COLUMN

精索静脈瘤の手術について:術式や術後の過ごし方までをご紹介

 

精索静脈瘤とは?

精索静脈瘤とは、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う3層構造の膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。
一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。

精索静脈瘤の悪影響

精巣萎縮、精液所見の悪化、精子DNAダメージ、陰嚢痛・違和感・不快感、男性ホルモンの低下などが起こります。
精巣機能が悪化すると、精巣内石灰化や、精巣腫瘍の発生率も高まります。

なぜ外科手術が必要なのか

精索静脈瘤は、薬物治療では改善しません。放置すると進行するので、早期治療が必要となります。治療は、外科的手術が唯一の方法です。

外科手術の種類

では、外科手術にはどのようなものがあるのでしょうか。「精索静脈瘤手術」と一言で言っても、術式によって方法や再発率に違いがあります。
手術の方法については病院や医師によって大きく異なりますので、採用している術式がどんなものなのか、どのような技術を持った医師が担当するのか、十分検討のうえで手術に臨みましょう。

術式ごとの違いについては以下のとおりです。

ナガオメソッド
顯微鏡下低位結紮術
顕微鏡下高位結紮術 一般的な顕微鏡下
低位結紮術
鼠径部結紮術 肉眼的高位結紮術 腹腔鏡手術
麻酔法 局所麻酔 (7段階) 全身麻酔 全身/局所麻酔 全身麻酔 全身麻酔 全身麻酔
入院日帰り 日帰り 入院 入院/日帰り 入院 入院 入院
動脈温存
(外精動脈温存)
6-16本
(0-6本)
0-1本
(なし)
1-2本
(なし)
1-2本
(なし)
なし
(なし)
なし
(なし)
リンパ管温存
(外精リンパ管温存)
8-26本
(0-7本)
3-5本
(なし)
なし/1-2本
(なし)
なし/1-2本
(なし)
なし/1-2本
(なし)
なし/1-2本
(なし)
神経温存
(外精神経温存)
8-28本
(2-13本)
1-3本
(なし)
なし
(なし)
なし
(なし)
なし
(なし)
なし
(なし)
結紮した逆流静脈
(結紮した外精逆流静脈)
10-67本
(2-20本)
3-7本
(なし)
なし
(なし)
なし
(なし)
なし
(なし)
なし
(なし)
再発率 0.5% 5% 13.3%※ 13.3% 29% 3-7%
精巣水瘤合併 なし あり あり 5-10% あり
重篤な合併症の
可能性
なし なし あり
(血流障害・精巣萎縮)
なし なし あり
(出血・腸管損傷)
使用器具 顕微鏡・ドップラ血流計
・NAGAOBO
顕微鏡 顕微鏡 腹腔鏡
技術レベル 非常に高い 普通 ばらつき多い 普通 普通 普通
保険適応 自費 保険 自費/保険 保険 保険 保険
おすすめ度 △/× × × ×

文献

  1. ヨーロッパ泌尿器科学会男性不妊ガイドライン
  2. K. Nagao: One day microsurgical varicocelectomy under local anesthesia.
    IFFS/ JSRM International Meeting (Symposium) , Yokohama, 2015

※ 本邦では、外精静脈を残すので、鼠径部結紮術と同じ再発率である。

 

 

以下、詳しくご紹介します。

ナガオメソッド(顕微鏡下低位結紮術)

当院でおすすめしている術式です。
局部麻酔で痛みは少なく、日帰りで帰宅することができます。また、再発率も0.5%と他の術式と比較して低く、術後の精液検査の所見も良好です。
手術の具体的なポイントについては「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」をご覧ください。
しかし、高い技術が要求される術式であり、実施できる医師の数は非常に限られているのが現状です。

顕微鏡下高位結紮術

心臓に近い位置での逆流静脈結紮なので、本数は少なく手技は簡単です。全身麻酔でのみ行える手術です。外精逆流静脈が残存するので、再発率は約5%です。

一般的な顕微鏡下低位結紮術

一般的な顕微鏡下低位結紮術は、経験の浅い医師でも行える手術です。多くの動脈・リンパ管・神経も一緒に結紮するので、血流障害や腫れ、痛みの原因となります。一括で縛るので、糸が緩んだり、外精静脈が残存し、剥離が不十分で逆流静脈の残存もあり、再発率も高いです。

鼠径部結紮術

高位と低位の中間の位置で行うので、難易度も中間程度です。外精静脈が残存し、剥離が不十分で逆流静脈の残存もあり、再発率も高いです。手術は全身麻酔のみとなります。

肉眼的高位結紮術

心臓に近い位置での逆流静脈結紮なので、本数は少なく手技は簡単です。全身麻酔でのみ行える手術です。外精逆流静脈が残存するので、再発率は約5%です。リンパ管も同時に結紮するので、陰嚢水腫の合併症が5~10%あります。

腹腔鏡手術

腹腔鏡を得意とする医師が行います。心臓に近い位置での逆流静脈結紮なので、本数は少なく手技は簡単です。全身麻酔でのみ行える手術です。外精逆流静脈が残存するので、再発率は約3~7%です。リンパ管も同時に結紮するので、陰嚢水腫の合併症があります。出血や腸管損傷のリスクもあります。

精索静脈瘤手術 ナガオメソッド手術の術後

精索静脈瘤は、薬物治療では改善しません。放置すると進行するので、早期治療が必要となります。治療は、外科的手術が唯一の方法です。

  • 入院の有無 日帰りなので入院の必要はありません。
  • 無精子症は、精液検査で精子が見つからない状態
  • 抜糸の有無 溶ける糸で皮膚の裏側から縫合するので、抜糸はありません。
  • シャワー 翌日からシャワー可能です。
  • お風呂 傷が乾いてから入浴可能です。
  • マスターベーション 婦人科治療のための採精が必要であれば、翌日から可能です。
  • 性行為 1週間後からです。
  • 軽い運動(ストレッチなど) 1週間後からです。
  • 激しい運動(筋トレやランニングなど息が上がるもの) 2週間後からです。

 

その他、精索静脈瘤の手術に関して詳しくはこちらをご覧ください。


この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

所属医療機関

一覧ページに戻る

診療・手術一覧

この記事を見た人はこんな記事も見ています

顕微授精とは、精子の数や総運動精子数が極めて低い方が選択する不妊治療です。「妊活の最終手段」ともいわれ、タイミ […]

続きを読む

近年のライフスタイルの変化や晩婚化を背景に、不妊の検査や治療を希望する方も年々増加傾向にあります。不妊治療とい […]

続きを読む

男性不妊に関してご存じでしょうか?夫婦で不妊の問題を抱えている場合、約5割は男性側にも問題があることが、WHO […]

続きを読む

あまり聞き慣れない『精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)』という病気。男性不妊の原因のひとつである重大な病 […]

続きを読む

ご予約・お問い合わせ