妊活でなかなか子どもを授かれず、インターネットで調べて出てきた見知らぬ不妊治療法を見て「どのような手術だろうか」と興味を持ってはいませんか。
マイクロサージャリーは顕微鏡下で行う手術で、血管や神経のような小さな組織をつなげ、切断された手・指などを接着させられる技術です。整形外科や形成外科をはじめ、さまざまな診療科で行われています。
本記事では、マイクロサージャリーの概要や、使用される用具・症例などを解説します。男性不妊症に適用される方法も紹介するため、治療を検討している方はぜひ最後までご覧ください。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
マイクロサージャリーとは?
マイクロサージャリー(Microsurgery)とは、顕微鏡や針付縫合糸を用いて行う微細な外科手術です。「マイクロ(micro・微細な)」と「サージャリー(surgery・手術)」という言葉が組み合わさっています。
通常の手術は肉眼で行われますが、マイクロサージャリーでは、専用の手術用顕微鏡が用いられます。マイクロサージャリーの歴史・メリット・行われている診療科を解説するため、基礎知識を学びたい方は参考にしてください。
マイクロサージャリーの歴史
マイクロサージャリーのような顕微鏡を使った執刀は、1921年にスウェーデンでカールオロフ・ニレーンが行なった耳鼻咽喉科手術が初めてとされています。当時は片目のみの顕微鏡でしたが、1922年には、グンナー・ホルムグレンによって両眼用が開発されました。
「マイクロサージャリー」という言葉が初めて登場したのは、1960年にバーモント大学のジェイコブソンが行なった血管吻合(ふんごう)手術のときです。ジェイコブソンの手術以降、血管や神経をくっつける際に顕微鏡が使われるようになりました。
日本では、1965年に奈良県立医科大学の玉井先生・小松先生が、世界で初めて母指再接着に成功しました。1974年には「日本マイクロサージャリー研究会」が発足し、2025年時点でも継続して運営されています。
マイクロサージャリーのメリット
マイクロサージャリーのメリットは、細かい血管やリンパ管などをくっつけられる点です。顕微鏡下で手術を行うことから、わずか直径0.3〜3mmの小さな血管のような臓器も縫合し、接着可能です。
完全に切断された指であっても、骨・腱・血管・神経をつなぎ合わせることで、ほぼ100%の確率で接着できるという報告もあります。脊椎脊髄手術では、切開による傷痕が小さく済んだり、筋肉や靭帯などの組織を温存できたりします。
マイクロサージャリーが行われている診療科
マイクロサージャリーが実施されている主な診療科は、以下のとおりです。
・耳鼻咽喉科
・一般外科
・腎泌尿器外科
・形成外科
・眼科
・整形外科
・婦人科外科
・神経外科
・口腔外科
・顎顔面外科
・小児外科
マイクロサージャリーが初めて行われた診療科は耳鼻咽喉科ですが、2025年時点では多様な分野に応用され、実績が積み重ねられていることがわかるでしょう。代表的な治療方法の例としては、整形外科の手指再接着や形成外科の乳房・頭頸部再建などが挙げられます。
スーパーマイクロサージャリーとは?
太さ0.5mm以下の血管・神経などをつなぐ超微小手術は、スーパーマイクロサージャリーと呼ばれています。顕微鏡をのぞきながら、わずか0.03mmや0.05mmという細さの専用針を用いる手術にはより高い技術が求められるため、手技を習得している医師は一握りです。
通常の顕微鏡手術との違いや、スーパーマイクロサージャリーが求められる場面を詳しく解説します。
マイクロサージャリーとの違い
マイクロサージャリーとスーパーマイクロサージャリーの違いは、以下の表からわかるとおり吻合する対象のサイズです。
マイクロサージャリー | 約1~5mm |
---|---|
スーパーマイクロサージャリー | 約0.1~0.5mm |
スーパーマイクロサージャリーは通常の顕微鏡手術より細かい縫合ができるため、指先や爪のような部位でも接着させられます。治療の精度が大きく向上する一方で、習得の難しさも高まり、道具を使いこなすまでにかかる時間もより長くなります。
スーパーマイクロサージャリーが使われる場面
スーパーマイクロサージャリーが使われる主な場面は、以下のとおりです。
・指先の手術
・顔面神経の移植
・血管移植
・リンパ管と静脈の縫合
スーパーマイクロサージャリーの大きな特徴は、太さ0.1〜0.5mmの細かい血管や神経などを縫合できることです。通常の執刀では困難な、微細組織の縫合・移植と早期の機能回復が求められる部位で使われます。
特にリンパ管の直径は0.5mm以下のため、スーパーマイクロサージャリーの活用が有効です。
▼治療に用いる糸と髪の毛との比較
▼治療に用いる糸とゴマとの比較
▼治療に用いる糸と米との比較
マイクロサージャリーで使われる器具
マイクロサージャリーで使われる器具は、以下のとおりです。
・手術用顕微鏡
・縫合糸
・手術用ルーペ
・ドプラ(ドップラー)血流計
・ピンセット・鉗子・クランプ
執刀の際は、血管や神経のような小さな臓器・組織をつなぎ合わせるための専用器具が欠かせません。それぞれの用具について詳しく解説するので、気になる方は参考にしてください。
手術用顕微鏡
手術用顕微鏡は、マイクロサージャリーに必要不可欠な機器です。
血管や神経などの肉眼では見えにくい臓器・組織は、手術用顕微鏡を用いることで立体的に確認できます。10〜20倍の拡大下における対象の縫合も可能です。
手術用顕微鏡は、執刀しやすいようさまざまな機能を備えています。高性能なレンズや照明が装備されており、術部の影を気にすることなく明るい画像で観察可能です。
実在する対象の画像に情報を加えて表示する、デジタル拡張現実(AR)を備えた手術用顕微鏡もあります。
縫合糸
縫合糸はマイクロサージャリーに必要な器具で、組織をぬうための、太さ0.05〜0.1mmの針と0.01〜0.02mmの糸で構成されています。髪の毛の太さがおよそ0.15mmと聞けば、非常に細いことがわかるでしょう。
処置に用いる針・糸が細いからこそ、細かな血管や神経を繊細に扱え、的確にくっつけられます。リンパ管や末梢神経を吻合するスーパーマイクロサージャリーの場合は、針の太さが0.03mmほどで、より細くなります。
手術用ルーペ
マイクロサージャリーに用いられる器具の1つは、手術用ルーペです。
手術用顕微鏡の出現以前には、拡大ルーペを用いた血管吻合が行われていました。手術用顕微鏡の登場以降は、太さ5mm以上の大きな血管の吻合に拡大ルーペが使用されています。
眼鏡に拡大レンズをはめ込むタイプの手術用ルーペは、前を向いた状態で斜め下の術部を見るため、首と腰への負担が軽いという特徴があります。顔面にヘッドバンドで固定するタイプもあり、場所を選ばず手術できる点もメリットです。
ただし、外径が2mm以下の血管に手術用ルーペは不向きで、操作を記録できないデメリットもあります。
ドプラ(ドップラー)血流計
マイクロサージャリーでは、血管吻合後の血流を観察する際にドプラ(ドップラー)血流計を使用します。
ドプラ血流計は、波長が短めの近赤外光を照射し、皮膚の表面から数mmの深さにある毛細血管内の血流を測定する装置です。血管内に照射された光は、物体の移動速度によって異なる周波数で散乱します。
物体の移動速度に応じた散乱光の周波数変化を「ドップラー(Doppler)効果」と呼びます。代表例は救急車のサイレンで、車が近づくにつれて音が高くなる(周波数が高くなる)現象と聞けば理解しやすいでしょう。
ドプラ血流計には接触型と非接触型の2タイプがあり、血流量のみならず血流速度などの評価もできます。
ピンセット・鉗子・クランプ
ピンセット・鉗子・クランプも、マイクロサージャリーに使用される医療用具です。
マイクロサージャリーでは、執刀の際にピンセットで血管をつかんだり、鉗子で周囲の組織をはがしたりします。血管の損傷を避けられるよう、組織をつかむ先端部分の形状が工夫されています。
クランプは、手術中に血液が流れ出ることを一時的に防ぐ器具です。縫合中の血管をクランプで挟むことで止血し、処置をより行いやすくするために用いられます。
マイクロサージャリーが必要とされるケース
マイクロサージャリーが必要とされる手技は、以下のとおりです。
・血管・リンパ管の吻合
・神経の縫合
・再接着・再建
マイクロサージャリーは、多様な太さの血管・リンパ管・神経などを適切に処理する必要がある、難しい症例の治療に適用されます。
血管・リンパ管の吻合
マイクロサージャリーの主要な用途の1つとして、血管・リンパ管の吻合が挙げられます。
血管吻合は、動脈硬化にともなう大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症などの治療に適用される方法です。膨らんだり閉塞したりしている動脈を人工血管や近くの静脈などとつなぎ合わせ、血管の破裂や血液の停滞を防ぐことを目指します。
リンパ管は毛細血管と比べると太いものの、動脈や静脈よりも細いため、スーパーマイクロサージャリーでの処置が一般的です。
神経の縫合
神経の損傷によって手足や顔面が麻痺してしまった場合にも、マイクロサージャリーが使われます。
神経をつなぎ合わせる手術を行うことで、感覚や運動機能を回復させます。甲状腺や顔頸部の腫瘍手術で声帯神経を切除するケースでも、神経縫合による発声機能の再建が可能です。
ただし、損傷が激しい場合は、切れてしまった神経どうしをつなぎ合わせることが困難です。別の場所から神経を採取したり、人工神経を埋め込んでギャップを無くしたりする必要があります。
再接着・再建
マイクロサージャリーは、四肢の再接着・臓器の再建にも必要です。
交通事故や労働災害などで切り離された指や手、腕などをくっつける手術を再接着術といいます。指の再接着の執刀では、直径0.3〜1.5mmほどの動脈吻合とやや太い静脈吻合で、血流を生かしながら切られた部位を接合します。
再接着術では、接合後に処置した血管が閉塞しないことが重要です。およそ1mmの血管を精密にぬうためには、手術用顕微鏡を用いた繊細な技術が必要になります。
再建術は、欠損した臓器を再構築する手術です。採取した別部位の組織と欠損部の血管どうしをつないだり、人工物を入れたりして形状・機能を再現します。再建術でも微細な血管を吻合するため、繊細な執刀技術が求められます。
男性不妊症にもマイクロサージャリーが有効
マイクロサージャリーは、男性不妊症の治療にも有効です。
男性不妊症の原因の1つに、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)があります。心臓と精巣を結ぶ静脈で逆流が発生し、精索や陰のう付近で瘤(こぶ)のように膨張する病気が精索静脈瘤です。男性不妊の原因の40%も占めています。
精索静脈瘤があると精液所見の悪化につながり、自然妊娠率が低下するため、子どもを授かりたい方は治療の検討が必要です。
マイクロサージャリーを用いた精索静脈瘤の手術では、顕微鏡下で逆流している静脈を結紮(けっさつ)・切離します。手術により根本的な治療が可能なため、精索静脈瘤の疑いがある方は泌尿器科に相談しましょう。
銀座リプロ外科のマイクロサージャリー
当院で行なっているマイクロサージャリーは、以下のとおりです。
・日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド
・日帰り顕微鏡下動脈温存パイプカット手術
・日帰り顕微鏡下パイプカット再建術
・リンパ管静脈吻合術(LVA)
当院は、以下のとおり合計3台の手術用顕微鏡をそろえており、ベッドは手術中にリラックスできるよう配慮されています。
メーカー | 台数 |
---|---|
カールツァイス | 1台 |
ライカ | 2台 |
ご希望の患者さんは、モニターで手術の確認が可能でしたが、コロナ流行後は手術を見ることは中止しています。お好きな音楽やアーティストを選んで聴いていただいています。
当院の永尾医師はマイクロサージャリーの専門家であり、より早く体への負担が少なく、確実性が高い治療を目指しています。
当院は泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、多様な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ているため、ぜひご相談ください。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド
当院で行うマイクロサージャリーとして、日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドがあります。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドは、永尾医師が開発した器具である「NAGAO BO」を用い、静脈・動脈・リンパ管・神経を1本1本分離する手法です。スーパーマイクロサージャリーの高い技術を持つ医師が担当します。
逆流している静脈(内精静脈だけでなく外陰部静脈の両方)のみを結紮・切離し、正常な血管・神経などをすべて残す点が特徴で、再発リスクの低さや高い精液所見の改善率などを誇ります。局所麻酔が採用されており、手術は1時間ほどで終わるため、日帰りが可能です。
日帰り顕微鏡下動脈温存パイプカット手術
当院では、日帰り顕微鏡下動脈温存パイプカット手術というマイクロサージャリーも行います。
パイプカット手術は、子どもを作る予定のない人が希望した場合に行う避妊方法です。左右の陰のうを1cmほど切開し、精管(精子の通り道)を切断します。
陰のう上部の精索には多くの血管・神経・筋肉などがあるため、顕微鏡を用いた小さな範囲の処置によって出血・痛みを抑えられます。精索内から精管を確実に見つけ、結紮することも重要です。当院では、精管動脈を温存し精巣機能の低下(男性ホルモンの低下)を防ぎます。さらに事情の変化で再建術を行う場合に支障のない方法でカットしています。
日帰り顕微鏡下パイプカット再建術
当院で行うマイクロサージャリーの1つに、日帰り顕微鏡下パイプカット再建術があります。
パイプカット再建術は、パイプカット手術を受けたあと、再婚や子どもとの死別などを理由に精管を再開通させるために行う治療法です。手術用顕微鏡を使用して精管の開通している部分どうしをぬい合わせれば、自然妊娠が望めます。
当院におけるパイプカット再建術は、精子が出現する確率が91%で、精液が正常化する可能性は47%という高い治療成績を誇ります。
リンパ管静脈吻合術(LVA)
当院では、リンパ管静脈吻合術(LVA)の日帰り手術が可能です。
リンパ管静脈吻合術は、リンパ管内部のリンパ液の流れが停滞し、腕や脚に腫れやむくみが生じるリンパ浮腫の治療で実施されるスーパーマイクロサージャリーです。局所麻酔を用い、リンパ管と皮下静脈をつなぎ合わせることでリンパ液の通り道を作成します。
直径0.5mmほどのリンパ管や0.05mmの細い針を的確に扱う必要があるため、術者の高い技術が不可欠です。
当院のマイクロサージャリーの費用
当院のマイクロサージャリーには、保険適用と自由診療の2種類があります。保険適用か自由診療かによって、治療における金銭的負担の大きさが変わります。
手術費用について詳しく紹介するので、ぜひチェックしてください。
保険適用
当院における保険適用のマイクロサージャリーは、リンパ管静脈吻合術です。手術費用は上肢・下肢1ヵ所で344,500円のため、自己負担額は3割にあたる103,350円です。
高額療養費制度を活用すれば、自己負担額をより減らせる可能性があります。高額療養費制度とは、保険適用された治療で一定金額以上を支払った際に、超過したお金が返還される仕組みです。
自己負担上限額は年収ごとに異なるため、厚生労働省の公式サイトを確認しましょう。
自由診療
当院では、以下の表に示すマイクロサージャリーを自由診療で行なっています。
手術 | 費用 |
---|---|
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド | 440,000円〜 |
日帰り顕微鏡下動脈温存パイプカット手術 | 440,000円 |
日帰り顕微鏡下パイプカット再建術 | 990,000円(3.0時間枠) |
表に記載されている費用は手術代のみで、検査代や局所麻酔代などもかかる点には注意が必要です。日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドにおいて永尾医師による執刀をご希望の場合は、別の費用がかかります。
マイクロサージャリーによる不妊治療は当院へ
「できるだけ傷痕が小さい不妊治療を受けたい」という男性は、当院でのマイクロサージャリーをご検討ください。
当院には、通常の顕微鏡手術だけでなくスーパーマイクロサージャリーも可能な医師が在籍し、より安全かつ確実に治療を行えます。日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドをはじめ、さまざまな男性不妊症治療に対応可能です。
当院で精索静脈瘤手術を受けた多くの方が、合併症を起こさずに自然妊娠を叶えています。手術日のうちに帰宅できるため、入院せずに妊娠率を高めたい場合は、ぜひ一度当院へご相談ください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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