1年以上妊活しているものの子どもを授かれず、「自身の精子の質に問題がないか」と不安を抱えていませんか。
精子の質は妊娠が成立するための重要な要素で、WHO(世界保健機関)では自然妊娠が望める精液検査の基準値が定められています。基準値を満たしていない場合は、精子の質を改善しなければ子どもを自然に授かることは難しいでしょう。
本記事では、WHOの基準値と精子の質の調べ方・高めるメリットを解説します。改善策も紹介するので、精子の質が悪く悩んでいる方はぜひご一読ください。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
WHO基準|精子の質を決めるポイント
WHOでは自然妊娠可能な精子の質を定めており、2021年に発表された基準値は以下のとおりです。
項目 | 基準値 |
---|---|
精液量 | 1.4ml以上 |
精子濃度 | 1600万/ml以上 |
運動率 | 42%以上 |
正常形態率 | 4%以上 |
WHOは参考値を数年ごとに変更しているため、自分の検査値と照らし合わせる際は必ず最新の情報を参考にしてください。各基準値について詳しく解説するので、精液検査の結果の見方について理解を深めましょう。
1. 精液量1.4ml以上
精子の質を表す基準の1つが精液量です。精液量とは、1回の射精で射出された精液の総量のことで、2021年より正常値は1.4ml以上とされています。健康な人の平均的な精液量は約3mlです。
睡眠不足で疲労がたまっていたり、射精の間隔が短かったりすると、精液量が少なくなる傾向があります。肉体的には問題を感じなくても、ストレスが蓄積されているかもしれません。加齢によっても精液量が減少します。
精液量が極端に少ない場合(1ml以下)は、逆行性射精という状態が疑われます。逆行性射精とは、精液が体外方向ではなく膀胱側に逆流する病気です。内服中の薬が原因で逆行性射精になることもあるため、精液量が少ないと感じている方は専門医に相談してください。
2. 精子濃度1600万/ml以上
精子濃度も精子の質を評価する基準です。精子濃度とは、1mlの精液にどのくらいの精子が含まれているかを示す値で、現在の基準における正常値は1600万以上とされています。
1600万/mlを下回ると乏精子症と鑑別され、自然妊娠につながりにくい状態だといえます。
精子濃度が0のケースは無精子症と呼ばれる状態です。無精子症は精子が精巣で造られていなかったり、精路が塞がっていたりすることで起こり、妊娠を望む場合には適切な治療を検討しなければなりません。
3. 運動率42%以上
精液量や精子濃度が正常だったとしても、運動率が低いと精子の質に問題が疑われます。運動率は動いている精子の割合を示し、精液検査のなかでも重要視される項目です。
運動率も、2021年からは以前の40%より正常値が引き上げられました。基準を下回ると、精子無力症と診断されます。運動率の低い精子は子宮内で卵子に到達しにくく、受精が難しい状態です。精子の運動率の低下は、精索静脈瘤がある場合にも見られます。
精液量 × 精子濃度 × 運動率で算出される総運動精子数も精子の質を表す指標です。総運動精子数は動いている精子の総数で、1638万個以上が正常値です。総運動精子数は人工授精や体外受精といった不妊治療の方針を決める指標にもなります。
4. 正常形態率4%以上
正常形態率とは、精子の形が奇形でない割合であり、正常値は4%以上です。正常な精子は頭部が楕円形で、尾部が細長く、おたまじゃくしのような形です。
奇形精子は、頭部の変形や尾部の短縮など、正常な形態とは異なる特徴を持っています。奇形精子が起こる原因は、肥満・喫煙・精巣への温度の影響などです。
形の悪い精子は女性の体内で子宮に向かって前進できなかったり、受精できたとしても妊娠中に流産のリスクが高くなったりして、不妊の原因となります。
精索静脈瘤を発症している方の精子は、正常形態率が低く、奇形精子の割合が高い傾向があります。
精子の質が高まることのメリット
精子の質が高まるメリットは、以下のとおりです。
・自然妊娠の可能性が高まる
・不妊治療がスムーズになる
・女性側の負担が少なくなる
自然妊娠・不妊治療ともに、精子の質は受精率に大きく影響します。精子の質を高める重要性を知りたい方は参考にしてください。
自然妊娠の可能性が高まる
自然妊娠の可能性が向上する点は、精子の質が高まることによるメリットです。精液量・精子濃度・運動率・正常形態率の値が基準を満たしている方は、自然妊娠できる確率が高いといえます。
精液量が少ないケースでも、精子数や運動率が十分に保たれた質の良い精子であれば、卵子との受精確率は高まります。
自然妊娠のしやすさを表す指標としては、総運動精子数が重要です。精液検査で、総運動精子数が1638万個以上の場合は、自然妊娠が可能なレベルだといわれています。
不妊治療がスムーズになる
精子の質が高まると、自然妊娠だけでなく不妊治療もスムーズに行えます。1年以上避妊せずに性行為を行なっても自然妊娠できないときは、タイミング法や人工授精といった不妊治療が検討されることが一般的です。
しかし、精子の質が悪いと、体外受精や顕微授精といった高度な生殖補助医療を使った際の妊娠率も低下します。特に精索静脈瘤により精子のDNA損傷が起こるため精索静脈瘤の早期診断は重要です。
WHOの不妊症原因調査では、不妊で悩むカップルのうち48%が男性側に原因があると報告されており、男性不妊は珍しいケースではありません。なかなか子どもを授かれないカップルは男性不妊の検査をし、治る疾患であれば治療を検討しましょう。
精子の質を下げる病気を根治することで、不妊治療がスムーズに進められます。
女性側の負担が少なくなる
女性側の負担が少なくなることも、精子の質を高めるメリットです。
女性の不妊検査・治療は痛みをともなうことが多く、男性の場合と比較し負担が大きくなるケースが一般的です。男性不妊の検査・治療を行わず不妊治療を進めると、原因が特定できないまま、女性にだけ大きな負担がかかる結果になりかねません。婦人科治療は長期に行われるので女性が仕事を続けられなくなる場合も多いです。
泌尿器科で検査をし、精索静脈瘤のような男性不妊の原因が見つかった場合は、治療を受けることで妊娠の可能性が高まります。不妊原因の改善により、婦人科治療のステップダウンが見込めるだけでなく、自然妊娠可能なレベルまで精子の質を高められることもあり、女性の負担を軽減できます。
不妊治療は女性が頑張るものだと決めつけず、男性の検査も並行して行いましょう。
精子の質の調べ方
精子の質の調べ方として、以下の2つを紹介します。
・精液検査
・DFI・ORP検査
どちらも射精により体外に放出した精液中の精子の状態を検査する方法です。強い痛みをともなう処置が必要ないため、体への負担がほとんどありません。自身に不妊の原因がないか不安な男性は、気軽に受けていただきたい検査です。
精液検査
精液検査は、一般的に広く用いられている精子の質の調べ方です。医療機関や自宅で精液を採取し、以下のような項目に異常がないか検査します。
・精液量
・精子濃度
・総精子数
・前進運動率
・総運動率
・正常形態率
精液検査の前は、禁欲期間が長すぎても短すぎても良くありません。3日間程度の禁欲のあと、検査をするクリニック内での採取を推奨しています。
自宅採取をおすすめしない理由は、精子は温度や紫外線の影響を受けやすく、自宅から医療機関に運ぶまでにダメージを与えてしまうためです。
自宅で精液を採取する方は、体温と同じ温度で保温しながら射精後30分以内に医療機関へ持ち込んでください。保管温度や時間を誤ると、精子の質が低下する恐れがあります。
DFI・ORP検査
精子の質を調査する方法には、一般的な精液検査のほかにDFI・ORP検査もあります。
DFI・ORPとは、精子DNA断片化指数・精液中酸化還元電位を意味する項目です。WHOの基準には含まれていないものの、精子の質を評価する指標の1つとして着目されています。
喫煙や飲酒・精索静脈瘤などをきっかけに体内で発生した酸化ストレスは、精子にダメージを与えます。ダメージを受けて精子のDNAが断片化すると、受精率や妊娠率が低下するでしょう。
DFI・ORP検査は、DNAが断片化した精子の割合や精液中の酸化ストレスのレベルを測定します。精液検査と同様、採取した精液を用いて各項目を調べるやり方です。
精子の質を高めるための対策
精子の質を高める対策には、以下のような方法があります。
・精索静脈瘤手術
・投薬治療
・生活習慣の改善
・栄養素の偏りをなくす
・定期的に射精する
精子の質は、悪い状態で放置していても改善されません。精液所見に異常が指摘された場合は、適切な方法での対処が必要です。それぞれの対策について詳しく解説するので、精子の質を改善したい方は参考にしてください。
精索静脈瘤手術
精索静脈瘤手術は、精子の質を高める医学的根拠(エビデンス)の高い対策の1つです。
精索静脈瘤とは、精巣と心臓をつなぐ血管内で血液が逆流し、陰のうや精索で瘤ができる病気です。逆流により血液がうっ滞することで、熱に弱い精巣内の温度が上昇し、精子を造る機能が低下します。精液所見の悪い方の40%で精索静脈瘤が見られ、男性不妊の原因として最も多い疾患です。
精索静脈瘤を治療することで、自然妊娠・人工授精・体外受精・顕微授精などの成功確率が上昇し、流産・奇形のリスクは減少します。精索静脈瘤の疑いがある場合は、手術による治療を検討してください。
当院で行う「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」は、動脈やリンパ管などを1本ずつ丁寧に確認し、逆流している静脈だけを処置します。大事な組織を温存でき、合併症のリスクが低い点が特徴です。
一般的な手術で処置する内精逆流静脈に加え、外精(外陰部)逆流静脈まで結紮するため、再発率は0.1%以下です。局所麻酔を使うため日帰りが可能な手術で、仕事を長く休む必要がありません。
術後は約2ヵ月経過した頃から精子の質の改善が見られ始め、87%の方で精液所見の向上が報告されています。
投薬治療
投薬治療も精子の質を高めるために使われる対処法です。ホルモンの異常である低ゴナドトロピン性性腺機能低下症が原因で精子を造る機能が低下しているケースは、下垂体ホルモンを補充することで改善が望めます。
補中益気湯・八味地黄丸などの漢方薬や、コエンザイムQ10・ビタミンB12・亜鉛・Lカルニチンなどのサプリメントを勧められる場合があります。しかし、漢方やサプリメントの服用は医学的根拠(エビデンス)が低く、薬だけで精液所見を改善することは困難です。
漢方薬やサプリメントはサポート的な手段であり、ほかの治療方法との併用が必要なことを認識しておきましょう。
生活習慣の改善
精子の質を高める生活習慣のポイントは、以下のとおりです。
・睡眠不足にならない
・運動を心がける
・禁煙する
・陰部を締め付けるようなタイトな下着を避ける
・AGA治療薬を避ける
・性感染症を予防する
体調が悪いと、精液所見も悪くなります。睡眠不足にはならないよう、規則正しい生活を心がけることも大切です。肥満も男性不妊を促進するため、適度な運動を日常的に行いましょう。
座りっぱなしでいると、精巣温度が上昇します。精巣機能は体温より2~3℃低い状態が正常で、温度が上昇すると精子を造る能力が低下します。精巣を温めないように、通気性の良い下着を身に着けることがおすすめです。
タバコに含まれる有害物質は、精子の数・運動・形状に悪影響を及ぼすため、喫煙習慣がある方は妊活前に禁煙しましょう。
男性型脱毛症治療薬のプロペシア(フィナステリド)・ザガーロ(デュタステリド)も、性欲の減退や精液所見を悪化させる可能性があります。妊活中のAGA治療薬は中断することを推奨します。
栄養素の偏りをなくす
栄養素の偏りをなくすことも、精子の質を高めるために重要です。食事の際は、肉・野菜・果物などをバランス良く摂取しましょう。
以下の食べ物は精子の質を高めるという報告もあり、妊活中は積極的に摂取することがおすすめです。
おすすめの食べ物 | 含まれる栄養素 |
---|---|
ほうれん草・ブロッコリー | 葉酸 |
赤ピーマン・黄ピーマン | ビタミンC |
アーモンド | ビタミンE |
ウナギ・サケ・サバ | オメガ-3脂肪酸(DHA・EPA) |
牡蠣・レバー | 亜鉛 |
加工肉やマーガリン・加糖飲料・コーヒー・エナジードリンクは精液所見が低下するという報告があり、不妊治療中に多く摂取することは避けてください。
定期的に射精する
精子の質の改善には、定期的に射精することも大切です。
精子は精巣内で毎日造られています。禁欲して射精を抑えれば、体内に精子が貯められて総数が増加します。実際に射精間隔が長いほど精子数が増大するという研究結果があり、長期間の禁欲が良いと思うかもしれません。
一方、精子の質は射精の間隔が長いと低下します。射精間隔1日よりも4日のほうが精液量や精子運動率が低く、酸化ストレスが増加するという研究結果が報告されています。
不妊治療中は禁欲期間を短めに設定し、2〜3日に1回は射精しましょう。
精子の質の低下にお悩みの方は当院へ
精子の質の低下が不妊の原因ではないかとお悩みの場合は、当院へご相談ください。当院は男性不妊治療に強い泌尿器科クリニックとして、精索静脈瘤手術をはじめとした幅広い医療を提供しています。
不妊で悩んでいるものの原因がわからない方は、ぜひ一度診察や超音波検査といった精索静脈瘤検査を受けてください。精索静脈瘤は男性不妊原因の40%を占める疾患で、放置しても自然には治りません。
当院では、「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」という独自の術式で精索静脈瘤を治療しています。従来の術式よりも再発率・合併症出現率が低く、精液所見の改善が期待可能です。
術前は精液検査で不妊治療レベルでも、術後は自然妊娠が望める状態まで精子の質が向上した方もいます。
当院は完全予約制で、診察室は個室となっており、患者さんのプライバシーには特に配慮しています。精子の質を改善し、自然妊娠を叶えたい方はぜひお気軽にご相談ください。
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〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
銀座リプロ外科 院長
前・東邦大学泌尿器科教授
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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