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まだ遅くない? 40代からの男性不妊治療・妊活のポイント

40代を迎えて、子どもを授かりたいけれど、なかなか自然に授からない。これからどのように不妊治療や妊活を進めればいいのだろう…そんな風に、焦りを感じているカップルもいるかもしれません。

妊娠への近道は、カップルの双方で不妊治療へ取り組むことです。不妊治療というと、女性側の問題だと考えられがちですが、男性側に問題があるケースもあります。

WHO(世界保健機構)の不妊症原因調査では、男性不妊が48%、男女ともに原因があるケースが24%という結果になり、不妊の原因が男性にある場合が少なくないということが分かりました。不妊は女性だけの問題ではないのです。

この記事では、男性も不妊治療をした方がいい理由や、男性の妊活のポイントについて、詳しく解説していきます。

男性の年齢は女性の妊娠率に影響する?

女性が加齢により妊娠しづらくなることはよく知られていますが、男性も、加齢により精子力が低下することが分かっています。

例えば、①同い年の夫婦、②男性が女性より5歳年上である夫婦 の妊娠の確率を比較すると、女性が34歳までは、①②はほぼ差がありませんでした。(①男性34歳まで、②男性39歳まで)

しかし、女性が35~39歳の場合、①と比べて②のケースでは、妊娠率が10%以上下がる傾向があることが分かりました。(①男性35歳~39歳、②男性40~44歳)

つまり男性も、40歳からは精子力が低下し、妊娠率を下げてしまうのです。
(参照:三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」 第2回 男性が知っておくべき不妊のリアル

このような精子力の低下は、40代後半になるとさらに加速すると考えられています。妊娠のタイムリミットがあるのは女性だけではないのです。

女性だけでなく40代男性も不妊治療をしたほうがよい理由

性欲が減退していくから

男性ホルモンの95%は、テストステロンと呼ばれる性ホルモンで成り立っています。テストステロンによって、男性らしい筋肉質な肉体やがっしりとした骨格が作られたり、性欲や性行動に必要な作用が起こったり、気力ややる気といった前向きな思考が働きます。テストステロンは男性にとって、とても重要なホルモンなのです。

しかし、テストステロンは20代~30代でピークを迎え、その後は加齢とともに、緩やかに減少していきます。また、過剰なストレスによってもテストステロンは減少してしまいます。

テストステロンが減少すると、様々な症状が現れますが、中でも性行動にまつわる変化はよく見られる症状です。例えば、性欲の減退や性的興奮の低下、ED(勃起不全)、朝勃ちの減少などです。このことが、不妊につながる可能性もあります。

 

また、このようなテストステロンの減少にともなう男性の体調の変化を「男性更年期障害(LOH症候群:加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼びます。

その症状は、全身の倦怠感や疲労感、性欲減退、ED、不眠、イライラなど、身体的・精神的に多岐に渡ります。

LOH症候群の多くが40代以降に発症しますが、決まった年齢はなく、30代や70代で発症するケースもあります。

治療には、ART(アンドロゲン補充療法)と呼ばれる、テストステロンを注射や外用薬によって直接補充する方法がありますが、妊活中の男性においてはアンドロゲン補充療法は行ってはいけません。なぜならば、アンドロゲンを体外から投与することにより、下垂体ホルモンが抑制され、造精機能障害になるからです。妊活中は、カウンセリングによる生活改善指導や食事指導、性機能改善薬などを使用する薬物療法など、個人の症状に合わせて色々な方法が検討されます。

精子の老化が始まるから

「精子力」をはかる基準として、「精液量」「精子運動率」などの指標がありますが、これらは加齢とともに低下することが分かっています。特に「精子運動率」は、45歳を過ぎると顕著に下がります。

このことから分かるように、精子も老化するため、男性も40代後半からは、女性と同様に早期の妊娠が望めなくなるケースが多いのです。

参照:福岡 泌尿器・リプロクリニック どれくらい精子は低下する?

精子の質が妊娠率に影響を及ぼすから

精子に影響を及ぼすのは、加齢だけではありません。精子を造る機能等に障害があると、精子の質が低下します。精子の質が悪いと、女性側の治療をどんなに頑張っても、妊娠しづらいのです。

精子の質は、精子を造る機能(造精機能)が、正常かどうかが大きく影響します。2015年度に厚生労働省によって行われた男性不妊に対する全国調査(※)では、不妊の原因として造精機能障害が82.4%を占めていました。

またその中の36.6%は精索静脈瘤によるものとされています。精索静脈瘤の治療で精子の質を高めることが、早期妊娠のために有効なのです。

※2015年度厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」より

40代男性がまず始めるべき不妊治療とは

40代男性がまず始めるべき不妊治療とは

精液検査

精液検査で男性の不妊治療はスタートします。男性側に何らかの問題がある場合、不妊治療に時間がかかってしまうため、まずは精液検査を行うことで、現在の精子の状況を確認することが大切です。

精液検査の検査項目は、①精液量 ②総精子数 ③精子濃度 ④精子総運動率 ⑤正常精子形態率などです。
検査結果の数値をWHOの世界基準値を元に判定し、精子をつくる機能に問題がないかを調べます。

検査は通常、3日程度の禁欲後に精液を採取し、20分~30分置いて液化させた後に、それぞれの値をチェックします。検査結果が分かるまでにかかる時間や費用は、医療機関によって異なりますので、事前にしっかりと確認しましょう。

女性の不妊検査は身体への負担が大きいですが、男性の精液検査は痛みもありません。検査の結果、さらに超音波検査や血液検査(ホルモン検査)が必要になるケースもあるため、不妊治療に取り組む際は、できるだけ早く精液検査を行いましょう。

精索静脈瘤の検査

上記2-3『精子の質が妊娠率に影響を及ぼすから』で述べたように、男性不妊の原因の約3割以上は、「精索静脈瘤」であると言われています。また、二人目不妊も、「精索静脈瘤」に原因があることが少なくありません。

「精索静脈瘤」とは、精子をつくる精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う3層構造の膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈が拡張したこぶ)が認められる症状を指します。

このこぶがあると、温められた血液が精巣に逆流し、精巣の温度が高くなります。精子は熱に弱いため、精巣が温められると、精子を造る機能が大幅に低下し、精子の質が下がります。この状態が長く続くことが、乏精子症や精子無力症などの原因につながることもあるのです。

「精索静脈瘤」は、触診やエコーなどの検査によって、以下のグレード1~3に分類されます。

グレード1:触って腹圧をかけると確認することができる
グレード2:触って確認することができる、腫れている
グレード3:見て確認することができる、陰嚢がでこぼこしている、腫れている

軽症であるグレード1では手術の必要はないことがほとんどですが、グレード2以上では手術が効果的だと言われています。

グレードや手術適応の判断は非常に繊細なものであるため、検査は泌尿器科の生殖医療専門医に診てもらいましょう。

「精索静脈瘤」を放置すると、精巣へのダメージが進行し、年齢とともに急激に悪化して、男性不妊の原因となり得ます。また、男性ホルモンの低下が進むため、男性更年期障害(LOH症候群)の原因となるとの報告もあります。

「精索静脈瘤」は悪性の疾患ではなく、一般男性の15%に認められると言われています。自覚症状もないことがほとんどであるため、自分では気づきづらいのも特徴です。

そのため、不妊の原因が「精索静脈瘤」であることに気づかずに、顕微授精等の高額な不妊治療をしたのに結果が出ないというケースもあるのです。

体外受精や顕微授精等の不妊治療を始める前に、まず精液検査とともに「精索静脈瘤」の有無を検査で確認することが大切です。もし「精索静脈瘤」が認められた場合は、しっかりと瘤の治療をしてから不妊治療をスタートすることをおすすめします。

精索静脈瘤の手術に関して詳しくはこちらをご覧ください。

必要に応じてブライダルチェック

男性のブライダルチェックとは、不妊治療前に行う健康診断のようなものです。具体的には、赤ちゃんへ感染するような性感染症や、女性の妊娠に悪影響を及ぼす病気がないかどうかを、精液検査や血液検査でチェックします。

不妊治療前に、精子の状況だけでなく、精索静脈瘤の検査も行なえると性感染症がないかどうかもチェックができると安心です。

生活習慣の改善

男性不妊ストレス要因

精子の酸化ストレス

精子の質を向上させるためには、生活習慣の見直しも重要です。不規則な睡眠や偏食・暴飲暴食を控えることはもちろん、精子は熱に弱いため、精巣の温度を上げたり、圧迫したりする行為も避けましょう。

具体的には、以下のような事項を心がけましょう。

<一般的な生活習慣>
①禁煙(タバコは精子に悪影響を与え、EDの原因にもなり得る)
②深酒しない(過度な飲酒は精子に悪影響を与えるため、ビールなら中瓶1本程度に)
③コエンザイムQ10、亜鉛、カルニチンなどの栄養素の摂取
④ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質の摂取
⑤十分な睡眠とバランスの取れた食事の摂取(肥満や高血圧も精子に悪影響を与える)

<精巣の環境を整える>
⑥股間周辺を温めない(ブリーフよりもトランクス、長風呂やサウナを避ける)
⑦股間を圧迫・摩擦しない(自転車やバイクに長時間乗らない)
⑧育毛剤(飲み薬)に注意(ホルモンバランスを乱す可能性がある)
⑨禁欲しない(精液をため過ぎると造精機能に悪影響を及ぼす)

まとめ

不妊治療は、カップルがそろって早くから取り組むことが大切です。男性側の不妊については、まだ解明されていないことも多く、認知度も低いため、なかなか相談や受診をしにくいかもしれません。しかし、女性側だけでなく、男性側もきちんと検査や治療を行って精子の質を向上させることができれば、妊娠の可能性は高まります。

まずはカップル双方で検査を受け、現状を知って正しい知識を身に着けることで、納得のいく治療を受けましょう。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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