「妊活が思うように進まない」「精液検査で異常を指摘されたが、治療方法がわからず不安を感じている」といった悩みを抱えていませんか。
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)が原因の場合は、適切な治療を受けることで精子の質が改善し、妊娠率アップが期待できます。
自身の健康を守るだけでなく、大切なパートナーの負担を軽減し、妊活を前向きに進めるために、手術という選択肢が勧められることもあります。手術は、再発リスクが低く、長期的な効果が期待できる方法を選びましょう。
本記事では、精索静脈瘤の治療法の種類や、手術が推奨される基準について解説します。正しい知識を持ち、治療への一歩を踏み出すために、ぜひ参考にしてください。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
精索静脈瘤とは?
精索静脈瘤とは、精巣から心臓へ戻る血液の逆流が原因で、精索内の静脈が拡張し、瘤(こぶ)ができる病気です。
精索とは、精子の通り道である精管や、血管・リンパ管・神経などを覆っている3層の膜です。精索から心臓へ血液を戻す血管のことを、精索静脈(せいさくじょうみゃく)といいます。
精索内の静脈にある、血液の逆流を防ぐための弁がうまく働かなくなり、静脈血が精巣周辺にとどまることで血管が広がり、瘤ができます。
右に比べて左の精索静脈のほうが長く、ほかの血管に圧迫される位置にあるため、血流が悪くなりやすいことが特徴です。約80~90%の確率で左側に精索静脈瘤が発生する人が多い一方で、両側にできるケースも存在します。
精索静脈瘤は、健常な男性でも約15%に認められ、発症頻度の高い病気です。よほど進行しない限り自覚症状はほとんどありませんが、病状が進むと、陰のうや鼠径部に違和感や痛みを生じる場合もあります。
男性不妊との関連
精索静脈瘤は、男性不妊症患者さんの約30~40%に関与している病気です。
精子を造る器官は熱に弱く、機能を保つには体温よりおよそ2度低い環境が適切とされています。陰のうが体の外にぶらさがった状態で存在している理由は、体温の影響を受けないようにするためです。
精索静脈瘤になると、逆流した温かい血液が精巣付近にとどまってしまいます。精巣が高温状態に陥り、精子を造る機能が正常に働かなくなります。結果として引き起こされる男性不妊の原因となる症状は、以下のとおりです。
乏精子症(ぼうせいししょう) | 精子の数が一般的な数値よりも少ない状態 |
精子無力症(せいしむりょくしょう) | 活発に前進できる精子が極めて少ない状態 |
精子のDNAダメージ | 受精・着床障害や流産の原因 |
精液検査の結果が以下の数値に満たないときは、精子・精液の質が低下していると考えられます。
精子のDNAが損傷すると、受精・着床の可能性が下がったり、流産の原因となったりします。
パートナーの妊娠を希望していながらも不妊治療がうまく進んでおらず、陰のうや鼠径部に違和感がある方は、精索静脈瘤を一度疑ってみましょう。早めに医療機関で検査することをおすすめします。
精索静脈瘤の治療|手術とは?
精索静脈瘤の治療のうち、はっきりとした効果がわかっている方法は手術のみです。手術は、病気が完全に治ることを目指して原因を取り除こうとする治療法です。
精索静脈瘤の手術では、瘤のある精索静脈を結紮(けっさつ)して切離することで、逆流が起きない状態にします。結紮とは、糸でしばることです。
一般的に、手術をすると3〜6ヵ月後には、50〜70%程度の方で精液所見の改善が見込めます。しかし、術式によって、結ぶ場所や温存できる血管・リンパ管の数が大きく異なるため、病院や執刀医選びは慎重に行いましょう。
精索静脈瘤の治療|手術の種類
精索静脈瘤の治療で行われている主な手術の種類は、以下のとおりです。
・日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド
・顕微鏡下低位結紮術
・腹腔鏡手術
・肉眼的高位結紮術
高位・低位とは、手術する位置のことです。高位の場合は、鼠径部の高い位置、低位では鼠径部の下を切開します。
それぞれの方法を比較し、自身にメリットの大きい術式を選んでください。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドは、鼠径部下の切開で、外陰部静脈も結紮し高い治療成績を残している方法です。
陰のうに近い部分を切開し、精巣近くの症状がある血管だけを処理します。顕微鏡下で精管・動脈・リンパ管・神経などを1本1本確認し、逆流によって大きくなった静脈だけをより分けてからすべてしばり、切り離す方法です。
精索静脈には、腎臓に近い内精索静脈と、精巣に近い外陰部静脈(外精静脈)があります。日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドでは、内精逆流静脈だけでなく、精索の外側にあり確認が難しい逆流静脈まで処置をします。
0.5mmという細かい血管やリンパ管をつなぎ合わせる技術を持った医師のみができる手術です。正常な組織を温存できるため、以下のような合併症のリスクを下げられます。
・血流障害
・陰嚢水腫
・神経障害
2025年3月現在までの再発率は0.1%以下で、87%の方に精液所見の改善が見られています。局所麻酔下で行え、1時間程度で終了するため、日帰りでの手術が可能です。
顕微鏡下低位結紮術
顕微鏡下低位結紮術も、精索静脈瘤の治療法です。
鼠径部下を小さめに切開し、精巣に近い部分で精管・少ない動脈・少ないリンパ管を探し残し、それ以外の組織を手術用の顕微鏡でまとめて結紮します。
多くの動脈・多くのリンパ管・ほとんどの神経まで一括してしばるので、問題がない血管の血流・リンパの流れ・神経まで止めてしまうという点がデメリットです。
動脈や精管・リンパ管の温存を目指しますが、術者によって残せる数は異なります。正常な動脈・リンパ管・神経まで損傷すると、血流障害や陰嚢水腫・しびれといった合併症の原因となってしまうでしょう。
顕微鏡下低位結紮術は基本的に局所麻酔で行われ、日帰り手術が可能な場合が多い一方で、ケースによっては入院して全身麻酔下で行われることもあります。
腹腔鏡手術
精索静脈瘤の治療では、腹腔鏡手術も選択肢の1つです。
腹腔鏡手術では腹部を数cm切開し、カメラ(腹腔鏡)と手術器具を挿入して内精逆流静脈を結紮します。切開する場所は複数に及ぶ場合もあります。
保険適用で手術可能ですが、リンパ管の温存が難しいこともあり、合併症のリスクが比較的高い点がデメリットです。睾丸のまわりに水が溜まる陰嚢水腫という合併症が術後に発生するリスクは、5~12%といわれています。
全身麻酔で行うことと、術後しばらくは傷から出血するケースもある点から、通常2泊程度の入院が必要です。
肉眼的高位結紮術
精索静脈瘤の治療法の1つである肉眼的高位結紮術は、腹部を切開して腎臓に近い内精逆流静脈をしばる手術です。顕微鏡やカメラといった特別な道具を使わず、執刀医が肉眼で見て精索静脈を確認し、血管の太い部分に処置をします。
保険適用により費用が抑えられる一方で、以下のようなデメリットも存在します。
・再発率が29%で高い
・動脈やリンパ管を温存できない
・全身麻酔のため入院が必要である
肉眼的高位結紮術はリンパ管の損傷により陰嚢水腫を発症するリスクはありますが、重篤な合併症を起こす可能性の低い方法です。
精索静脈瘤の治療に向けて
精索静脈瘤の治療が必要かどうかの、セルフチェック方法を紹介します。当てはまった方は、手術により男性不妊の原因が取り除ける可能性があります。
自身の状態が手術をしたほうが良いケースに該当するかどうかも、チェックしましょう。精索静脈瘤は徐々に進行するうえ、自然治癒は見込めない病気なので、すみやかな受診をおすすめします。
気になる治療の費用についても説明します。
診察前に自分でできるチェック方法
不妊治療において精子の数の少なさや運動率低下を指摘された場合は、以下の精索静脈瘤のセルフチェックを実施してください。
・陰のうの大きさに左右差がある
・精巣(睾丸)の大きさに左右差がある
・陰のうの片方が垂れ下がっている
・陰のうの表面がでこぼこしている
・陰のうの血管が虫のように浮き出ている
当てはまる項目があったときは精索静脈瘤を疑い、一度受診することをおすすめします。現時点で精液検査の結果が正常でも、精索静脈瘤は進行する病気なので、今後の不妊治療に影響が出る恐れもあります。
精巣機能の悪化予防のために、ぜひ早期治療を検討してください。
手術を行う基準
精索静脈瘤が原因の男性不妊のうち、以下の4つの項目すべてに当てはまる方には手術が勧められます。
・夫婦が不妊症を自覚している
・妻が妊娠可能・妻の不妊原因の治療が可能
・精索静脈瘤が触知される・超音波検査で発覚した
・精液所見に問題がある
見たり触ったりしてわかるような精索静脈瘤の症状があるときは、手術をしたほうが良いでしょう。
男性不妊のケース以外には、精索静脈瘤の手術をするラインに明確な基準はありません。現在パートナーがいなくても、将来的に子どもを授かりたい方や、精索静脈瘤が原因で体に不調が出ている場合は、手術が行われることもあります。
治療にかかる費用
当院での精索静脈瘤検査にかかる費用をまとめました。
初診 | 5,500円(税込) |
エコー検査 | 5,500円(税込) |
術前検査 | 22,000円(税込) |
手術前には、感染症の検査(B型肝炎・C型肝炎・梅毒・HIV)を受けていただきます。6ヵ月以内に他院で検査しているときは、結果の原本をご提示いただくことで省略も可能です。
手術費用は以下のとおりです。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド | 440,000円(税込)~ |
局所麻酔 | 22,000円(税込) |
土日祝日に手術を行う場合の割増料金 | 20,000円(税込) |
当院では執刀医を指名できます。日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドを開発した永尾医師による手術をご希望の場合は、別途費用が加算されます。
予約完了後は、手術前までに手術費用を指定口座へお振り込みください。初診料や術前検査など、手術以外の費用の支払いには現金・クレジットカードをご利用可能です。
精索静脈瘤を治療するメリット
精索静脈瘤を治療することで、以下のメリットを得られます。
・不妊治療のステップダウンが期待できる
・治療効果が持続する
ほかにも、精巣機能の悪化や男性ホルモンの分泌低下を防止可能です。
対処しないことで症状は次第に悪くなり、必要な不妊治療の内容が徐々に高度になる可能性があります。早めに精索静脈瘤を治療する必要性を確認しましょう。
不妊治療のステップダウンが期待できる
不妊治療のステップダウンが期待できることは、精索静脈瘤の手術をするメリットです。
精索静脈瘤は、精子の質を低下させる原因の1つです。
精索静脈瘤を治療することで、精子の運動率や形態が改善されれば、自然妊娠の可能性が高まります。人工授精や体外受精といった高度な生殖補助医療にステップアップする前の治療により、自然に近い方法での妊娠が期待できます。
不妊治療による精神的・経済的な負担の軽減にもつながるでしょう。
女性が体・心ともに大変な思いをしがちな不妊治療のステップダウンができ、パートナーの負担を減らせることは、何より大きな利点です。
治療効果が持続する
精索静脈瘤の手術によるメリットの1つは、血流の異常が根本的に改善するため、一度の治療で効果が持続することです。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドのような精度の高い手術方法を選択することで、再発のリスクを抑えながら精子の状態の改善が期待できます。
一度手術を受けて精子を造る機能が改善された場合は、2人目・3人目を授かりたいと考えたときに精索静脈瘤の治療を行う必要はありません。長期的な視点で考えても、治療によるメリットは大きいといえます。
精索静脈瘤の手術は治療実績のある当院で
精索静脈瘤の手術は、治療実績の豊富な当院にお任せください。当院は男性不妊治療を専門としたクリニックです。精索静脈瘤手術を中心とし、男性不妊や生殖機能に関する治療を総合的に行なっています。
精索静脈瘤手術では、日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド開発者の永尾医師による執刀も可能です。永尾医師は精索静脈瘤の診断や手術の日本における第一人者であり、ナガオメソッドの手術歴は20年以上で、約9,000例の実績があります。
精索静脈瘤は自覚症状を感じにくいので、男性不妊を専門とする医師にまずは診察してもらうことをおすすめします。「できる限り早く赤ちゃんを授かるために、適切な治療を受けたい」と考えている方は、ぜひ一度当院へご相談ください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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