「パートナーがなかなか妊娠しないのは、自分の精液が少ないせいなのでは?」という不安を一人で抱えていませんか。子どもを授かりたい方は、自分の精液量や精子の数について心配になることがあるでしょう。
精液と精子が少ない場合は、自然妊娠の確率が下がる可能性があります。
本記事では、精液・精子の少なさが妊活に与える影響や考えられる原因、早めに知っておきたい対処法について詳しく解説します。「仕事が忙しくて病院に行けない」「誰にも相談できない」と悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
精液・精子が少ないと自然妊娠しにくい?
精液や精子の量が少ないと、男性不妊の原因となり、自然妊娠の成功率が低下する可能性があります。自然妊娠を成立させるためには、数や運動率が一定以上の精子が必要です。
精子は精液の中に含まれている生殖細胞のことで、射精される際のどろどろとした液体は、精漿(せいしょう)と呼ばれます。精子の量は精液中のおよそ1~5%しかなく、90%以上が精漿です。
精液が少ないと、含まれる精子の量も十分でない可能性があります。一方で、精液量が多い場合でも、精子の数が少なければ妊娠できる確率は低くなります。
精液・精子が少ないと判断される基準を確認しましょう。
精液が少ないとは
WHO(世界保健機関)では、自然妊娠に最低限必要な精液量を1.4ml以上としており、基準値を下回る場合は精液が少ない状態だと判断されます。1度の射精における精液量は、平均でおよそ3ml、多くの男性で約2~6mlです。
精液の役割は、以下のとおりです。
・精液に含まれる糖類が精子が運動するためのエネルギーになる
・アルカリ性の精液が酸性の膣内環境から精子を守る
・乾燥から精子を守る
精液は精子の運動や生存に影響を及ぼすため、量が少ないと自然妊娠の成功率が低下する可能性があります。
精液量は加齢によって減少し、50代になると30代よりも3~22%減るとの報告もあります。パートナーの妊娠に時間がかかっている場合は、年齢を重ねないうちに不妊検査・治療を始めることが大切です。
精子が少ないとは
WHOの基準では、自然妊娠するためには最低でも1600万匹/ml以上が必要とされています。
通常は白くにごった色の精液が、透明に近かったり水っぽかったりする場合は、含まれる精子の数が少ない可能性があります。妊活の際に自身の健康状態を知るためにも、精液の量や見た目をよく観察することをおすすめします。
精液が少ない場合の原因
精液が少ない場合に考えられる原因は、以下のとおりです。
・逆行性射精
・精路通過障害
・生活習慣の影響
・炎症や感染症による精のうや前立腺の機能低下
・内分泌疾患によるホルモンバランスの乱れ
逆行性射精とは、射精時に精液が膀胱へ逆流し、体外に排出される量が減る状態です。射精後の尿を検査し、精液が混ざっているかで診断します。糖尿病や前立腺手術による神経障害、腹部・骨盤の手術が原因で、逆行性射精が起こる場合があります。
精路通過障害とは、先天的な異常や手術後の癒着などが原因で、精子が通る道が閉塞し、射出される精液量が減少することです。
過度な飲酒や喫煙、睡眠不足などの生活習慣の乱れも、精液量の減少につながるリスクがあります。
自身の精液量が少ないと感じた場合は、原因に合った対処をするために、専門の医療機関の受診を検討してください。
精液が少ない場合の対処法
精液量が少ない場合の対処法には、以下の2つが挙げられます。
・専門医による医療的介入
・生活習慣の改善
精液量に関する相談には、男性不妊を専門的に治療している医院の利用がおすすめです。患者さんの状況に応じて効果的な療法が検討されます。
精路通過障害といった症状がある場合は、手術による改善が見込めます。精液量を増やすために、サプリメントや漢方薬、ホルモン補充などの薬物療法が行われるケースもあるでしょう。
慢性的なストレスは男性ホルモンの分泌を妨げ、精液を減らす原因となるため、ストレス管理や生活習慣の改善を行うことも大切です。
精子が少ない・まったくない場合の病名
精液中の精子が少ない場合は「乏精子症」、まったくない状態は「無精子症」と呼ばれます。
精液中に精子がまったくない方でも、適切な治療を受けることで妊娠できる可能性があります。専門的な病院で診察を受け、妊娠に向けたサポートを受けましょう。
乏精子症
乏精子症とは、精液中の精子数が一般的な基準よりも少ない状態を指します。精液1mlあたりの精子数による重症度分類は、以下のとおりです。
レベル | 精液1mlあたりの精子数 |
軽度 | 1600万匹程度 |
中等度 | 500万~1600万匹以下 |
重度 | 500万匹以下 |
精索静脈瘤やホルモン異常などが乏精子症の原因として挙げられ、生活習慣の改善や薬物療法、手術といった治療法が検討されます。
重度の場合は、顕微授精といった生殖補助医療も選択肢の1つです。重症度や原因に応じた対処ができるよう、精液・精子の状態を検査してもらいましょう。
無精子症
無精子症とは、射精された精液中に精子がまったく存在しない状態を指します。日本人男性の約100人に1人、男性不妊症の方では約10人に1人の割合で見られます。
無精子症は、少なくとも2回の精液検査によって診断され、慎重に判断する際は、ホルモン検査や画像検査も実施する傾向です。
無精子症の種類に応じて検討される治療方法は、以下のとおりです。
分類 | 閉塞性無精子症 | 非閉塞性無精子症 |
状態 | 通り道が閉塞して精液中に精子が出てこない | 精巣内で精子を造れない |
治療 | 精路再建術 |
・ホルモン補充 ・精巣内精子採取術 |
ただし、男性の染色体異常で無精子症が生じている場合は、精巣内精子採取術(TESE)の治療効果が期待できず、妊娠が望めない可能性もあります。
精子が少ない原因
精液中の精子が少なくなる原因として、以下の2つが挙げられます。
・造精機能障害
・精路通過障害
原因に対して適切に対処すれば、妊娠率アップが期待できるでしょう。前向きに治療を受けるためにも、正しい知識を持っておくことが大切です。
造精機能障害
造精機能障害は、精巣での精子生成に問題がある状態で、精液中の精子が少なくなる原因の1つです。精子の数の減少や運動率の低下、形状異常の多さなどの症状が見られ、男性不妊のおよそ80%を占めます。
造精機能障害の主な原因は、以下のとおりです。
先天性の原因 |
・染色体異常 ・停留精巣 |
後天性の原因 |
・精索静脈瘤 ・ホルモン異常 ・精巣炎 ・抗がん剤治療や放射線治療 |
造精機能障害の原因のうち、最も多い病気が精索静脈瘤です。精索静脈瘤ができることで、精巣の温度上昇や血流の異常が起き、精子の質や数に悪影響を及ぼします。
精子の質や数が十分でないと、自然妊娠だけでなく人工授精や顕微授精などの不妊治療にステップアップした際の成功率も下がりかねません。精索静脈瘤は進行性の病気なので、放置するとしだいに悪化し、妊娠率の低下につながります。
精索静脈瘤の完治が見込まれる場合は、妊活で悩む前に、精子を造る機能を改善する治療を受けましょう。
精路通過障害
精液中の精子数を少なくする原因としては、精路通過障害もあります。
精路通過障害とは、精子が出てくる通路である精路に異常が見られ、正常な射精が妨げられている状態のことです。以下のような原因が挙げられ、精液中に精子が含まれなくなったり、極端に少なくなったりします。
原因 | 詳細 |
---|---|
先天的異常 | 精管の欠如といった生まれつきの精路の形成異常 |
炎症性疾患 | 精巣上体炎のような疾患による精路の閉塞 |
手術の影響 | 鼠径ヘルニア手術やパイプカットによる精管の閉塞 |
外傷 | 事故やスポーツによる精路損傷 |
精路通過障害は、精路再建術により改善できる場合がありますが、原因によって治療法は異なります。精路の閉塞・損傷の原因に心当たりがある方は、ぜひ一度精液検査や、泌尿器科でのエコー検査を受けましょう。
精子が少ない場合の対処法
精子が少ない場合の対処法として、以下の4つが挙げられます。
・生活習慣の改善
・薬物療法
・生殖補助医療
・手術
患者さんの状態によっては、複数の方法を並行して行う場合もあります。妊娠を叶えるために男性が実践できることを知り、前向きに治療に取り組みましょう。
生活習慣の改善
精子の量を増やすには、以下のような点を意識して生活習慣を改善することが効果的です。
・飲酒量を減らす
・睡眠時間を7~7.5時間確保する
・禁煙する
・有酸素運動をする
・長時間の座位は避ける
・長風呂サウナを避ける
・下着はブリーフよりトランクスが好ましい
・コエンザイムQ10やLカルニチン・亜鉛などを積極的に摂る
長い時間座ることを避けたほうが良い理由は、精巣の血流が悪くなり、精子を造る機能が低下する恐れがあるためです。
造精機能と生活習慣の関連は、実験によって明らかになりつつあります。パートナーの妊娠を望む男性は、栄養バランスの良い食事と適度な運動習慣、十分な睡眠時間を意識し、健康な生活を送りましょう。
薬物療法
薬物療法も、精子の量を増やす効果が期待できます。原因に合った以下のような薬を使用することで、造精機能の改善が見込めます。
・ホルモン剤の服用・注射
・コエンザイムQ10やL-カルニチン、亜鉛などのサプリメント
精巣機能の低下につながる低ゴナドトロピン性性腺機能低下症が原因で、精子が少なくなっている場合は、hCGやhMGなどのホルモン薬の注射が有効です。
妊活におけるサプリメントの使用は科学的根拠が示されており、コエンザイムQ10やL-カルニチン、亜鉛が用いられる場合もあります。
生殖補助医療
精液中の精子の数が不足して妊娠に至らない場合は、必要に応じて以下のような一般不妊治療や生殖補助医療が選択されます。
治療区分 | 治療法 | 概要 |
一般不妊治療 | 人工授精 |
・精液を子宮に直接注入する ・軽度の乏精子症であれば行える |
生殖補助医療 | 体外受精 | 体外で卵子に精子をふりかけて受精させて子宮に移植する |
顕微授精 |
・体外で卵子に精子を1つ注入して受精させて子宮に移植する ・精子が1つあれば行える |
精子の数が少ないケースにおける人工授精や生殖補助医療は「対症療法」と呼ばれ、原因を取り除かずに妊娠を目指す方法です。男性不妊原因の40%の精索静脈瘤を治療すれば精子の数を増やす可能性があります。
一般不妊治療・生殖補助医療のデメリットは、2人以上の子どもが欲しい場合に、再度治療を受ける必要があることです。可能であれば、精索静脈瘤手術のような方法で原因を取り除き、精子の量や質の向上を目指すほうがメリットが大きい場合もあります。
手術
精索静脈瘤と精路通過障害が原因で精液中の精子数が少ない場合は、手術による治療が効果的です。
乏精子症の原因となる精索静脈瘤に対して、当院では、日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドを行なっています。
日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドは、精索静脈瘤手術の第一人者である永尾医師によって開発された、7段階の局所麻酔を使う手術です。顕微鏡・ドップラー(超音波血流計)で逆流している静脈だけを確認し、結紮(けっさつ)・切離します。また、内精逆流静脈だけでなく、外陰部逆流静脈も結紮・切離します。
動脈・精管・リンパ管・神経などの大切な器官を温存でき、再発や合併症のリスクを下げられる点が大きなメリットです。術後の精液所見の改善率は87%で、体外受精や顕微授精の成功率が上がり、自然妊娠の可能性もあります。
鼠径ヘルニア手術やパイプカットが原因の精路通過障害では、精子の通り道を再通させる精管吻合術が行われます。当院では、日帰り顕微鏡下パイプカット再建術も行なっています。
精液・精子が少ない以外の精子異常
精液・精子が少ない以外の精子異常は、以下のとおりです。
・精子無力症
・精子奇形症
妊娠の確率を上げるには、精子の運動率や形も重要です。精液・精子の量に問題がないにもかかわらず、パートナーがなかなか妊娠に至らない場合は、男性も不妊検査を受けましょう。
精子無力症
精子無力症とは、動きが活発な精子が少ない状態のことです。WHOが示した妊娠が期待できる最低限の数値である運動率42%・前進運動率30%を下回ると、精子無力症と診断されます。
精子無力症は、明確な原因が判明していません。環境ホルモンと呼ばれる、体内で分泌されるホルモンの働きを乱す化学物質をはじめ、以下のような行動や病気などが影響を与えているといわれています。
・活性酸素
・食生活
・ストレスの多いライフスタイル
・喫煙
・精索静脈瘤
精子無力症の患者さんに精索静脈瘤が見られる場合は、手術を行うことで、精子の運動率アップが望めます。不妊症に詳しい医師に相談し、より良い治療方法のアドバイスを受けましょう。
精子奇形症
正常な形態を持つ精子の割合が極端に低い状態が、精子奇形症です。WHOでは正常形態の精子が4%以上であれば良いと決められており、下回る場合に精子奇形症と診断されます。
精子奇形症の原因は完全には解明されていないものの、関与が疑われる要因は、以下のとおりです。
先天的要因 |
・遺伝的な異常 ・先天的な疾患 |
後天的要因 |
・過度なストレス ・睡眠不足 ・偏った食生活 ・喫煙 ・過度な飲酒 ・精索静脈瘤 |
治療法としては、精索静脈瘤の手術や生活習慣の改善、コエンザイムQ10といった抗酸化サプリメントの摂取などが選択されます。重度の精子奇形症では、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療が検討されることもあるでしょう。
精索静脈瘤が原因の場合は、放置すると精子の奇形率が徐々に悪化していくかもしれません。精子奇形症と診断された方が妊娠を叶えるには、専門の医療機関での適切なアプローチが重要です。
自然妊娠できない場合は早期に検査・治療を
「自然妊娠できない」とお悩みの方は、早期に検査・治療を受けましょう。不妊カップルのうち約半数が、男性にも原因があります。
精索静脈瘤は、男性不妊患者さんの約40%に認められ、精液・精子の少なさにも影響を与えています。
当院の日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドは、精液所見の改善が見込める手術で、かかる時間は片側60分ほどです。手術により精液の量や質が改善すれば、自然妊娠の確率アップが期待できるでしょう。
当院は、手術枠が多く、日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッドを通常2週間で行うことができます。
「自然妊娠を叶えたい」「男性不妊ではないか」とお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
施術の紹介

精索静脈瘤とは?症状や検査方法、治療・手術方法を解説
詳しくはこちらお問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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