リンパ浮腫にマッサージは効果的?症状の進行を予防するセルフケアも | 銀座リプロ外科 東京のリンパ浮腫治療クリニック        
COLUMN

「リンパ浮腫を自分でどうにか治したい」と、マッサージの方法をお探しではないでしょうか。

リンパ浮腫に対するマッサージは、専門家が行う「用手的リンパドレナージ」と、患者さん自身で取り組む「セルフリンパドレナージ」に分かれます。マッサージを受けると、一時的なむくみの改善が期待できます。

しかし、悪化予防のためには、毎日のセルフケアにより、リンパ浮腫のある腕や脚を適切に管理することも大切です。

本記事では、リンパマッサージの方法と適切なセルフケア、リンパ浮腫の治療法について解説します。リンパ浮腫と上手に付き合いながら、快適な毎日を過ごすために、ぜひ参考にしてください。

 

リンパ浮腫とは

リンパ浮腫とは、リンパ管・リンパ節の機能低下により体液の循環が悪化したり、リンパ液がうまく流れなかったりして腕や脚がむくむ病気です。多くは、がんの手術におけるリンパ節の切除や、放射線・一部の抗がん剤治療が原因で発症します。

リンパ浮腫は進行するうえ、発症すると完治は難しい点が特徴です。リンパ浮腫が起こるメカニズムと、症状について説明します。

なぜ起こる?

リンパ浮腫が起こる原因は、生まれつきの機能障害による「原発性」と、がん治療や感染症などにともなって発症する「続発性」の2つに大別されます。日本国内では、リンパ浮腫患者さんの多くが、がん治療を原因とした発症です。

人体には、毛細血管という細い血管が張り巡らされています。毛細血管の壁にある小さな穴からは1日に約20リットルの水分が漏れ、組織液となります。そのうち、毛細リンパ管に回収された一部の組織間液が、リンパ液です。

リンパ液は、リンパ節を通り、胸管(きょうかん)・右リンパ本幹という太いリンパ管に集合しながら、心臓に近い静脈に向かって体内を循環します。

リンパ管機能の低下により体液の循環が正常に行われず、組織内に水分やタンパク質が滞ることが、リンパ浮腫の起きる仕組みです。

がんの手術では、転移のリスクを下げるために、病巣に加え、近くにあるリンパ節を取り除くことがあります。リンパ節の切除は、リンパ液の流れを悪化させる大きな要因です。

放射線治療や薬物療法などによってリンパ管が傷つくことで、リンパ液の流れが滞り、リンパ浮腫を発症する場合もあります。

初期症状は?

がんの治療をした近くの腕や脚に以下のような兆候があったら、リンパ浮腫の初期症状が疑われます。

・腕や脚が重だるい
・疲れやすくなった
・皮膚がつまみにくい
・指輪や腕時計の痕がつく
・静脈が皮膚の上から見えにくい
・腕や脚の太さが左右で違う

治療したがんによって、リンパ浮腫を発症する可能性がある場所は決まっていることが特徴です。乳がんの場合は治療した胸側の腕やわきの下、子宮頸がんのような婦人科がんを経験した方は、脚の付け根や下腹部・陰部がむくみやすくなります。

リンパ浮腫は、発症初期段階からの適切な治療やケアによって、良い状態を維持できる可能性が高まります。しかし、いつ発症するかはわかりません。がん治療後、何年も経過してからむくみが生じる方もいます。

リンパ浮腫を発症するリスクのある部位と初期症状を知り、違和感が出たらすぐに気づけるようにしましょう。

悪化するとどうなる?

リンパ浮腫を放置して悪化すると、日常生活に支障をきたすこともあります。以下のような症状は、リンパ浮腫が悪化しているサインです。

・休んだり寝たりしてもむくみが改善しにくくなった
・重苦しさや痛みを感じる
・肌の乾燥が気になる
・関節が曲げにくくなる

さらに悪化すると、細菌に感染して蜂窩織炎になったり、皮膚の表面が硬くなったりします。「太くなってしまった腕や脚のために仕事や家事が思うようにできない」「痛みで眠れない」といった患者さんもいます。

リンパ浮腫を悪化させないためには、早期に治療を開始することが非常に重要です。

 

リンパ浮腫のときに行うマッサージとは?

リンパ浮腫に対して行うマッサージを、リンパドレナージといいます。ドレナージとは「排液」という意味です。

リンパドレナージは、滞ってしまったリンパ液を正常に働いているリンパ節に誘導するマッサージで、優しくソフトな手技が特徴です。エステで行われる美容リンパドレナージュとは異なります。

リンパ浮腫の治療として、用手的リンパドレナージは専門機関で行われていますが、自宅で実践可能なセルフマッサージもあります。

自分でマッサージをする場合は、必ず医師の指示に従って行いましょう。むくみが軽減しない場合は、セルフマッサージを中止し、医師に相談してください。

リンパ浮腫の治療には用手的リンパドレナージ

プロが行うリンパ浮腫治療のマッサージが、用手的リンパドレナージです。

手のひらでゆっくりと皮膚を動かすように柔らかく圧をかけ、むくみのある部分に滞ったリンパ液を、健康なリンパ管・リンパ節に誘導します。実施直後は、リンパ浮腫のある腕や脚の太さが改善するという報告もあります。

リンパ管やリンパ節の位置や、リンパ液の流れる方向をしっかりと理解している専門家の施術を受けてください。

マッサージにリンパ浮腫の予防効果があることは証明されていないため、まだ発症していない方は行う必要はありません。

腕のセルフマッサージ

リンパ浮腫に対して自分で行うマッサージである、腕のセルフリンパドレナージを紹介します。

腕のセルフリンパドレナージは、乳がんでわきの下のリンパ節を切除し、上肢のリンパ液の流れが滞っている方向けの方法です。治療した胸側の腕から正常に働いている反対側のリンパ節(わきの下)までリンパ液を誘導します。

腕が疲れたり軽いむくみを感じたりしたときに行なってください。10~15分程度の時間で、無理のない範囲で行いましょう。

マッサージのポイントは、手のひら全体を肌に密着させ、強く揉まずゆっくりさすることです。

はじめに、マッサージ前の準備体操を行います。肩と両腕を前から後ろに10回鎖骨が動くくらい大きく回します。

次は腹式呼吸5回です。下腹部に軽く手を添えて口からゆっくり息を吐き出し、お腹をへこませましょう。すべて吐ききってから鼻でゆっくり息を吸い込み、お腹を膨らませます。

準備体操を終えたら、上肢のマッサージに入っていきます。以下の手順は、右上肢にリンパ浮腫が起きている場合の例です。

1. 左わきの下に手を当て、円を描くように回す(20回)
2. 右肩・鎖骨下・胸の順で、左わきの下まで軽くさする(10回)
3. 右肩に手を当てて包むように軽くさする(5~10回)
4. 右二の腕を肩に向けてさする(外側・内側・後面 各5~10回)
5. 右手首から肘を軽くさする(前・後面 各5~10回)
6. 右指先から手首に向けて軽くさする(手の裏と表 各5~10回)

最後に6・5・4・3・2の順番で、左のわきの下に戻るようにマッサージしてください。左腕がむくんでいる人は、左右を逆にして行いましょう。

脚のセルフマッサージ

下肢にリンパ浮腫がある方に向け、自分でできるマッサージ法のセルフリンパドレナージを紹介します。

子宮体がん・子宮頸がん・卵巣がんなどで、脚の付け根のリンパ節を切除すると、下肢のリンパ液の流れが滞りやすくなります。

下肢のセルフリンパドレナージは、流れが悪くなっている脚の付け根から、同側のわきの下にある健康なリンパ節までリンパ液を誘導するイメージで行いましょう。

まずは、上肢と同様に、マッサージ前の準備体操として肩回し10回と腹式呼吸5回を行います。

準備体操を終えたら、下肢のマッサージに入っていきます。下記の手順は、右下肢にリンパ浮腫を発症している場合の例です。

1. 右わきの下に手を当て、円を描くように回す(20回)
2. 右の腰から右わきの下までを軽くさする(10回)
3. 右のおしりを腰骨に向かって軽くさする(10回)
4. 右膝からおしりを軽くさする(外側・内側・後面 各5~10回)
5. 右膝を上方向に軽くさする(前・内側・外側・裏 各5~10回)
6. 右のすねを足首から膝に向かって軽くさする(各5~10回)
7. 右ふくらはぎを足首から膝裏へ軽くさする(各5~10回)
8. 右内・外くるぶしを円を描くように軽くさする(各5~10回)
9. 右つま先から足首を軽くさする(各5~10回)

最後に、9・8・7・6・5・4・3・2の順で、わきの下に戻るようにマッサージしてください。左下肢がむくんでいる人は、左右を逆にして行いましょう。

 

リンパ浮腫|進行予防のためのセルフケア

マッサージ以外でリンパ浮腫を予防するためにできること

マッサージとあわせてリンパ浮腫の進行予防のためにできるセルフケアは、以下のとおりです。

・体に負担をかけない
・リンパ浮腫のある腕や脚を大切にする
・スキンケアを行う
・体重管理に気をつける

リンパ浮腫を発症しても、軽度であればセルフケアを続けながら日常生活を送れます。普段の生活のなかで実践できることや、気をつけたいポイントを見ていきましょう。

体に負担をかけない

体に負担をかけないことは、リンパ浮腫の進行予防のためにできるセルフケアの1つです。以下のような生活上の注意点を確認し、リンパ液の流れを妨げないような工夫を取り入れてください。

・こまめに休憩する
・無理をしない
・激しい運動を控える
・体の一部分を締め付ける下着やアクセサリーを着用しない
・体重を増加させない
・長時間入浴しない

適度な運動は体重管理やリンパ浮腫予防に役立つため、無理のない範囲のスポーツは我慢する必要はありません。心配な方は、自分の生活習慣について医師・専門家に相談することをおすすめします。

リンパ浮腫のある腕や脚を大切にする

リンパ浮腫の進行を予防するためのセルフケアとして、症状のある腕や脚を大切に管理することも挙げられます。

むくみを感じるときは、布団の下にクッションを入れ、腕や脚を少し高くして寝ましょう。片脚だけ高くすると腰が痛くなる可能性があるため、必ず両脚を上げてください。

腕のリンパ浮腫の進行を防ぐために、乳がん治療後の方は、がんがあった胸側の手で重い荷物を持たないことも大切です。

下肢にリンパ浮腫が出現するリスクのある子宮がん、卵巣がんなどの婦人科がん治療後の人は、脚を組んだ姿勢や正座を避けましょう。ヒールが高いパンプスやきつい靴を履かないことも、脚に負担をかけない工夫として挙げられます。

症状のある腕や脚の管理は、長期間にわたる可能性があるリンパ浮腫との付き合いのなかで、身につけておきたい習慣です。

スキンケアを行う

スキンケアも、リンパ浮腫の進行を防ぐために大切なセルフケアです。リンパ液の流れが滞ることで、細菌に感染するとリンパ管で炎症が起こり、症状が悪化してしまいます。

リンパ浮腫の生じた部位の皮膚は薄くなり、外からの刺激に対する防御力が下がってしまいます。リンパ浮腫患者さんのスキンケアのポイントは、以下の3つです。

ポイント 具体的な行動
保清 肌に合った石けんやボディソープをしっかり泡立てて優しく洗う
保湿 入浴後は肌に合ったローション・クリームで保湿する
保護 ・ケガに気をつける
・外出時は長袖・長ズボンを着用する
・料理の際は手袋を装着する

 

肌を傷つける可能性のある脱毛・除毛や日焼けにも、十分に注意する必要があります。

皮膚を清潔に保ち、潤いを与え、外部刺激から保護して、バリア機能が働きやすい状態を持続させましょう。

体重管理に気をつける

体重管理も、リンパ浮腫の進行予防につながります。

脂肪が増えすぎると、リンパ管を圧迫して体液の循環を妨げる原因となります。食事のバランスを見直し、BMI22の適正体重を維持しましょう。

自身の適正体重は、以下の計算式で確認可能です。

身長(m)×身長(m)×22=適正体重

体重は、増減しすぎると健康に良くありません。健やかな毎日を過ごすためにも、ストレスのない範囲で生活を見直し、問題があれば改善することが大切です。

 

リンパ浮腫|リンパドレナージ以外の治療法

リンパ浮腫の治療におけるリンパドレナージ以外の方法は、以下のとおりです。

・圧迫療法
・圧迫下での運動療法
・手術

1つの治療法を採用するだけでなく、複数の方法を組み合わせることが推奨されます。リンパ管機能が悪化しすぎていないうちに治療を開始することで、高い効果を得られる可能性が高まります。

圧迫療法

圧迫療法は、リンパ浮腫の治療で推奨される方法の1つです。弾性着衣や弾性包帯を使用して症状のある腕や脚を圧迫し、リンパ液の貯留を防ぎます。圧迫により腕・脚をいつも良い状態に保つことで、症状の悪化防止も期待可能です。

圧迫療法に使う弾性着衣は、リンパ浮腫の重症度に応じて異なります。症状が軽いうちは低い圧迫圧の弾性着衣が用いられ、病気が進行すると強い圧力の製品を選ばなければなりません。

むくみが出現している部位によっても適切なタイプが異なるので、自己判断で弾性着衣を購入することは避けましょう。圧迫療法を開始する際は、専門家の指導のもと、正しい知識を持って取り組んでください。

圧迫下での運動療法

リンパ浮腫の治療には、圧迫下での運動療法もあります。

弾性着衣を装着して運動することで、筋肉が収縮と弛緩をしたときに圧が大きく変化します。筋肉のポンプ作用により周りの血液循環を促せ、むくみの改善が期待可能です。

毎日続けても苦にならない程度の負荷に設定することが、運動を継続するポイントです。

脚にリンパ浮腫がある方には、弾性ストッキングを履いたうえでのウォーキングや、足踏み運動などをおすすめします。腕のリンパ浮腫であれば、弾性スリーブを装着して指や手の運動をすると良いでしょう。

リンパ浮腫の進行を予防するためには、むくみのある腕や脚の筋肉量を維持し、筋ポンプの作用をうまく使うことが求められます。

手術

リンパ浮腫の治療では、状態に応じて以下のような手術が勧められる場合もあります。

・リンパ管静脈吻合術(LVA)
・リンパ管・リンパ節移植術(VLNT)
・脂肪吸引術(LS)

LVAとVLNTは、手術でリンパ管の流れを新しく作る方法です。

顕微鏡を使って流れの悪くなったリンパ管を切り、近くの細い静脈に縫い合わせてつなぐ術式をLVAといいます。VLNTでは、体の健康な部分から正常なリンパ節を採取し、リンパ浮腫が生じている部位に移植します。

リンパ浮腫が進行して皮膚の下に組織が沈着した場合に、除去する手術がLSです。LSは、LVAやVLNTと併用される場合もあります。

出術を行うことによってリンパ浮腫のある腕や脚の太さが改善したり、圧迫療法が不要になったりするといった症例もあり、手術を受けるメリットは大きいといえます。

 

リンパ浮腫の治療は当院へご相談を

リンパ浮腫の治療法をお探しの方は、当院へご相談ください。

リンパ浮腫の治療は、マッサージだけでなく、圧迫療法といった保存的治療と手術を組み合わせて行う必要があります。当院では、高度な技術が必要とされる、リンパ管静脈吻合術(LVA)を中心とした治療を実施しています。

治療とあわせて行う、ご自宅でのセルフケアについても指導可能です。

リンパ浮腫は、早期発見・治療が腕や脚の状態を良く保つ鍵です。「リンパ浮腫かもしれない」と感じたら、ぜひお早めに当院の初診をご予約ください。

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この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 形成外科センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。形成外科診療科部長を経験する(基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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