タイミング法は、医師の指導のもと、排卵日を予測して妊娠しやすい時期に性交渉を行う方法で、不妊治療のなかでも自然妊娠に近いやり方です。可能な限り正確な排卵日の推定や、精子の質を向上させる努力などにより、妊娠率を高められます。
本記事では、タイミング法の詳しい流れや費用に加え、不妊治療のステップアップが勧められる基準を解説します。パートナーの妊娠に向け、男性にできることについて理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
- 男性不妊・精索静脈瘤にお困りのかたへ
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男性不妊の40%にある精索静脈瘤は、精巣やその上の精索部(精管、血管、神経、リンパ管などを覆う膜)に静脈瘤(じょうみゃくりゅう・静脈の拡張)が認められる症状のことを指します。一般男性の15%に認められ、男性不妊症患者の40%がその疑いであるとされています。
タイミング法とは
タイミング法とは、医師のサポートを受けて排卵日を予測し、妊娠しやすい時期に合わせて性交渉を行う方法です。一般的に、不妊治療のファーストステップとして選択されます。
タイミング法は自然妊娠に近い形で妊娠を目指すため、ほかの不妊治療法に比べて身体的・経済的な負担が少ないことがメリットです。
タイミング法がどのようなカップルに適しているのか、確認しましょう。
タイミング法が適するカップルとは?
タイミング法は、以下の2つの条件を満たしたカップルに適した不妊治療法です。
・半年以上避妊せずに性交渉を行なったが妊娠に至らない
・精子の状態や排卵などに異常がない
タイミング法が自分たちに適した不妊治療法かどうかを確かめるためには、不妊検査を受けることが不可欠です。男女の一方に不妊の原因があれば、妊娠しやすいタイミングを狙って性交渉を行なっても成功率は低くなります。
男女それぞれの不妊の原因について詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしましょう。
タイミング法の流れ・スケジュール
タイミング法は、以下のような流れ・スケジュールで進行します。
1.受診・検査
2.排卵日の予測
3.卵胞の状態・排卵の確認
4.排卵の時期に合わせた性交渉・妊娠判定
自己流で行う方もいますが、医師に相談することで、排卵日をより正確に推測できます。実施される検査や必要に応じて行われる投薬についても解説しているので、タイミング法を深く理解するためにぜひ役立ててください。
1.受診・検査
タイミング法を行う際の最初のステップが、病院の受診・検査です。自分たちにタイミング法が適しているかを判断してもらうために、男女それぞれが以下のような不妊検査を受けることが勧められます。
男性 |
・精液検査 ・泌尿器科的検査(診察・超音波検査) |
---|---|
女性 |
・経腟超音波検査 ・血液検査 |
検査結果によってはタイミング法以外の不妊治療法や、不妊の原因の根本的な治療が勧められることもあります。男性側にも女性側にも不妊の原因が見当たらず、タイミング法の実施を決めた場合は、必要書類を提出したうえで治療の計画書を作成してもらいましょう。
2.排卵日の予測
タイミング法の2つ目のステップは、これまでの基礎体温の記録や月経周期に基づく排卵日予測です。
予測材料 | 排卵日を推定する目安 |
---|---|
基礎体温の記録 |
以下3タイプのうちのいずれか
・基礎体温上昇の2~3日前 |
月経周期 |
プロゲステロン(黄体ホルモン)の寿命(14日)から判断 (月経周期28日の場合は14日目が排卵日と推定) |
基礎体温とは、朝目覚めた直後に寝たままの状態で測った体温のことです。女性の体温は女性ホルモンに影響されて低温期と高温期に分かれており、基礎体温表は排卵日を知る大切な手がかりになります。
排卵日を予想したあとは、医師と相談しながら受診のスケジュールを立てましょう。
3.卵胞の状態・排卵の確認
卵胞の状態・排卵の確認は、タイミング法の3つ目のステップです。
排卵日予測をもとに、タイミング法の大体のスケジュールを決めたら、月経周期の10~12日目(排卵の2~3日前)に受診します。排卵が近いことの証拠となる卵胞の大きさ(18~20mm)になるまで超音波検査を繰り返し行い、排卵日をより正確に予想します。
卵胞の発育が遅かったり排卵の確認ができなかったりする際は、必要に応じてクロミッドやセキソビットなどの排卵誘発剤が処方されるでしょう。
子宮頸管粘液(おりもの)の観察や、採血によるホルモン検査で、排卵日予測の正確性を高める場合もあります。さまざまな検査の結果を受け、最終的な排卵日予測が完了すると、医師から性行為のタイミングが指示されます。
病院によっては、後日排卵の確認のために受診が必要です。
4.排卵の時期に合わせた性交渉・妊娠判定
医師から伝えられたタイミングで性交渉を行います。
精子は女性の体内で2〜3日ほど生存し、卵子は排卵から約12~24時間であれば受精能力を持っています。性交渉を排卵日の3日ほど前から当日にかけて複数回行うことが、妊娠の確率を高めるポイントです。
月経の予定日が過ぎても生理が来ず、妊娠検査薬を使用して陽性となれば、妊娠している可能性は高いといえます。超音波検査で胎嚢や胎児の心拍を確認することによって正式な妊娠であると判定され、治療は終了です。
妊娠に至らない場合は、何回かタイミング法を繰り返します。タイミング法を開始してから半年ほど経過しても子どもを授かれない場合は、不妊治療のステップアップを検討するという流れです。
タイミング法の費用
タイミング法の実施にかかる費用は、検査の回数や薬の有無によって異なりますが、1周期あたりの治療費総額の相場は、7,000~12,000円ほどです。
超音波検査が何回か行われたり、排卵を誘発する薬が投与されたりすると、10,000~20,000円ほど金額がアップすることもあります。
タイミング法は基本的に公的保険の対象であり、通常3割負担で治療を受けられます。保険適用に関して、医療機関によっては独自の規定が設けられている場合もあるため、詳細をきちんと確認することが大切です。
タイミング法の成功率
タイミング法の成功率は、一般的に1周期あたり16~18%であり、6ヵ月で70~80%のカップルが妊娠に至るといわれています。男性か女性または両方に不妊の原因があるカップルだと、妊娠率は大きく下がり、1周期でおよそ5%です。
加齢によってもタイミング法の成功率は低下します。
年代 | タイミング法の1周期あたりの成功率 |
---|---|
20代 | 20~30% |
30代前半 | 15~20% |
30代後半 | 10~15% |
40代 | 5~10% |
男性も女性も、年を重ねるごとに妊娠する力が低下していく点を念頭に置き、早めの行動を心がけることが、スムーズに妊活や不妊治療を進めるコツです。
タイミング法の成功率を高める方法4選
タイミング法の成功率を高める方法として、以下の4つが挙げられます。
1.男性も女性も健康的な生活を心がける
2.精子の質を向上させる
3.女性だけでなく男性も不妊検査を受ける
4.男性に治療可能な不妊原因があれば改善を試みる
パートナーの妊娠率を少しでも高められるよう、自身にできることから取り組み始めましょう。
1.男性も女性も健康的な生活を心がける
タイミング法の成功率を高めるためには、男性も女性も健康的な生活を心がけることが重要です。健康的な生活習慣を取り入れ、ホルモンバランスが整えば、精子の質の向上や排卵の正常化につながります。
日頃の生活を健康的に過ごすために、以下のことを心がけてください。
・栄養バランスが整った食事
・適度な運動
・十分な睡眠
男女ともにストレスを溜め込むと、性ホルモンの働きに悪影響を与えます。自身に合ったリラックス法を知り、疲労とストレスを軽減できるよう休養とリフレッシュができる時間をつくりましょう。
2.精子の質を向上させる
精子の質を向上させることは、タイミング法の成功率を高めるために重要なポイントの1つです。
精巣は、体温よりも低い32〜34℃でよく機能します。精巣の温度が1℃上がるだけでも機能の低下につながるため、長風呂・サウナを避け、通気性の高い下着を履くと良いでしょう。
精子の量と質に良い影響を与えるとされる、以下のような栄養素を含む食材を積極的に摂ることも大切です。
栄養素 | 食材 |
---|---|
亜鉛 |
・牡蠣 ・牛肉 |
コエンザイムQ10 |
・イワシ・サバ ・牛肉・豚肉 |
Lカルニチン |
・赤身の肉 ・乳製品 |
タバコは精子の質を低下させる有害物質を含むため、喫煙習慣のある方は禁煙してください。
3.女性だけでなく男性も不妊検査を受ける
タイミング法を行う前に、女性だけでなく男性も、積極的に不妊検査を受けることが必要です。
2017年のWHO(世界保健機関)の調査によると、男性のみに不妊の原因がある割合は24%です。男女にともに原因があるケースも24%で、男性不妊は珍しいことではありません。
男性不妊の主な原因は、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)という、精巣の血流が悪くなることで健康な精子が造られにくくなる病気です。
ほかにも、精子の通り道や、勃起・射精といった性機能に異常が見られ妊娠に至らないケースもあります。
タイミング法を含む不妊治療を始める前に、なかなか妊娠に至らない原因が男性側にないかを調べることで、より的確な対処を実施しやすくなります。不妊に悩んでいる方は、早期に検査しましょう。
4.男性に治療可能な不妊原因があれば改善を試みる
タイミング法を実施する前に検査を行い、男性側に治療可能な不妊の原因が発覚した場合は、早めに改善を試みることが重要です。
男性不妊の原因のなかでもっとも多く見られ、治療ができる疾患として精索静脈瘤が挙げられます。精索静脈瘤とは、陰のうあたりの静脈内で逆流した血液がうっ滞し、精巣の温度が上がることで精子を造る機能の低下を引き起こす病気です。
進行性の疾患であり、放置すると精子の質を低下させかねないため、パートナーの妊娠を望む男性は早めに治療することが推奨されます。
当院で行なっている「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」は、逆流静脈だけを結紮(けっさつ)・切離する手法です。
動脈・リンパ管・神経を1本1本剥離して、大切な組織はすべて残します。処置の難しい外陰部逆流静脈も結紮・切離するため、合併症リスク・再発率が低いことが魅力です。
不妊治療のステップアップを勧められる基準
タイミング法を実施し始めてから半年以上が経過しても妊娠に至らない場合、不妊治療のステップアップを勧められることが多いでしょう。カップルの体質や年齢によっては、ステップアップのタイミングが早まる場合もあります。
ただし、男性不妊の大きな原因である精索静脈瘤が見つかり、治療を行えば、自然妊娠やタイミング法の成功率をアップさせられます。負担の大きい不妊治療に移行せずに済む可能性があることは、精索静脈瘤の手術を受けるメリットです。
男性不妊の悩みは一人で抱え込まずに泌尿器科へ相談し、診察や超音波検査を受けましょう。
妊活にお悩みの男性はぜひ当院で検査を
妊活にお悩みの男性は、ぜひ当院にご相談ください。タイミング法の成功には、男女がともに自然妊娠できる体の状態であることが不可欠です。
当院では、男性不妊の最多原因である精索静脈瘤の治療を目的とした、「日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術・ナガオメソッド」を行なっています。
再発率が低く、精液所見の改善率が87%で、ほかの精索静脈瘤の手術法よりも高い実績と効果がある手法です。手術にかかる時間は1時間程度で、局所麻酔での手術なので日帰りで手術を受けられ、日常生活への影響を抑えられる点も大きなメリットです。
「自然な形での妊娠を叶えるために自分にできることをしたい」とお考えの男性は、当院の受診をご検討ください。
お問い合わせ・ご予約はこちら
〒104-0061 東京都中央区銀座2-8-19 FPG links GINZA 6F
この記事の執筆医師

永尾 光一 先生
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長
昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。
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