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精液検査の結果はどう見たらよい?不妊治療に影響のある数値

このページは、精液検査の正しい知識をご紹介するためのページです。
当院は高い専門性と技術を必要とする、精索静脈瘤検査および日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術・ナガオメソッドを行っているため、精液検査は行っておりません。
精索静脈瘤の原因や悪影響についてはこちらから

男性不妊治療を行う際、必ず行うのが精液検査です。精液中に精子が居るかどうか、運動率はどうかなどが検査されます。ここでは、精液検査の結果からどのようなことが分かるのか、精液検査の所見が悪い理由はどんなものなのかについて、ご紹介します。

精液所見が悪化する原因や精液検査の結果からわかることについて動画でも解説していますので是非ご覧ください。

 

精液検査とは?

精液検査とは、精子に妊娠に支障を来す問題がないかどうかを検査する、精液を用いた検査です。精液検査は自慰で射精しカップに採取し、以下の項目を調べます。

・精液量
・精子濃度
・運動率
・正常形態率

 

精液検査の方法

精液検査は、採取場所・禁欲期間・採取からの時間、更に体調によって変化します。
採精には厳格な条件が必要です。特に禁欲期間は3日間、採精場所は、検査する施設内がよく、採精時によい勃起だと良い射精ができます。
自宅での採精では、時間の経過、温度の変化、紫外線などの影響があり、精液所見が悪くなることが多いです。

禁欲期間は、長すぎても短すぎてもよくありません。4日前に射精して3日間の禁欲で、クリニック内採精をお薦めいたします。
クリニックの都合で院内採精できない場合は、カップに入れた精液を肌着の下に入れて(保温・遮光して)短時間(30分以内)で搬送してください。

肌着の下に入れる理由は、精液は光にあたったり、温度の変化があったりすることで、その質が変化してしまうためです。なるべく体温に近い、日の当たらないところで搬送する必要があります。

短時間(30分以内)で搬送する理由は、採取から1時間で明らかに(有意に)精子の運動率が低下することが分かっています。病院に届けてから直ぐに検査が行われる訳ではないので、一時間以内に検査が終了するためには、30分以内に届ける必要があります。

クリニックで採精する場合は、精液を専用容器に全量とっていただき、容器の蓋にマジックで名前と採取した時間を記載してもらいます。
精液検査の結果は、同じ人でも変動しますので再度検査する場合もあります。

 

精液検査をする理由

精液検査をする理由は、精液所見によって泌尿器科治療・婦人科治療を行う必要が有るかどうかを判断することができるからです。
無精子症や良好な精子が少ない状態で時間が経過してしまうと、自然妊娠しないだけでなく女性の年齢が高くなり不妊治療の効果も低下していきます。

泌尿器科では、精索静脈瘤・精路閉塞・下垂体ホルモン低下などが見つかれば、治療することにより高い効果が期待出来ます。
泌尿器科治療対象がない場合は、婦人科治療になりますが、妻の年齢や疾患を考慮しつつ、婦人科治療の目安があります。
WHO(世界保健機構)の精液検査正常値(2021年)は、精液量1.4ml以上、精子濃度1600万/ml以上、運動率42%以上、正常形態率4%以上としています。

精液検査の結果の見方

医学的根拠の高い2021年のWHOの精液検査の基準値を紹介します。古い基準値や独自の基準を使用しているクリニックがありますのでご注意ください。

精液検査 基準値
精液量 1.4ml以上
精子濃度 1600万/ml以上
運動率 42%以上
総運動精子数(精液量×精子濃度×運動率) 1638万以上
正常形態率 4%以上(奇形率96%未満)

※精液検査が正常でも精索静脈瘤がありますと、精子のDNAダメージが起こり、なかなか妊娠しないことがあります。

総運動精子数:数値でわかる不妊治療方針

精液検査で見る項目の中でも、不妊治療の方針を決めるのによく用いられるのは「総運動精子数」です。
総運動精子数は「精液量×濃度×運動率」で算出します。これは、動いている精子の総数を表します。

総運動精子数ごとの、婦人科治療の目安は以下の通りです。

総運動精子数 婦人科治療の方針 備考
1,638万以上 性行為で自然妊娠する可能性が高い 1年間不妊なら、人工授精をお勧めします
1,638万未満~900万以上 人工授精をお勧めしています 5回以上行っても妊娠しない場合、体外受精・顕微授精を検討します
900万未満~500万以上 体外受精をお勧めしています
500万未満 顕微授精をお勧めしています

なお、不動精子しかいない場合は、薬剤で精子を動かす、精子生存テストを行う。また、精巣内精子は不動精子でも、顕微授精(ICSI)に使用できるので、精巣内精子採取術(TESE)をお薦めしています。
無精子症は、閉塞性と非閉塞性に分類され、閉塞性で精路再建が可能であれば手術、非閉塞性で下垂体ホルモン低下があればホルモン治療が有効です。治療法がない無精子症では、対処療法として精巣内精子採取術を検討します。

仮に無精子症と診断されても、精索静脈瘤手術を受ける必要がある場合もあります。詳しくは以下の動画をご覧ください。

 

精液所見が悪い理由

医学的根拠(エビデンスレベル)が高い疾患として、精索静脈瘤、精路閉塞(精子の通り道の閉塞)、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(下垂体ホルモン低下)があります。精液所見の悪い方の有病率は、精索静脈瘤40%、精路閉塞2%、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症0.0001%ですので、治療可能な疾患のほとんどは精索静脈瘤です。

医学的根拠(エビデンスレベル)が高くはないが気をつけるものとして、喫煙、肥満、サウナ、長風呂、風通しの悪い下着などがあります。また、男性型脱毛症治療薬のプロペシア、フィナステリド、ザガーロ、デュタステリドは精液所見を悪化させますので不妊治療中は、中止また変更をお勧めいたします。

 

精液所見を改善する方法

ファーストステップとして精索静脈瘤の手術を提案します。当院の局所麻酔下日帰り顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮手術・ナガオメソッドでは、精管温存は当たり前ですが、大事な細い動脈・リンパ管・神経もすべて温存し、悪い逆流静脈をすべて結紮するので安全で効果的です。精液所見は87%の方で手術前より改善しています。

補助的療法として、喫煙、肥満、サウナ、長風呂、風通しの悪い下着に気を付けてもらいます。サプリとして、コエンザイムQ10 100-200㎎/日、亜鉛、Lカルニチンをお勧めしています。

それ以外にも、精液所見を改善する、つまり、「精子の質」を高めるための方法はさまざまです。精子の質を高めるための方法や考え方について、詳しくは「精子の質を良くするためには?質を高める生活習慣・考え方」をご覧ください。

妻の年齢が40歳に近い場合

妻の年齢が40歳に近いと男性不妊の治療を行わずに人工授精や体外受精・顕微授精などを選択する場合が多くなりますが、男性の精索静脈瘤治療が婦人科的治療効果を高めますので男性も並行して治療をお勧めいたします。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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