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精巣腫瘍とは?原因を理解して適切な診断・治療へ

 

精巣腫瘍(精巣がん)は他のがんとは違い、20~30代の若い男性の発生率が高いがんです。多くは悪性で進行が早いため、昔は根治が難しい病気でしたが、医学の進歩によって、しっかりとした治療を行えば、治癒が見込まれるようになってきました。

精巣腫瘍を引き起こす原因の一つして、男性不妊が挙げられています。この男性不妊の主な原因は、精巣上部の静脈に静脈瘤(じょうみゃくりゅう)が認められる「精索静脈瘤」と呼ばれる疾患です。

また、精索静脈瘤になると精巣機能が低下し、精巣内微小切開化や精巣腫瘍になる可能性があります。

この記事では、精巣腫瘍という病気について、またその原因の一つとなり得る精索静脈瘤や、精巣腫瘍の治療方法、精巣の石灰化などについて、分かりやすく解説していきます。

 

精巣腫瘍とは

●精巣とは

精巣とは、陰のうという袋の中にある卵形をした臓器のことです。左右一つずつあり、睾丸(こうがん)とも呼ばれます。

精巣の働きは、主に二つあります。

一つ目は、精子を造り出す機能です。精巣の中には「精細管(せいさいかん)」という細い管があり、その中で精細胞(生殖細胞)が分裂することによって、精子が形成されます。

二つ目は、男性ホルモンを分泌する機能です。精巣内の精細管の間にある「ライディッヒ細胞」と呼ばれる細胞から、男性ホルモンは産生されています。

●精巣腫瘍とは

精巣腫瘍とは、精巣にある細胞から発生する腫瘍を指します。

精巣腫瘍の種類には、生殖細胞(胚細胞)から発生する胚細胞腫瘍や、血液疾患である悪性リンパ腫などがありますが、約95%は胚細胞腫瘍であるため、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍とも呼ばれます。

また、精巣腫瘍のうちの90%以上が悪性腫瘍と言われています。

精巣腫瘍は、人口10万人あたり1~2人が発症する、比較的まれな腫瘍です。男性の悪性腫瘍全体の中では1~2%に当たり、高い頻度で発症するものではありません。

しかし、他の多くのがんとは異なり、幼児期と20~30歳代で発症することが多く、若年層に多い腫瘍であることが大きな特徴です。

実際に精巣腫瘍は、15~35歳の男性においては最も多い悪性腫瘍で、40歳未満での罹患者が全体の約3分の2を占めています。

また、精巣腫瘍のうち30%は、転移のある進行性の腫瘍です。しかし、抗がん剤による化学療法が奏功するケースが多いため、転移があったとしても、しっかりと治療に取り組めば80%は治癒を見込むことが可能です。

精巣腫瘍の詳しい原因は、はっきりと分かっていませんが、停留精巣(精巣が陰のうの中に入っておらず、鼠径(そけい)部などに留まっている状態)や、何らかの遺伝的因子、男性不妊(精液検査で異常が認められた状態)があると、発症のリスクが高まると考えられています。

このうち男性不妊については、約4割が「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」と呼ばれる疾患が原因であると言われています。こちらについては以下で詳しく説明していきます。

 

精索静脈瘤が原因で引き起こる精巣腫瘍

精索静脈瘤とは、精巣から心臓へ戻る血液が逆流してしまい、精巣の上部にある静脈に、静脈瘤(じょうみゃくりゅう)と呼ばれるこぶができてしまう症状を指します。

健常な男性の15%程度に認められると言われる疾患ですが、自覚症状が無いことが多いため、自分では気づきづらい疾患です。

このこぶがあると、温められた血液が精巣に逆流するため、精巣の温度が上がります。精子は熱に弱いため、精巣が温められると、精子を造る機能が大幅に低下し、精子の質および精巣全体の機能が下がってしまうのです。

精索静脈瘤を治療すると、精巣機能の向上が期待できます。これは、精巣腫瘍を引き起こすリスクを下げることにも繋がると考えられます。

 

精索静脈瘤が原因で引き起こる精巣石灰化

精索静脈瘤が原因で引き起こる精巣石灰化

精巣石灰化とは、精巣内に微小な石灰化を認める症状で、成人では2.0~5.6%と比較的まれな症状です。

この症状は、精巣腫瘍や男性不妊との関連が指摘されています。このことから、男性不妊の大きな原因の一つである精索静脈瘤が、石灰化及び精巣腫瘍を引き起こす可能性も考えられます。

精巣腫瘍や男性不妊に対して心配がある、精巣の状態に気になることがあるなどの場合は、できるだけ早く、まずは精索静脈瘤の検査から行ってみることをおすすめします。

 

精巣腫瘍の症状は?自覚症状が出づらく進行速度が早い

精巣腫瘍の初期症状は、痛みを感じない精巣(睾丸)のしこりや腫れです。しかし、痛みや発熱といった自覚症状を伴わないことが多いため、腫瘍が小さい段階では気づきにくいという特徴があります。

また、精巣腫瘍は進行速度が速く、比較的短期間で増殖し転移をすることがあるため、転移による症状で腫瘍が発見されることもあります。

転移による症状は様々です。腹部リンパ節に転移がある場合、腹部のしこりや腹痛、腰痛などの症状が出ます。肺に転移がある場合は、咳や息切れなどの症状があらわれます。

 

精巣腫瘍の診断

精巣腫瘍の診断は、以下のような検査方法で行われます。

●触診

医師が精巣を直接触診し、精巣そのものにしこりや腫れがないかを確認します。小さな腫瘍であれば、柔らかい正常な精巣の中に、硬いしこりを認識できます。腫瘍が大きくなると、精巣全体が硬いしこりとして感じられるようになります。

●腫瘍マーカー検査

体内に腫瘍が発生すると、通常ではほとんど見られない、その腫瘍に特有の物質(たんぱく質や酵素など)が造られ、血液や尿に出現します。その物質を「腫瘍マーカー」といいます。血液検査によって、この腫瘍マーカーを測定し、精巣腫瘍の腫瘍マーカーの上昇がないかどうかを調べます。

●陰嚢超音波検査

精巣内のしこり部分を、超音波検査で確認します。精巣内腫瘍が確認され、カラードプラで腫瘍内に血流が確認されれば悪性腫瘍が疑われます。その他、陰嚢内に水が溜っている場合は、精巣水瘤(陰嚢水腫)と診断されます。

●CTスキャン検査

X線(放射線)を使用して、身体の断面を撮影します。精巣腫瘍の状態だけでなく、リンパ節や肺など、他の部位に転移していないかどうかを調べるのに有効です。

●MRI検査

X線を使用せず、強い磁力と電波を利用して、身体の断面を撮影します。細かい診断が可能であるため、超音波検査でも診断しづらい場合などに有効です。

 

精巣腫瘍の治療について

●精巣に対して

進行の程度などによっても治療方法は異なりますが、基本的には腫瘍のある精巣を外科手術により切除します。これを「高位精巣摘除術」と呼びます。精巣摘出後、病気の進行具合によって、その後の治療法を決定します。

●転移に対して

精巣以外の肺や腹部リンパ節などに転移がある場合、抗がん剤治療や放射線治療、転移した部位の切除手術などを行います。

 

精巣腫瘍の早期発見

精巣腫瘍も他の悪性腫瘍と同様、早期発見と早期治療が非常に重要です。

特に精巣は、自分で触ることができるので、精巣に腫瘍がある場合、手などで圧迫することによって気づかない間に腫瘍細胞の転移を引き起こしてしまう恐れがあります。

また、若年層に多い病気であるため、恥ずかしさから受診が遅れる場合があります。
そうすると精巣腫瘍は進行が速いため、診断を受けた時には、すでに他の部位へ転移をしてしまっているケースもあります。

精巣腫瘍は早期に治療を行えば、高い確率で根治を期待できる病気です。できるだけ早く受診をし、早期発見と早期治療に繋げましょう。

 

まとめ

精巣腫瘍は、痛みや熱といった自覚症状があまりないため、気付きづらいという特徴のある病気です。しかし進行が速く転移しやすいため、受診をした時にはすでにかなり進行しているケースがあります。

当医院の精索静脈瘤の検査でも、年間3例程度、精巣腫瘍が見つかっています。少しでも気になることがあれば、まずは精索静脈瘤の検査をすることから始めましょう。

精索静脈瘤の手術に関して詳しくはこちらをご覧ください。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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