男性不妊症の原因の一つとして、「精子の酸化ストレス」が注目されるようになりました。
精子が酸化ストレスを受けると、パートナーの受精率の低下や、流産率の上昇を引き起こしてしまいます。
精子に悪影響を及ぼす酸化ストレスは、生活習慣の見直しや手術などで改善できます。
この記事では、男性不妊症と精子の酸化ストレスについて、また酸化ストレスを解消させる方法などを解説します。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
酸化ストレスとは?
酸化ストレスとは、身体の活性酸素による酸化反応が、身体の抗酸化力を上回ってしまった場合に起こる影響のことです。活性酸素は、身体に取り込んだ酸素が外部からのさまざまな刺激を受けることで発生し、量が過剰になると細胞を損傷するようになります。
酸化ストレスを受け、身体の細胞がダメージを受けてしまうことで、さまざまな疾病や老化が亢進の原因になってしまいます。
たとえば、酸化ストレスが原因で起こる影響として、「癌」が挙げられます。癌は若い人にはかかりにくい傾向にありますが、発生のリスクは老化とともに増加していきます。なぜなら、癌のほとんどは老化のストレスである酸化ストレスが原因であるからです。
他にも、酸化された糖とタンパク質が結合し、異常な糖タンパクの増加によって糖尿病が引き起こされたり、酸化した脂質が血管内に蓄積することで動脈硬化を起こしやすくなったりと、酸化ストレスは多くの病気の要因になります。
また、不妊原因の約半数が男性にあるといわれているなかで、男性不妊の原因として酸化ストレスも報告されています。
酸化ストレスの原因
酸化ストレスは、体内に発生した活性酸素による酸化反応に対し、身体の抗酸化能力が追いつかなくなることで起こります。
その原因には、肉体的・心理的ストレスといった病気によるものから、タバコや不適切な食生活といった日常生活によるものまで多岐にわたります。また、運動不足も酸化ストレスを起こす要因の一つで、過度な運動が酸化を引き起こしてしまうことがあります。
そもそも活性酸素は、細胞内のミトコンドリアが身体のエネルギーを作る際の酸化反応によって発生します。このときの活性酸素が、DNAやタンパク質などの生体成分を酸化させ、酸化ストレスを生じさせているのです。
つまり、活性酸素は人が生活するうえでどうしても発生してしまうものなので、いかにして身体の抗酸化力を上げ、酸化ストレスを減らせるかが重要になります。
なお、酸化された生体成分には、血中や尿中に出てくるものもあるため、尿検査や血液検査などで酸化ストレスの度合いがわかる場合があります。
精子が酸化ストレスを受けると?
酸化ストレスは身体全体に影響を与えるため、もちろん精子にも悪影響を及ぼします。
たとえば、酸化ストレスによる、精子の頭部に存在するDNAの損傷(断片化)です。精子のDNAが損傷してしまうと、受精率の低下や流産率の上昇、受精後に受精卵への悪影響を受ける可能性が高くなります。
他にも、酸化ストレスは精子本体や尾部にある細胞膜の脂質を酸化させたり、タンパク質を変性させたりする可能性があります。細胞膜が酸化してしまうと精子の運動性能が低下し、受精率の低下につながってしまうのです。
また、男性不妊症の原因の一つである精索静脈瘤は、精巣周囲の静脈の弁が正しく機能せず、血液が逆流することで、精巣に酸化ストレスをかけてしまうことが判明しています。酸化ストレスが精子の質を悪化させていることは明らかです。
これらの理由により、精子の質を上げ、男性不妊を解決するためには、酸化ストレスの軽減が重要であると考えられるようになりました。特に男性不妊の原因の40%を占める精索静脈瘤の早期発見と適切な治療が重要です。
酸化ストレス」を測知し精子の質を再評価
精液検査によって精液の酸化ストレスや、精子のDNA損傷の程度を測ることで、精子の質を評価できます。
一般的な精液検査では、精液量、精子濃度、精子運動率、正常形態率が評価されますが、近年では、これらに加えて精子の酸化ストレス度、DNA損傷率も測定できるようになりました。
精子の酸化ストレス度の測定は、別名ORP(Oxidation Reduction Potential)とも呼ばれます。ORPでは精液中の酸化力と抗酸化力のバランスを総合的に測定することで、精子の酸化ストレス度の測定が可能です。
ORPで得られる測定結果は、従来の精液検査では評価できず、男性側の不妊治療の必要性を評価することで役立てられます。
また、DNA損傷率はDFI(DNA Fragmentation Index)という指数の評価により、酸化ストレスなどによって損傷してしまった精子の割合を調べることが可能です。
DFI値は活性酸素の影響を受けると高くなる傾向にあります。一般的にDFI値が高いと、妊娠率の低下や流産率の上昇が起こりやすくなります。
不妊治療をしていても従来の精液検査で結果が得られない場合は、ぜひ一度精子の酸化ストレス度をチェックすることをおすすめします。
「酸化ストレス」を改善させる方法
精子の酸化ストレスの原因となる活性酸素は、日常生活を送るうえでどうしても発生してしまいます。そのため、どのようにして身体の抗酸化防御機構を向上させ、活性酸素による影響を減らせるかが重要です。
酸化ストレスを改善させる方法は、日常生活で実践できるものから、病院で処置する方法まで幅広くあるため、今のご自身に合った方法を取り入れていく必要があります。
ここでは、活性酸素から身を守る機能を向上させ、精子への酸化ストレスを改善させる方法を紹介します。
生活習慣を改善する
酸化ストレスは、乱れた生活習慣によって引き起こされます。そのため、生活習慣を見直すことで、精子の酸化ストレスを減らすことができます。
たとえば、禁煙・適度な運動・バランスの取れた食生活など、当たり前の健康的な生活ではありますが、まずはその心がけが大切です。良質な睡眠を取ることで睡眠不足を改善したり、ストレスを発散させたりすることも有効です。
しかし、激しい運動はかえって酸化ストレスを増加させてしまうことがあるため、あまり無理をしないように適度な運動を心がけるようにしましょう。
抗酸化作用のあるサプリメント
バランスのとれた食生活の補助として、抗酸化作用のあるサプリメントを取り入れることもおすすめです。身体の抗酸化能力を向上させることで、精子酸化ストレスを低下させ、精子の所見改善に役立ちます。
たとえば、ビタミンA・C・E、ポリフェノールなどは抗酸化性能を持つため、酸化ストレスの軽減が期待できます。
また、コエンザイムQ10やLカルニチン、亜鉛などは精子の所見を改善し、妊娠率を上昇させるという報告もあります。
なお、すべてをサプリメントに頼ろうとはせず、普段の食生活を見直したうえで、摂取するかどうかを考えるようにしましょう。
精索静脈瘤手術
精索静脈瘤と診断された人は、精索静脈瘤の手術を行うことで酸化ストレスを減らし、精子の所見を向上させることができます。
精索静脈瘤とは、精巣周囲にある、心臓へ血液を戻すための精索静脈内で、血液が逆流してしまうことで生じる瘤(こぶ)のことです。精索静脈瘤が起こると精巣内の活性酸素が増加し、精子を作る機能や質が低下してしまいます。
精索静脈瘤は男性不妊の原因として最も多い症状とされており、特に造精機能障害の35%以上は精索静脈瘤が原因であるといわれています。
精索静脈瘤は自然に治るものではありません。さらに、自覚症状が出にくいため、男性不妊治療のためにも手遅れになる前に治療が必要です。
なお、精索静脈瘤について、こちらでも詳しく紹介しております。
精索静脈瘤を放置してしまうと精巣に負荷がかかってしまい、痛みが起こる場合もあるため、気になることがあれば積極的にドクターに相談してみましょう。
施術の紹介
精索静脈瘤 手術(Varicocele)
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〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師
永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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