陰のうに違和感があり、インターネットで見知らぬ病名を目にして「精巣上体炎とはどのような病気だろうか」と不安を感じていませんか。
受診が恥ずかしいからといって違和感を放置すると、将来「パートナーとの子どもを授かりたい」と思った際に悪影響が出る可能性があります。適切に治療するには、精巣上体炎と似た病気との鑑別が必要です。
本記事では、精巣上体炎の症状や原因、検査・治療の流れを詳しく解説し、「女性にうつさないかな」という疑問に答えます。気になる違和感を抱えたままにせず、情報を整理するために、ぜひ最後までご覧ください。
精巣上体炎とは|見た目でわかる?
精巣上体炎とは、精巣の後ろ側に位置し、上から下まである精巣上体が炎症を起こし、陰のうに腫れや痛みが生じる病気です。精巣上体は精巣で造られた精子を一時的に保管し、運動能力や受精する力を獲得させる器官です。
精巣上体炎では、痛みだけでなく腫れ・赤みといった外見的変化も起こるので、見た目で異変に気づく人もいます。
精巣上体炎の症状や原因について詳しく紹介します。
症状
精巣上体炎の主な症状は、以下のとおりです。
・陰のうに腫れ・痛みが生じる
・陰のうが赤く・硬くなる
・陰のう内に膿(うみ)が溜まる
・下腹部に痛みを感じる
・全身症状(発熱・悪寒・全身のだるさ)が見られる
症状の多くは、炎症を起こしている側の陰のうの痛みから始まります。最初は鈍痛や押した際に痛い程度でも、放置すると時間とともに痛みが悪化し、いすに座っていることも難しくなるでしょう。
精巣上体炎は、全身症状をともなう急性と、局所的な症状が3ヵ月以上つづく慢性に分けられます。炎症が精管や精索に広がり、精管炎・精索炎となる恐れもあるため、症状に気づいた時点ですみやかに泌尿器科を受診し、検査を受けることが大切です。
原因
多くの精巣上体炎の原因は、細菌感染です。細菌が原因で起こるケースは細菌性精巣上体炎と呼ばれます。尿道から入った細菌が、精管を通って精巣上体に広がり炎症を起こします。
性的活動が活発な35歳未満の若い世代の精巣上体炎で多く見られる原因細菌は、淋菌やクラミジアです。35歳以上になると、泌尿器科系の病気やカテーテル治療などをきっかけに大腸菌が尿道に入り、尿路感染から精巣上体炎を起こす方が多くなります。
細菌感染が原因ではない場合の病名は、非細菌性精巣上体炎です。非細菌性精巣上体炎の発症は、過去の細菌性精巣上体炎、過去の精巣上体の打撲、過去のパイプカット手術、精索静脈瘤による血流障害などが多く、頻度は少ないものの、免疫機能が低下しているとウイルスや真菌でも発症します。
精巣上体炎を疑ったら泌尿器科へ|検査と治療法
精巣上体炎が疑われる症状がある際は、泌尿器科を受診しましょう。陰のうに腫れや痛みが出現する疾患は、精巣上体炎以外にも数多くあるため、各種検査をしっかりと受け、別の病気と見分けてもらうことが必要です。
泌尿器科で行われる検査と治療を紹介します。
検査
陰のうが腫れて精巣上体炎が疑われる際は、泌尿器科で以下のような検査が行われます。
検査方法 | 検査内容 |
---|---|
問診 | 発症時期や腫れ・痛みの経過・パイプカットの既往などを聴取する |
触診 | 腫れや圧痛の有無を確認する |
尿検査 | 細菌感染の有無を確かめる |
培養検査 | 原因細菌を特定する |
血液検査 | 炎症の程度を確認する |
超音波検査 | 精索静脈瘤・精巣腫瘍・精索捻転症ではないかを確認する |
陰のうに急激な痛みが生じ、迅速な対応を要する病気の1つが精索捻転症です。精巣上体炎の検査では、まず精索捻転症でないかの確認が重要です。
細菌感染による精巣上体炎の場合は、尿スワブ検査や尿培養によって原因菌が特定できます。尿スワブ検査とは、尿道に綿棒状の器具を挿入し、分泌物を採取する検査です。
原因菌が特定できれば、感染経路が推測されます。原因菌の種類によって治療に用いる抗菌薬が変わるため、正確な特定が非常に大切です。細菌性ではなく、精索静脈瘤が合併していれば、精索静脈瘤手術を検討します。
治療法
検査によって精巣上体炎と診断された場合は、以下の治療法が選択されます。
・抗菌薬の使用
・患部の安静・冷却
・痛み止めの内服
・精索静脈瘤を合併していれば精索静脈瘤手術を検討
抗菌薬は、検査で判明した原因菌に応じて処方されます。症状が強いときは、安静が必要なため入院して点滴が行われ、落ち着いてきたら内服に切り替えることもあるでしょう。
陰のうは、動きを制限するためにサポーターで固定します。サポーターで陰のうを挙上すると、痛みが軽くなることがあります。
性交渉による精巣上体炎であった場合は、パートナーも感染している可能性があるため同時に治療することが必要です。
精巣上体炎を放っておくとどうなる?
精巣上体炎を治療せずに放っておいた際に考えられるリスクは、以下のとおりです。
・男性不妊の原因になる
・女性にうつる可能性がある(細菌性の場合)
デリケートな部位を見せたくない気持ちから受診をためらっていると、将来的に大きなリスクを背負うことになるかもしれません。パートナーにつらい思いをさせないためにも、症状に気づいたら、すみやかに泌尿器科で診察・検査を受けましょう。
男性不妊の原因になる
男性不妊に陥る恐れがあることは、精巣上体炎を放置した際のリスクの1つです。男性不妊とは、子どもを望んで性交渉をしていても、男性側に原因があって1年以上妊娠に至らない状態を指します。
精巣上体は精巣から精管までの途中に存在し、精子の通り道となる部位です。精巣上体で炎症が起こり精巣上体管が閉塞すると、精液中の精子が少なくなったり、まったく射出されなくなったりするでしょう。
精子の通り道が閉塞した男性がパートナーの自然妊娠を望む場合は、手術で再開通させなくてはならないこともあります。
女性にうつる可能性がある
精巣上体炎は、原因菌によっては女性にうつる可能性があります。淋病やクラミジアのような性感染症が原因の精巣上体炎だった場合は、治療せずに性行為を行うことで女性も感染してしまいかねません。
淋病・クラミジアは、以下のような病気の発症につながり、女性不妊のリスクを高めます。
淋病 |
・卵管炎 ・子宮内膜症 |
---|---|
クラミジア | 子宮頸管炎(卵管閉塞・着床障害) |
パートナーの女性が妊娠していた場合は、母子感染が起こり、赤ちゃんが肺炎や結膜炎になってしまう恐れがあります。
保菌者であることに気づかず、すでに性的接触をしてしまっていた方は、必ずパートナーにも診断結果を伝え、一緒に治療してください。
精巣上体炎に似ている病気
以下の病気は精巣上体炎に似た症状が現れるため、検査での鑑別が必要です。
・前立腺炎
・精索捻転症
・陰嚢水腫
・精巣腫瘍
・精索静脈瘤
・神経痛
緊急性があったり、命にかかわったりする病気の可能性もあり、陰のうの違和感を放置することは危険です。精巣上体炎に似ている病気について詳しく確認しましょう。
前立腺炎
精巣上体炎に似ている病気の1つが、前立腺炎です。前立腺とは、男性の膀胱の下に尿道を取り囲むように存在し、精液の一部である前立腺液を分泌する器官です。
前立腺に細菌が侵入すると、炎症が起こることがあります。急性前立腺炎の場合は、高熱や排尿時の痛み・排尿障害といった症状が出ます。
炎症の持続や繰り返す再発が特徴の慢性前立腺炎や、非細菌性前立腺炎の主な症状は、頻尿や残尿感、射精時の疼痛などです。精巣上体炎と同じような、会陰部・陰のう・下腹部の違和感や鈍痛も出現します。
精索捻転症
精索捻転症は、精巣上体炎と同じように陰のう周辺の痛みをともなう病気です。精管や血管・神経・リンパ管が束になった精索がねじれ、精巣への血流が断たれてしまうので、激しい痛みや嘔吐が突然起こる可能性があります。
精索捻転症を発症して6時間以内、遅くとも12時間経過するまでにねじれを戻さなければ精巣が壊死する恐れがあり、緊急手術が必要です。医師の手により皮膚の上からねじれを戻せた場合でも、多くは再発予防のために左右両方の精巣を固定する手術を行います。
精索捻転症は、12〜18歳の思春期男子に多く起こります。
陰嚢水腫
精巣上体炎と同様に陰のうが腫れる病気が、陰嚢水腫です。陰嚢水腫は精巣水瘤とも呼ばれ、精巣の周りに水が溜まる疾患です。生まれたばかりの男児に多く見られますが、年齢を問わず何歳でも発症する可能性はあります。
子どもの陰嚢水腫は、胎児期に腹膜の一部が閉じきらず、お腹の中の水分が陰のうに溜まることで起こる仕組みです。多くは成長とともに自然に治ります。
大人の場合は、炎症や外傷・腫瘍・手術の影響で陰嚢水腫を発症しますが、原因不明のケースも多く見られます。痛みや男性機能への影響が基本的にないため、必ずしも治療が必要とは限りません。
膨らみが大きくなって日常生活に支障が出たり、見た目が悪くなったりした際は、手術を行うことがあります。
精巣腫瘍
精巣腫瘍は、精巣上体炎のように陰のうに腫れが生じる病気です。20~30代の若い男性に多く発症し、痛みをともなわない腫れやしこりが症状の特徴です。
精巣にできる腫瘍は悪性(がん)であることが多く、すみやかに治療しなければ全身に転移して命にかかわる恐れがあります。症状の進行スピードが速い場合もあるため、早期に泌尿器科で超音波検査を受けることが大切です。
精巣腫瘍の進行度合いに応じて、手術・抗がん剤・放射線を組み合わせた治療が検討されます。
精索静脈瘤
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)も、精巣上体炎と似た症状が出る病気の1つです。精索静脈瘤は、精索にある静脈の血液が逆流し、血管が瘤(こぶ)のように拡張した状態で、発症すると以下のような体の変化が現れます。
・陰のうの腫れ
・陰のう表面の血管の隆起
・陰のうの痛み・違和感・重だるさ
・左精巣の萎縮または左右差
精索静脈瘤があると慢性精巣上体炎を合併することがあります。
男性の体の構造上、左の精索静脈のほうが逆流しやすく、80~90%の確率で左側に発症します。血液の逆流により精巣の温度上昇や酸化ストレスの増加が起こり、造られる精子のDNAが損傷・精液所見が低下し、不妊の原因となる点に注意が必要です。
精索静脈瘤は進行性の疾患で、治療しない限り治りません。一般男性の15%、男性不妊の方の40%が精索静脈瘤を発症しているといわれており、頻度が高い病気です。泌尿器科での診察・超音波検査で診断され、逆流静脈を糸でしばる手術による治療が行われます。
精巣上体炎だと思っている症状は精索静脈瘤かも
陰のうの腫れや痛みを感じて「精巣上体炎かもしれない」と思っている症状は、精索静脈瘤かもしれません。自己判断せず、泌尿器科で診察や超音波検査を受けましょう。
精索静脈瘤を放置すると、症状が次第に進行して痛みが強くなるうえ、精液所見が悪化する恐れもあります。精索静脈瘤は男性不妊の最も多い原因であり、二人目不妊に悩んでいる方の78%に関与しているといわれています。
以下のような症状に当てはまる方は、精索静脈瘤ではないか泌尿器科で確認してもらうことが大切です。
部位 | チェック項目 |
---|---|
陰のう |
・サイズに左右差がある ・長時間座ったり立ったりしていると痛みが悪化する ・お腹に力を入れると腫れを感じる ・熱を持っている ・片方だけ常に垂れ下がっている ・表面がデコボコしている ・表面に血管が浮き出ている ・瘤がある |
精巣 | サイズに左右差がある |
精索静脈瘤は適切な治療によって完治が望め、陰のうの見た目や痛み、精液所見の改善が期待できます。
陰のう・精巣に違和感がある方は当院へ
「陰のうが腫れている」「精巣のサイズに左右差がある」といった違和感がつづいている方は、ぜひ当院へご相談ください。
多数の症例を経験した熟練の医師が、精巣上体炎や精索静脈瘤といった男性特有の病気をしっかりと鑑別・診断します。検査で精索静脈瘤が見つかった場合は、独自の技法である「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」による治療が可能です。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドでは、高倍率の顕微鏡を使い、残すべき血管やリンパ管・神経を1本ずつ剥離し、すべて温存します。大切な組織を残すことで、合併症のリスクを抑えられます。
一般的なクリニックで処置する内精逆流静脈に加え、外精逆流静脈まで1本1本糸でしばり、切り離すので、再発率はわずか0.1%です。術後、87%の患者さんの精液所見が改善し、男性不妊に悩んでいたご夫婦でも自然妊娠が叶ったケースが多くあります。
手術では局所麻酔を使い、わずか1時間ほどで終了するため、日帰りが可能で、仕事を長く休む必要はありません。
当院は完全予約制であり、プライバシーに配慮した環境を用意しています。陰のう周辺の症状にお悩みの方は、ぜひ一度当院で診察と超音波検査をお受けください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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