COLUMN

男性不妊と内服薬

 

男性不妊の治療方法

男性不妊の治療方法には、様々なものがあります。医学的根拠が高くガイドラインでも一番に推奨されている根本的治療、根本的治療ではないが医学的根拠のある対症療法、医学的根拠は高くないですが、補助的に推奨されるその他の治療法に分けることができます。

根本的治療

不妊症の原因の半分は男性側にあります。男性不妊の原因には、根本的に治療できるものと、治療ができないものがあります。治療できるものは、精索静脈瘤、性機能障害(ED、逆行性射精)、精路閉塞、下垂体ホルモン低下でガイドラインでも医学的根拠が高く、強く推奨されています。治療できないものは、原因不明が最も多く、次に染色体・遺伝子異常、薬剤や停留精巣による精巣障害などがあります。結婚前や結婚早期に治療可能な男性不妊の原因を簡単な診察やエコー検査で見つけ、早期に治療することが勧められています。

対症療法

根本的治療ができない男性不妊(原因不明、染色体・遺伝子異常、薬剤や停留精巣による精巣障害)と診断されたり、根本的治療の結果が不十分な場合は、対症療法である婦人科治療(人工受精・体外受精・顕微授精)が提案されます。

その他の治療方法

医学的根拠は高くありませんが、少しでも精子の状態を良くするために、補助的に内服薬(ビタミンなどの抗酸化剤、ホルモン剤、漢方薬)が使用されますが、根本的治療や対症療法と併用することが勧められています。
生活習慣では、禁煙、長風呂・サウナを控える、ブリーフよりはトランクス、肥満の改善などが推奨されます。

 

薬物治療が選択されるケース

根本的治療ができない男性不妊(原因不明、染色体・遺伝子異常、薬剤や停留精巣による精巣障害)と診断されたり、根本的治療(精索静脈瘤手術、ED治療、逆行性射精治療、精路再建手術、下垂体ホルモン低下補充)の結果が不十分な場合、対症療法である婦人科治療(人工受精・体外受精・顕微授精)の効果を高めたい場合に
内服治療が補助的に行われます。

薬物治療が選択されるケース

 

性機能障害に対する薬物療法

性機能障害には、ED(勃起障害)、射精障害があります。EDにはED治療薬が第一選択、ED治療薬が不十分な場合は陰茎海綿体自己注射が第二選択としてあります。
射精障害の中で逆行性射精に対しては、抗うつ薬が使用されています。

ED治療薬(PDE-5阻害薬)の内服

比較的若い男性でも、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精を繰り返し、性交や射精を決められた時期や場所で行っているとEDになることがよくあります。ED治療薬であるバイアグラ、シアリスなどを使用すると多少時期や場所を決められても性行為時や射精時の勃起が改善します。また、ED治療薬は精子に影響はありません。

プロスタグランジンE1の陰茎海綿体自己注射

若い男性のEDには、ED治療薬(PDE-5阻害薬)が90%くらい効果を示します。残り10%が、心臓の薬を使用している、ED治療薬で効果が不十分な場合で、プロスタグランジンE1の陰茎海綿体自己注射が検討されます。自己注射は厚労省が認可していませんが、海外ではスタンダードな治療です。日本では医師と患者さんの責任で行っています。

抗うつ薬の内服

射精の感じはあるが、精液が出てこない、膀胱の方向に逆行して射精してしまう逆行性射精という病気があります。原因は、糖尿病、骨盤内手術や外傷、原因不明などがあります。逆行性射精に対して三環系抗うつ薬のアモキサピンが有効な場合があります。副作用は眠気なので、夕方または睡眠前にアモキサピン50mgを連日服用します。

 

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対する薬物療法

低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とは、脳内の視床下部または下垂体から出る精巣を刺激するホルモンが低下して、男性ホルモン(テストステロン)低下や精子を作る機能の低下になります。ホルモン分泌障害部位により視床下部性と下垂体性に分類されます。

テストステロンの筋注

男性ホルモン(テストステロン)低下症状(意欲・性欲低下、陰毛が薄い、精液が少ない、ED)などの治療には良いですが、精子を作る作用には反対に働きますので、不妊治療をする男性には禁忌です。テストステロンを避妊薬として開発する臨床研究が行われたくらいです。

hCG製剤・FSH製剤の皮下注

下垂体ホルモンであるLHとFSHの作用がある薬剤で、皮下注射が可能なので週に2-3回自己注射を行います。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対しては、医学的根拠が高く、強く推奨されています。保険適応ですが、FSH製剤が高価なので指定医療機関で医療証の発行申請をして医療費補助を受けることができます。

GnRH製剤の皮下注射

視床下部から出るホルモンで、下垂体を刺激して下垂体ホルモンを出させる作用があります。視床下部性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に有効ですが、持続注入が必要なので使用方法が無難しく、視床下部性においても下垂体性と同様にhCG製剤・hFSH製剤の皮下注が行われています。

 

内服薬

ヨーロッパ泌尿器科学会ガイドラインでは、原因不明の男性不妊症に対してさまざまな経験的薬物治療が使用されてきましたが、経験的アプローチであり科学的証拠はほとんどありませんでした。最近、経口抗酸化剤の服用で精液所見の有意な増加が認められている。漢方薬も経験的に使用されているが海外では評価されず、本邦でもランダム化比較試験(RCT)がほとんどなく医学的根拠は低いです。

経口抗酸化薬内服

亜鉛:精漿中亜鉛濃度は精子運動速度と相関(泌尿紀要 34: 1-10, 1988)し
亜鉛・葉酸内服のランダム化比較試験(RCT)で精子濃度が有意に改善(Int J Androl, 29: 339-345, 2006)
コエンザイムQ10:コエンザイムQ10内服による効果ランダム化比較試験(RCT)では、CoQ10 200mg、6ヵ月内服し、精子運動率と直進率が改善した(Fertil Steril, 91: 1785-1792, 2009)。
L-カルニチン:L-カルニチン内服によるランダム化比較試験(RCT)では、総運動精子数が有意に改善(Fertil Steril, 79: 292-300, 2003)した。

ホルモン製剤内服

クロミフェン内服では、テストステロンやエストロゲンの上昇も引き起こし、精液所見を悪化させることもあるのでホルモン採血を定期的に行う必要がある。
クロミフェン・ビタミンE内服によるランダム化比較試験(RCT)は、クロミフェン 25mgとビタミンE 400mgを6ヵ月内服し、精子濃度が有意に改善(Fertil Steril, 93: 2232-2235, 2010)した。
クロミフェン単独内服によるランダム化比較試験(RCT)では、精子濃度・運動率が有意に改善(Andrology 3: 864–867, 2015)した。

漢方薬内服

漢方薬に関するランダム化比較試験(RCT)はほとんどない。補中益気湯の治療効果は、精子濃度32-70%・運動率22-63%、八味地黄丸の治療効果は、精子濃度21-50%・運動率0-50%、牛車腎気丸治療効果は、精子濃度0-67%・運動率0-14%、柴胡加竜骨牡蛎湯の治療効果は、精子濃度46-58%・運動率65-67%との報告がある(布施秀樹、他:Pharma Medica、18: 93-98, 2000)。

 

精液は薬では良くなりません。診察は簡単なので、不妊治療中の方やこれから不妊治療を検討されている方は、是非、生殖専門医(泌尿器科)の診察を受けてみてください。精索静脈瘤が見つかり治療することにより、タイミング・人工授精・体外授精・顕微授精レベル、全ての方法で、妊娠・出産率がアップし、流産・奇形が減少することができます。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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