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マイクロサージャリー・スーパーマイクロサージャリーとは?顕微鏡や微細な糸を用いた高度な技術

 

マイクロサージャリー・スーパーマイクロサージャリーとは?

マイクロサージャリー(Micro Surgery)とは、手術用の顕微鏡や針付縫合糸を用いて行う微細な外科手術のことで、「マイクロ(micro・微細な)」と「サージャリー(surgery・手術)」を組み合わせた言葉です。通常の手術は肉眼で行われますが、血管吻合など微細な手術では、専用の手術用顕微鏡が用いられます。

顕微鏡手術は、1921年にスウェーデンで耳鼻咽喉科に対する手術が行われたのが最初とされています。当時は片目(単眼)のみの顕微鏡でしたが、その後、両眼(双眼)用顕微鏡が開発されました。
現在では、心臓や脳の手術を始め、耳鼻咽喉科、一般外科、腎泌尿器外科、形成外科、眼科、整形外科、婦人科外科、神経外科、口腔外科、顎顔面外科、小児外科などの専門分野で使用されています。

また、マイクロサージャリーよりもさらに細い、太さ0.5ミリ以下の超微小手術はスーパーマイクロサージャリー(超微細手術)と呼ばれています。顕微鏡を覗きながらわずか0.05ミリの専用針を用いて血管などをつなぐ手術にはより高い技術が求められ、この手技を習得している医師は一握りです。

▼髪の毛との比較

マイクロサージャリーで使用する糸01

▼ゴマとの比較

マイクロサージャリーで使用する糸02

▼米との比較

マイクロサージャリーで使用する糸03

 

マイクロサージャリーで使われる器具

マイクロサージャリーで使われる器具についてご紹介します。

 

手術用顕微鏡

手術用顕微鏡は、マイクロサージャリーを行うために必要不可欠な機器で、脳神経外科・眼科・耳鼻科・整形外科・形成外科・産婦人科・一般外科等様々な臨床科で使用されています。

通常の手術は肉眼で行いますが、血管や神経などの肉眼では見えにくい臓器については手術用顕微鏡を用いることで立体的にみることができ、顕微鏡を覗きながら10倍から20倍の拡大下で微小血管や神経を縫合することができます。

手術用顕微鏡は手術しやすいように様々な操作性を備えています。例えば高性能なレンズや照明を装備することで、術部の影を気にすることなく明るい画像で観察ができます。

 

手術用ルーペ

手術用顕微鏡の出現以前には、拡大ルーペを用いた血管吻合がなされていました。眼鏡に拡大レンズを嵌め込むタイプの手術用ルーペは、真っすぐ前を向いた状態で斜め下の術部を見ることができるため、首と腰への負担が軽いという特徴があります。他にも顔面にヘッドバンドで固定するタイプなどもあり、拡大ルーペは場所を選ばず手術できる点もメリットといえるでしょう。

一方で、小口径の血管(外径2mm以下)や端々吻合で血管の口径の差が大きい場合には不向きといえます。また、手術操作が記録できないというデメリットもあるため、手術での利用というよりは、血管吻合練習用の人工血管を使用した吻合練習用としての使用方法があります。

 

ドプラ(ドップラー)血流計

ドプラ血流計は、近赤外光を照射し、皮膚表面から約0.5mmの深さにある毛細血管内血流を非侵襲で測定できる装置です。光が運動する物体に照射された際、物体の移動速度に応じて散乱光の周波数が変化する「ドップラー(Doppler)効果」を利用しています。

ドプラ血流計は接触型と非接触型の2種類があり、血流量だけでなく血球量や血流速度などを評価することも可能です。マイクロサージャリーでは血管吻合後に血流をモニタリングする際に使用します。

 

マイクロサージャリーが行われるケース

例えば、外傷で指が切断された場合など、指の再接着が行われます。これは切断された指の血管と神経を繋ぎ合わせて、血流を再開させ生着させるというもので、マイクロサージャリーの技術が必要となる手術です。怪我や事故、手術の後遺症で、遊離皮弁(血管付き皮膚)移植の手術が行われることがあります。

血管の他、神経・リンパ管など、人間の身体にある細かい部分をつなぎ合わせる必要があり、マイクロサージャリーでは動脈、リンパ管、神経、逆流静脈など、太いものから細いものまで、それらをすべて確認して適切に処理するため、技術の高い執刀医でなければなりません。
ここでは、マイクロサージャリーが行われるケースについてご紹介します。

 

血管の吻合

マイクロサージャリーの中で最も主流とされるのが、身体のある部分から別の部分へ組織を移すことや、切断された部分の再接着を可能にした、血管吻合と神経吻合の処置です。

血管吻合のために顕微鏡を用いた最初の手術は1960年、バーモント大学の血管外科医ジェイコブソンによる1.4mmの血管の吻合で、彼が初めて「マイクロサージャリー」という用語を使いました。

現在でも血管吻合は、切れた指をつなげる再接着術や人体各部の組織が失われた時に、別の箇所から組織を採取し、欠損部分に移植する手術において重要な手法となっています。

 

神経の縫合

神経の損傷などによって手足や顔面が麻痺してしまった場合にも、マイクロサージャリーの技術が使われます。顕微鏡を用いて神経のバイパス手術を行うことで、感覚や運動機能を回復させることができます。

損傷が激しく、切れてしまった神経どうしをつなぎ合わせることが不可能な場合に、別の場所から神経を採取したり、人工の神経を使用してギャップを埋めたりする手法も神経縫合の一種です。

 

再接着・再建

切断された指や手、腕などをつなぐことを再接着術と言います。指の再接着の場合、太さ0.3mmから1.5mm程度の動脈とそれよりもやや太い静脈の両方をつなげることで血流を生かしながら、つなぐことができます。

再接着術ではつないだ血管が詰まらないことが重要となるため、1mm前後の血管を正確に縫うためには、手術用顕微鏡を用いたマイクロサージャリーの技術が不可欠です。

ケガや腫瘍をとった後の組織の欠損を再建する外科を再建外科と言います。血管をつけたまま組織を採取し、組織の欠損部の血管とつなげる手術もマイクロサージャリーの技術によって行われます。

 

銀座リプロ外科のマイクロサージャリー

近年、マイクロサージャリーを用いた手術および再建術は、形成外科領域だけに限らず、整形外科や脳神経外科、耳鼻咽喉科など多くの領域で行われています。ですが、マイクロサージャリーは必ず手術用顕微鏡を用いるため、設備が整っている施設で行う必要があります。

医療法人社団マイクロ会 銀座リプロ外科では、スーパーマイクロサージャリー(超微細手術)の技術で、顕微鏡手術を行っております。

当院では合計4台(カール・ツァイツ社製:2台、オリンパス社製:1台、ライカ社製:1台)の手術用顕微鏡を揃えています。ベッドは、手術中リラックスできるよう配慮されており、ご希望の患者様にはモニターで手術をご覧いただけます。

当院でメインに執刀する永尾先生は、マイクロサージャリーを専門とする医師。男性不妊領域でのマイクロサージャリーの需要拡大が進む中、この技術を用いて、『より早く、より低侵襲で、確実な』治療を目指しています。通常は入院して全身麻酔で行われる手術を当院では、日帰りで術後すぐに歩いて帰れる手術を行っています。

泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ています。

以下に、当院で行っているマイクロサージャリーの手術内容をご紹介します。

 

精索静脈瘤手術

精索静脈瘤とは、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う3層構造の膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。

男声不妊症の原因の一つとされており、男性不妊症患者の40%以上に認められます。自覚症状がない場合が多く、治療せず放置していると更に悪化してしまいます。

精索静脈瘤の診断は、泌尿器科生殖医療専門医によって行われます。当院では、日本生殖医学会副理事長(2018~現在)でもあり、生殖医療ガイドラインの評価委員を務めた、東邦大学医学部教授の永尾医師が担当しています。永尾医師は独自の「ナガオメソッド」により20年以上精索静脈瘤手術をしており、約10,000例以上の手術実績を誇ります。

精索静脈瘤の手術に関して詳しくはこちらをご覧ください。

 

■ナガオメソッドとは
永尾医師が開発した器具”NAGAO BO”を用い、スーパーマイクロサージャリーの高い技術で、動脈・リンパ管・神経・逆流静脈を一本一本分離することにより、見間違えや見逃しすることなく、確実な手術が行われる手法です。ナガオメソッドは、顕微鏡手術の基礎トレーニングを受け、より高度な顕微鏡手術を行った経験のある医師しかできない手術法です。

理想的な顕微鏡下精索静脈瘤手術を行うには、最適な手術方法と技術の高い執刀医を選択することが重要です。「理想的」とは、動脈リンパ管神経を温存し、悪い逆流静脈をすべて止めることができること。

当院で行われているナガオメソッドは、精管、動脈、リンパ管、神経、悪い逆流静脈を1本1本確認します。最も大切な動脈はドプラ血流計で確認することで、大事なものをすべて残し、悪い逆流静脈だけすべて結紮することができます。悪い逆流静脈を全て止めて、大事なものを全て残すので、血流障害や精巣水瘤(陰嚢水腫)、精巣萎縮などの合併症は起こりません。また、再発のリスクも0.5%と最も低くなっています。

また、当院ではナガオメソッドの手術記録をお渡しし、精管、動脈、リンパ管、神経、逆流静脈を1本1本分離して確認した記録を患者さんと共有しています。

 

動脈温存パイプカット手術(精管結紮術・精管切断術)

すでに子供がいてこれ以上子供を作る予定のない人が手術を希望した場合に行う手術を「パイプカット手術」と言います。当院では、パイプカット再建術をメインに行っているため、顕微鏡下に精管であることを確認でき、精巣の栄養動脈を温存することができます。左右陰嚢を1cmほど切開し、精管(精子の通り道)を切断するという簡単な手術のため、仕事もすぐに復帰できます。当院ではこの手術を、顕微鏡下で局所麻酔を使用し、日帰りで痛みの少ない手術を行っています。

陰嚢上部の精索にはたくさんの索状物(血管・神経・筋肉・結合織・精管)があるため、顕微鏡を使用することで小さい範囲の手術操作で出血や痛みを少なく抑えられます。そしてなにより、たくさんの索状物の中から精管を確実に見つけ確実に結紮することが重要です。当院では、より高度な顕微鏡下パイプカット再建術を多く手掛けた東邦大学の永尾教授が執刀するため、精管の特徴を熟知し顕微鏡下で確認するので安心して手術を受けることができます。

 

パイプカット再建術(精管吻合術)

パイプカット手術を受けたあと、再婚などを理由に授産目的で元に戻す(再開通)ために行う手術が「パイプカット再建術(精管吻合術)」です。精管閉塞部を手術用顕微鏡を使用して再吻合させることで、精管を再通させます。元に戻すことにより、自然妊娠が望めるようになります。

当院でのパイプカット再建術(精管吻合術)の治療成績は精子出現率91%、精液正常化率47%と最も高い治療成績を誇ります。

 

リンパ管細静脈吻合術(LVA)

がんの手術や放射線治療のあと、リンパ液の流れが悪くなることによって上肢、下腹部や外陰部、下肢に浮腫(むくみ)が現れることがあり、これをリンパ浮腫と言います。

リンパ浮腫の治療方法には、浮腫箇所の圧迫やリンパドレナージ、スキンケアで治療を行う「保存的治療」と、リンパ管の流れを新たに作る「外科的治療」があります。当院では、外科的治療である「リンパ管静脈吻合術(LVA)」の日帰り手術が可能です。

手術直前に、超音波やICG蛍光リンパ管造影を用いてリンパ管、静脈の位置を診察し、皮膚切開位置を決めます。局所麻酔を行い、リンパ管と皮下静脈を吻合することでリンパ液の通り道(バイパス)を作成します。リンパ管は非常に細く、直径0.5mmほどしかない管を縫い合わせるため、顕微鏡下で直径50マイクロメートル(0.05mm)という非常に細い針を使用して行われる、非常に高度かつ熟練した技術を有する手術です。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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