不妊治療の最終手段として顕微授精を考えているものの、成功確率がどのくらいかわからず不安になっていませんか。
顕微授精は、精液の量が少ない場合でも妊娠が期待できる一方で、成功確率は、母体の年齢・使用する胚の種類・精子の状態などによって異なります。
本記事では、顕微授精の妊娠確率や、受精できない原因について解説します。精索静脈瘤のような不妊の原因が男性にある際は、適切な治療によって顕微授精の成功率を高められるでしょう。
不妊治療の方針に悩んでいる方は、ステップアップ前にぜひ参考にしてください。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
顕微授精の成功確率
日本産科婦人科学会は、2022年に行われた顕微授精の成功確率は約20%と報告しています。
参考:2022年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績|日本産科婦人科学会
顕微授精は、細いガラス針を使用し、顕微鏡で確認しながら1個の精子を卵子に直接注入する不妊治療法です。精子と卵子が1個ずつあれば行え、精液に問題がある方でも受精できる可能性があります。
ただし、顕微授精の成功確率は、母体の年齢層や使用する胚(はい)の種類によって異なる。また、男性の精索静脈瘤による精子のDNAダメージも影響します。。体外受精と顕微授精の成功確率の違いも解説します。
年齢層別の顕微授精の妊娠確率
日本産科婦人科学会による2022年の報告をもとに、顕微授精の妊娠確率を女性の年齢層別にまとめました。
女性の年齢層 | 移植あたりの妊娠確率 |
---|---|
20代(21~29歳) | 31.2% |
30代(30~39歳) | 27.6% |
40代(40~49歳) | 10.3% |
50代以上 | 0% |
合計 | 20.1% |
参考:2022年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績|日本産科婦人科学会
妊娠において重要な点は女性の年齢で、加齢とともに卵子の質は低下し、顕微授精の成功率が下がってしまいます。少しでも成功率を上げるには、顕微授精を早めに行うことが大切です。
体外受精と顕微授精の成功確率の違い
体外受精と顕微授精の移植あたりの妊娠確率を以下の表にまとめています。
治療法 | 新鮮胚使用 |
---|---|
体外受精 | 24.6% |
顕微授精(射出精子使用) | 19.2% |
参考:2022年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績|日本産科婦人科学会
体外受精は、採取した精子と卵子をシャーレ内で出会わせる方法です。顕微授精のように精子を卵子へ人為的に注入しませんが、妊娠確率は体外受精のほうが上回っています。
ただし、受精確率は、顕微授精のほうが体外受精より高い傾向があります。不妊カップルごとに適する不妊治療法は異なるため、医師とよく相談して決めましょう。
新鮮胚と凍結胚の妊娠確率の違い
顕微授精や体外受精に用いる胚には新鮮胚と凍結胚があり、妊娠確率の差は以下のとおりです。
胚の種類 | 妊娠確率(体外受精を含む) |
---|---|
新鮮胚 | 21.9% |
凍結胚 | 37.8% |
参考:2022年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績|日本産科婦人科学会
胚とは、受精後に分裂を開始した受精卵のことをいいます。
新鮮胚と凍結胚の違いは、培養後の胚を凍結するかどうかです。培養して成長させた胚を体内へ戻す前に液体窒素で凍らせることで、凍結胚となります。凍結保存した胚を母体の状態が良いタイミングで移植できるため、新鮮胚より妊娠確率が高まります。
顕微授精での妊娠確率をできる限り高めたい方は、凍結胚を選択すると良いでしょう。
顕微授精で受精できない原因
妊娠確率を高められるはずの顕微授精で受精できない原因としては、以下の4つが挙げられます。
・透明帯の異常
・卵子が未熟
・卵子活性化障害
・精子のDNA損傷
顕微授精で妊娠不成立となる原因は、女性だけでなく男性にも見られる場合があるため、1つずつ確認してください。
透明帯の異常
顕微授精で受精できない原因の1つが、卵子の透明帯異常です。
透明帯は、タンパク質でできた透明な殻で、卵子を包んでいます。通常の受精では、1個の精子が通過すると硬くなり、複数が卵子へ入り込むことを防いでいます。
透明帯が通常より硬かったり厚かったりする場合の多くは、精子が通過できません。受精できたとしても、子宮内膜に着床しないケースもあります。
顕微授精においては、透明帯異常があると、治療に適している卵子か判別がつきにくくなります。通常の卵子より透明帯が柔らかく、マイクロピペットを押し込む際の抵抗がないため、慎重に精子を注入しなくてはなりません。
透明帯の形態異常が生殖補助医療における受精率を低下させる、という研究結果もありますが、体外受精より顕微授精のほうが成績が良い傾向です。
卵子が未熟
卵子が未熟な場合は、顕微授精を行なってもほとんど受精しない点にも注意する必要があります。
女性の体内で卵子が成熟しない原因は、以下のとおりです。
・ホルモンの分泌不良
・卵巣機能の低下
・加齢
・生活習慣の乱れ
ホルモン剤や排卵誘発剤を使用した方でも、成熟した卵子が得られないケースはあります。
未成熟な卵子しか採取できない場合は、体外で成育させる方法が採用されます。ホルモン剤を含む培養液で卵子を成熟させ、受精能力を持たせる治療法です。ただし、排卵時に成熟していた卵子に比べ、受精率は低くなります。
卵子活性化障害
顕微授精で妊娠できない原因の1つは、卵子活性化障害です。
精子が細胞膜に到達した卵子は活性化し、細胞分裂を始めますが、何らかの異常があると反応せず受精が困難になります。
卵子活性化障害は卵子だけの問題とは限らず、精子が原因の場合もあります。正常な受精反応が起こると、卵子内のカルシウムイオン濃度が上昇しますが、活性化させる力のない精子では変化しません。
卵子活性化に異常がある場合は、顕微授精後の卵子に対して、カルシウムイオン濃度を上昇させる処理が必要です。カルシウムイオノフォアや電気刺激により、人工的に卵子内のカルシウム濃度を上昇させれば、受精を手助けできます。
精子のDNA損傷
精子のDNA損傷も、顕微授精で妊娠できない原因です。DNAに傷が多い精子は、受精しにくかったり、流産の確率が高かったりします。
男性に精索静脈瘤があると、精子のDNA損傷が起こります。精索静脈瘤とは、精巣につながる血管が瘤(こぶ)状に腫れ、精子の質の低下を引き起こす進行性の病気です。放っておくと、精液中のDNAが傷ついた精子の割合が増えていく恐れもあります。
精索静脈瘤は手術による治療が可能で、術後2ヵ月で精子のDNA損傷の改善が見込めます。手術を受けた患者さんは、妊娠率が向上するという研究結果もあるため、不妊でお悩みの方は、自身に精索静脈瘤がないかの検査を受けると良いでしょう。
顕微授精の出生児の先天性疾患確率
顕微授精が原因で先天性疾患発症のリスクが明確に高まる、という科学的根拠は示されていません。ただし、海外の研究では、自然妊娠より顕微授精のほうが、生まれた子どもの先天性疾患の発症率が高いとの報告があります。
厚生労働省からは、顕微授精をはじめとする人工的な処理を加えることによる、出生時の体重増加が報告されています。
顕微授精が、生まれてくる赤ちゃんの先天性疾患を引き起こしたり、体重を増加させたりする可能性も踏まえたうえで実施するかどうかを検討してください。
顕微授精の費用
顕微授精にかかる費用は、保険適用で1回あたり15万円ほどです。2022年4月から顕微授精も保険適用の対象となり、全国のどの医療機関でも同じ価格になりました。
ただし、顕微授精を保険診療で受けるには、回数や女性の年齢に制限があります。監視装置のついたタイムラプスインキュベーターでの胚培養や、着床率を高めるための子宮への処置といった一部の医療行為は、保険適用対象外で1回数万円がかかります。
以下の表に、保険適用の診療代金をまとめました。
個数 | 採卵 | 顕微授精法 | 受精卵培養 | 胚盤胞培養 | 胚の凍結保存 |
---|---|---|---|---|---|
1個 | 16,800円 | 14,400円 | 13,500円 | 4,500円 | 15,000円 |
2~5個 | 20,400円 | 20,400円 | 18,000円 | 6,000円 | 21,000円 |
6~9個 | 26,100円 | 30,000円 | 25,200円 | 7,500円 | 30,600円 |
10個以上 | 31,200円 | 38,400円 | 31,500円 | 9,000円 | 39,000円 |
生殖補助医療管理料 | 900円/月 |
新鮮胚移植 | 22,500円 |
凍結融解胚移植 | 36,000円 |
顕微授精の成功確率を高めるためにホルモン治療をすることも多く、別途薬・注射代などが必要です。
保険診療は高額療養費制度の対象なので、活用して費用を抑えましょう。国による特定治療支援や、自治体の一般不妊治療費助成・先進医療助成により、自己負担額を軽減できるケースもあるため、住んでいる地域の情報を確認してください。
保険適用の条件
顕微授精の保険適用の条件は、以下のとおりです。
不妊治療開始時の女性の年齢 | 1子あたりの回数 |
---|---|
40歳未満 | 通算6回まで |
40歳以上43歳未満 | 通算3回まで |
女性の年齢が43歳以上の場合や、第三者から精子・卵子の提供を受けるケースは、保険適用対象外となります。保険適用で顕微授精を受ける際は、男女が法的な婚姻関係や事実婚関係にあり、双方が治療に同意していることが必須です。
顕微授精を行う前に、保険適用の条件をきちんと確かめましょう。
精索静脈瘤手術により顕微授精の成功確率上昇が望める
顕微授精の成功確率は、精索静脈瘤手術により高められる可能性があります。
精索静脈瘤は自然には治癒せず、早期発見・治療が重要です。手術を行うことで精子の量と、運動率やDNA損傷率などの値が改善し、自然妊娠で子どもを授かった例も多くあります。
不妊治療の効果が出ていない場合は、精索静脈瘤によって精巣機能が低下している可能性もあるため、検査を受けましょう。
精索静脈瘤とは
精索静脈瘤とは、精巣から心臓へ血液を返す血管(精索静脈)が逆流してうっ血が起こり、陰のうや精索部の血管がこぶのような形に拡張する病気のことです。
精索静脈瘤ができると、以下のような状態が進行します。
・精巣内部の温度上昇
・有害な酸化物質の産生
・精巣内の酸素濃度低下
病気の放置により精巣機能が低下し、男性ホルモンの働きが悪くなったり、DNAの傷ついた精子が造られたりするため、注意してください。精子のDNA損傷・数の少なさは、妊娠確率の低下につながります。
当院で受けられる手術
精索静脈瘤に対し、当院で受けられる手術は「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」です。
術後は精液所見の改善が見込め、顕微授精による妊娠確率が高まる可能性があります。体外受精や人工授精といった方法で妊娠が叶い、不妊治療のステップアップが不要となることもあるでしょう。
一般的な手術法は、精管と動脈1本ずつを残し、逆流している静脈や神経・リンパ管などをまとめて糸でしばります。1本の糸でまとめている分ゆるみやすく、合併症が発症する恐れもある点がデメリットです。
さらに外陰部逆流静脈が残存しているので、再発しやすいといえます。
当院における手術では、顕微鏡を使って逆流している静脈のみを1本1本しばって切り離し、健常な部分は温存します。局所麻酔・日帰りで手術が行え、再発・合併症のリスクが低いことが特徴です。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドは、多くのメリットがあるものの手術の難易度が高く、当院でしか行えません。妊娠確率を高めたい方には、当院での手術をおすすめします。他院での再発例などでも高精度なナガオメソッドを推奨する医師が多く、再発予防にもなります。
顕微授精の成功確率を高めたい方は当院へ
「不妊治療を続けているが妊娠に至らない」とお悩みの男性は、顕微授精前にぜひ一度当院へご相談ください。当院は男性の不妊治療を専門としており、妊娠の成功確率アップに有効な手段をご提案します。
精索静脈瘤のある方には、精子の質の改善が期待できる「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」を行います。再発リスクが極めて低く、一度治療すれば効果が継続することが、当院における精索静脈瘤手術のメリットです。
精索静脈瘤の診断・治療の専門医が診察を担当するので、顕微授精の成功確率を少しでも上げたい方は、当院へお問い合わせください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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