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無精子症・乏精子症とは?適切な治療で自然妊娠へ

 

無精子症・乏精子症とは

無精子症・乏精子症とは、射精はできるにもかかわらず、精子の数が少なかったり、全くいなかったりする状態のことを指します。無精子症は「閉塞性無精子症」と「非閉塞性無精子症」に分かれます。また、乏精子症は「運動無力症」と併発していることもあります。

精路閉塞

閉塞性無精子症(OA: obstructive azoospermia)

閉塞性無精子症は、無精子症の原因の中で15%~20%に認められ、
精巣内で精子がつくられているものの、何らかの要因で精子の通り道(精路・精管)が閉塞している状態です。

閉塞性無精子症(OA: obstructive azoospermia)の原因

  • 生まれつき精管がない
  • 精巣上体の炎症後や両側精巣状態頭部の閉塞による精巣上体管の閉塞
  • 鼠径ヘルニア術後の精管損傷、精路感染症、両側精管欠損症、精管結紮術後(パイプカット手術後)などの精管閉塞
  • 正中腺嚢胞、前立腺嚢胞、精嚢以上拡張により射精間開口部を圧迫、感染症などによる射精管の閉塞

発生頻度としては、精管結紮術後が44%、ヘルニア手術後が9%、精巣上体管が18%、原因不明が24%です
※参考文献:Taniguchi H at al: male infertility Surgical Forum in Japan: Contemporary outcomes of seminal tract re-anastomosis for obstructive azoospermia: a nationwide Japanese survey. Int J Ural 2015;22:213-218

パイプカット手術によるものの場合は、パイプカット再建術によって治療が可能です。

非閉塞性無精子症

非閉塞性無精子症は、精巣内で精子が作られていない状態です。診断確定のために、まずは血液検査によるホルモン検査を行います。
ホルモン検査による異常がない場合、TESEによって精子を採取し、見つかればそのまま顕微授精に進みます。

非閉塞性無精子症の原因

  • 原因不明が最も多い
  • 精索静脈瘤
  • 低ゴナドトロピン性腺機能低下症
  • クラインフェルター症候群
  • Y染色体微小欠失
  • 停留精巣後
  • その他、精巣捻転や精巣炎、がん治療後後遺症などの後天性のもの

 

▼関連記事:顕微授精の費用や妊娠の確率について
https://ginzarepro.jp/column/intracytoplasmic-sperm-injection/

乏精子症

乏精子症とは、造精機能障害の一つで、精液の中に精子が少ないことをいいます。
精液1ml中の精子の数が1600万未満です。

精子無力症

精子無力症とは、精子の運動率が悪く、精子の前進する力が低い状態をいいます。運動精子が40%、前進精子運動率の割合は32%以下とされています。

精子障害の種類

 

検査方法

精液検査

精液検査は、体調にも左右されるため、何度か受ける必要があります。条件は、3日間の禁欲で院内採取がお薦めです。院内採取が難しい場合は、容器を肌着の下に入れ、保温して短時間で運んでください。

内分泌検査(採血)

血液検査で、男性ホルモン(テストステロン)、性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、プロラクチンなどを調べます。

染色体・遺伝子検査(無精子症の場合)

無精子症の場合は採血で、AZF検査、Y染色体微小欠失を調べ、精巣内精子採取術の可能性を検査します。

▼関連記事:精液検査の見方について
https://ginzarepro.jp/column/semen-analysis/

WHOの精子に関する基準

精液検査 基準値
精液量 1.4ml以上
精子濃度 1600万/ml以上
運動率 42%以上
総運動精子数(精液量×精子濃度×運動率) 1638万以上
正常形態率 4%以上(奇形率96%未満)

精子を回収して顕微授精:TESEについて

手術で顕微鏡下で精巣内から精子または精細管(精子がつくられている細い管)を探し採取する手術です。片側で見つからなければ、もう片側でも行われる場合があります。
胚培養士の技量にもよる部分があります。また、射精により精子採取が困難な方には、TESEが適応となる場合があります。

TESE以外の治療方法

全ての治療を行い、他に手段がない場合は、サプリメントや漢方漢方薬物療法が行われます。コエンザイムQ10、漢方、ホルモン療法ではクロミフェン製剤とビタミンEが一緒に処方される場合があります。治療の効果については個人差があります。

無精子症・乏精子症などで、精液が悪い場合は、精索静脈瘤の可能性があります。男性不妊専門医のいる施設で、泌尿器科的男性不妊検査を受けることをお薦めいたします。(生殖医学会ガイドライン推奨グレードAランク)

精索静脈瘤は男性不妊の40%で見つかり、治療が可能な疾患です。精索静脈瘤を治すことにより、無精子症では、精巣内精子採取手術の治療成績を高めることができます。乏精子症、精子無力症の場合は、精液所見の大幅な改善が期待でき、自然妊娠も可能です。

▼精索静脈瘤の治療について詳しくはこちら
https://ginzarepro.jp/sinryo/varicocele/

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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