がん治療などに伴って発症することが多いリンパ浮腫。日常生活に影響を及ぼす可能性も。リンパ浮腫は、一度重症化すると治りにくい疾患ではありますが、予防策や適切な治療によって、良い状態を維持することができます。
今回は、リンパ浮腫を予防するためにできること、効果的なマッサージやセルフケアについて紹介します。
リンパ浮腫はなぜ起こる?
リンパ浮腫とは、リンパ液の流れが滞ることで生じる、腕や脚のむくみのことです。リンパ浮腫はなぜ起こるのでしょうか。
リンパ浮腫が起こる原因は、生まれつきの機能障害による原発性と、がん治療などに伴って発症するケースの2つに大別されます。9割以上が後者、がん治療などに伴う発症です。
がんの手術は、転移のリスクを下げるために、がんの病巣に加えて、その近くにあるリンパ節を取り除くことがあります。これをリンパ節郭清と言います。リンパ節郭清術は、リンパ液の流れを悪化させる大きな要因です。
また、放射線治療や薬物療法などによってリンパ管が傷つくことで、リンパ液が滞って、リンパ浮腫を発症することもあります。
がん治療に伴ってリンパ浮腫が起きやすいのは、乳がん・子宮がん・卵巣がんなど。乳がんの治療後は腕、子宮がん・卵巣がんの治療後は脚・脚の付け根・下腹部あたりにむくみが生じやすくなります。
むくみが起こる時期には個人差があり、がんの治療後すぐにリンパ浮腫を発症することもあれば、何年も経過してから生じるケースもあります。なかにはリンパ節郭清術を行っても発症しないこともあります。
リンパ浮腫の初期症状
リンパ浮腫は、発症初期段階からの適切な治療やケアによって、良い状態を維持することができます。したがって、早期発見が非常に重要です。
しかし、先述の通り、リンパ浮腫はいつ発症するのかわかりません。がん治療後、何年も経過してからむくみが生じる可能性もあります。リンパ浮腫の初期症状を知り、症状が出たらすぐに気づけるようにしましょう。
次のような症状は、リンパ浮腫の初期症状の可能性があります。
- 手足がだるく、重い感じがする
- 疲れやすい
- 指輪、腕時計、靴などがきつくなる
- 部分的なむくみを感じる
- むくみで静脈が見えなくなる
- 腕や脚の太さに左右差が出てくる
また、早期発見するために大切なのが、むくみが生じやすい場所の定期的な自己チェック。
治療するがんの種類によって、むくむ可能性がある場所は事前にわかります。手術前に太さを測定しておきましょう。がん治療後、むくみが生じやすい場所の太さを定期的に測定し、手術前と比較します。太さは一日の中での変動もあるため、時間を決めて測ります。
初期症状を感じたり、定期測定で手術前後の差が大きくなってきたりした場合には、リンパ浮腫専門の医師に相談しましょう。
リンパ浮腫が悪化するとどうなる?
リンパ浮腫を放置して悪化すると、日常生活に支障を及ぼすこともあります。だんだんとむくみが改善しにくくなり、重苦しさや痛みを感じたり、肌の乾燥が気になったりするのは悪化しているサインです。さらに悪化すると、細菌に感染して蜂窩織炎になったり、皮膚の表面が硬くなったりすることもあります。
悪化させないためにも、早期に治療を開始することが非常に重要です。
リンパ浮腫のときに行うマッサージ
リンパ浮腫に対して行うマッサージを、リンパドレナージと言います。ドレナージは「排液」という意味です。リンパドレナージは、滞ってしまったリンパ液を正常に働いているリンパ節に誘導するマッサージで、優しくソフトな手技が特徴です。エステなどの美容リンパドレナージュとは、異なります。
リンパ浮腫の治療として、専門機関にて行われているリンパドレナージですが、ご自宅で実践可能なセルフマッサージもあります。医師の指示に従って行いましょう。むくみが軽減しない場合は、セルフマッサージを中止して、医師に相談してください。
上肢のマッサージ
ご自宅で行うことができる、上肢のセルフリンパドレナージを紹介します。
乳がんなどで脇の下のリンパ節を切除すると、腕、つまり上肢のリンパ液の流れが滞りやすくなります。
上肢のセルフリンパドレナージとは、流れが悪くなっている治療した側のリンパ節を避けて、正常に働いている反対側のリンパ節(反対側の脇の下)までリンパ液を誘導するために行うマッサージのことです。
腕が怠いなど疲れたときや、軽いむくみを感じたときに行ってください。時間は、10~15分程度、無理のない範囲で行いましょう。
マッサージのポイントは、手のひら全体を肌に密着させること、そして強く揉むのではなくゆっくりさすることです。
まずは、マッサージ前の準備体操から。
①肩回し(10回)
鎖骨が動くくらい、両腕を前から後ろに大きく回します。
②腹式呼吸(5回)
下腹部に軽く手を添えて、口からゆっくり息を吐きだし、お腹をへこませます。鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を膨らませます。
準備体操を終えたら、上肢のマッサージに入っていきます。
- 手術していない側の脇の下に手を当て、円を描くように回します(20回)
- 手術した側の肩から、鎖骨下の前胸部を通り、手術していない側の脇の下まで軽くさすります(10回)
- 手術した側の肩に手を当て、包むように軽くさすります(5~10回)
- 手術した側の二の腕を、肘から肩に向かって軽くさすります(外側・内側・後ろ側 各5~10回)
- 手術した側の前腕を、手首から肘に向かって軽くさすります(前・後面 各5~10回)
- 手術した側の手を、指先から手首に向かって軽くさすります(手の甲・手のひら 各5~10回)
- 最後に、⑥⇒⑤⇒④⇒③⇒②の順で、手術していない側の脇の下に戻るようにマッサージします
下肢のマッサージ
ご自宅で行うことができる、下肢のセルフリンパドレナージを紹介します。
子宮がん・卵巣がんなどで、脚の付け根のリンパ節を切除すると、下肢のリンパ液の流れが滞りやすくなります。
下肢のセルフリンパドレナージとは、流れが悪くなっている脚の付け根のリンパ節を避けて、正常に働いている同側リンパ節(同側の脇の下)までリンパ液を誘導するために行うマッサージのことです。
左右どちらにリンパ浮腫が生じやすいかわからない場合は、医師に相談してからマッサージを行ってください。
まずは、上肢と同様、マッサージ前の準備体操を行います。
準備体操を終えたら、下肢のマッサージに入っていきます。
- むくみが生じている脚と同側の脇の下に手を当て、円を描くように回します(20回)
- むくみが生じている側の腰から、体側を通り、同側の脇の下まで軽くさすります(10回)
- むくみが生じている側のおしりを、腰骨に向かって軽くさすります(10回)
- むくみが生じている側の太ももを、膝からお尻の横側に向かって軽くさすります(太ももの外側・内側・後ろ側 各5~10回)
- むくみが生じている側の膝を上に向かって軽くさすります(膝の前・内側・外側・くぼみ 各5~10回)
- むくみが生じている側の脛を、足首から膝に向かって軽くさすります(各5~10回)
- むくみが生じている側のふくらはぎを、足首から膝裏に向かって軽くさすります(各5~10回)
- むくみが生じている側の内・外くるぶしのまわりを、円を描くように軽くさすります(各5~10回)
- むくみが生じている側の足を、つま先から足首に向かって軽くさすります(各5~10回)
- 最後に、⑨⇒⑧⇒⑦⇒⑥⇒⑤⇒④⇒③⇒②の順で、脇の下に戻るようにマッサージします
マッサージ以外でリンパ浮腫を予防するためにできること
リンパ浮腫の発症を100%防ぐ方法はありませんが、予防のためにできることはあります。普段の生活の中で実践できる予防法や気を付けたいポイントを見ていきましょう。
- こまめに休憩するなど、無理をしない
- 適度な運動を心がけ、激しい運動を控える
- 体の一部分を締め付ける下着やアクセサリーを着用しない
- 体重を増加させない
- 長時間入浴しない
- むくみを感じるときは、布団の下にクッションなどを入れて、腕や脚を少し高くして寝る(下肢の場合、腰痛防止のため両足を上げる)
- 重いものを持たない(上肢)
- 同じ姿勢を取り続けないようにし、脚組みも避ける(下肢)
- ヒールが高いパンプスやきつい靴は履かない(下肢)
腕や脚に負担がかからないよう心がけて生活することが大切ですね。
また、スキンケアも非常に大切です。リンパ液が滞ることで、感染が起こりやすくなります。感染防止のために、皮膚を清潔に保ち、しっかり保湿して、長袖の衣類などでケガからも守りましょう。
リンパ浮腫の治療なら銀座リプロ外科
銀座リプロ外科は、リンパ浮腫の診察・治療を行っています。
当院では、完全オーダーメイドの弾性ストッキングを提供しています。サイズが合っていない弾性ストッキングは、リンパ液の流れを悪くしてしまうこともありますので注意が必要です。また、適正な着圧でないと、しびれや痛みを引き起こすこともあります。
ちょうどいいサイズが見つからない、しびれを感じる、どこで購入すればいいのかわからない…、といったお悩みがありましたら、一度、銀座リプロ外科にご相談ください。
また、「銀座リプロ式リンパドレナージ」も提供しています。これは、定期的に通院が必要な医療リンパドレナージではなく、毎日ご自宅で継続して行えるマッサージです。当院での「銀座リプロ式リンパドレナージ」体験後、ご自宅にて継続して行っていただきます。リンパ浮腫の治療効果に加えて、気持ちいいことも特徴のひとつです。
リンパ浮腫の治療は、保存的治療と外科的治療を組み合わせて行う必要があります。
当院では、高度な技術が必要とされる、リンパ管静脈吻合術(LVA)を中心に治療しています。
リンパ浮腫は、早期発見・早期治療が鍵です。リンパ浮腫かもしれない、と感じたら、早めに銀座リプロ外科にご相談ください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師
永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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