきます。 しかし、発症から長期経過してしまっ…

続きを読む

リンパ浮腫患者の約30%が発症する蜂窩織炎(ほうかしきえん)。 蜂窩織炎はリンパ浮腫の特徴的な合併症のひとつで、患部が炎症を起こして細菌感染している状態です。 リンパ浮腫を発症すると、小さな傷や過労、体…

続きを読む

リンパ浮腫の治療に用いる弾性ストッキングの着用で最も大切なことは、ご自身の身体や浮腫の状態に合わせたものを使用することです。適正な着圧ではないものを使用すると、痛みやしびれが生じたり、一部の組織に負…

続きを読む

日本語ページはこちら 弾性ストッキング:リンパ浮腫と向き合う方のための銀座リプロ式弾性ストッキング Ginza Repro Surgery provides completely custom-made compress […]

続きを読む

ご予約・お問い合わせ