男性不妊は薬で治る?原因ごとに見る薬物治療の種類・効果・影響 - 銀座リプロ外科
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男性不妊は薬で治る?原因ごとに見る薬物治療の種類・効果・影響

「男性不妊を薬だけで治せないか」と、気になっていませんか。

内服薬は、妊活中の体調のコントロールや精子の状態改善といった補助的な治療手段として効果的です。

妊活しているもののなかなか結果に結びつかない場合、約半数は男性側にも原因があります。妊娠を実現させるには、できる限り早く医療機関を受診して不妊の原因を見つけ、適切な治療を受けることが大切です。

パートナーの自然妊娠を望む方は、本記事を参考に、薬を含む男性不妊の治療法に関する知識を深めましょう。

 

 

男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
男性不妊の40%精索静脈瘤が原因

男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。

男性不妊は薬物治療で改善する?

男性不妊が薬物治療で改善するかは、原因によって異なります。一部の病気が原因で男性不妊に陥っている場合は薬物による治療が望めますが、多くのケースでは薬が不妊に効果があるといった医学的根拠は証明されていません。

精子の状態を少しでも良くして妊娠につなげるために、補助的な目的で以下のような内服薬が使用されることが大半です。

・サプリメント(コエンザイムQ10やビタミンB12など)
・ホルモン製剤
・漢方薬

内服薬だけでの男性不妊の根治は困難であり、根本的治療や対症療法との併用が勧められています。

 

男性不妊で薬物治療が選択されるケース

薬物治療が選択されるケース

男性不妊で薬の内服治療が選択されるケースは、以下のとおりです。

薬での治療が望める ・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
・逆行性射精
・ED(勃起障害)
薬以外の治療法のサポートとして用いる ・軽度の精索静脈瘤
・精路通過障害
・婦人科治療の成功率を高めたい場合
男性不妊を治療できない際に補助的に使う ・原因不明の男性不妊
・染色体・遺伝子異常
・薬剤性・停留精巣による精巣機能障害

 

薬によって治療できる男性不妊はごく一部で、多くのケースでは治療がスムーズに進むことを期待して補助的な役割で使われます。

 

男性不妊の薬物治療①|性機能障害

男性不妊では、性機能障害に対して以下のような薬物治療が選択されます。

・ED治療薬(PDE5阻害薬)の内服
・プロスタグランジンE1の陰茎海綿体自己注射
・抗うつ薬の内服
・漢方薬の内服

性機能障害とは、精子には問題がないものの、性行為の際に勃起や射精でトラブルがあり、妊娠に至らないケースです。代表例は、ED・射精障害で、病気だけでなく妊娠に対するプレッシャーや生活習慣が原因で起こる場合もあります。

EDは、各種のED治療薬の内服や陰茎海綿体自己注射での治療が望め、射精障害の1つである逆行性射精には抗うつ薬が使用されます。

 

ED治療薬(PDE5阻害薬)の内服

EDの治療薬は、PDE5阻害薬であるバイアグラやシアリスです。バイアグラやシアリスを使用すると、妊活中で性行為や射精をする日や時間が決まっている状況でも、うまく性交ができることが期待可能です。

勃起は、性的な刺激により陰茎に血液が集まることで成立します。一方で、体内にはPDE5という、勃起を鎮める作用のある酵素が存在します。ED治療薬の内服はPDE5の働きを阻害し、勃起を維持しやすくする方法です。ED治療薬による精子への悪影響はありません。

回答者のうち、30代男性の90%以上がED治療薬の内服に効果を感じたとする調査結果もあります。ED治療薬の服用経験がある全年齢層での有効率は、およそ70〜80%です。

若い男性でも、過度なストレスやプレッシャーによってEDになることがよくあります。タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精といった不妊治療の過程で、性交や射精のタイミングを決められていると、精神的な負担から勃起しにくくなることもあります。

妊娠を目指すパートナーとのスムーズな性行為のために、ED治療薬を活用しつつ、ストレスを適切にコントロールすることが大切です。

 

プロスタグランジンE1の陰茎海綿体自己注射

EDによる男性不妊の薬物治療では、プロスタグランジンE1(PGE1)の陰茎海綿体自己注射(ICI治療)も行われます。勃起に関与する陰茎の海綿体に、プロスタグランジンE1を直接注射する方法です。

心臓の薬を使用している場合は、血管拡張作用のあるPDE5阻害薬は使えません。心疾患の薬を使用していたり、PDE5阻害薬で十分な効果が得られなかったりする場合は、プロスタグランジンE1の陰茎海綿体自己注射が検討されます。

ICI治療を試した方のおよそ70%が効果を感じていると報告されています。

プロスタグランジンE1の陰茎海綿体自己注射は、日本では厚生労働省に認可されていませんが、海外ではスタンダードな治療です。医師と患者さんの責任で、性行為の直前に自分で陰茎に注射することが必要です。

 

抗うつ薬の内服

男性不妊のうち逆行性射精には、三環系抗うつ薬が有効な場合があります。

「射精の感覚はあるが、精液が出てこない」のように、精液が膀胱の方向に逆行してしまう病気が逆行性射精です。逆行性射精は糖尿病・骨盤内手術・外傷などにより起こることがあり、原因が不明なケースも見られます。

治療には抗うつ薬のアモキサピンが有効で、使用されていましたが、2023年2月から販売中止になりました。

2025年7月時点では、三環系抗うつ薬の1つであるイミプラミン塩酸塩が使われています。イミプラミン塩酸塩は、副作用として眠気が報告されているため、服用のタイミングは夕方か睡眠前です。

 

漢方薬の内服

男性不妊の1つである性機能障害の改善を目的とし、漢方薬を服用することがあります。

漢方薬は、自然界に存在する動植物や鉱物といった生薬を組み合わせ、活用する治療方法です。人体の構成要素をいくつかに分類し、全体のバランスを整える目的で使われます。

性機能障害の治療に使用される主な漢方薬は、次のとおりです。

漢方薬名 効果・目的
八味地黄丸 加齢にともなう体力・性機能の低下を補う
補中益気湯 エネルギー不足によるEDに使われる
柴胡加竜骨牡蛎湯 ストレスレベルを低下させる

 

漢方薬はドラッグストアでも購入できますが、自分に合った薬を選択して効果を最大限に活かすために、専門家に相談してから取り入れましょう。

 

男性不妊の薬物治療②|低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症による男性不妊の患者さんに対しては、以下のような薬物療法が行われます。

・hCG製剤・FSH製剤の皮下注射
・GnRH製剤の皮下注射

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とは、脳内の視床下部・下垂体から出る、精巣を刺激するホルモンの分泌が低下する疾患です。精巣機能が障害されて精子が正常に造られなくなったり、性機能が低下したりします。

先天的な場合と手術や過度の減量などによる後天性のケースがあり、ホルモン分泌が障害されている部位により視床下部性と下垂体性に分類されます。

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は難病に指定されており、条件を満たせば治療において医療費助成制度を利用可能です。

 

hCG製剤・FSH製剤の皮下注射

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症による男性不妊は、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)製剤とFSH製剤を皮下注射する薬物治療で根本的な改善が望めます。

自分で注射する頻度は、週に2〜3回です。hCG製剤はLH作用があり注射すると体内でテストステロンが増加し、FSH製剤は精巣での精子形成を促します。LHとFSHは下垂体ホルモンで、次のような働きがあります。

LH(黄体形成ホルモン) テストステロンの分泌を促進
FSH(卵胞刺激ホルモン) 精子形成を促進

 

テストステロンは、男性らしい体つきや精子産生・性機能の維持といった役割がある男性ホルモンの一種です。

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、hCG・FSH製剤の皮下注射による造精機能の回復が報告されており、治療を通じて妊娠率の向上が望めるでしょう。

 

GnRH製剤の皮下注射

GnRH製剤の皮下注射も、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に起因する男性不妊の薬物治療の方法です。

GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は、視床下部から分泌されるホルモンの1つです。下垂体を刺激して下垂体ホルモンであるLHとFSHの分泌を促し、男性ホルモンや精子の産生を促進する作用があります。

GnRH製剤の皮下注射は、視床下部性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の治療に有効です。GnRHは体内で持続的に分泌されているため、決められた回数・量を継続して注射することが必要です。

 

男性不妊の薬物治療③|原因不明

原因不明の男性不妊に対しては、以下のような薬物治療が実施されます。

・経口抗酸化薬の内服
・ホルモン製剤の内服
・漢方薬の内服

欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでは、経験に基づく薬物治療の方法が紹介されていますが、科学的証拠が提示されている療法はほとんどありません。

原因不明の男性不妊に対しての薬は、あくまでサポートとしての利用が推奨されることを認識しておきましょう。

 

経口抗酸化薬の内服

原因不明の男性不妊の治療では、体内の酸化ストレス軽減を期待して抗酸化薬を内服することがあります。

酸化ストレスとは、活性酸素の増加が招く有害な作用です。精子に対しては、DNAの損傷や運動能力低下を引き起こし、男性不妊の原因になる恐れがあるため避けることが肝心です。

直接・間接的な抗酸化作用が期待できる薬やサプリメントの例としては、以下の4つが挙げられます。

・コエンザイムQ10
・L-カルニチン
・亜鉛
・ビタミンB12

コエンザイムQ10や亜鉛などの経口抗酸化剤の服用で、精液所見の有意な改善が認められたとの複数の結果が報告されています。

精索静脈瘤が原因で酸化ストレスが増加している場合は、手術による根本的な治療が可能です。

 

ホルモン製剤の内服

原因不明の男性不妊治療には、クロミフェン内服薬が使われることがあります。

クロミフェンは、体内で作り出されるホルモンの分泌や働きを制御する薬剤です。女性の排卵誘発に使われる薬ですが、男性のホルモンバランスを整える目的でも用いられます。

クロミフェンを飲むと、GnRHの分泌が促進され、LHとFSHが作り出されます。結果として、精巣内のテストステロン値が上昇し、精子の産生が促進される仕組みです。

クロミフェンは女性ホルモンに似た作用があり、長期間の内服は危険です。精液所見を悪化させることもあるので、内服治療中は定期的な採血によるホルモン値のチェックが推奨されます。

 

漢方薬の内服

原因不明の男性不妊患者さんに対し、精子の状態や体質の改善を目指して漢方薬が処方されることもあります。

漢方薬の多くは医師の経験に基づいて使用されており、治療効果を確認するランダム化比較試験(RCT)の報告はほとんどなく、医学的根拠は乏しいといえるでしょう。

論文の数は少ないものの、補中益気湯・柴胡加竜骨牡蛎湯・牛車腎気丸は、精液所見の向上が報告されています。補中益気湯と柴胡加竜骨牡蛎湯に関する調査結果の例は、以下のとおりです。

漢方薬名 精子濃度の改善率 精子の運動率の改善率
補中益気湯 18.8% 50.0%
柴胡加竜骨牡蛎湯 41.7% 41.7%

 

牛車腎気丸が精子濃度を改善させたとの報告もあります。

漢方薬を男性不妊の治療に取り入れたい方は、専門家への相談を検討してください。

 

男性不妊の治療方法は薬物治療以外にもある

男性不妊の治療法には、薬の使用以外に以下の方法があります。

・根本的治療
・対症療法
・生活習慣の改善

パートナーの妊娠を目指している場合は、本質的な妊よう力(妊娠させる力)改善のために、薬はサポートとしての利用にとどめてほかの手段を試すことも検討しましょう。薬物治療以外の方法について詳しく解説します。

 

根本的治療

男性不妊のうち、薬に頼らず根本的に治療できる原因は、以下のとおりです。

・精索静脈瘤
・精路閉塞
・陰茎湾曲症

精索静脈瘤は、男性不妊に悩んでいる方の40%にあるとされる、静脈弁の異常により陰のうや精索の血管で血流が滞る病気です。

当院では、高倍率の顕微鏡を用い、逆流している静脈のみを1本ずつ丁寧に処置する「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」で治療します。局所麻酔で手術ができ、外精逆流静脈まで処置するため再発率が低く、87%という精液所見改善率の高さが特徴です。

精子の通り道に何らかの問題が生じている精路閉塞や、勃起した際に陰茎が曲がり、性行為の継続が難しい陰茎湾曲症も、手術により改善が期待できます。

精路閉塞

アメリカの泌尿器科学会と生殖医学会が共同で、男性不妊の診断と治療に関する「AUA/ASRMガイドライン」を発表しました。ガイドラインにおいて、精索静脈瘤や精路閉塞などの根本的治療は、不妊の改善に対する医学的根拠が認められるとされています。

治療できる男性不妊の原因は、簡単な診察やエコー検査で見つけられるケースがあります。結婚前や妊活スタート時に、夫婦で不妊検査を受けて必要ならば早期に治療し、妊娠の可能性を高めましょう。

 

対症療法

根本的治療では改善が期待できない次のような男性不妊に対し、対症療法として婦人科治療(人工授精・体外受精・顕微授精)が提案される場合があります。

・原因不明
・染色体・遺伝子異常
・薬剤や停留精巣による精巣障害
・根本的治療の結果が不十分

薬剤や手術などによる治療結果が不十分な場合でも、生殖補助医療(ART)であれば妊娠につながる可能性があります。生殖補助医療は、精子の数が少なかったり、運動能力が低かったりするケースでも受精のサポートが可能です。

女性の年齢や治療回数に制限はあるものの、2022年4月より人工授精や体外受精などの保険適用が開始されました。費用の高さや治療効果がなかなか出ないことに悩んでいる方は、男性不妊の対症療法を検討してください。

 

生活習慣の改善

生活習慣は男性不妊と関係があるといわれており、ライフスタイルの改善は、薬物治療以外でできる対処方法の1つです。

妊活や状態の良い精子造りのためには、以下のような生活習慣が推奨されます。

・長風呂・サウナを控える
・ブリーフではなくトランクスを着用する
・ストレスをためない
・禁煙する
・肥満の改善に取り組む

精子は熱に弱いため、妊活中は長風呂やサウナを控えたり、通気性の良いトランクスを着用したりするといった日頃のケアが大切です。ストレスやタバコは、ホルモンバランスの乱れやEDを引き起こす可能性があります。

妊活だけでなく長期的な健康のためにも、心身をともに健やかに保てる生活を送ることをおすすめします。

 

男性不妊の原因を根本的治療で取り除こう

根本的な治療で男性不妊の原因を取り除きましょう。精液所見は、多くのケースで薬では良くなりません。

当院では、精索静脈瘤に対する根本的治療である「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」を実施しています。治療により、タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精での妊娠・出産率アップと、流産・奇形児のリスク減少が期待できます。

不妊治療中のカップルや妊活に不安がある方は、ぜひ一度当院にご相談ください。

 

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

銀座リプロ外科 院長
前・東邦大学泌尿器科教授

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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