不妊治療を1年以上のあいだ続けているにもかかわらず妊娠できず、「自分に原因があるのかも」と不安を感じてはいないでしょうか。
男性不妊とは、避妊せずに性交渉を繰り返しても妊娠に至らない原因が男性側にある状態のことで、珍しいケースではありません。
本記事では、男性不妊の割合や原因、治療法について解説します。男性不妊の原因で最も多い精索静脈瘤の手術方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
男性不妊の割合
WHO(世界保健機関)が調査した結果によると、子どもを授かれず悩んでいるカップルのうち男性不妊の割合は、以下のとおり48%です。
男性側に不妊の原因があることは、まれなケースではありません。女性だけでなく男性も検査を受け、不妊の原因がないかを確かめることが妊娠率の向上につながります。
男性不妊の原因は、大きく以下の3つに分けられます。
・造精機能障害
・精路通過障害
・性機能障害
1つずつ詳しく解説するので目を通し、男性不妊への理解を深めましょう。
男性不妊の原因①|造精機能障害
男性不妊の80%以上を占める原因が造精機能障害で、以下の2つが例として挙げられます。
・精索静脈瘤
・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
精索静脈瘤は、男性不妊のなかで最も多くを占める原因です。各原因について詳しく解説するため、どのような疾患か確認しましょう。
精索静脈瘤(最多)
男性不妊の原因の約40%を占める疾患が精索静脈瘤です。
精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る血液が逆流し、陰のうや精索で静脈が瘤(こぶ)状になる病気です。一般男性の15%に認められ、決して珍しい疾患ではありません。
精索静脈瘤があることで血液の流れが滞り、精巣の温度が上昇すると機能が低下し、精子のDNA損傷や男性ホルモンの低下を引き起こします。十分な量の質の良い精子を生成しにくくもなり、以下のような状態に陥ることもあるでしょう。
乏精子症 | 精液1mlあたりの精子数が1600万個未満 |
---|---|
精子無力症 | 精子の運動率が42%未満 |
自覚症状なく精索静脈瘤を発症しているケースが多いので、男性不妊を疑っている方は、泌尿器科で診察や超音波検査を受けることを推奨します。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、発症頻度がまれなものの、男性不妊の原因となる疾患です。脳の視床下部や下垂体の機能が低下し、分泌される性腺刺激ホルモンが減少することで、精巣の発育不全・射精障害などを引き起こす可能性があります。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に効果的な治療法は、ホルモン補充です。治療は不足している下垂体ホルモンの注射になります。注射を続けることで精子を造るようになったり男性ホルモン(テストステロン)が分泌されたりします。
男性不妊の原因②|精路通過障害
男性不妊の原因の1つである精路通過障害は、精子の通り道である精路が狭くなったりふさがったりしている状態です。精路通過障害の割合は男性不妊全体の約4%で、造精機能障害や性機能障害より低いといえます。
精路通過障害の1種が閉塞性無精子症であり、精子が精巣内で生成されているものの、射精液中に出てこない病気です。精巣と尿道を結ぶ精管が生まれつき形成されない先天性と、後天性に分けられます。
・パイプカット
・両側鼠径ヘルニア手術
・両側精巣上体炎
・射精管閉塞
上記のような手術や症状を経験した方は、後天性の閉塞性無精子症となる可能性があります。
男性不妊の原因③|性機能障害
男性不妊の原因として造精機能障害の次に割合が大きい性機能障害の例は、以下のとおりです。
・勃起障害(ED)
・射精障害
・陰茎湾曲症
それぞれの症状について詳しく解説するため、性機能障害の疑いがある方は参考にしてください。
勃起障害(ED)
勃起障害(ED)は男性不妊の原因の1つで、性交時に十分な勃起が維持できない状態です。日本性機能学会の全国調査によると、約3人に1人の割合で症状が見られます。
EDの原因は、以下のとおりさまざまで、1つだけによって発症するとは限りません。
・神経・血管の障害
・薬の副作用
・心理的な不安・緊張
不妊治療で排卵日に合わせて性交を行なっている場合は、ストレスやプレッシャーがEDにつながるケースがあります。EDにお悩みの方には、医師によるカウンセリングや治療薬の服用が有効です。
射精障害
射精障害は、勃起ができても射精ができない状態を指し、性機能障害の1つです。厚生労働省の平成27年度の調査によると、射精障害が男性不妊の原因において占める割合は7.4%で、以下のような症状が該当します。
・膣内射精障害
・逆行性射精
膣内射精障害は、マスターベーション(自慰行為)では精液が出るにもかかわらず、性交では射精できないことで、遅漏の状態です。膣内射精障害の治療には投薬やリハビリテーションが有効とされるものの、改善には時間を要します。
糖尿病や末梢神経・下腹神経の障害などにより、射精した精液が尿道から膀胱へと逆流してしまう逆行性射精という症状もあります。逆行性射精は、内服薬による治療で改善する場合があります。
陰茎湾曲症
陰茎湾曲症は、勃起時に陰茎が曲がってしまう症状で、性交に支障がある場合は男性不妊の原因となりかねません。原因によって、以下の2つに分けられます。
先天性 | 陰茎海綿体の発育バランスが生まれつき悪い |
---|---|
後天性 | 外傷や原因不明の炎症により組織が部分的に硬くなる |
陰茎の湾曲は、性交の際の挿入を妨げるだけでなく、精神的なコンプレックスになる可能性があります。陰茎に痛みや不快感が生じることもあり、性行為に積極的になれなくなる方もいるでしょう。
しかし、陰茎湾曲症は手術を受けることで、性交障害の解消が期待できます。
男性不妊の原因④|その他
WHOの調査によると、男性不妊における原因不明のケースの割合は11%です。妊娠に至らない状況が続いているからといって、検査によって必ず原因を突き止められるわけではないことを認識しておきましょう。
以下のような心身の状態・生活習慣も、男性不妊につながる恐れがあるため注意が必要です。
・喫煙
・加齢
・過度なアルコール摂取
・肥満
・ストレス
・高温環境(サウナ・熱いお風呂)
女性のみならず男性も、心と体をともに健康な状態に保つことが妊娠の成功につながります。
男性不妊の検査
男性不妊の主な検査は、以下のとおりです。
・精液検査
・泌尿器科的検査(診察とエコー検査)
男性不妊の検査では、射精した精液や精巣の形態などを確認することで原因を特定します。2つの検査方法に加え、当院における費用も紹介するので、受診を検討している方は参考にしてください。
精液検査
男性不妊の可能性を調べるためには、精液検査を受けることが重要で、以下のような項目を測定します。
・精液量
・精子濃度
・精子の運動率
・精子の正常形態率
自然妊娠が可能かは、WHOが定める基準と検査結果を照らし合わせて判断されます。
精液の採取は病院内でも自宅でも可能で、提出した日のうちに検査結果を得られることが一般的です。
ただし、自宅で採取する場合は、保存環境の温度を体温と同じ温度に保ちながら、30分以内に病院へ持ち込んでください。急激な温度変化にさらされたり、持ち込みに時間がかかったりすると精液の質が低下し、正しい検査結果が得られません。
泌尿器科的検査
男性不妊かどうかを確かめる方法には、精液検査だけでなく泌尿器科的検査もあります。泌尿器科的検査の具体的な方法は、以下のとおりです。
検査 | チェックできることの例 |
---|---|
視診・触診 |
・生殖器の発育状態 ・精巣の大きさ ・精索静脈瘤の有無 |
超音波(エコー)検査 |
・陰のう内の構造・状態 ・精索静脈瘤の有無 |
採血 |
・精子生成にかかわるホルモンのバランス ・染色体・遺伝子の異常の有無(特殊検査) |
「自分に不妊の原因があるかもしれない」と不安な男性は、泌尿器科で診察・検査を受け、パートナーの妊娠に向けた1歩を踏み出しましょう。
当院での検査費用
当院で精索静脈瘤の検査を受ける場合にかかる費用は、次のとおりです。
初診料 | 5,500円 |
---|---|
精索静脈瘤検査 | 5,500円 |
当院では、初診で精索静脈瘤(超音波)検査を実施します。すぐに結果をお伝えし、精索静脈瘤が見つかった場合は、重症度によって手術が必要かを判断します。
ただし、当院では精液検査を実施していません。精液検査を希望される方には、山王病院リプロダクション科(赤坂)をはじめとする提携の医療機関をご紹介いたします。
男性不妊の治療法
男性不妊の治療法について、以下の3つに分けて解説します。
・根本的治療法
・対症療法
・補助的療法
男性不妊の原因によっては、適切な治療により改善する可能性があるため、妊娠率アップに向けて正しい知識を身につけましょう。
根本的治療法
根本的治療法は男性不妊の原因を取り除く方法で、以下のような例が挙げられます。
治療の種類 | 治療の方法 |
---|---|
精索静脈瘤手術 | 逆流している静脈を糸でしばって切断する |
精路再建術 | ふさがった精路を再通させる |
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症治療 | 不足しているホルモンを注射して補充する |
すべての男性不妊の原因を根本的に治療できるわけではありません。しかし、検査で、根本的に治療できる不妊の原因が男性側に見つかった場合は、治療を受けることがパートナーの妊娠を叶える1つの手です。
1人目の妊娠前に男性不妊の根本的治療を行えば、2人目以降の子どもを望む場合でも効果の持続が期待できる場合もあります。
対症療法
対症療法は、原因が不明であったり根本的治療が難しかったりする男性不妊の場合に、妊娠をサポートする以下のような方法です。
人工授精 | 排卵に合わせて精子を子宮内に注入する |
---|---|
体外受精 | 体外で受精させた受精卵を子宮内に移植する |
顕微授精 | 体外で精子を卵子に注入して受精させたあとに子宮内に移植する |
精巣内精子採取術 (TESE) |
精巣の組織から精子を採取する |
対症療法を行えば、男性不妊の根本的治療が困難でも妊娠に至る可能性があります。
ただし、取り入れる対症療法を決める際に影響を与える精液・精子の状態は、精索静脈瘤手術により改善が見込めます。精索静脈瘤がある場合は、人工授精・体外受精などの前に手術を受けることで、不妊治療のステップダウンや自然妊娠が期待できるでしょう。
補助的療法
男性不妊の治療法には、以下のような漢方薬やサプリメントの服用といった補助的療法もあります。
漢方薬 | サプリメント |
---|---|
・補中益気湯 ・六味丸 ・八味地黄丸 ・牛車腎気丸 |
・コエンザイムQ10 ・L-カルニチン ・亜鉛 ・ビタミンB12 |
補助的療法は、精子濃度・運動率などの改善報告があるものの、医学的根拠が十分でない医薬品がほとんどであり、治療としてではなく補助的に使用するものと考えてください。
男性不妊の最多原因である精索静脈瘤は治療できる
男性不妊で最も多い原因である精索静脈瘤は、手術により治療が可能です。精索静脈瘤手術は瘤状の血管を処置することで、精巣機能を改善し、自然妊娠の確率を高めます。
手術が推奨される基準について確認しましょう。
手術を行う基準
精索静脈瘤の手術を行う場合の主な基準は、以下のとおりです。
・夫婦が不妊に悩んでいる
・女性側の不妊の原因がない・治療可能
・精液検査の結果に異常が見られる
・触ったり見たりして精索静脈瘤がわかる
精索静脈瘤は症状が進行していく病気なので、放置すると精液の状態が悪化しかねません。当院における「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」では、術後の患者さんの87%に精液所見の改善が見られています。
4つの基準に当てはまる点があり、男性不妊の根本的な治療を望む場合は、泌尿器科での検査・手術の実施を検討すると良いでしょう。
精索静脈瘤の手術方法を比較(表1・2)
精索静脈瘤の手術には、以下のような方法があります。
顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術は、鼠径部(鼠径管)開放または鼠径管の下側での静脈結紮する方法で、複数種類があります。体の上から、
1)顕微鏡下鼠径部高位結紮術(high inguinal)
2)顕微鏡下鼠径部結紮術(inguinal)
3)顕微鏡下鼠径下結紮術(sub inguinal)
4)顕微鏡下鼠径下結紮術・ナガオメソッド(sub inguinal・Nagao method)
5)顕微鏡下陰嚢上部結紮術(high-scrotal)
と5種類あります(表1)。
また、精索静脈瘤高位結紮術は、鼠径部(鼠径管)より上方での静脈結紮する方法で、
1)腹腔鏡手術
2)肉眼的高位結紮術
の2種類があります(表2)。

顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
術式 | 麻酔 | 日帰り/入院 | 手技難易度 | 外陰部静脈処理 | 動脈・リンパ管温存数 | ※ 再発率 | 精液改善率 合併症 |
顕微鏡下 鼠径部高位結紮術 |
全身 | 入院 | 普通 | × | 少ない | 3〜6%以上 | 術者による |
顕微鏡下 鼠蹊部結紮術 |
全身 | 入院 | 普通 | × | 少ない | 3〜6%以上 | 術者による |
顕微鏡下 鼠蹊高下結紮術 |
局所 | 日帰り/入院 | 難しい | × | 少ない | 3〜6%以上 | 術者による |
顕微鏡下 鼠蹊下結紮術 ナガオメソッド |
局所 | 日帰り | 非常に難しい | ◎ オナガメソッドのみ |
多い◎ | 0.1%◎ | 精液改善87% 合併症なし |
顕微鏡下 陰嚢上部結紮術 |
局所麻酔 | 日帰り/入院 | 難しい | × | 少ない | 3〜6%以上 | 術者による |
精索静脈瘤高位結紮術 | |||||||
麻酔 | 日帰り/入院 | 手技難易度 | 外陰部静脈処理 | 動脈・リンパ管温存数 | ※ 再発率 | 精液改善率 合併症 |
|
腹腔鏡手術 | 全身 | 入院 | 普通 | × (再発リスク高) |
なし | 3〜6%以上 | 術者による ※精巣水瘤 7~43% ※精巣萎縮の可能性あり |
肉眼的高位結紮術 | 全身 | 入院 | 普通 | × (再発リスク高) |
少ない | 3〜6%以上 | 術者による ※精巣水瘤 7~43% ※精巣萎縮の可能性あり |
※ ヨーロッパ泌尿器科学会ガイドライン2025
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それぞれの方法の特徴を表で比較しました。ここではナガオメソッドについて解説いたします。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド
当院で実施している精索静脈瘤手術は、「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」です。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドは、血管・リンパ管・神経などを1本ずつ丁寧に剥離分離し、男性不妊の原因となる逆流静脈のみを結紮(けっさつ)・切離する方法です。
異常のない血管・リンパ管・神経をすべて残せる点がメリットで、技術力の高い医師が顕微鏡下で行います。内精逆流静脈だけでなく外陰部逆流静脈も処置できることによる、再発率の低さ(0.1%)も特徴です。
保険適用の対象とはならず自由診療ですが、87%という高い精液所見改善率を誇ります。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドについて詳しく知りたい
男性不妊に関するお悩みは当院へご相談を
「自分に不妊の原因があるかもしれない」と心配な男性は、当院へご相談ください。当院は男性不妊の治療に強みを持つクリニックで、「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」という精索静脈瘤手術を実施しています。
男性不妊の割合は48%で、珍しいことではありません。女性だけでなく男性も、妊娠に至らない原因が自身にないかを確かめることが妊娠率の向上につながります。
不妊についてお悩みの方は、ぜひ当院で診察や超音波検査をお受けください。
施術の紹介

精索静脈瘤とは?症状や検査方法、治療・手術方法を解説
詳しくはこちらお問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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