COLUMN

不育症(流産)とは?原因・検査・治療について

不育症とは

不育症とは、流産・死産の回数で定義される疾患の概念です。

流産・死産とは

流産とは、何らかの原因で妊娠が継続しなくなることで、妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)で妊娠を終了することです。
流産は、全体の10~15%の頻度で生じますが、そのうち90%は妊娠12週未満の比較的早い時期で起こり、「早期流産」と言われ、殆どの原因は、受精卵異常や染色体異常とされています。一方、妊娠12週以降22週未満の場合は「後期流産」、22週以降に死亡した胎児の出産は「死産」と定義されています。
流産が連続2回の場合を「反復流産」、3回以上の場合を「習慣流産」と呼んでいます。

不育症の定義

日本産婦人科学会では不育症について、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、妊娠は成立するが流産や死産を繰り返して生児が得られない状態」(産科婦人科用語集・用語解説集(2018 年) 第4版 日本産科婦人科学会編)と定義しています。
最近の米国生殖医学会や欧州生殖医学会、AMED研究班の不育症管理に関する提言2021年では、「すでに元気な子どもがいても、2 回以上の流死産の既往があれば不育症に含めること」としています。
また、子宮外妊娠、絨毛性疾患などは流産には含まれないといわれています。妊娠検査薬で妊娠反応が陽性でも、その後の超音波で胎嚢が認められない場合などの生化学的妊娠については、現在、日本では含まれないこととなっています。

不育症の原因(リスク因子)

不育症にはいくつかのリスク因子があると言われています。原因は偶発的な受精卵の染色体異常のため、流産が必ず起こるというものではないため、「原因」ではなく「リスク因子」と表現されます。
また、流産が繰り返し起こる場合は、受精卵の異常だけでなく、女性側の子宮形態異常、内分泌異常、凝固異常、母体の高年齢などがあげられます。

子宮形態異常

子宮形態異常とはいわゆる子宮の奇形のことで、先天的なものと、子宮筋腫(粘膜下筋腫)や子宮腔癒着症などの後天的なものとがあり、不育症を引き起こすのは先天的な子宮形態異常です。
子宮は、胎児期に発生したミューラー管という原器が、腹部両側から中央で融合することにより出来上がりますが、この過程において支障を来すと先天的な子宮形態異常になります。
子宮形態異常には、中隔子宮、双角子宮、 弓状子宮など様々なタイプがあります。特に不育症と関連するものは中隔子宮で、流産や早産を繰り返す可能性があります。いずれも症状はないため、幼少期には気付きませんが、婦人科検診などをきっかけに初めて診断される場合があります。

抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群は、自己免疫疾患である膠原病などの病気で自己抗体の抗体ができるときに、血液が固まりやすくなり、血栓などを引き起こします。
胎盤の周りでは血液の流れも遅く血栓が生じやすくなります。その結果、胎盤に梗塞が起こり流産や死産となります。

夫婦染色体異常

夫婦の染色体の構造に異常があることがあり、その場合は、見た目にも変化はなく健康ですが、卵子や精子の染色体異常が原因で流産となります。

内分泌代謝異常

甲状腺機能異常の甲状腺機能低下症や糖尿病で、流産のリスクが高まります。甲状腺の自己抗体の影響や、高血糖が胎児への染色体異常を引き起こす可能性があります。内分泌代謝異常では、早産のリスクが高まることから、妊娠中の健康管理が求められます。

胎児の染色体異常の反復

妊娠初期の流産の原因である偶発的な染色体異常は、繰り返し起こる可能性があります。特に高年齢の不育症では、少なくないと考えられています。

血液凝固異常(血栓性素因)

妊娠中の血栓形成のリスク因子には、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅻ因子欠乏症があり、一部のプロテインS欠乏症、第Ⅻ因子欠乏症では、流産や死産、胎児の発育異常や胎盤の異常が起こることがあります。
プロテインSやプロテインCは、血液の凝固を防いでくれる作用があるため、これらが不足することにより血栓や梗塞が起こりやすくなるとともに、妊娠中は特にプロテインSが減少しやすくなるので血栓症のリスクが高まってしまいます。このプロテインS欠乏症は、欧米人より日本人の方が発生頻度が高まります。

その他

不育症のリスク因子では、3分の2が原因不明です。大半は、胎児の染色体異常を偶発的に繰り返すだけのため、男女ともに要因はないとされています。
しかし、1回の流産では検査は必要ないですが、繰り返す場合は男性または女性のどちらかに原因がある可能性があるため、検査をすることをお薦めします。
その他、1回であっても妊娠10週以降の流産や死産、新生児の早期死亡では、女性側に要因がある可能性が多いため、検査をお薦めいたします。

リスク因子ごとの頻度

リスク因子 頻度
子宮形態異常 7.9%
甲状腺機能異常 9.5%
夫婦染色体構造異常 3.7%
抗リン脂質抗体異常 8.7%
第XII因子欠乏症 7.6%
プロテインS欠乏症 4.3%
リスク因子不明 65.2%

不育症の検査

検査には、科学的根拠が高い検査や、研究段階のものまでがあり、臨床的エビデンスから推奨検査・選択的検査・研究的検査・非推奨検査に分類されます。

検査すべき状態

流産と死産を2回以上繰り返した場合、または、妊娠 10 週以降の流産の場合には、 不育症の検査が行われます。検査を実施する時期については、患者さんの状況に応じて異なります。

検査項目

不育症の一次スクリーニング推奨検査で臨床的エビデンスのあるものとして、子宮形態検査、内分泌検査、夫婦染色体検査、抗リン脂質抗体検査、流産絨毛(じゅうもう)染色体検査があります。選択的検査が行われる場合があります。こちらは、明確なエビデンスはありませんが不妊症のリスク因子が示唆されている検査です。

子宮形態検査

子宮形態検査は、経腟超音波検査でのスクリーニングが一般的です。子宮の中に造影剤を入れ、子宮内腔を観察し、必要に応じて子宮卵管造影(HSG: hysterosalpinogography)をします。更にはMRIや子宮鏡検査、腹腔鏡検査などが行われます。特に3次元超音波検査やそのヒステログラフィーでは診断精度も高く、不育症を発症する頻度が高いとされる中隔子宮と双角子宮の鑑別には有用です。

内分泌検査

甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症については不育症の原因となることが知られているため、血液検査で甲状腺ホルモン測定(TSH・fT4など)をします。また、高血糖状態が受精卵の発育を阻害し流産を引き起こすため、糖尿病の検査も必須です。

夫婦染色体検査

多くの場合、胎児期の染色体の異常は偶然起こりますが、夫婦の染色体検査を行うことにより、異常の有無を判別することができます。夫婦染色体の構造的な異常が原因なのか、または、均衡型転座を夫婦どちらか一方に認める場合があります。いずれにしても、非常にデリケートな問題のため、予め十分な説明が必要とされ、個人情報の取扱にも注意が必要です。

抗リン脂質抗体検査

抗リン脂質抗体症候群の国際的な診断基準では、以下の検査を行い、いずれかが陽性だった場合は、12週間あけて再度検査で陽性の場合は、「陽性」と診断されます。

ループス・アンチコアグラント(LA)陽性

抗カルジオリピン(CL)抗体IgDまたはIgMが中高力価で陽性

抗β2GPI抗体IgGまたはIgMが陽性

また、再検査で陰性となった場合は、偶発的抗リン脂質抗体陽性となります。

流産絨毛(じゅうもう)染色体検査

近年、晩婚化に伴い女性の妊娠年齢が高年齢化しているため、染色体異常による流産数は増えていると言われています。
そもそも流産の要因の60~80%がこの「胎児(胎芽)染色体異常」であるとされています。加えて、リスク因子が分からない不育症のうちのほとんどが、この要因を繰り返しているせいであると推測されています。

選択的検査

不育症管理に関する提言 2021 では、以下の検査を選択的検査とされています。

1)子宮形態検査
・MRI
・子宮鏡検査

2)血栓性素因関連検査
・プロテインS
・第 XII 因子凝固活性
・プロテインC
・アンチトロンビン(AT) APTT

3)抗リン脂質抗体
・抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体IgG
・抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体IgM
・フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン(PS/PT)抗体

4)自己抗体検査
・抗TPO抗体
・抗核抗体

プロテインS検査、第XII因子凝固活性、抗PE抗体検査は、選択的検査とされていて、明確なエビデンスはありませんが不妊症のリスク因子が示唆されているため検査が行われます。

治療とネクストステップ

治療を受ける前に

不育症治療の科学的根拠の高いものから低いものまで、エビデンスのレベルに差があります。治療を行ったからといって再度流産してしまう場合もありますし、2回までの流産はリスク因子がない場合もあります。
治療を受ける前に、十分に医師やカウンセラーに相談することをお薦めいたします。

子宮形態異常

子宮形態異常では、中隔子宮のみが手術適応です。その他の手術については、有用性が明確ではありません。また子宮形態異常があっても、子に遺伝することはありません。

内分泌異常

甲状腺機能異常である甲状腺機能亢進症および甲状腺機能低下症は、薬により治療します。甲状腺ホルモン値が正常になってから妊娠することが望まれます。その後も治療を継続する必要があります。機能亢進では、早産や妊娠高血圧症候群、先天異常になることもあります。
糖尿病も、薬で妊娠前にコントロールする必要があり、妊娠中、産後も継続治療が必要です。

夫婦染色体異常

夫婦どちらかに均衡型転座の染色体異常があっても、 最終的に出産に至ることは可能です。最近では着床前診断を行っている施設もありますが、いずれにしても十分なカウンセリングを受けることをお薦めいたします。

抗リン脂質抗体検査

低用量アスピリンとヘパリンで治療が行われます。

流産絨毛(じゅうもう)染色体異常

流産時に胎児の検体検査を行い、流産の原因が胎児の染色体異常なのかを特定します。胎児の染色体異常が見つかればそれが流産の原因で、見つからない場合は、母体に原因がある可能性、または夫婦のいずれかの染色体異常が見つかる場合があります。

この記事の執筆医師

永尾 光一 先生

永尾 光一 先生

東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター
東邦大学医療センター大森病院 尿路再建(泌尿器科・形成外科)センター長

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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