「年だから仕方がない」「手術に耐えられるか不安」といった思いを抱えながら、骨盤臓器脱の症状を我慢していませんか。
骨盤臓器脱は高齢者にも多く見られる病気です。根本的な治療法は手術ですが、術式により体への負担の大きさや合併症のリスクは異なります。
本記事では、骨盤臓器脱が起こる原因や高齢の方でも選択しやすい手術法、症状の進行によるリスクを解説します。手術以外の対処法もわかりやすく紹介するので、自身に合った治療法を知るためにぜひ参考にしてください。
高齢者に多い骨盤臓器脱とは?
骨盤臓器脱は、加齢や出産などの影響で骨盤底の筋肉がゆるみ、子宮や膀胱が腟から飛び出す病気です。高齢女性に多く認められ、放置すると尿漏れや歩行困難を引き起こし、日常生活に支障を及ぼしかねません。
骨盤臓器脱に関する知識を深めるために、以下の2点を解説します。
・症状
・高齢者に多い理由
骨盤臓器脱の症状が軽いうちに悪化を防ぐ対策をすることが大切です。
症状
骨盤臓器脱の代表的な症状は、以下のとおりです。
・股間付近のピンポン玉のようなふくらみ
・下腹部の重だるさ
・長時間立っていることによる違和感の悪化
・尿漏れ・頻尿
・便秘
・排尿・排便困難
骨盤臓器脱が進行すると脱出した部分が下着と擦れて炎症や出血が起こり、歩行困難になりかねません。尿漏れや頻尿を気にして、外出や人付き合いを避けるようになる方もいます。
軽症のうちに対処するほうが、症状改善までの時間が短く、治療にかかる負担が軽く済みます。しばらく様子を見てから治療を考えようとは思わず、可能な対策から始めましょう。
高齢者に多い理由
骨盤臓器脱を発症する高齢女性が多い理由は、以下のような要因により骨盤底の支持力が低下し、負担がかかりやすくなるためです。
・加齢による筋力低下
・女性ホルモンの減少
・姿勢の悪さ
加齢にともなう筋力低下は、腕や脚だけでなく骨盤底筋にも起こります。閉経により女性ホルモンの分泌量が減少すると、腟や骨盤底筋のハリ・弾力が失われます。
複数回の出産を経験した方は、骨盤底筋へのダメージが大きいため、リスクがより高くなる傾向です。
猫背や反り腰といった悪い姿勢を長年続けると、骨盤底筋に負担をかけ、骨盤内の臓器の位置が下がる要因の1つになります。高齢者は筋力や体力が衰え、姿勢が悪くなりやすいため、日頃から注意しましょう。
「年をとったから仕方ない」と考えず、早めに対策することが、生活の質を維持するうえでも重要です。
骨盤臓器脱|高齢者に勧められる手術法
高齢者が骨盤臓器脱を患った場合は、以下の手術法が勧められます。
・腟式子宮全摘術+腟断端固定術+腟壁形成術
・腟閉鎖術
・経腟メッシュ手術(TVM手術)
・腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)
患者さんの健康面や合併症のリスクを考え、適切な術式が選択されます。手術は術後の生活に影響を及ぼす場合もあるため、医師からしっかりと説明を受けて検討しましょう。
腟式子宮全摘術+腟断端固定術+腟壁形成術
骨盤臓器脱の手術のうち、高齢者にも適する術式の1つが「腟式子宮全摘術+腟断端固定術+腟壁形成術」です。複数の臓器脱にも対応しやすく、長年にわたり多くの医療機関で採用されてきた実績があります。
「腟式子宮全摘術+腟断端固定術+腟壁形成術」では、以下の3つの処置を行い、骨盤内の臓器が脱出しない構造を作ります。
・腟から子宮を取り除く
・腟断端を靭帯に固定する
・たるんだ腟壁を整える
腹部を切開しないため、体への負担が比較的少ない点が特徴です。術後は6週間ほど重い物を持たないといった注意が必要ですが、日常生活への復帰は早めにでき、再発率は比較的低い15~30%です。
腟閉鎖術
高齢女性が受けられる骨盤臓器脱の手術に、腟閉鎖術もあります。腟閉鎖術は、腟壁を縫い閉じて骨盤内の臓器の脱出を防ぐ術式で、以下の2つに大別可能です。
術式名 | 特徴 |
---|---|
中央腟閉鎖術 |
・腟を中央で縫い閉じる ・体への負担が全腟閉鎖術より少ない |
全腟閉鎖術 |
・子宮摘出後に縫合する ・再発リスクが中央腟閉鎖術より低い |
比較的短時間で終わり、術後の回復がスムーズな手術のため、心疾患や糖尿病などの持病がある方にも選択されます。
ただし、腟を閉じることで、検査機器の通り道を確保できなくなるため、子宮を温存したとしても術後は女性器のがん検査ができません。縫合部からの出血や感染、腹圧性尿失禁の悪化といった合併症のリスクもあります。
経腟メッシュ手術(TVM手術)
骨盤臓器脱の再発リスクがより低い治療を受けたい場合は、経腟メッシュ手術(TVM手術)が選ばれることがあります。TVM手術は、腟から挿入した人工メッシュで脱出した臓器を支える術式であり、腹部を切開しないため、高齢者にも実施できる場合が多い方法です。
子宮・膀胱・直腸など、複数の臓器が下がっているケースでも、一度の手術で治療が可能です。術後の支持力が高く、長期間にわたって症状の再発を抑制する効果が期待できます。
ただし、ほかの術式に比べてメッシュ露出や感染といった合併症のリスクがやや高く、医師との十分な相談が不可欠です。
腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)
骨盤臓器脱の手術には、腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)という選択肢もあります。
腹部に小さな穴を数箇所あけ、カメラと器具を挿入し、人工メッシュで腟壁を仙骨に固定します。臓器を吊り上げるような形で支持構造を補強でき、再発率の低さが特徴です。
LSCは、出血量が少なく、体への負担が軽いため、高齢の方でも体力があれば手術を受けられるでしょう。近年では、ロボットを使って行うロボット支援下仙骨腟固定術(RSC)により、さらに精密な手術が可能となりました。
LSC・RSCは長い時間がかかり、腸閉塞や臓器損傷といった合併症のリスクがあるため、手術を受ける方に基礎疾患がある場合は、慎重な判断が必要です。
高齢者が骨盤臓器脱を治療しない場合の悪循環
高齢者が骨盤臓器脱を治療せずに放置すると、以下のような悪循環に陥る恐れがあります。
1.症状が進行する
2.活動性が低下する
3.認知症や寝たきりのリスクが高まる
骨盤臓器脱の放置は、高齢者の生活の質を大きく下げかねません。心配な症状がある方は、婦人科や泌尿器科で診察を受けましょう。
1. 症状が進行する
骨盤臓器脱は自然に完治せず、放置するほど臓器の下垂が進行する病気です。はじめは「違和感がある」「トイレが近い」といった軽い症状でも、やがて歩行時に脱出箇所が衣類に当たって出血するようになり、日常生活に支障が出ます。
膀胱や直腸が強く圧迫され、尿失禁や排尿困難、便秘などの排泄トラブルが悪化するケースもあります。重症化すれば保存的治療では対処できなくなり、手術が必要になる可能性もあるため、早めの対応が大切です。
2. 活動性が低下する
骨盤臓器脱の症状が進行した場合は、外出や家事が億劫になり、日常生活における活動量が大きく減少しかねません。歩行時の違和感・痛みや尿漏れがあると、「股間が気になって友人との時間を楽しめない」「人前で失禁したらどうしよう」と、不安になるでしょう。
外出を避ける生活が続くと、筋力や体力が落ち、ますます動けなくなるという悪循環に陥ります。趣味や旅行を控えるようになると、気分が落ち込み、孤立感や抑うつ状態に発展することもあります。
活動性の低下は、身体機能だけでなく心理面にも影響を及ぼすため、「動けるうちに治療する」という意識が非常に重要です。骨盤臓器脱への早めの対処により、快適に動ける体の維持を目指しましょう。
3. 認知症や寝たきりのリスクが高まる
高齢者が骨盤臓器脱を放置し、活動的ではない生活を続けると、認知症や寝たきりのリスクを高めてしまいます。
外出や人との交流が減ることで、脳が受ける刺激が極端に少なくなり、認知機能が次第に低下していく可能性があります。認知症が進行すると、記憶力や言語能力が低下したり、日常的な動作をうまく行えなくなったりして、介護なしでの生活が困難になるでしょう。
体を動かす機会が減ることが、筋力やバランス感覚の低下に直結し、転倒・骨折といった重大な事故にもつながりかねません。転倒をきっかけに要介護状態となり、自立した生活が送れなくなる方は大勢います。
自分らしい生活を長く続けるためにも、骨盤臓器脱の症状を放置せず、早めに対策してください。
骨盤臓器脱の手術をしない場合の対処法
骨盤臓器脱への手術以外の対処法は、以下のとおりです。
・骨盤底筋体操をする
・ペッサリーを使う
・フェミクッションを使用する
症状の進行や生活の質の低下を防ぐためにも、自身に合った方法を見つけ、早めにケアを始めましょう。
骨盤底筋体操をする
軽度の骨盤臓器脱に悩む方には、骨盤底筋体操によるセルフケアが有効です。骨盤底筋を鍛えることで、臓器を正しい位置で保ちやすくなり、症状の軽減につながります。
骨盤底筋体操は、以下の流れで行いましょう。
1.肛門や腟をギュッと締めて10秒キープする
2.10秒かけてゆるめる
3.1と2の動作を10回繰り返す
寝た姿勢・座位・立位ででき、習慣化しやすいことが特徴です。
骨盤底筋体操に即効性はありませんが、継続によって筋力がつき、排尿・排便トラブルの改善にも役立ちます。手術に抵抗がある方にとって始めやすい対処法です。
ペッサリーを使う
ペッサリーは、骨盤臓器脱の保存的治療に広く使われる医療器具です。腟内に挿入して骨盤内の臓器を支えることで、違和感や尿漏れといった症状の軽減が期待できます。健康状態から手術が難しい場合も多い高齢者にとって、有力な選択肢の1つです。
ペッサリーは装着後すぐに効果を感じられる一方で、以下のデメリットがあります。
・装着時に違和感や痛みをともなうことがある
・サイズが合わないと脱落しやすい
・定期的に取り外して洗浄するといった適切な管理が必要である
・定期的に通院しなくてはならない
・長期間の使用により腟の炎症や出血といったリスクがある
毎日の管理や通院が難しいと感じる方には、ほかの保存的治療をおすすめします。
フェミクッションを使用する
骨盤臓器脱の保存的治療の1つが、フェミクッションの使用です。シリコン製のクッションを腟の出口に当てて脱出臓器をやさしく支え、サポーターとベルトでしっかりと固定することで、不快な下垂感や違和感を軽減します。
フェミクッションには、以下のメリットがあります。
・感染やただれといった身体的なリスクがほとんどない
・使用直後から効果を実感しやすい
・尿漏れや歩行時の不快感の軽減が期待できる
・下着のようなデザインで周囲の人に病気を知られにくい
・自分で洗えて清潔な状態で繰り返し使用できる
・病院に行かなくてもECサイトから購入できる
・骨盤臓器脱の種類を問わず使える
「手術せずに日常生活を快適に保ちたい」という方は、フェミクッションの使用を検討してください。
骨盤臓器脱に関するお悩みにはフェミクッションを
「骨盤臓器脱の症状を何とかしたい」とお悩みの方には、フェミクッションの使用をおすすめします。高齢者ほど、骨盤臓器脱による違和感・痛みや尿漏れへの対処が必要です。
フェミクッションは、脱出臓器を体の外からやさしく支える医療用サポーターで、手術を受けられなかったり、病院に通いにくかったりする方にも適します。着脱が簡単で、毎日の生活に取り入れやすいといえます。
症状の進行を抑え、いきいきとした生活を保ちたい方は、ぜひフェミクッションをお試しください。
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〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
一般社団法人日本精索静脈瘤協会 理事長
医療法人社団マイクロ会 理事長
銀座リプロ外科 院長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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